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25

遅ればせながら、明けましておめでとうございます。


本年も宜しくお願い致します。

m(__)m


ちなみに諸事情で丸々一話分をボツにしたため、更新が遅れました

(;´д`)


厳重な警備態勢の下、軍事国家パラベラムの中でも特に権力を持つ将官や文官が一堂に会した会議室。


そこで開かれているのは名目上ただの定例会議であったが、実際の会議内容は国会や議会で行うような国の行く末を左右しかねない重要なものであったため、室内では様々な議題に対して侃々諤々の激しい議論が行われていた。


「――ふぅ……じゃあ、来年度の軍事予算案の基本予算は120兆円で決定。臨時予算案については80兆円規模。帝国との戦争における戦費は150〜200兆円程度で調整するものとする。……さて、この件についてはこれでオッケーだな。千代田、次を頼む」


やはりというか、軍隊……もとい戦争は金食い虫だな。


俺の召喚能力を使えばいくらでもコストダウンが出来るとはいえ、能力を使わないとこんなに金が掛かる。


普通の国家ならとっくに破産してるぞ。


パラベラムの建国者にして総統という国家元首の立場にあるカズヤは、アメリカ合衆国の軍事予算案の約2倍というべらぼうに高い軍事予算案を決定し異議が出ない事を確認すると、際限なく膨れ上がる軍事費に戦々恐々としつつ背後に控える千代田に声を掛けた。


「ハッ、それでは次の議題に移らさせて頂きます」


先を促すカズヤの呼び掛けに応じ、会議の進行役を務める総統補佐官の千代田が新たな議題を提示する。


「次の議題は国民の不満度についてです。こちらの調査データをご覧下さい」


パラベラムが構築・運営・管理するネットワークシステムを全て掌握している電子の姫――千代田は大型の液晶ディスプレイを一瞥する事もなく遠隔操作し目的のデータや情報を表示すると会議室に詰める要人達の視線を誘導する。


「まず始めに我が国における国民とは大別して3種のカテゴリーで区別されています。マスターによって召喚された者達が1等国民。次に友好的な存在であり、我が国に併合されたカナリア王国及び妖魔連合国の者達が2等国民。そして非友好的な存在であり今現在、我が国がエルザス魔法帝国から切り取った領土に住まう者達が3等国民。なお、この区別はあくまでも区別を簡単にするためのものであり、実際の等級間に身分差は存在していません」


議題の審議に入る前に事前説明を行い1度言葉を区切る千代田。


しかしながら千代田が口にした事前説明には表向きの方便が多用に含まれていた。


実際には区別によって生じた目に見えぬ身分差が存在し、貴族・平民・奴隷というような格差社会の風潮を生んでいたからだ。


また、その目に見えぬ身分差を意図的に押し広げて利用することで統治体制の簡略化を目論む千歳やカズヤの神格化を目論むセリシアの存在が見え隠れするのは余談である。


「以上の事を踏まえた上で本題に入らさせて頂きます。1等国民の不満度が2パーセント。2等国民の不満度が9パーセント。3等国民の不満度が31パーセント。……やはりと言いましょうか、3等国民の不満度が飛び抜けて高いのが現実です。そのため今回は主に3等国民の不満度を引き下げるための議論を行って頂きます」


議題の審議開始を告げると千代田は定位置であるカズヤの背後に戻った。


さて……3等国民がいる占領地に対しては既に親和政策や宣撫工作(友好的な手段を用いて人心を安定させる工作)を行っているから、これ以上の改善となると正直厳しいんだがな。


皆の考えはどうだろうか?


上手い具合に改善策が出ればいいんだが。


治安維持に加えてゲリラやテロリストの発生を未然に防ぐためにも不満度を低く抑えておきたいカズヤは、この会議で改善策が出ることを期待していた。


だが、そんなカズヤの期待は端から崩れ去る事になる。


「占領地域の人口が凡そ8000万人で31パーセントの割合が不満を抱いているとなると……対象になるのは大体2500万人前後か。予想はしていたが、やはり大変な作業になるな」


カズヤの右隣に陣取り俗に言うゲンドウスタイルで瞑目していた副総統の千歳は残された左目をゆっくりと開き、何気ない口調でそう呟く。


そして、ため息を吐き憮然とした表情を浮かべるとマリー・メイデンとの戦いのせいでセミロングになってしまった自身の黒髪を苛立たし気に掻き上げた。


「副総統閣下。処理施設の建設予定地は既にピックアップ済みですのでご安心を。各方面への根回しも万全です」


参謀総長を初めとした様々な肩書きを兼任しパラベラムを支える屋台骨でもある女傑――カズヤの左隣に陣取る伊吹が千歳の呟きに応えた。


「それは助かる」


「……?」


2人は一体何の話をしているんだ?


