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カズヤ達が地下牢から死にかけの奴隷達を助け出した翌日。


フィリスの使いの者が来たというのでカズヤは千歳を伴い城に出向くことになった。


「ヨーロッパにありそうな城だな」


「はい。まさに、と言った感じの城ですね」


城の中は隅々まで磨かれキラキラと光を放ち、床にはふかふかの真っ赤な絨毯が敷かれ壁には高そうな絵画が掛けられている。


そんな城内を眺めながらカズヤと千歳は歩いていた。


「こちらです」


案内役のメイドにそう言われ、カズヤと千歳が部屋の中に入ると中には鎧を纏ったフィリスと贅沢に宝石がちりばめられたドレスを着た見知らぬ妙齢の女性がソファーに腰掛けている。


……誰だ?この人?


ソファーに腰掛けている30代半ばぐらいの成熟した色香が立ち上る妖艶な女性。


そんな面識のない女性がこの場に居ることに小さく首を捻りながらもカズヤは部屋の中へと進む。


「こちらへどうぞ」


「お言葉に甘えて」


「失礼します」


にこやかな笑みを浮かべる女性にそう促されカズヤ達はソファーに腰を降す。


「初めまして私はカナリア王国の女王イザベラ・ヴェルヘルムです」


いきなり女王が登場!?


見知らぬ女性がカナリア王国の女王だったことに度肝を抜かれたカズヤだったが、驚きを表には出さず平静を装いなんとか返事を返す。


「お初にお目にかかりますイザベラ女王陛下。私がパラベラムの隊長、長門和也と申します。こっちが副長の片山千歳です」


「えぇ、フィリスから聞いていますよ。とても優秀な冒険者だとか」


「それは……光栄なことです」


イザベラ女王に返事を返しつつカズヤはイザベラ女王に何を吹き込んだ?という意味を込めてフィリスに視線を送る。


カズヤの視線に気が付いたフィリスはアハハ。とバツが悪そうに苦笑いを浮かべていた。


……変な事を言っていないといいんだが。


フィリスの態度にカズヤは不安を隠しきれなかった。


「では挨拶はこれぐらいにしておいて。私がここにいる理由をお教え致しましょう」


何を吹き込んだのか後で問い詰めるからな。といわんばかりにフィリスに厳しい視線を送っていたカズヤは喋りだしたイザベラ女王に向き直った。


「私がここにいるのは貴方達に直接お礼が言いたかったのです。此度はイリスを――引いては第二近衛騎士団の危機を救って頂き感謝致します」


「い、いえ。我々は偶然助けただけで」


いきなりイザベラ女王に頭を下げられたカズヤは慌てる。


「そう謙遜なさらないで。偶然であろうとイリスやフィリス達を救って頂いたのは事実なのですから」


「はぁ……」


感謝の意を示すイザベラ女王を前にカズヤは曖昧な返事を返す。


「それにあの子も――イリスも城に帰って来てから貴方の話ばっかりしているそうよ?」


ん?


まるで人から聞いたようにイリスの事を話すイザベラ女王にカズヤは違和感を感じた。


「あの……。失礼ですが、イリス姫殿下とはお会いになられていないのですか?」


カズヤが非礼を覚悟でそういうとイザベラ女王は悲しそうに顔を伏せた。


「えぇ、私もあの子と一緒にいてあげたいのですが、万が一私があの子の傍にいた場合に魔力が暴走すると危険だという理由で臣下達からあの子と会うことを止められているのです」


「……陛下。そろそろ本題に」


話が変な方向に向かい始めるとフィリスが、すかさず横から口を挟み話の流れを元に戻す。


「そうね、ごめんなさい。客人に聞かせる話ではなかったわね。……本題に入りましょうか」


暗い表情で視線を下に落としていたイザベラ女王はつとめて明るく振る舞うとフィリスに視線を送った。


「これが依頼の報酬だ」


イザベラ女王に促されてフィリスはじゃらじゃらと音のする白い袋を取り出しカズヤに手渡す。


これはまた……随分と奮発してくれたな。


フィリスから手渡された袋には金貨50枚と白金貨1枚が入っていた。


「こんなにもいいのか?」


相場よりも高い報酬を貰ったカズヤはフィリスに聞き返した。


「あぁ、構わない。それだけの価値がある働きをしてもらったんだ。当然の報酬だ」


「そうか、じゃあありがたく貰っておくよ」


金貨の入った袋を千歳に渡し、礼を言ってカズヤが立ち去ろうとするとイザベラ女王がカズヤを呼び止めた。


「少しお待ちになって」


「陛下?」


「? なんでしょうか」


「実は、貴方達にお願いしたいことがあるのです」


「依頼……ということでしょうか」


「えぇ、そうです」


イザベラ女王の突然の依頼にカズヤはおろか、フィリスまでが戸惑っていた。


イザベラ女王の話を無視して帰る訳にもいかず、カズヤと千歳はまたソファーに腰を降ろした。


「依頼というのは他でもありません。イリスの遊び相手になってやって欲しいのです」


「陛下!?それは……」


「……」


「受けて頂けないでしょうか。報酬は言い値で構いませんので」


うーん、どうしようか別に金には困っていないが今のうちに稼いでおいたほうがいいか?


