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「なん……なの……これは!!私は夢でも見ているの!?」
「……いえカレン様。私も信じられませんがこの光景は現実です」
カレンとマリアの視線の先では様々な兵器達が続々と城塞都市に集結していた。
空からはMV-22オスプレイとUH-60ブラックホークが城塞都市の近くに着陸し数多くの兵士を降ろしCH-47チヌークが機内に詰め込んだ各種軍事物資や最大12.7トンの貨物を吊り上げることが出来る機体下面の吊下装置で吊り下げ持ってきたM777 155mm榴弾砲とその弾薬や砲の運用に必要な要員を次々と地上に吐き出している。
また降伏した帝国軍兵士達の頭上を威圧するように何度も旋回し敵兵が不審な動きをとればいつでも射殺できるように待機しているのは最大で毎秒100発という発射速度を誇り生身の人間が被弾すれば痛みを感じる前に死んでいるという意味で無痛ガンと呼ばれているM134ミニガンを2門と何十発ものハイドラ70ロケット弾が収められているM261発射ポッドを2つ装備したAH-6キラーエッグ。
そしてミニミ軽機関銃やM14EBRで武装した兵士を乗せたMH-6リトルバード。
そんなヘリ達の遥か上空を敵の奇襲に備えまだミサイルや機銃の残弾が残っているF-22が四方八方に目を光らせながら飛行している。
更に帰らずの森の方角からは地響きを轟かせ土埃を舞い上げながら城塞都市に接近する戦車や装甲車を擁する機甲中隊がその姿を現していた。
「なんだあれは!?」
そしてそんな光景を見て絶句しているのはカレン達だけでは無かった。
一刻も早い増援を。と考え先に足の早い騎兵部隊と老朽化が進んではいるがカナリア王国の虎の子である空中艦隊を引き連れ城塞都市にやって来たカナリア王国の増援軍の指揮官ゼイル・アーガス伯爵も初めて見る兵器に度肝を抜かれていた。
――――――――――――
「増援の第1師団到着しました」
「第1師団の編成はどうなっている?」
城塞都市に設置した仮設司令部で増援到着の報告を受けたカズヤは、報告を持ってきた兵士に質問を投げ掛けた。
「ハッ、主要な部隊は機械化歩兵連隊、砲兵大隊、工兵連隊、機甲中隊などです」
「そうか。……もう少し機甲部隊を投入したかったがしょうがないか。いくら車両が2500両召喚できると言ってもその全てを正面装備(戦闘に直接使用される兵器・装備の総称)にする訳にもいかないしな」
正面装備以外の車両――主に後方支援部隊が運用する給油車や弾薬運搬車、重機、消防車などを始めとした各種特殊車両も基地や各部隊に配備する必要があるために依然として戦力不足――特に車両不足にカズヤは頭を悩ませていた。
ちなみに今回、車両不足の煽りを食らって本来であれば自走砲やMLRS、HIMARSなどの車両を運用しているはずの砲兵大隊にはそれらが配備されておらず、代わりに軽量で比較的運搬が楽な火砲であるM777 155mm榴弾砲が配備されている。
まだまだ召喚できる数が少ないからなぁ。まぁ今回の戦闘でレベルも上がって召喚できる数も増えているだろうしなんとかなるかな……先に能力を確認しておくか。
[兵器の召喚]
2013年までに開発及び製造された兵器が召喚可能となっています。
[召喚可能量及び部隊編成]
現在のレベルは60です。
歩兵
・6万人(一個軍)
火砲
・5500
車両
・5500
航空機
・3500
艦艇
・2500
※火砲・車両・航空機・艦艇などを運用するために必要な人員はこれらの兵器を召喚する際に一緒に召喚されます。
※後方支援の人員(工兵・整備兵・通信兵・補給兵・衛生兵等)は歩兵に含まれておらず別途召喚可能となっており現在召喚できる後方支援の人員は『総軍』規模までとなっています。
※歩兵が運用できる範囲の重火器・小火器の召喚の制限はありません。
[ヘルプ]
・[能力の注意事項]
メニュー画面を使わずとも声や思考で召喚は可能です。
