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帰らずの森の中にあるパラベラムの前哨基地からカナリア王国内を通り妖魔連合国へ繋がる街道の拡張・整備と鉄道網の構築、それに妖魔連合国の首都から20キロ離れた場所にコンクリートブロックの壁に囲まれ近代的な設備が詰め込まれた巨大な軍事基地――地名から名前を取ったデイルス基地の建設を機械化された工兵部隊を使うことで驚くべき早さで終えたパラベラムは本格的な派兵を開始した。また派兵の第1陣から少し遅れてカズヤもVC-25エアフォースワンに乗って妖魔連合国に降り立った。


VC-25エアフォースワンのタラップが降ろされて機内から外に出たカズヤがタラップを降りながらデイルス基地をサッと見渡すと何両もの貨物列車が続々と到着し荷台に積載していた物資や兵器を基地内に運び込み、また飛行場の駐機所にはC-17グローブマスターIIIを筆頭にC-5ギャラクシーや量産された機体としては世界最大の輸送機のAn-124ルスラーン。そしてそのAn-124をベースに開発されプログレスD-18Tエンジンを両翼に計6つ搭載し『世界一重い航空機』とも言われる大重量貨物輸送機のAn-225ムリーヤといった大型の輸送機達が積み荷の戦車や装甲車、自走砲、人員を下ろしていた。


他にも建ち並ぶハンガー(整備棟)の中ではルーデル少佐率いるルーデル飛行中隊の特別仕様のA-10やF-15制空戦闘機の派生型である戦闘爆撃機F-15Eストライクイーグルに低抵抗通常爆弾――レーザー誘導のペイブウェイIIやGPS誘導のJDAMキットなどを装着することで誘導爆弾として使用できるMk80シリーズの通常爆弾やCBU-87/Bクラスター爆弾、CBU-72燃料気化爆弾、ナパーム弾等の航空機搭載爆弾を整備兵達が機体に取り付け出撃準備を整えていた。


また視線を少しずらすとC-130ハーキュリーズ輸送機の機体を改造しGAU-12 25mmガトリング砲を1門、40mm機関砲を1門、105mm榴弾砲を1門搭載し局地制圧用攻撃機――ガンシップの名で呼ばれているAC-130に大量の砲弾が積み込まれ帝国軍に砲弾の雨を浴びせるための準備が進んでいた。


そして少し離れた場所の滑走路にはスクランブルに備えて第5世代のジェット戦闘機に分類される世界初のステルス戦闘機でステルス特性や音速巡航(スーパークルーズ)能力を兼ね備えているF-22がウェポンベイ(兵器庫)にAIM-120C AMRAAMを6発とAIM-9L/Mサイドワインダーを2発搭載した状態で、その隣にはF-1の後継機としてF-16多用途戦闘機を元に開発されたF-2戦闘機が93式空対艦誘導弾2発とAGM-65マーベリック6発、AIM-9L/Mサイドワインダー2発を機体に取り付けてF-22と同じようにスクランブルに備えて翼を休めていた。


なお、デイルス基地には配備されていないB-52ストラトフォートレスやB-1ランサー、B-2スピリット等の戦略爆撃機は整備上の問題と万が一にも地上で敵によって破壊されることを防ぐためデイルス基地には緊急時以外着陸することはなくパラベラム本国から飛来して爆撃を行う手筈になっている。


そして飛行場を眺めていたカズヤが飛行場の反対にある地上部隊の集結地に視線を移すとそこには今回の派兵の主力部隊である二個機甲大隊の戦車――M256 44口径120mm滑腔砲と主砲同軸に装備されているM240 7.62mm機関銃やM2 12.7mm重機関銃で武装し複合装甲と均質圧延鋼板で防御を固めたM1エイブラムスと新開発され日本製鋼所が製造した従来の44口径120mm滑腔砲より13パーセント軽い軽量高腔圧砲身の国産44口径120mm滑腔砲を装備し最新技術・装備が詰め込まれたお陰で正確無比なスラローム射撃や後退行進射撃を可能にした10式戦車、計100両が整然と並びその勇姿を雄々しく辺りに見せ付けていた。


着々と戦力が整いつつあるデイルス基地の様子を満足げな表情で見終えたカズヤは千歳やメイド達の随伴員を引き連れてデイルス基地の司令部に向かった。


「お待ちしておりました。総統閣下」


そんな言葉と共にカズヤを出迎えたのはデイルス基地の司令官、ミレイ・ウリウス少将だった。つり目に眼鏡というどこかキャリアウーマンを彷彿とさせる美人のミレイ少将は緊張した面持ちでカズヤを席に案内しカズヤが席に着くと現状の報告を始めた。


「既にご覧になったと思われますがデイルス基地に到着した部隊は全部隊、出撃準備に取り掛かっていますので後は妖魔連合国と同盟締結の正式な調印式が済み、総統閣下のご命令が下されれば直ちに行動に移れます」


