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オルガ防衛を担っている妖魔軍5万の指揮を取るミノタウロスの将軍は街の中心にある臨時の指揮所から少し離れた山の上に陣取っている帝国軍を忌々しげに睨み付けていた。


「敵の総戦力は?」


「ハッ、偵察兵の報告によりますと歩兵8万、騎兵1万、竜騎士5百、戦列艦5、魔導兵器2千、自動人形2万とのことです。……昨日より歩兵が1万人程増えています」


「……そろそろ仕掛けて来るな」


やはり敵の狙いは我々や街の奪取ではなく物資だな……


純粋な戦闘要員以外も含めると数十万の帝国軍の将兵が集まっているにも関わらず異様に少ない炊事の煙と事前の情報によって将軍は帝国軍の狙いを正確に見抜いていた。


そして将軍の考えた通りパラベラムから派兵された特殊部隊の活躍により補給路を断たれた事、更に兵站の軽視によるずさんな補給計画のせいで深刻な物資不足に悩んでいた帝国軍は不足した物資、特に食糧を妖魔軍から奪うべく戦力を集中しオルガの街を攻め落とそうと目論んでいた。


「敵本陣に動きあり!!進軍を開始した模様!!」


数万のしかも腹を空かせて気の立っている敵兵相手にどれだけ持ちこたえられることやら……。まぁ簡単にこのオルガの街は渡さんがな


部下の報告を聞いて苦り切った表情で将軍は口を開いた。


「街の東に戦力を集中させろ!!騎兵部隊は「報告します!!」なんだ!?」


将軍の言葉を遮り指揮所の中に伝令が駆け込んで来た。


「援軍っ、援軍が到着しましたっ!!」


「なに!?どこの部隊だ?」


1人でも多くの兵を欲していた将軍は伝令の報告にパッと表情を明るくさせるとゼェゼェと息を吐きながら言葉を紡ぐ伝令に問い掛けた。


「っ……援軍は我が軍の部隊ではありません!!パラベラム軍の部隊です!!また魔王様の勅命で我が軍はパラベラム軍の援護に回るようにとの仰せであります!!」


「……なんだと?この戦いは我々の領土を守る戦いだぞ!!それを……!!それを他国の軍に任せて我が軍は援護に回れだ――えぇい!!うるさい!!なんだこの音は!?」


伝令から伝えられた命令に明るくなっていた表情を一変させ憤怒の表情で怒りの声を上げていた将軍の耳にキュルキュルという耳障りな聞き慣れぬ音がまとわりついた。


そしてその音の正体を確かめようと窓から身をのりだし外を見た将軍は凍り付いた。


「な、なんだこれは!?」


将軍の視線の先では指揮所の側の通りを見たこともない四角い物体が耳障りな音を出しながら走り回っていた。










――――――――――――




「急げ急げ!!敵はもう動き出しているぞ!!さっさと並べ!!」


オルガの街の前に広がる平原に横1列で布陣し停車時でもエンジンが動いているだけで毎時約45リットルもの燃料を消費する燃費の悪いガスタービンエンジンの音を聞きながらミハエル・ヴィットマン大尉が無線を通じて第1機甲大隊のM1A2エイブラムス49両(本来であれば第1機甲大隊の定数は50両だが1両だけエンジン不調により出発が遅れたためこの場にはいない)に指示を飛ばしていると司令部――HQからの通信が入った。


