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調印式の後、私的な話がしたいというアミラの要望に快く応えたカズヤは場所をアミラの私室に移しアミラと会話を交わしていた。


「へぇー。そうなのかい」


「まぁな」


アミラの私室で会話を重ねる内にお互いの波長がうまい具合に合ったのか、2人はまるで以前からの親しい友人のように楽しげに語り合っていた。


そして2人の会話に一瞬の間が出来た時、その間を見計らっていたかのように部屋の扉がノックされた。


『失礼します。陛下、お二人をお連れしました』


「お、来たね。入っておいで。 この機会にカズヤに紹介しとこうと思ってね。あたしの娘達だよ」


アミラの言葉にカズヤが扉の方に視線を向けると扉が開き近衛兵と共にアミラの娘達が中に入って来た。


「あんた達、挨拶しな。あたしとうちの(妖魔連合国)の恩人だよ」


「………………私の名はフィーネ・ローザングル――……って母様!?傷は!?」


「えっ!!お母さん!?どうなってるの!?怪我が治ってる!!」


「あんた達!!場を弁えないかいっ!!」


「「っ!!」」


部屋に入って来てカズヤに敵対心の籠ったきつい視線を向けていた少女とまるで猫じゃらしを前にした猫のように興味津々な視線をカズヤに向けていた幼げな少女はカズヤに挨拶をしようとしたが、その途中にアミラの怪我が治ってることに気が付き我を忘れて思わずアミラに駆け寄ろうと足を踏み出したが、直後のアミラの一喝に2人は首を竦ませ母親譲りの褐色の肌をビクッと震わせた。


「すまないねぇ。躾がなっていなくて」


「別にいいよ。母親のことを大事に想っている証拠だろ?いいことじゃないか」


「まぁねぇ……。でも時と場所を弁えて欲しかったかね」


アミラの謝罪にカズヤが言葉を返すとアミラは頬を弛ませてまんざらでもない笑みを浮かべていた。


「ほら。あんた達、改めて挨拶しな」


「は、はい。……お初にお目にかかる私が姉のフィーネ・ローザングルだ……です」


「初めまして。妹のリーナ・ローザングルだよ。リーネって呼んでね」


アミラのことをチラチラと気にしながらもアミラに促され2人は挨拶をした。


姉のフィーネ・ローザングルはアミラの容姿に似通った点が多い少女で自然のままに長く伸ばした髪、一際目立つふくよかな胸と反比例するスリムな体系だったがアミラの天真爛漫な性格とは真逆の真面目で堅物そうな印象を受けた。


妹のリーナ・ローザングルはまだ幼く子供らしさが残っていたが母親の天真爛漫な性格をそのまま受け継いだのか、活発的で明るい性格のようだったが、どこか小悪魔を連想させる笑みを浮かべていた。あと彼女も姉と同じように髪を伸ばしていたが、姉とは違い長く伸びた髪をツインテールにしていた。


「初めまして。パラベラムの総統を務める長門和也だ。よろしくこっちが副総統の――」


「ご主人様の副官の片山千歳だ」


カズヤ達がお互いに自己紹介と挨拶を交わしフィーネとリーネが新たに用意された椅子に座るとアミラが口を開いた。


「所でちょっとカズヤに頼みがあるんだけどいいかい?」


「ん?なんだ」


「世話になりっぱなしで悪いんだけどね。しばらくの間フィーネをメイドでもなんでもいいからカズヤの側においてやってくれないかい?」


「母様!!そんな……!!」


突然のアミラの発言にフィーネがまさかという顔で立ち上がりアミラの顔を見た。


「フィーネは黙ってな」


「っ」


「で、どうだい?」


「……理由を聞いても?」


「んー。理由……ねぇ。後学の為かね。この子はあたしに似ず頭がよく回るんだけど、ちょっと物事の考え方が固くてね。次期魔王候補として今のうちにいろいろな体験をさせて成長させておきたいのさ」


「次期魔王候補?妖魔連合国の国主は世襲制じゃないのか?」


カズヤがアミラの言葉に疑問を感じ質問した。


「あぁ、うちは基本的に弱肉強食。強き者に弱き者が従うっていうのが当たり前なんだよ。魔王が代替わりする時に妖魔連合国内の各種族から代表を出して色々と競わせるのさ。で、物理的な力だけじゃなくても皆が納得出来る何らかの力を持っていたら魔王に就任出来るってわけ」