「仕事が早いな……」


「ハッ、ありがとうございます!!」


カズヤの感心したような言葉に誇らしげに型通りの敬礼で答えたミレイ少将に苦笑しつつカズヤは皆を引き連れ同盟締結の調印式が行われる妖魔連合国の首都にある魔王城へハンヴィーに乗り向かった。




  



 





―――――――――――――――




魔王城という名前からおどろおどろしい城の姿を想像していたカズヤの予想を裏切り首都の入り口から見えた魔王城は普通の城だった。


そんな魔王城の城下街エリアの中に入ったカズヤ達はオリヴァー侯爵の案内で車内から街並みを眺めていた。


「彼らは……?」


「彼らですか?彼らは大半が戦火に巻き込まれ住んでいた村や街から逃げて来た避難民達です。魔王様も避難してきた者達に救いの手を差し向けるように言っておられるのですが、なにぶん避難民の数が多く十分な支援が行えていないのが現状です」


そんな会話を交わしながらそこかしこに暗く疲れた顔で路肩に座り込む避難民達を眺めつつカズヤは魔王城の本城に入り魔王の待つ部屋に向かった。


魔王ってどんな姿してるんだろ……。やっぱり角とか生えてる大男なのか?


魔王の待つ部屋に向かっている途中、魔王について何も知らないことに今さらながら気が付いたカズヤは魔王の姿について想像を膨らませていた。


「こちらで魔王様がお待ちです」


一際豪華な装飾が施された部屋の扉の前で足を止めたオリヴァー侯爵が言った。


この先に魔王が……


ごくりと唾を飲み込み意を決してカズヤは扉の向こうに進んだ。


「ぅぐっ……。ようこそ妖魔連合国へパラベラムの王よ。歓迎するよ…うっ、くっ、……こんなナリで悪いけど大目に見てくれないかい?」


「……あ、あぁ分かった」


…………女!?しかも傷だらけ!?


部屋の中に入ったカズヤが見た者は想像していた姿――角が生え筋肉質で強面の大男などではなかった。


そこにいたのは、元は立派に額に生えていたであろう一本の真っ赤な角と右手の肘から先、左目を失い褐色の肌の至るところにびっしりと巻かれた包帯に赤い血を滲ませて、その豊満な胸を荒い呼吸で上下させ苦悶の表情を浮かべながらも威厳を損なわず魔王の風格を保ちカズヤを出迎えた妖魔連合国の女傑――魔王アミラ・ローザングルその人だった。


……そういやオリヴァー侯爵が魔王は傷を負っているって言ってたっけな。それにしてもここまで重傷だとは思わなかったぞ。……ってよく見たら魔王の周りに控えている家臣達も傷だらけじゃないか。


魔王が女性で重症を負っているという事実に驚いてアミラに生返事を返し部屋の中に入ったカズヤが目だけを動かして魔王の周りに控えている家臣達をコッソリと伺うと無傷な者は1人もおらず皆、魔王と同様に重傷に近い傷を負っていた。


……にしてもあまり友好的でない視線がいくつか混じってるな。まぁしょうがないと言えばしょうがないけど帝国に――人間に同胞を大量虐殺されたらなぁ。人間そのものに対して敵意を抱くのも致し方ないか。


アミラの周りに控える家臣達の内、数人から敵意の混ざった視線を浴びたカズヤがそんなことを考えつつ用意されていた椅子に着くと同盟締結の調印式が始まった。


「あーっと、とりあえず最初に自己紹介でもしとこうかね。……っ、あたしが妖魔連合国の魔王のアミラ・ローザングル。ちなみに種族はオーガだよ。ぅ…アミラでもローザングルでも好きなように呼んでくれて構わない。……ん?……あぁ、それとこの口調は生まれつきでね。くっ、見逃してくれると助かるんだけどね」


アミラがいきなり気軽に軽い口調でカズヤに話し掛けたため隣に控えていた家臣は目を剥き慌ててアミラに耳打ちをしたためアミラは最後に言葉を付け足した。


「あぁ、構わない。俺も堅苦しいのは苦手なんでな」


「そうかい?うっ、そう言ってくれると助かるよ」


傷の痛みを堪え大量の油汗を流しつつもカズヤの返事を聞いてアミラはニカッと親しげな笑みを浮かべた。


「じゃあ俺も簡単な自己紹介を……俺がパラベラムの王――総統の長門和也だ。俺も好きな様に呼んでくれ。今後ともよろしく頼む、アミラ」


「あぁ、こちらこそよろしく頼むよ。カズヤ」


そうしてお互いの自己紹介と部下の紹介が終わり一段落つくと突然、アミラがカズヤに対し深々と頭を下げた。


「魔王様!?」


「へ、陛下!!一体何を!?」


「っ、あんた達は黙ってな!!最初に言いたかったんだけどね。今回の派兵の件、本当に感謝するよ。先に送ってくれた兵に関しても同様に。彼らのお陰で何百もの同胞が命を救われているし、っ、帝国の進攻速度が落ちたことで軍を再編成する時間も出来た。この借りは必ず返させてもらうからね」


