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「なんて大きさなの……」


『ニミッツ』の広大な飛行甲板の上を1歩1歩確かめるように歩くカレンがポツリと言葉を漏らすとそれを聞いたハリス大佐が誇らしげに『ニミッツ』のスペックを語り出す。


「そうでしょう。なんと言ってもこの船は全長333メートル、全幅41メートル、満載排水量は10万トン以上、最大速力30ノット、乗員はパイロット達を含め約6000人。搭載機は最大90機の大型艦ですから」


説明を聞いて驚き固まっているカレン達の様子を見てしてやったりと言わんばかりの顔で笑うハリス大佐はカレン達を促し嬉々として艦内の案内を始めた。


だが一通り艦内を巡ると次の予定も詰まっていたためカズヤ達はすぐに『ニミッツ』を後にした。


「……すごい」


思わずといった風にカレンが声を漏らす。


カズヤ達が『ニミッツ』から離艦しパラベラムの本土上空に差し掛かるとまず広大な敷地面積を誇る軍港が見えてきた。軍港の埠頭には何十隻もの輸送船が停泊し乾ドックでは改装工事を行うために入渠した艦艇に工員達が群がり盛んに溶接の火花を散らしている。


そんな軍港の上を通り過ぎると舗装された道路が何本も走り近代的な建築物が建ち並ぶパラベラムの市街地に入った。


そんな初めて見る光景を幼い子供のように目を爛々と輝かせ楽しげに眺めていたカレンがまた何かを見つけカズヤに問い掛けた。


「ねぇカズヤ、さっきからいくつも見かけるけど、あの大きな建物はなんなの?」


視線を外に向けたままカレンが言った。


「あれか?あれは高射砲塔だな」


「高射砲塔?」


「鉄筋コンクリート製の建築物で上部の砲台にはオート・メラーラ127mm砲を側面から張り出した砲台にはCIWS(ファランクス)やRIM-116 RAM等を設置した要塞でパラベラムの対空防衛網の要だ。あと非常時に避難場所としての利用も出来る――……って言っても分からないか」


「えぇ。分かったのは要塞で避難場所としても利用出来るということぐらいかしら」


「悪いな。説明が下手で」


「気にしないでちょうだい」


次々と矢継ぎ早に繰り出されるカレンの質問にカズヤが悪戦苦闘しながら出来る限りカレンが理解出来るように答えているといつのまにかプレジデントホークがパラベラムの中枢である司令本部の屋上にあるヘリ発着場に着陸していた。


「じゃあ俺はやることがあるからここで。あとは伊吹少将がカレン達の案内をするから」


「そう……分かったわ」


ここからは別行動だと聞いて少し寂しそう表情を浮かべるカレンと別れカズヤは千歳と共に司令本部の中へ入った。


そして溜まった仕事を司令本部の執務室で千歳と一緒に片付けているとカズヤはふとあることを思い出した。


「そういえばすっかり忘れていたがコルト・ザラはもう王都に送ってくれたか?」


「はい。彼女でしたら城塞都市での戦闘が終了した後に5人ほど護衛をつけて王都に送り無事王都に着いたとの報告を受けております。送り届けた護衛の話によれば妹の無事な姿を見てベレッタは泣いて喜んでいたそうです」


「そうか。ならいいんだ」


話を聞きながらもカズヤはペンを握った手を止めずに千歳と会話を続けた。


「――で、あと……。千歳、どうしたんだ?嬉しそうに笑って」


「フフッ。なんでもありません(やっとご主人様と2人っきりになれた)」


会話の途中に千歳が嬉しそうに微笑んでいることに気がついたカズヤが問い掛けると小さな笑みと共に誤魔化されてしまったのだった。















―――――――――――――――




「パラベラムを回ってみてどうだった?」


「驚愕の一言よ。見るものすべてに驚かされたわ」


カズヤがパラベラムの各施設を見終わり司令本部に帰ってきたカレンと共に食事を取りながら、自国の感想を聞くとカレンは食事の手を止め見てきた物を1つ1つ思い返しながら言った。


「楽しめたようで何より」


「えぇ、とても楽しかったわ。そう言えば一緒に連れてきた他の貴族達なんてあまりに驚き過ぎて腰を抜かしていたわ」


「そんなに驚いていたのか?」


「えぇ。それはもう」


談笑しながら食事を終えソファーに座りゆったりとした時間の中で食後のお茶を飲んでいるとカレンがティーカップをテーブルに置いて佇まいを直し切り出した。


「真面目な話をしてもいいかしら?」


「あぁ。いいぞ」


「……悪いけれど話の前に人払いをお願い出来ないかしら?」


「? 分かった」


カレンに言われてカズヤが給仕を勤めていた部下に視線を送るとすぐに部下達が頭を下げ礼をして部屋から出ていった。


だが1人だけカズヤの後ろに立ったまま微動だにしない人物がいた。


「……千歳副総統。貴方にも出ていってもらいたいのだけれど?」


早く出ていきなさいよ、カズヤと2人っきりになれないじゃない!!