1度召喚した軍需品・資源・施設は消すことが出来ますが、人(兵士)は消すことが出来ません。
(死亡した兵士の死体も消すことは不可能。また死亡した兵士同じ人物を再度召喚することは出来ません)
『戦闘中』は召喚能力が使えません
NEW
後方支援要員の積極的な自衛戦闘が可能になりました。
……あれ?レベルが上がったせいかいろいろと変更事項があるな……。とりあえず変更事項については後でしっかり確認するとして今は戦後処理を終わらせるか。
そう考えたカズヤだったが、降伏した帝国軍兵士のその数の多さを見てため息をついた。
しっかし捕虜の対処に骨が折れるなこれは……。というか人手が足りないな。召喚できる数も増えたし追加で部隊を召喚するか。
「千歳、オスプレイを1機回してくれ。城塞都市から見えない場所で追加の部隊を召喚してくるから」
「了解しました。ただちに手配いたします」
レベルが上がり召喚できる上限が増えたため、カズヤは城塞都市から見えない場所で追加の部隊を召喚すると捕虜の対処に当たらせた。
その後ついでとばかりにカズヤは急遽各基地も回って部隊や軍事物資などを召喚し軍備を整えた上で城塞都市に戻った。
そうして更に増援の部隊が来たお陰で人手不足が解消されたのを確認するとカズヤは城塞都市の近くに工兵連隊が1日で造り上げた有刺鉄線とフェンスで囲まれ天幕が建ち並ぶ野戦基地で各部門の上級将校を集めて軍議を開いた。
軍議が始まると進行役である千歳が戦果等が書かれている報告書を読み上げる。
「まず今回の戦闘による戦果についてですが、航空隊の活躍により敵戦列艦約50隻を撃墜破その内の12隻が不時着していたため鹵獲しました。この鹵獲した戦列艦ですが魔導炉と呼ばれている機関により飛行を可能にしていることが判明したため機関部を抜き取り研究するため現在工兵連隊が前哨基地に運んでいます。なお魔導炉の運用方法や整備方法につきましては生きていた乗員も捕らえてありますのですぐに分かると思います。ですが、魔導炉を我々が利用するというのであればカナリア王国から魔導炉に関する技術提供を受けたほうが確実だと思われます」
報告書を捲り千歳が続ける。
「次に捕虜ですが投降した帝国軍兵士は約10万人。なお、その内8000人程が修道女や女兵士でした。後、帝国に身代金を要求出来そうな貴族が200人程います」
以上です。そう言って千歳が戦果報告を終えて席に着くとカズヤが口を開く。
「じゃあまず魔導炉の件に関してだが、技術部に聞きたい魔導炉を俺達が持っている艦艇に転用することは可能か?」
カズヤの質問を聞き技術部の中佐が答えた。
「ハッ、可能だと思われます。ですが我々が鹵獲した12基の魔導炉だけでは駆逐艦程度の重量の船を1隻空に浮かばせるのが限界だと思われます」
「分かった。では魔導炉の解析を継続して量産が可能か調べてくれ」
「了解しました」
カズヤは技術部の中佐に指示を出し終えると話を変えて次の問題に移った。
「次に捕虜の件だが……何かいい案はあるか?」
10万人の捕虜をどうするかいい案が浮かばなかったカズヤはそう言って皆の顔を見渡した。すると千歳が手を挙げた
「じゃあ千歳言ってみてくれ」
「ハッ、まず捕虜を前哨基地に運び順次、奴隷化――奴隷商から隷属の首輪を購入し捕虜に着け我々の支配下に置き反乱等が出来ないようにした上で第一基地に送り平時は農地の管理・運営作業に従事させ戦時になれば槍を持たせて敵に突撃させます。いわば使い捨ての駒です」
……槍を持たせて突撃させますって銃の代わりに槍を持たせただけでまるでソ連兵みたいな扱いだな。
「そうだな。とりあえず当面の捕虜の扱いはそれでいいか。ただし槍を持たせて敵に突撃させるのは無しだ。労働力として生かさず殺さずで使え」
「了解しました」
カズヤの決定に千歳が頷き、次の問題に移ろうとした時だった親衛隊の兵士が慌てた様子で天幕に駆け込んで来た。
「た、大変です!!総司令!!」
「どうした?」
「舩坂軍曹が!!舩坂軍曹が!!