フフフッと険のある恐ろしげな笑いを漏らしショートヘアーに整えられた茶色掛かった黒髪を揺らす伊吹や獲物を前にした肉食獣のような笑みを溢す千歳の姿にカズヤは疑問を抱く。


「千歳、伊吹?処理施設やら2500万人やら2人は何の話をしているんだ?」


抱いた疑問を解決するべくカズヤは両隣の2人に声を掛けた。


「何の話と言われましても……」


「3等国民の不満度を効率的かつ手っ取り早く0にする算段の話ですが?」


問い掛けられ、きょとんとした2人の顔にカズヤはますます疑問を深めながらも、2人の返答から解答を導き出すべく脳裏で彼女達の言葉をじっくりと咀嚼し思考を巡らせた。


不満度を0にする?


効率的かつ手っ取り早く?


そんな魔法みたいな方法が本当に存在する……――っ!?


数少ない手持ちの情報を繋ぎ合わせて千歳や伊吹が抱く過激な意図を見抜いたカズヤは、その瞬間自分の思い違いを思い知る事になった。


「まさか、俺達の統治体制に不満がある者達を1人残らず全員殺すつもりか!?」


「はい、そうです」


「閣下の仰る通りですが」


何か問題でもありますか?と言わんばかりの表情で頷き、一民族を滅ぼそうとしたヒトラーや自らの復権のため大量の殺戮を黙認した毛沢東ばりの大虐殺を実行しようとしている2人にカズヤは絶句した。


「そ、そんな事を――」


「ご主人様。先に申し上げておきますと、この件につきましてはこの場にいる全員の賛同を得ております」


「なん……だと?」


絶句から立ち直り、感情の赴くまま言葉を発しようとしていたカズヤは千歳の言葉に再び面を食らわされる事になった。


「ご主人様のご命令通りに親和政策や宣撫工作を行い命の保証に加えて衣食住の保証、宗教の自由と史実に照らし合わせてもこれ以上ない厚遇を受けている現状にも関わらず3等国民の31パーセントが不満を抱いているのです。そんな恩知らず共を……ご主人様を傷付けた敵国の国民を生かしておく必要性は微塵もありません!!」


怒りが込められた千歳の言葉にカズヤを除く全員が、瞳に怨嗟の炎を宿しながら頷いた。


「……」


会議室に渦巻く怒りや怨みといった負の感情を感じ取ったカズヤは、自身が掲げたちっぽけな目標――戦争における民間人被害者数の軽減を遵守するために千歳達が今まで敵への憎悪を必死に押し殺していた事に気が付いた。


それと同時に与えられる厚遇の意味を理解せず増長する3等国民への怒りが、千歳達の我慢の限界に来ている事も理解した。


「どうか、ご理解下さい。今の内に厄介な芽は摘み取っておかねばならないのです」


「……」


「それに手当たり次第の無差別な虐殺を行う訳ではありません。徹底的な調査を行った上で不満分子を見つけ、人道的な手法で処分致します」


「……駄目だ」


「ご主人様!!」


目を伏せ首を横に振ったカズヤに千歳が詰め寄った。


「そんな手段を取れば憎しみの連鎖を生むだけだ」


「憎しみの元凶を生んだのは奴等です!!奴等にはまず犯した罪の重大さが分かるように恐怖を叩き込んでやらねば!!」


「だからと言って一般市民を虐殺してどうなる!!」


人道的観点を無視すれば理論的な面もあるが感情論を重視して虐殺を行おうとする千歳にカズヤは立ち上がって異議を唱える。


「見せしめは必要なのです!!何故ご理解下さらないのですか!!」


「虐殺を行って民衆を恐怖で縛り上げれば、それこそテロリストやゲリラじゃなくレジスタンスが生まれて来るぞ!!」


「レジスタンス等、ドーラの榴弾で都市区画ごと木っ端微塵に爆砕してしまえばよいのです!!」


「非人道的な手段を取れば敵も手段を選ばなくなる!!」


「既に敵は手段を選んでいません!!それに我々が虐殺を行おうと、それを咎める国際法はありません!!ましてや人権や人道的等という観点はこの世界に存在していません!!力こそ正義!!力なき正義は悪なのです!!」