「ふーん。じゃあ、アミラはどうやって魔王になったんだ?」


「ん?あたしかい。それはもちろん力で全部ねじ伏せたよ。で、受けてくれるかい?」


結局力かい!!……とまぁ、そんなツッコミはさておきどうするかな。受けても受けなくてもどっちでもいいんだが。まぁ受けておくか。


一瞬考え込んだカズヤだったが、特にデメリットも思いつかなかったためアミラの提案を受けることにした。










――――――――――――



カズヤが部屋から出て行った後、アミラの部屋の中ではフィーネの怒りの声が上がっていた。


「母様!!なぜ私があんな男のしかもよりにもよって人間風情の所に行かねばならないのですか!!」


「人間風情とはなんだい!?カズヤはあたしの怪我も治してくれたし、ほとんど見返りも要求せずにうちを助けてくれた恩人だよ!!それに何度も言っているだろうにカズヤの所でいろいろと学んでこいって」


「ですが!!」


「あーもう!!これは決定事項だよ!!」


「〜〜〜ッ!!母様の分からず屋!!」


アミラの言葉にリーネは我慢ならないと言わんばかりに部屋を飛び出して行ってしまった。


「もぉ〜2人共、頑固なんだから!!お母さんいいの?お姉ちゃんどっか行っちゃったよ?」


「はぁ〜。またやっちまったね……」


部屋に残ったリーネの言葉にアミラは大きくため息をついた。


「リーネ、おいで」


アミラはリーネを招き寄せると膝の上に座らせて頭を優しく撫で始めた。


「お母さん。くすぐったいよ」


「……」


膝の上で身動ぎするリーネの嬉しさと恥ずかしさの入り交じった声を聞きながらアミラは深く考え込んでいた。




「母様の!!母様の分からず屋!!なぜ分かってくれない!!」


魔王城の廊下をフィーネは収まらない怒りを胸にズカズカと歩いていた。


「私はただ母様の側で役に立ちたいだけなのにッ……!!」


ガン!!と廊下の壁に拳を叩きつけフィーネが苦悩していた時だった。


「そこにいるのはフィーネかい?」


廊下の向こうからエルフの男が歩いて来た。


「ネルソン!!」


「おっと!?どうしたんだいフィーネ?」


以前から慕っていたネルソンが目の前に現れたことでフィーネは先程とは一変して花が咲いたような笑みを浮かべネルソンの胸の中に飛び込んだ。


「そんなことが……」


「えぇ。私は行きたくないけど母様には逆らえないから……」


ネルソンはフィーネがカズヤの側にいることになったという事情を聞くとネットリとした悪意の籠った笑みをフィーネに気付かれないようにコッソリと口元に浮かべながら優しい言葉と共にある物を差し出した。


「これは?」


「お守り代わりのブレスレットさ。それをずっと身につけておいて欲しい。何かあればそれが君を守ってくれるはずだよ」


「ありがとう。ネルソン」


フィーネはネルソンの悪意にまったく気が付かずにブレスレットを受け取って身につけてしまった。








――――――――――――



長時間続いた話も終わりフィーネを預かることを了承したあとカズヤはデイルス基地に戻っていた。


「しかしご主人様。よろしかったのですか?あのような小娘を預かって」


「まぁ、いいだろ。魔王に貸しを作ったと思えば」


「今のところ我々は貸しばかり作っていますが……」


「……。さて帝国軍はどこにいるんだ?」


千歳のじと目にカズヤはさっと視線を反らし知らぬ存ぜぬとばかりに部下達に声をかけた。


「……妖魔連合国内にいる帝国軍はオルガという妖魔軍が守る街の近くに集結中です。補給を断たれ手持ちの物資が無くなったため街を攻め落とし妖魔軍の物資を奪うつもりだと思われます。またオルガ攻略のために集結していない残りの敵の居場所も全て把握済みです」


目を反らしたカズヤを見てやれやれという風に首をふった千歳は目の前の地図に視線を落とし幾つかの場所を指し示した。


「うーん。一気に片をつけたいなそろそろ冬になるし……。うん。まず航空機部隊は総力を持って各地に散っている帝国軍を叩け。地上部隊はオルガの街に向かい帝国軍を撃破しその後各地に展開、討ち漏らした残敵掃討にあたれ。それと妖魔軍との共同体制は取れているのか?」


「はい。妖魔軍は我々の援護に回ってもらうことになっています。これを」


「……よし、分かった」


ミレイ少将が妖魔軍との連携について書かれた報告書をカズヤに手渡しその報告書を一瞥し頷いたカズヤは言った。


「全軍作戦行動に入れ。これより妖魔連合国内に存在する帝国軍を蹂躙する。一兵たりとも生かして返すな!!」


「「「「了解!!」」」」


カズヤの言葉に皆、敬礼をすると自らの職務に取りかかりそれと同時に基地全体が慌ただしくなり始めた。デイルス基地の滑走路や駐機所からは次々と爆弾やミサイルを吊り下げた航空機やヘリが飛び立ち、地上部隊は群れをなしオルガの街に向かって進撃を開始した。

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