『HQより第1機甲大隊、ハンマーヘッド1。応答せよ』


「こちら第1機甲大隊、ハンマーヘッド1、どうぞ」


『砲兵部隊の砲撃準備が完了した。そちらの状況を知らせろ』


「こちらは、あと3分程で部隊配置を完了する」


『HQ了解。部隊配置が完了後、作戦開始まで待機せよ』


「了解した」


HQとの通信を終えたヴィットマン大尉は砲塔のハッチを開き背後のオルガの街の中で待機中のHEMTT(重高機動戦術トラック)達に目をやり部下達に発破をかけた。


「さぁて、燃料も弾薬も腐るほどあるんだ盛大に暴れるぞ!!野郎共!!」


『『『『応!!』』』』


そうして部下達に気合いを入れヴィットマン大尉は砲塔の中に戻りハッチを閉めると静かにその時を待った。


「大尉、敵が突撃を開始しました」


「あぁ、見えている。ロン、多目的対戦車榴弾(HEAT-MP)装填、次弾は成形炸薬弾(HEAT)以後、別命あるまで同じ」


本陣のある山を降り麓で陣形を整え突撃を始めた帝国軍の姿をヴィットマン大尉はM1A2戦車の車内からモニターを通じて眺めていた。


「了解!!多目的対戦車榴弾装填完了!!」


「よし。ヴォル、外すなよ?」


「了解です。大尉殿」


「レディス、突撃用意」


「突撃用意よし!!いつでも行けます!!」


車長のヴィットマン大尉は装填手のロン、砲手のヴォル、操縦手のレディスに指示を出すと作戦開始の合図を待った。


「敵、戦列艦及び竜騎士、急速接近!!」


「慌てるな!!味方が叩き落とす!!」


突撃を開始した地上部隊を援護するべく帝国軍の戦列艦と竜騎士がオルガの街に爆撃を行おうと飛来したが、その行動が仇となった。


オルガの街に待機していた自走式対空砲の87式自走高射機関砲とアベンジャーシステムを搭載したM998ハンヴィーを擁する高射中隊、更には歩兵大隊が携帯していた携帯式地対空ミサイルのFIM-92スティンガーやM2重機関銃等の重火器の濃密な弾幕が張られ戦列艦や竜騎士はなんの活躍をする間もなく次々と落とされていった。


しかも運の悪いことに戦列艦や竜騎士達は突撃を開始した地上部隊のちょうど真上で対空砲火を浴びたため落とされた戦列艦や竜騎士が地上部隊に降り注ぎ二次被害が発生していた。


87式自走高射機関砲が搭載する35mm対空機関砲KDAのけたたましい発砲音や白煙を吐きながら飛んでいくスティンガーミサイルを尻目にM1A2エイブラムスの車内ではヴィットマン大尉と砲手のヴォルが暇そうに喋っていた。


「うちも航空機の支援が欲しかったな……」


「しょうがないですよ、大尉。航空機は全機、他の場所にいる帝国軍を叩きに行っているんですから。それに航空機の代わりに十分すぎる程の砲兵の支援があるじゃないですか」


「まぁそうだが……っと、やっと敵が来たな」


会話を切り上げヴィットマン大尉が敵の位置を確認すると戦列艦が墜ちて来たことで少し崩れた突撃陣形の一番前を自動人形が疾走し、次いで魔導兵器や魔物使いが使役するゴーレム等の魔物、騎兵。そして最後尾に歩兵がぞろぞろと続いていた。


俺達の対抗策か?魔物の中でも特に銃弾の効きにくいゴーレム共を選ぶとは……。敵も少しは学習してるみたいだな。


敵の陣容を確認したヴィットマン大尉は帝国軍がパラベラム軍に対する対抗策を講じ始めたのか?と様々な考えを巡らせていた。しかしヴィットマン大尉がそんな考えを巡らせている間にも帝国軍は徐々に距離を詰めていた。


そしてM1A2エイブラムスで編成されたヴィットマン大尉の第1機甲大隊とその左右に布陣している10式戦車で編成された竹口晴次大尉率いる第2機甲大隊に帝国軍が残り2キロまで距離を詰めた時だった。