「この世界に人権や人道というモノが無くとも俺達にはあるだろう!!」


「――そこまでです。マスター、姉様」


これ以上は話が拗れるだけで駄目だと判断した千代田が意見をぶつけ合う2人の間に割って入った。


「……」


「……」


千代田が制止に入った事で冷静さを僅かながらに取り戻した2人は無言のまま席に腰を下ろす。


「……千歳」


「ハッ」


「総統として命じる、虐殺は許可しない。別の方法を模索して3等国民への対処を行え」


「……ご主人様のご命令のままに」


毅然とした態度で命令を下したカズヤに対して千歳は僅かな間を挟んでから命令を受け入れ頷いた。


その際、間近にいた千代田だけは千歳が一瞬嬉しそうな笑みを溢していた事を見逃さなかった。


……マスターが自分の意思を曲げずに貫いた事が余程嬉しかったんですね。


全ての行動原理がカズヤに左右される千歳の心を完璧に読んだ千代田は、千歳の複雑な心情に同意の意思を示し、自らもこっそり微笑むのだった。




一悶着あった会議が終わり、私邸へと帰宅したカズヤは自室で千代田の手を借りながら会議で決定した事項の正式な命令書の作成や翌日に控えた大事な約束を実現させるための根回しに奔走していた。


「これで終了っと」


「……ZZZ」


「あらら……妙にクレイスが静かだと思ったら寝てるのか」


一通りの仕事が終わり、背伸びをして肩や腰の凝り固まった筋肉をほぐしたカズヤは、ふと横を見て苦笑した。


そこには育ち盛りのせいか最近の成長著しく、生来の美貌に磨きを掛けながら大人びていくクレイスが待ちくたびれて眠っていた。


「さて、それではマスター。私はこれで失礼させて頂きます」


「あぁ、遅くまで手伝わせてしまってすまなかったな」


「いえ、マスターのお役に立つのが私の悦びですから。お気になさらず。では、お休みなさいませ」


カズヤの仕事が終わるのを待ちきれず眠ってしまったクレイスを軽々と抱え上げた千代田は別れを告げるとカズヤの部屋から出ていった。


「……俺も寝るか」


1人きりになった途端、猛烈に襲い掛かってきた睡魔に急かされカズヤは寝室へと向かった。


「明日はカレンとの約束を果たさないといけないし……そうだ、時間を置けと医者に言われたがそろそろイリスのフォローもしないといけないな」


寝室で待機していたメイド衆の2人、本日の寝ずの番であるレイナとライナの姉妹に甲斐甲斐しく世話を焼かれながら堅苦しい軍服を脱いで寝巻へと着替えたカズヤは、やるべき事を呟きながらベッドへ滑り込んだ。


そして、睡魔との戦いに負けたカズヤがいざ眠ろうとした時だった。


タイミングを見計らったように来客を告げるノック音が小さく響いた。


「失礼します、ご主人様。申し訳ありませんが……また」


妹のライナがカズヤの側に控え万が一の事態に備える一方で姉のレイナが警戒しつつ寝室の扉を開けると、おぎゃああああ!!と耳をつんざくような赤子の泣き声と共に困り果てた顔の千歳がカズヤの寝室に入って来た。