突然のイザベラ女王の依頼をどうするかカズヤが黙り込んで考えていた時だった。


――バタン!!


突然、部屋の扉を突き破る勢いで砂まみれの兵士が部屋の中に飛び込んで来た。


直後、その兵士を睨み付けながら腰の剣に手を掛けたフィリスが兵士に向けて叫ぶ。


「何事だ!!今はイザベラ女王陛下と客人が喋っておられるのだぞ!!」


「ハァハァ……。ご、ご無礼をお許し下さい!!緊急の報告があります!!」


そう言いつつ部屋に駆け込んで来た兵士はチラリとカズヤと千歳を見た。


「構いません。報告なさい」


カズヤと千歳のいる前で緊急の報告をしてもいいのかと悩む兵士にイザベラ女王が許可を出した途端、兵士は膝をつき姿勢を正し喋り出す。


「ハッ、報告します!!魔物の異常繁殖が発生していた2ヶ所にて魔物の大量の死骸を冒険者が見つけました!!現在も詳細を確認中ですが、2ヶ所とも焼け野原の状態でほぼ全ての魔物が死滅しています!!」


「っ!?そ、それは本当の事なのですか!?」


イザベラ女王が信じられないとばかりに声をあげ兵士を問い質す。


「ハッ、本当のことであります!!」


兵士がイザベラ女王の問い掛けにしっかりと頷くとイザベラ女王はポロポロと涙を流し始めた。


「よかった……。本当によかった!!これであの子を生け贄にせずに済みます」


心底よかったという風にイザベラ女王は顔を手で覆い大量の涙を流していた。


「ッ、グスッ、ごめんなさい。取り乱してしまって」


兵士が部屋から出ていき泣き止んだイザベラ女王が落ち着くと話が再開される。


「いえ、構いません」


「それで、先程の話なのですが――」


――バタン!!


「大変です!!」


イザベラ女王が話を戻そうとするとまた部屋の扉が乱暴に開かれ兵士が飛び込んで来た。


「またか!!魔物の異常繁殖地の報告なら先程聞いたぞ!!」


連絡の行き違いでまた同じ報告が来たと思ったフィリスが兵士を怒鳴ったが兵士は首を振ってそれを否定する。


「違います!!それとは別件の緊急報告です!!」


そう言ってこの兵士も先程の兵士と同じようにカズヤと千歳の前で報告してもいいものか考える素振りを見せたのでイザベラ女王が先程と同じように許可を出した。


「構いませんから報告なさい」


「ハッ、報告します。城塞都市ナシストにエルザス魔法帝国軍が襲来!!襲来した敵軍の規模は10万ですが更に後方に50万の軍勢を確認!!現在、領主のカレン・ロートレック公爵様が籠城戦を行っていますが至急増援を求むと!!また未確認ですが敵軍に渡り人がいるという情報があります!!」


ん?城塞都市ナシスト……?確か……。


「まさか!?……それは本当なのか!?」


「ハッ、神に誓って真実であります!!何とぞお早く増援を」


突然の凶報にフィリスとイザベラ女王は言葉を失っていた。


「わ……かりました。お下がりなさい」


「ハッ」


ショックを受け呆然としているイザベラ女王に下がるように言われた兵士が部屋を出ていくと部屋の中は静まり返った。


「陛下……どういたしますか」


沈黙を最初に破ったのはフィリスだった。


「……今から軍を召集して出撃するのに何日かかりますか?」


「全軍を集めるのであれば国境に居る者達も呼び戻さねばなりませんから1〜2週間。近隣の兵士をかき集められるだけ集めて出撃するのであれば3日で2〜3万の軍勢を編成出来るかと。しかし移動時間などを考慮しますと3日以上軍の編成に時間をかけて援軍を送るのが遅れれば城塞都市は既に陥落していると思われます。しかしたった3万程度の増援では城塞都市の守備兵力の約2万と足しても焼け石に水です」