「私はご主人様のご命令がない限り、いかなる時もご主人様の側を離れる訳にはいきませんので」


貴様とご主人様を2人っきりにしてたまるか!!私でさえ最近は忙しくてご主人様のお側にいられないことが多いというのに!!」


なにやら不穏な空気が漂って来たのを察知したカズヤの額に冷や汗が浮かぶ。


オイオイ……なんで2人の間で火花が散っているんだ?


「……カズヤ。貴方からも言ってくれないかしら」


「うーん……。千歳が居てはダメなのか?千歳は俺の半身のような存在なんだが……」


カズヤに半身のような存在と言われた千歳は嬉しさの余り全身をブルブルと小刻みに震わせていた。


「……えぇ!!大事な事だから“2人っきり”で話したいの!!」


一方で千歳から勝ち誇ったような笑みと見下すような視線を送られたカレンは額に青筋をいくつも浮かばせてイラつきながらも“2人っきり”を強調して話がしたいと言い切る。


「……分かった。千歳、部屋の外に出ていてくれ」


「ハッ、了解しました」


カレンの言葉に折れたカズヤが千歳に部屋の外に出ているようにと言うと千歳は大人しく命令に従いカズヤに敬礼した後ドアに向かって歩き出した。しかし千歳が部屋から出ていくまでの間に発生したカレンとの視線だけでの会話は熾烈を極めた。


「(ふん!!最初からそうやって出ていけばいいのよ。この牝犬!!)」


「(ハッ!!貴様に何を言われようとなんとも思わんぞ?何せ私はご主人様に半身のような存在と言って頂いたのだからな。どうだ羨ましいか?女狐)」


「(クッ!!……さっさと出ていきなさい!!)」


「(貴様に言われなくともご主人様のご命令に従って出ていくさ)」


バタンと小さく扉を閉める音と共に千歳が部屋から出ていくとカレンは用意されていたお茶を荒々しく一気に飲み干しガチャンと音をたて乱暴にコップを机の上に置いた。


「……どうかしたか?」


そんなカレンの様子を見てカズヤが恐る恐るカレンに声を掛ける。


「なんでもないわっ!!……気にしないで」


「そ、そうか……」


大きな声を出した後にハッとして取り繕うように穏やかに言ったカレンは咳払いをしたあとしゃべり始める。


「単刀直入に聞くわ。パラベラムは――カズヤはこれからどうするつもりなの?」


「これから、ねぇ……。まずはカナリア王国を訪問して――」


「そういうことではなく、貴方の今後の方針のことよ。情けない話だけれど今カナリア王国はカズヤの軍隊がいるお陰で帝国の侵攻を阻んでいる状態。カズヤが軍を撤退させれば帝国は再び攻め込んで来るわ。そうなったら私達はお仕舞い帝国に蹂躙され惨めに死んでいくだけ。まぁカナリア王国の全軍を投入すれば1年……いえ、半年ぐらいは持ちこたえることが出来るでしょうけど……。最終的に待っている結末は変わらないわ」


「まぁ兵力が違いすぎるからな。そうなるだろうな」


「それに……。貴方でしょ?魔物の異常繁殖地を焼き払ってくれたのは」


「……さてはて、なんのことやら」


「フフッ、ではそう言うことにしておくわ」


カズヤの惚けるような答えにカレンはにこやかに笑って返した。


「それで話を戻すけど、カズヤは……カナリア王国に私達に手を貸してくれるの?」


「……ハッキリとは決めていないが手を貸すつもりだ。ただし帝国との戦争に関しては俺達は専守防衛・後方支援に徹するぞ。まぁ渡り人が出てくるのであれば話は別だが」


「……そう。でもカズヤが手を貸してくれるというだけでもひとまず安心だわ」


確定はしていないがパラベラムの協力があるということを確かめることが出来たカレンはホッと胸を撫で下ろしたのと同時にある覚悟を決めた


「……それじゃあカズヤがカナリア王国に手を貸すことをハッキリと決められるようにしておかないといけないわね」


「……ん?」


カレンはそう言って席を立つとおもむろにカズヤの隣に腰をおろし妖艶な色香を振り撒きながらカズヤに擦り寄った。だが当のカズヤはカレンの言葉と行動に戸惑っていた。


「貴方、さっき言ったでしょう?『ハッキリとは決めていないが手を貸すつもりだ』と」


「あぁ……。確かに言ったが」


「土壇場で手は貸さないと言われても困るから、手を貸してくれる対価の前金代わりに私を貴方にあげるわ」


「……は?」


カレンはカズヤの返事を聞かぬままゆっくりと床にゴスロリ風のドレスを脱ぎ捨てた。


そして張りのある艶やかな肌やスラリとして細くしなやかな体に黒を基調としたスケスケのセクシーランジェリーを身に纏ったカレンは自分の体をカズヤの目の前に晒し出す。


男の劣情を誘うセクシーランジェリーを着たカレンの魅力的な体を前に思わず食い入るように魅入ってしまったカズヤの視線に気が付いたカレンは顔を嬉しさと恥ずかしさで真っ赤に染め身をよじった。


