表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

アイオライト

作者: 藤原 祐一

 僕の家では人間を飼っている。家族や執事たちは僕に隠しているつもりらしいけれど、小さいころ偶然地下に迷い込んだときに発見した。それは悪いことなんだと思うよりも先に好奇心が働いてしまっていた。以来、外出するフリをしては地下に忍び込むようになった。


 ――お前の眼は綺麗だな。高く売れそうだ。

ある日、父親がアイにそう言っているのを聞いた。

 アイは地下に飼われている内の一人の女の子だった。名前は目が綺麗だったからと僕が勝手につけていた。当然僕以外は知らない。

 アイはとても素直で、従順な子だった。僕の言うことに必ず従うから、とある日に冗談で「僕の父が来たら逆立ちしてみせろ」と言ったら本当にやってのけたという経験がある。

 高く売れそうだ、という言葉に否応なく反応してしまった。僕は知っていたからだった。ここで飼われている人間は体の一部が売られていることを。地下にいた人間たちはみな、体のどこかしらが欠けていた。アイは未だ五体満足だった。しかしこれから眼を失ってしまう……。


 その日の夜、僕はアイの手を引いて逃げ出した。家の門をくぐり、道を走り、そこから普段入ったこともないような森へ飛び込み、抜けて。アイは言われるがまま手を引かれるがままついて来た。

 走りながら考えていた。なにも逃げ出すことはなかったのではないか? 父親を説得するだけでもよかったし、逃げるにしてもアイ一人だけを逃がせば良かったのではないだろうか……。

最終的には、僕は、人間を飼っているあの家と家族が怖くなって逃げ出したのだ、と結論付けた。


 逃げ出してから数日間、僕たちはうまく生活していた。日中は森や川で食べられそうなものを探し、夜は寄り添って眠る。余裕がある日は、家と反対方向により遠くへ。けれど、日が経つに連れてアイの調子が悪くなっていった。どうしてだろう? 同じことをして同じものを食べて同じように眠っているのに。


挿絵(By みてみん)


 「ライトさん」

 アイから初めて話しかけてきた。楽器のような、とても綺麗な声だった。

 「話さないといけないことがあります」

 「私はあなたと違って、人間ではありません」

 一瞬、言っている意味がわからなかった。

 「ライトさんの家族に何も言わないように言われていましたが、いまライトさんは勘違いなさっているようですので」

 アイは培養装置、プランターだった。人間の形をした機械だ。

プランターは人間の形をしているが、中身は全く違う。骨は鉄、内臓は石油、脳はICチップ、髪の毛は繊維、眼は宝石。人間の作り出したゴミを食べて体の中でそれを『成形』していく。そして十分に成形したらそれを物理的に『取り出す』。

 「だから私を守ろうとして逃げたのでしたら、それは勘違いですよ」

 「……そうだったんだ」

 確かに地下で見た、体の一部が欠けた人たちも逃げ出そうとしているところは見たことがないし、そもそも彼らは檻に入っていたわけでもなかった。ただ、その容姿が怖くて一度も話しかけたことがなかっただけ。ただ、知らなかったのだ。

 「でも僕はもうあの家には戻りたくはない」

 「そうもいかないのです」

 「どうして」

 「私たちは高価なのです。きっと追われていますよ」

 「逃げよう」

 「いいえ、無理でしょう」

 いつも大人しく僕の言うことを聞いていたアイがいつになく饒舌だった。

 「どうすればいいの」

 「私を売ってください。そのまま売ると私だと知られてしまうので、ばらして、少しずつ」


 しばらくして、僕は家に戻った。

 僕はアイに誘拐され、しかし逃げ延びたという嘘をついた。ひどく心配されたが、詳しくきかれることはなく、僕も詳しく言うことはなかった。

 アイは、彼女の言った通り少しずつ体の一部を売られ、いなくなった。彼女がいなくなることが僕が安全に戻ることのできる条件だったから。

 手元には最後まで売ることのできなかった、青い綺麗な宝石だけが残っている。


設定をストレートに文章にした作品を作ってみました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