『HQより全部隊へ通達。作戦開始』


その命令が伝えられると同時にオルガの街とその後方10キロの地点で待機中だった砲兵部隊から帝国軍へ凄まじい砲撃が一斉に加えられた。


数だけは多い帝国軍に対抗するために投入された30砲身仕様のマルチプルロケットランチャーを搭載したTOS-1ブラチーノは噴煙を巻き上げながら搭載しているサーモバリック弾頭装備の30発の220mmロケット弾を僅か15秒で撃ち尽すと補給を受けるため後方に下がったが、オルガの街の後方10キロで待機していたM110 203mm自走榴弾砲、99式自走155mm榴弾砲、アーチャー自走榴弾砲は榴弾や特別に用意されていたフレシェット弾を絶え間なく撃ち出し、だめ押しとばかりに長射程の阻止砲撃用としてアメリカ陸軍が開発した自走多連装ロケット砲のMLRS(多連装ロケットシステム)やMLRSの小型版として開発されたHIMARS(高機動ロケット砲システム)から高密度に一帯を制圧するため、予定された目標から最適な距離と高度で子弾を素早く散布するように設計されているDPICM弾頭(クラスター爆弾)を装備した227mmロケット弾が帝国軍に向け次々と放たれた。


そうして突撃を続ける帝国軍に降り注いだ無数のサーモバリック弾頭装備の220mmロケット弾とDPICM弾頭装備の227mmロケット弾は自動人形を悉く無慈悲なまでに凪ぎ払い2万体の自動人形をほぼ壊滅させ203mmと155mmの榴弾が魔導兵器やゴーレム等の魔物達を枯れ葉の如く吹き飛ばし陣形の後方にいた歩兵や騎兵に向け放たれたフレシェット弾が空中で炸裂、1発につき5千本以上内臓されていた矢型子弾が帝国軍兵士達に降り注ぎ鎧ごと全身を刺し貫いた。


そして数分間の間に多量の砲弾・ロケット弾を突撃中の帝国軍将兵に撃ち込んだ各自走砲・ロケット砲は残敵の処理を機甲大隊に任せて攻撃目標を変更、帝国軍の本陣のある山の頂上に狙いを定めるとまた攻撃を再開し本陣にいた兵士を全て殲滅した。


『HQより第1、第2機甲大隊へ。30秒後に最終弾着。最終弾着後、両機甲大隊は突撃を開始せよ』


「第1機甲大隊、ハンマーヘッド1、了解!!」


『第2機甲大隊、アイアンフット1、了解!!』


そしてきっかり30秒後、最後の砲弾が着弾すると共に二個機甲大隊のM1A2エイブラムスと10式戦車、計99両はエンジンを唸らせて突撃を敢行した。


「全速前進!!――ん?」


突撃を開始した直後、ヴィットマン大尉の元にアイアンフット1――竹口大尉の通信が入った。


『アイアンフット1よりハンマーヘッド1へ。我々は左右に展開し貴隊の攻撃を支援する』


「こちらハンマーヘッド1、了解。攻撃支援に感謝する。――各車聞いたか!!竹口大尉達の10式戦車が支援に回ってくれるそうだ!!恥を晒すなよ!!」


『『『『了解!!』』』』


そして竹口大尉の言葉通りに砲塔側面に『武』という文字が刻まれた第2機甲大隊の10式戦車達はその機動力を最大限に生かし第1機甲大隊を支援する形で左右に展開、正確無比なスラローム射撃を繰り返し百発百中の命中精度で着実に魔導兵器や敵兵を屠っていった。


「突っ込め!!突っ込め!!敵なんぞ押し潰せ!!」


第2機甲大隊の支援の下、第1機甲大隊は帝国軍の真正面から突撃を開始して砲撃によりガラクタと化した自動人形の残骸をメキメキと轢き潰しながら砲兵部隊が、わざと手を抜いて残しておいてくれた魔導兵器に対し盛んに砲撃戦を仕掛けた。