「っと、明日香の夜泣きか……ほら」


「すみません、やはり私ではどうにも」


身寄りが無かったり捨てられたりしていた子供達を養子として迎え入れているカズヤ。


そんなカズヤの実子――千歳との間に生まれた愛娘である明日香が千歳の腕の中で泣きじゃくっているのを見たカズヤは眠気も忘れて飛び起き、千歳から明日香を受け取る。


「……やっぱりご主人様の腕の中だと泣き止みますね」


「だな。何でだろ?」


毎度の事ながらカズヤの手に渡った途端に泣き止み、スヤスヤと寝息をたて始めた明日香の寝顔に千歳がショックを受けていた。


「私の何が気に入らないのでしょうか?私は母親として不適任なのでしょうか?」


「そんな訳がないだろう。千歳は母親としてしっかりとやっているんだから。それにこうやって明日香が俺になつくのも今だけだよ。ある程度成長して年頃になったら親父の俺なんか口も聞いてもらえなくなるぞ」


我が子の冷たい態度に悲しみを隠しきれない千歳。


そんな千歳にカズヤは自虐混じりのフォローの言葉を掛け励まそうとしていた。


「――しかし、明日香も重くなったな」


「はい。何せもう1歳になりますから」


暗い話の流れを変えようと話題をすり替えたカズヤの言葉に千歳は相槌を打って微笑む。


「そうだな。……本当に、本当に重くなった」


「ッ!!」


腕の中で眠る我が子を慈しむカズヤの表情の中に、一瞬だけ儚げで今にも消えてしまいそうな弱々しい表情が浮かんだのを見逃さなかった千歳は、かつてマリー・メイデンに言われた言葉『カズヤは常日頃から、ふとした瞬間に望郷の念に駆られているのよ』が脳裏を駆け巡るのを感じていた。


「ご、ご主人様は!!元の世界に帰りたいと思っています……か?」


今問わねばカズヤが消えてしまうような堪えがたい焦燥感を抱いた千歳は自分でも驚く大声でカズヤに問い掛けていた。


「しぃー!!声がデカイぞ、千歳。明日香が起きてしまう」


「す、すみません……」


その結果、当然のように大声を咎められた千歳は縮こまりながらカズヤに謝ることになった。


「しかし……どうしたんだ、藪から棒に」


「大事な事なのです。お答え下さい」


「……」


鬼気迫る千歳の問いにカズヤは一瞬沈黙を挟んでから口を開いた。


「俺にはな……妹がいるんだ」


「……」


「自慢じゃないんだが、これがまた可愛くてな」


「……」


「俺が死んだ後、どうしているのか。元気にしているのかが無性に気になるんだ。それに明日香が生まれて俺が親になってからかな。何の親孝行もしないうちに死んでしまった事が両親に対して申し訳なくてな」


「それは……つまり……」


「あぁ、正直に白状すると帰りたいと思う時はある」


「……」


「だけど……おいおい、そんな顔をしないでくれ」


「私は泣いてなどいません!!」


泣いてるなんて言ってないんだが……自分から白状しちゃってるよ。


左手の生体義手で明日香を抱えつつ、捨てられた子犬のような表情で涙を流す千歳の頭を右手で撫でながら、カズヤは慌てて言葉を継ぎ足した。


「だけど、今もしも帰る手段を与えられたとしても俺は帰らないよ」


「グスッ。どうしてですか?」


「……改めて口に出して言うのが、とても恥ずかしいのですが?」


「グスッ、言葉は口に出さないと相手に伝わりません」


「……俺の家族が、千歳や明日香、皆がこっちにいるからです」


「ズズッ、そこは千歳がいるからと言って欲しかったのですが」


「勘弁してくれ……」


泣き顔ながらようやく笑みを溢した千歳にカズヤは白旗を上げ許しを乞うしか手段を持っていなかった。


「さて、そろそろ寝ようか。もちろん一緒にな」


「はい」


「――……空気を読みたい所なのですが、涼華の夜泣きも何とかして頂けないでしょうか、カズヤ様」


頃合いを見て千歳をベッドへと誘ったカズヤに対し、寝室の扉の影から顔を覗かせた伊吹が、明日香と同様に泣きじゃくる愛娘――涼華を差し出す。


「あぁ、もちろんだ。涼華も伊吹も一緒に寝よう」


千歳と顔を見合せ、同時に吹き出したカズヤは伊吹を寝室へ招き入れながら涼華を受け取り、明日香と同じ様に自分の腕に包まれた途端、眠りについた娘の姿に笑みを溢した。


そして、その後ベッドの上に川の字で横になった5人は家族仲良く夢の中へと旅立つのだった。

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