「……」


「……」


「……なんとかいいなさいよ」


「っ!!……綺麗だ」


カレンに声をかけられようやく我に帰ったカズヤの口からはそんな言葉がポロリと零れる。


「〜〜〜!!」


カズヤの本心からの言葉にカレンはこれ以上ない程に顔を真っ赤にしていた。


「……。いやいや!!っていうかカレンは何を言っているんだ!!早く服を着――うおっ!?」


ようやく頭が動くようになったカズヤがわたわたと慌て始めるとカレンは隙を突いてカズヤをソファーに押し倒す。


「う、うるさい!!わ、私の初めて(処女)をあげるって言っているんだから大人しく貰いなさいよ!!」


「そ、そういうのは好きな人とやってくれ!!」


「……。貴方、まさか私がカナリア王国のために貴方に体を差し出そうとしているとでも思っているの?」


「えっ?違うの?」


カズヤのきょとんとした顔を見てカレンは深いため息をついた。


「ハァ〜。そうね貴方は鈍感で朴念仁だったわね。貴方に私の心情を察しろと言うのが無理な話だったわ。いいわ。この際だからハッキリ言ってあげる!!私は!!貴方のことが!!“好き”なの“愛して”いるの分かった!?」


「……? っ!?」


カズヤに馬乗りになって襟首を掴み鼻先が触れ合うギリギリまで顔を寄せたカレンは今を逃せば次のチャンスがいつになるか分からないという状況でしかも初恋という事もあり頭の中がぐちゃぐちゃになり強引な手段を取ってしまったりしたが最終的にはカズヤにしっかりと想いを告げることが出来た。


「……えっ!?いや、あの、えぇ!?……その、あ……の……!! お、俺、俺は――」


カレンに言われた言葉の意味を理解したカズヤの顔が徐々に赤く染まっていき、どもりながらも何かを言おうと口を開いた時。


――コンコン


――ビクッ!!


扉がノックされる音が聞こえカズヤとカレンは思わず体をびくつかせる。


『ご主人様。そろそろ』


分厚い扉の向こうから微かに千歳の声が聞こえカズヤが思わず時計を見ると既に夜中を過ぎていた。


「……邪魔が入ったわね。続きは“また今度”にしましょう。貴方の返事もその時に聞くわ(クッ!!あともう少しだったのに!!)」


「あ、あぁ」


2人は顔を真っ赤にしたまま言葉を交わし衣服の乱れを整えた。


「それじゃあ失礼するわ」

「あぁ、また明日」


別れの挨拶をした後、カレンは部屋を出ようとドアノブに手を掛けたが何を思ったのかカズヤの元に引き返してきた。


「ど、どうした?忘れ物か?」


「……貴方みたいな人は言葉だけだとあれやこれやと理由をつけて私の告白を信じないかもしれないから、直接的な行動でも示しておくわ」


「えっ?……んむっ!!」


そう言ってカレンはおもむろにカズヤの頬に手を添え引き寄せると深く口づけを交わす。


「んんっ…ちゅ」


チュポン。そんな音と共にカレンが名残惜しげにカズヤから離れると2人の間に銀色の唾液の橋がかかった。


「ごちそうさま。ではまた明日」


赤い舌でカズヤと自分の唾液がベッタリとついた唇をペロリと舐め満足気にそう言ってカレンは部屋から出ていった。


「……」


カレンの口づけにカズヤは魂を抜かれてしまったように夢見心地で呆けていた。


「ご主人様、どうかされましたか?顔も赤いようですが……」


カレンと入れ替わりに部屋に入って来た千歳は顔を赤くして呆けた様子でぼーと突っ立っているカズヤの姿を見て訝しげにそう言った。


「っ!!い、いやなんでもない。そろそろ寝るか」


千歳に声をかけられ我に帰ったカズヤは慌てて返事をした。


「あっ!!お、お待ちください。ご主人様!!」


そんなカズヤの姿を見て更に疑念を深める千歳だったが、カズヤが寝室に向かったためそのあとを急いで追いかけた。

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[気になる点] 自陣の施設そんな簡単に見せていいんでしょうか??? 行動が幼過ぎる気が、、
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