風がびゅうと吹き、オレはバタバタと音をたてて、なびいた。オレを着ている男は、顔をしかめながら、女のほうを向いた。
女が着ているエメラルドグリーンのニットは無地のYシャツであるオレをバカにした表情でちらりと見た。
オレは、これだからブランドものは……!と内心思ったが、口にはしなかった。オレを着ている男が言った。
「チーズごときで怒るなよ」
オレはこのチーズの件については、初耳だった。チーズの件の時は、きっと主人は他の奴を着ていたのだろう。
「嫌よ。あのチーズはなかなか手に入らないの! あなたの知らないような遠くの惑星から手に入れたものなの! もう手に入らないかもしれないのよ! 分かる?」
ニットの女は一気にまくし立てた。これは主人もまずいことをしたもんだと思った。
ニットがこちらのほうを向き、「アンタの主人はとんだ泥棒猫よねー。バッカじゃないの。中学からやり直したら?」と言った。
オレはカチンときて、何か言ってやろうかと思ったが、主人が女に向けて、喋りだしたので、黙っておいた。
「でも、食っちまったもんはしょうがないしなぁ。だいたい誰から、俺が食ったって聞いたんだよ?」
主人は何者かにチーズを食べたことを密告されたようだ。口の軽い奴もいるもんだと思ったが、それはそうとまずやることがあった。
ニットに向かって「お前の主人は老けて見えるな」と先程の分を言い返してやった。ニットは激昂したようだったが、女が喋りだしたので、黙っておくことにしたようだ。
しかし、オレのほうを睨みつけている。やれやれ。
「誰だって言いでしょ! だいたい、あんたは昔からそうよね! 何かって言うと―――――」
「おい」主人が口をはさんだ。
「何よ?」
主人は女の後方のほうを指差しながら、言った。どうでもいいが、ニットの睨みつける視線がうっとうしい。
「あっちのほうから」
女もそちらを見た。
なにやら、地球防衛軍の旗を掲げた浮遊車がやってきている。
「ケーサツが来てるぞ。おまえ、違法輸入したから、指名手配されてんだろ? ほら、俺食ったチーズ、あれ、違法に手に入れたんだろ?」
女の顔が青くなっている。
ニットも先程までオレを睨み続けていたのがウソのように慌てふためいている。
ニットは風に揺れながら「冗談やめてよ!ウッソ!違法だったの!?」と叫んでいる。いい気味だ。オレは思った。
女がキッと男のほうにつめより、
「ちょっと、あんただって食べたんだから同罪でしょ!?」と言ったが、主人はすぐに切り返した。
「食べる分には、違法ではないしなぁ」
女は主人にさらに何か言おうとしたが、地球防衛軍の浮遊車のほうを振り返り、そちらとは逆の方向へかけていった。
女が主人の横を通り過ぎるとき、ニットが「覚えてらっしゃいよ」と強気に言ったので、「量産品だからって、甘く見るなよ!」と言い返しておいた。
主人が走り去る女の背中に向いて、ひとこと、言った。
「あのチーズ、まずかったぞ」
痛快だった。
オレは吹きつける風になびきながら、おおいに笑った。 |