「舩坂軍曹がなんだ?……というか舩坂軍曹は戦死したはずだが?お前も知っているだろう?」
ひどく驚いた様子で駆け込んで来た兵士は帝国軍が降伏したあと死体置き場で発見され死亡が確認された舩坂軍曹(帝国軍の捕虜の証言により捕虜となった舩坂軍曹が捕まった後もいろいろと暴れていたことが分かっている。また帝国軍が降伏した日、備蓄されていた火薬を吹き飛ばしたのも舩坂軍曹の仕業だと判明した)の名をしきりに繰り返していた。
「そ、それが!!よ、甦りましたぁぁ!!」
「「「はぁ!?」」」
耳を疑うような報告を受け天幕の中にいた全員が一斉に驚きの声をあげた。
――――――――――――
「軍曹!!」
舩坂軍曹が甦ったという報告を受けたカズヤは慌てふためき舩坂軍曹のいる救護所に駆け込んだ。
「総司令……ですか?」
救護所の中には身体中を包帯でグルグル巻きにされミイラのようになった舩坂軍曹が簡易ベッドに横たわっていた。
「申し訳ありません。このような姿で」
「そんなことを気にするな。今怪我を治してやるからな」
そう言ってカズヤが舩坂軍曹の体に手を翳し完全治癒能力でを発動させるとカズヤの手がぼんやりと発光し、みるみるうちに舩坂軍曹の怪我が治っていく。
「これでよし。怪我は治したが、念のためしばらくの間はゆっくり休んでおけ」
「了解しました。ありがとうございます。総司令」
舩坂軍曹の怪我を治したカズヤはしばらく休んでいるように言ってから救護所の外に出る。
そして出入口の側に待機していた軍医に対し、舩坂軍曹の体調次第で前哨基地に移送するように命じたのだった。
舩坂軍曹の怪我を完全治癒能力で治したカズヤが救護所の天幕を後にし、千歳達が待つ天幕へ帰ろうとした時だった。
「どうか!!どうか慈悲を!!このお方をお救い下さい!!お願い致します!!」
女性の救いを求める悲痛な叫びがカズヤの耳に入った。
何かあったのかな?
悲痛な叫びに引き寄せられるようにカズヤの足は自然と行き先を変更する。
「なぁ、何があったんだ?」
声に釣られ野戦病院に辿り着いたカズヤは立ち尽くす兵士に背後から声を掛けた。
「ん?いや、この瀕死の……女?原型が分からんから何とも言えんが……まだ息があるこの女を助けて欲しいと捕虜達に頼まれてここまで運んで来たはいいが、やっぱり軍医にも無理だと匙を投げられてな……まぁ、見てみろよ。見ればこれは無理だって分かるはず――って、総司令!?貴方が何故ここにッ!!」
ようやく自分が喋っている相手の事を認識し慌てる兵士を他所にカズヤは悲嘆に暮れる修道女達の元に赴く。
「うわっ、こりゃ酷い」
戦場から逃げる手段を持たず、結果として捕虜となった多くの修道女達が取り囲む中心にある黒焦げのナニかを覗き込んだカズヤはそう声を漏らした。
「総司令!!ここは敵方の負傷兵や捕虜が居るんです!!危険ですからお帰り下さい!!って、総司令!?」
制止する兵士の声を聞き流しつつカズヤは両手両足が根元から消失し全身が黒焦げになっている肉塊へ近付く。
「貴方は……」
「ちょっと場所を開けてくれ。悪いようにはしないから」
肉塊を取り囲む修道女達に場所を開けてもらったカズヤは改めて肉塊を見詰めた。
両手両足が吹き飛んで、しかも全身をこんがりローストされているにも関わらず心臓が微かに動いているのか……よくもまぁ、これで生きてるな。
「お願いです。セリシア様を……」
「ん、やれるだけやってみるか」
死体同然の捕虜など放っておいても良かったが生来の気質に加えて、完全に理解しているとは言えない完全治癒能力の限界を確認したいという思惑があったため、カズヤは目の前に転がる肉塊を救う事にした。
「ふっ……グッ…っ……」