「2時方向、距離2千に魔導兵器1!!」


「了解!!2時方向、距離2千。照準よし!!」


「てぇーー!!」


砲手のヴォルがヴィットマン大尉の指示通りに砲塔を旋回し射撃統制装置(FCS)の正確なデータ通りに照準を定めそれをヴィットマン大尉に知らせると直後に大尉から発射命令が下されヴォルは主砲の引き金を引く。


そして発射の際、一瞬の閃光と腹の底にまでズシリと伝わってくる衝撃波で砂ぼこりを巻き上げながらも44口径120mm滑腔砲から放たれた多目的対戦車榴弾はターゲットの魔導兵器に命中し成型炸薬が炸裂、超高速噴流(メタルジェット)が一瞬で魔導兵器の魔法障壁と装甲を貫通してコックピット内に到達しパイロットごと機内を融解させると同時に周囲に爆風と破片を放出し魔導兵器は内部から膨れ上がり爆散した。


「魔導兵器1撃破!!」


「よし!!次だ!!」


魔導兵器を撃破してヴィットマン大尉達が歓声をあげていると他の戦車からも歓声混じりの戦果報告が次々と舞い込んだ。


『こちらハンマーヘッド2―2、魔導兵器2撃破!!』


『ハンマーヘッド4―5より、ハンマーヘッド1へ!!魔導兵器3撃破しました!!』


『ハンマーヘッド3―1よりハンマーヘッド1へ!!ゴーレム2及び魔導兵器1撃破!!入れ食い状態です!!』


「よぉし!!そのまま全て喰らい尽くせ!!」


『『『了解!!』』』


そんな風にヴィットマン大尉が部下達と無線でのやり取りを交わしていた時だった。突然ヴィットマン大尉の乗るM1A2エイブラムスに連続して衝撃が走った。


「――いてぇ!!何が起きた!?」


突然車体が大きく揺れたためヘルメット越しに頭を天井にぶつけたヴィットマン大尉が目を丸くして何が起きたのかヴォルに問い掛けた。


「正面12時方向より急速接近中の魔導兵器の魔砲が砲塔側面及び車体前面に3発命中!!」


「被害は!?」


「被害なし!!全システムオールグリーン!!戦闘可能です!!」


「魔導兵器更に接近!!」



ヴィットマン大尉達が喋っている間にも彼我の距離はみるみるうちに近付いていた。


「レディス!!全速前進だ!!魔導兵器を轢き殺せ!!」


「えっ!?――了解っ!!行きますよぉ!!」


ヴィットマン大尉は正面を向いていない主砲での攻撃が間に合わないと見るや否や操縦手のレディスに最高速度での突撃を命じた。突然の命令に思わず驚きの声をあげたレディスだったが、すぐにヴィットマン大尉の思惑を理解しニッと笑うとアクセルを思いっきり踏み込んだ。


するとM1A2エイブラムスのガスタービンエンジンが一段と回転数を上げ加速。土を削り取る勢いでキャタピラがギュルギュルと回り出す。


「「「「いっけっえぇぇーー!!」」」」


そして時速50キロまで加速したM1A2エイブラムスは、魔力弾の直撃を受けてもなお迫り来るM1A2エイブラムスに恐れをなし機体を翻し背を向けて逃げようとした魔導兵器の直前で山なりになっていた地面から勢いのまま空中に飛び出すと62トンの車体を武器に魔導兵器にのし掛かった。


一瞬の浮遊感の後に落下する特有のゾワリとする感覚を味わいながらもヴィットマン大尉達のM1A2エイブラムスは魔導兵器に体当たりを成功させ魔導兵器を押し潰した。そして押し潰された魔導兵器はメキャメキャという音と共に沈黙しヴィットマン大尉達の活躍を見た周りの車両からは歓声が上がった。


「っしゃー!!見たか!!これで2体撃破!!」


そんなヴィットマン大尉達の活躍で更に勢いに乗ったパラベラム軍は、その後10分程度の戦闘の後オルガを攻略するために集結していた帝国軍を完全に殲滅した。

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