「……あぁ、期待しておくよ」


魔王が――1国の主があろうことか他国の王に頭を下げるという行為にアミラの家臣達が騒いだが、アミラの一喝ですぐに黙り込んだ。そしてアミラの真摯な言葉を聞いたカズヤはキョトンとした後に笑顔でそう言ってアミラとは仲良く出来そうだと思った。


「――じゃあ、ぅぐ……書類に、つっ、署名――」


「ちょっと待ってくれ、もう見てられん」


「?」


カズヤに感謝の意を告げたアミラは頭をあげると用意されていた書類に署名をしようとしたがカズヤはそれを押し止めた。


そして痛みを堪えながら懸命に言葉を紡いでいるアミラの姿を見るに見かねたカズヤは席を立ち頭に?マークを浮かべているアミラに近付き手をかざした。


「……刃をどけてもらえると助かるんだが?……千歳達も銃を下ろせ」


「やめな、あんた達」


カズヤがアミラに手をかざした瞬間、カズヤの首や急所に魔王直属の近衛兵達が剣や槍が突き付けていた。しかしそれに呼応するように千歳達も銃を構え引き金に指を掛けておりいつでも近衛兵や魔王を射殺出来るような状態を取っていた。


そんな一触即発の状態に陥りながらもお互いの兵達は自らの主の命令に従い大人しく武器を納めた。


「すまない……今のは俺が悪かった」


何の説明も無しに不用意にアミラに近付いたことをカズヤが謝ると近衛兵達から滲みだしていた殺気が少しだけ弱まったためか部屋の中は若干落ち着きを取り戻した。(ちなみに千歳達から発せられる殺気は弱まることはなかった)


「……それでカズヤはあたしに何をしようとしたんだい?」


「いやなに、その傷が辛そうだったんで治そうと思ってな……」


「この傷かい?つっ、治そうとしてくれるのはありがたいけど無駄だよ。帝国に与する渡り人「俺は勇者だ!!」とか叫んでいた変な奴にやられた傷なんだけどね。特殊な武具を使っていたみたいでどんっ、な魔法薬や回復魔法を使ってもこの傷は治らないんだよ」


「……そうか、まぁ。モノは試しだ」


忌々しいといわんばかりに首をふって諦めの表情を浮かべているアミラに笑いかけながらカズヤは手をかざし完全治癒能力を発動した。


するとアミラにかざしたカズヤの手がぼんやりと光を放ちアミラの体に目に見えて変化が起きた。


「……えっ!?」


「なんと!?」


「これは……!?」


「なっ!?」


ありとあらゆる手を尽くしても癒えることが無かったアミラの傷が癒えたばかりか、永遠に失ったはずの右手や左目が元通りに戻った光景を目の当たりにして家臣達は呻くように言葉を漏らすか絶句していた。そして当の本人であるアミラは自分の右手や角を恐る恐る触りその感触を確めたあと左目を覆っていた包帯を引きちぎるように外し暗闇に閉ざされていたはずの左目にまた光が戻ったことにまず驚き次いでわなわなと歓喜にその身を打ち震わせた。


「……戻った?手や目が元に戻った?――……ハハッ、アハハハハ!!!!これでっ!!これであのクソ野郎に復讐出来る!!」


右手をグッと握り締め、握り締めたその拳を見つめながらそう高笑いをあげたアミラの体から凄まじい量の魔力が溢れだしごうごうと渦を巻いていた。そして溢れだした魔力を収めたアミラがこれ以上ないほどに喜びで顔を染めながらカズヤに向き直った。


「感謝するよカズヤ!!あんたのお陰で――ってどうしたんだい!?」


「ゼェゼェ……つ、疲れた」


アミラの傷を治すためにあらんかぎりの魔力を使わなければならなかったカズヤは疲労で根を上げていた。


……というかさっきは何も考えずに完全治癒能力をアミラに使っちまったけど、副作用……大丈夫だよな?


先程からおもちゃを与えられた子供のように目を輝かせて何度も自分の右手を開いたり閉じたりしているアミラを眺めつつカズヤはそんなことを思った。


「……とりあえず調印を済ませよう」


「あ、あぁそうだね」


結局、完全治癒能力の副作用を確かめる術がないためカズヤは気にしないことにしてアミラに声を掛けた。そしてカズヤの声を聞いて何のためにこの場を設けていたのか思い出したアミラはすぐに頷いた。


そして同盟締結の調印が終わり正式にパラベラムと妖魔連合国の間に同盟が結ばれたのだった。

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