クソ、瀕死の状態なだけはあるな……かなりの魔力を持っていかれるぞ。
手を翳し能力を発動したカズヤは全身を襲う疲労感と戦いながら魔力を更に込める。
すると再生が始まっていた肉塊から手足がにょきにょきと伸び、人の形を形成。
更に全身の皮膚が肌色に戻り潤いや張り、加えて毛髪や体毛を取り戻した。
「奇…跡?」
「すげぇ……」
「……疲れた」
驚嘆する修道女や兵士の漏らした声をBGMに能力の発動を終えたカズヤが尻餅をつきつつ視線を黒焦げだった肉塊へと向けると、そこには見目麗しい美少女が横たわっていた。
「セリシア様!!」
「ふぅ、助かって良かったな。――おい、こら。お前は見すぎだ」
「も、申し訳ありません!!」
生命の危機を脱し以前の姿を取り戻した美少女に群がる修道女達に声を掛けながら、カズヤは美少女の裸体を食い入るように見ていた兵士の頭に手刀を落とす。
「……ん……」
「あぁ、セリシア様!!」
「良かった。良かったです!!」
「おっ、目が覚めたか。とりあえずこれでも羽織っておいてくれ」
完全治癒能力により死の淵から現世へ舞い戻った美少女にカズヤは上着を手渡す。
「私は……業火に焼かれて…死んだ……はずじゃ……何故生きて……いえ、それよりあの光りは……」
寝惚け眼でカズヤから上着を受け取った美少女は自身の体を確かめるようにペタペタとまさぐる。
「大丈夫です。セリシア様。ローウェン様のご加護が貴女様をお救いになられたのです」
「さぁ、セリシア様。神に感謝の祈りを捧げましょう」
「……」
……助けたの、俺なんだけどなぁ。
ま、宗教狂いには何を言っても無駄か。
カズヤの存在や働きなど無かったように話を進める修道女達。
その恩知らずと言うべき者達に呆れたカズヤが背を向け、歩き出した時だった。
「感謝の祈り?アハッ、アハハハハハハハハッ!!」
何かがツボに嵌まったのか、美少女が嘲るような高笑いを上げた。
「セ、セリシア……様?」
美少女の様子がおかしい事に気が付いた修道女達がざわめき、その内の1人が伺うような戸惑った声を漏らす。
「あの狂おしい苦しみと絶望に満ちた暗闇の中、いくら祈りろうとも救いも答えも何ももたらしてくれず、あまつさえ私を見捨てた者に感謝を捧げろと?」
美少女は吐き捨てるようにそう言ってから、笑い声に驚き思わず立ち止まっていたカズヤに熱い視線を注ぐ。
「あぁ、やはり……はっきりと感じます」
まるでカズヤの背後から後光が差しているかのように目を細めながら、幸悦とした表情を浮かべる美少女。
その薄く細められた瞼の間から覗く瞳には情愛や崇拝の念を狂気でコーティングして作られた恐ろし気な感情が宿っていた。
「神を前にして未だ神に気付けぬ貴女達は紛い物の愚神に仕えていなさい。私は……私の体が、心が、魂が!!真に仕え奉じる存在と教えてくれるこのお方にッ!!」
側に転がっていた大きな杖を支えに立ち上がった美少女は覚束ない足取りでヨロヨロと歩くと、最後には棒立ちしていたカズヤの胸に飛び込む。
「私の全てを捧げ、付いて行きます!!」
「……」
何が……どうなっているんだ?
思わず抱き止めてしまった美少女の告白のような宣誓にカズヤはただただ呆然としていた。
「あの……貴方様のお名前を御拝聴致したく」
「え、あ、俺の名前は長門和也だが……」
「ナガト……カズヤ様。我が名はセリシア・フィットロークと申します。これより貴方様を崇め称える信徒として、何卒よろしく……お願い……致しま…す」
「し、信徒?って、おい?……気を失ったのか」
言いたい事だけ言って腕の中で無垢な笑みを浮かべながら気持ち良さそうに気を失ってしまった美少女――セリシアを抱えながらどうしたものかとカズヤは途方に暮れていた。