「そう……ですか」


部屋の中はまた重苦しい沈黙に包まれた。


そんな中カズヤと千歳は2人の会話に加わることが出来ずどうしようか悩んでいた。


「あの〜」


「あぁ、ごめんなさいつい……」


カズヤが恐る恐る機を見て2人に声を掛けると2人はカズヤ達がいることをようやく思い出した。


「すまない。カズヤ聞いていた通りだ。問題が発生した。陛下と私は早急に動かねばならん。失礼するぞ」


「あぁ、俺もちょうど用事ができた所だ」


「? そうか……。では失礼する。……元気でな。さ、陛下」


「えぇ、……ごめんなさいね、カズヤ殿。慌ただしくてまた……機会があれば……先程のお話のこと……。いえ、何でもありません。失礼します。お元気で」


2人は今後カナリア王国がどうなるか予想がついているのだろう。


悲壮な顔で部屋から出ていった。


残されたカズヤと千歳が2人の後に部屋を出ると城の中は大騒ぎになっていて多くの人が廊下を走っていた。


そんな時、見知った顔がカズヤの元に駆け寄って来る。


「はぁ……はぁ……見つ……けた!!」


「……ベレッタ?」


カズヤに駆け寄って来たのは第二近衛騎士団の副長のベレッタ・ザラであった。


「どうしたんだ?」


「っ……あの、あのっ!!帝国軍が攻めて来た話は聞いていますか?」


「あぁ、聞いた。大変なことになったな」


カズヤがベレッタの問い掛けに答えるとベレッタは瞳に涙を浮かべカズヤに掴み掛かる。


しかし、千歳がカズヤの前に出てそれを防ぐ。


「ご主人様に何のようだ」


「退いてください、貴女には用はない!!」


千歳と揉み合いになりながらもベレッタは泣きながらカズヤに懇願するように言う。


「お願いです!!妹を助けて!!」


ベレッタの悲痛な声が城の中に響き渡った。



 

 

 







 

 

 




――――――――――――




ベレッタの話を聞くためカズヤは先程の廊下から通行の邪魔にならない場所に移動し話を聞いていた。


「――という訳です」


「……つまり、帝国軍が攻め落とそうとしている城塞都市にはベレッタの妹がいて、ベレッタ自身は近衛騎士団の所属で動けないから代わりに妹を助けてきて欲しいんだな」


「そうです!!帝国は妖魔族や私達のような獣人族は生かしておきません。……陵辱した後に殺します。だから!!お願いします!!妹を助けて下さい!!」


ベレッタは膝をつき頭を地面に擦り付けるようにしてカズヤに懇願する。


そんなベレッタを冷たい目で見下ろしながら千歳が口を開く。


「さっきから貴女の話を聞いていれば、自分が動けないからご主人様に死地に赴けと?」


「私が動けるなら動いています!!けど……第二近衛騎士団はイリス姫殿下の護衛があるし……私1人が城塞都市に行っても何も変わらない……!!でもカズヤのパラベラムなら……!!」


「話になりません。行きましょうご主人様」


千歳がカズヤを促しベレッタの元から立ち去ろうとする。


「そんな……!!待って!!お願い!!」


「……千歳」


「はい」


「ベレッタをそんなに苛めてやるな」


「しかし……これぐらいはしておかないと」


「えっ?」


カズヤと千歳の会話を聞いてベレッタはどういうことなのかと2人の顔を交互に見ていた。


「実はな、ベレッタに頼まれる前にもう俺達は城塞都市に行くことにしていたんだ」


……個人的な借りも返さないといけないし。


「えっ、じゃあ……」


「あぁ、確約は出来ないがベレッタの妹も助ける」


「……本当に?」


「あぁ、本当だ」


「……う、うわあぁぁぁんーーー!!」


カズヤの言葉を聞いて安心したのかベレッタはカズヤの胸に飛び付き泣きじゃくっていた。



「……では妹をよろしくお願いします。妹の名前はコルト・ザラです」


そう言って妹のことをカズヤに託し立ち去って行ったベレッタを見送り依頼を受けたカズヤは屋敷に戻ると部下を全員集めた。


「全員よく聞け、今から我々は城塞都市ナシストに向かう。かの城塞都市は今、エルザス魔法帝国の攻撃を受け窮地に陥っている。我々の目標は帝国軍を撃退もしくは殲滅することだ。小隊のうち10人は屋敷に残す、残りは完全装備にて車両部隊と合流、出撃する!!」


「「「「了解!!」」」」


カズヤの命令を聞いた兵士達は気合いのこもった返事をすると準備のために散っていった。


「ご主人様。本当にご主人様、自ら城塞都市に向かわれるのですか?」


「あぁ、そうだが?」



「……分かりました。他の部隊はどう致しますか」


「まだ他のトリッパーに俺の能力――戦力を悟られたくない。だが戦況が悪いようであれば機を見て投入する。いつでも動けるよう前哨基地に待機させておけ。それと車両部隊のサイドカー付きのバイクを斥候として放て」


「了解です」


カズヤの強い意思の宿った目を見て千歳はカズヤにここに残って欲しいとは言わず、カズヤの補佐に徹していた。


そうして出撃準備が整ったカズヤ達は車両部隊と合流し、車両を近代的な物に召喚しなおすと一路城塞都市ナシストに向け出発した。


またこれからも時々改稿があるかも知れませんが、ご了承のほどをよろしくお願いいたします。






それとこの場にて今まで感想を送って頂いた方々にお礼申し上げます。



返信はあまり出来ていませんが、感想はすべて一喜一憂しながら読んで頂かせております。




感想は作者の糧となっておりますので、今後ともよろしくお願いいたします。

m(__)m


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