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12 神様のためのラベルでした

改訂版バージョン2です。

 レベルがあの錬成魔法のせいだというのは理解した。

 納得はしたくないけどね。


「称号も凄いことになっている気がするんですが……」


 できれば、普通にあることだから気にしなくていいという返事が欲しい。

 ほぼ無理だという思いがあるが故に俺の言葉も尻すぼみになっていく。


「ごめんなさいね」


 ベリル様が困ったような笑みを見せた。


「それもハルトくんが呪いにかけられていた件と関係しているの」


 想定外の話に俺、呆然。

 どうやら特殊事例のようだ。

 呪いを受けた人間がありふれているなら話は別だが。


「つまり、俺みたいに称号の多い人間って少ないんですね」


「ええ、その若さでは他の世界を見渡しても皆無じゃないかしら」


 予想通りの事実に俺、愕然。

 こうなりゃ意地でも隠蔽系のスキルを取るしかない。

 そうなると【諸法の理】で取得条件を調べる必要が出てくる訳で。


『後で、だな』


 今は原因を突き止めるべきだろう。

 上の空でベリル様と話をする訳にもいくまい。


「それって理由があってのことですよね」


「ええ、でなければこんな事態にはならなかったわ」


 ベリル様が溜め息をついた。

 そして小さく頷く。


「知りたいわよね」


「はい」


「すべては話せないわよ」


「分かりました。

 それで構いません」


 少し重くなった雰囲気に俺も神妙に頷く。


「ハルトくんが魔力を吸収されていた話をしたわよね」


「はい」


 呪われてなおかつ神様にさえバレないように偽装されていたという質の悪い話だった。


「あれはね、そのためにハルトくんの中にとある欠片が埋め込まれていたの」


「そう言われましても……」


 そんな自覚はない。


「欠片と言っても実体のあるものじゃないのよ。

 霊的な存在がハルトくんの魂に入り込んでいたと考えればいいわ」


「それは……」


 自覚がなくて当然かどうかも分からない。


「欠片はね、実際は暴走した神の残骸なの」


「っ!?」


 神様が暴走って無茶苦茶だ。


「その神はね、とても優秀だったの。

 私が管理している程度の世界なら幾つも同時に管理できたわ」


 何となく先が読めた。

 似たような事例を知っているからだ。


「その神様って、度を超した量の仕事を振られて自滅したんじゃないですか?」


 神経質で完璧主義なタイプが陥りやすいパターンだ。

 なまじ仕事ができるから手抜きや誰かに任せたりできないんだよな。


「あら、よく分かったわね」


 ベリル様が軽い驚きを見せた。


「似たようなタイプの人を知っているので」


 俺がそう言うと、苦笑しながらも頷かれた。


「許容しきれない仕事量を無理に回そうとしてミスを連発したの」


 ますます知っている奴に似ている。

 そいつは頭が良すぎたせいか精神の均衡を保てなくなったんだけど。


「そんな自分を許せずに更にミスを重ねて最終的には発狂したわ」


 完璧主義で自信があるからこそ、そういう結論になってしまうのだろう。


『ガラスの天才だな』


 大学時代の奴とそっくりだ。

 そいつと面識はなかったが学内に知らない者はいないほどの有名人だった。

 主席の成績を収めながらも奇異な行動が多かったからだろう。

 奇行の巻き添えで被害を受ける人が少なくなかったしな。


 見た目は病的に痩せていて青白い肌をした陰気で余裕が感じられない男だった。

 精神的に病んでいたようで奇声を発するくらいは日常茶飯事。

 病院通いもしていたとは聞いたが、最終的には大学を辞めて引きこもってしまった。


「最後に魔力を暴走させて管轄下とその近隣の世界のいくつかを巻き込んで自爆したわ」


「うわぁ……」


 奴の奇行を想起させてくれる末路だ。

 引きこもり後の奴のことは知らないので末路が一致するかは不明だが。


 明確に違うのは被害規模だ。

 個人的には自爆した神そのものの方が迷惑だけどな。


「自爆した残骸が欠片ということですか」


「ええ、そうなるわね」


「欠片といえど元は神様の一部だったんですよね。

 人間が受け止めて平気でいられるもんなんですか」


「影響がないように呪いと同時に保護の魔法もかけられていたのよ」


「なるほど」


 俺から魔力を吸い上げるのが目的だったみたいだし頷ける話だ。

 あとはそこから称号とどう繋がるか。


「この欠片がハルトくんに称号がつきやすくなった原因なの」


 いよいよ待ち望んだ答えらしい。


「称号はね、私たちにとってラベルのようなものなの」


「ラベルですか」


「ええ、他の世界の神が眷属候補を手早く検索するためのものよ」


 なんとなくメモ書きした付箋を貼り付けるところを想像していた。


「他の神様にスカウトされることもあるということですか」


「ええ、そうよ。

 称号やそこに込められた情報で求めている人材を探すの」


「つまり俺はいろんな神様に着目されていると?」


 付箋だらけで目立つもんな。


「だと思うわ。

 でも私の息子だからスカウトはされないわよ」


 とはいえ安心はできない。

 見られる機会が多いことに代わりはないのだ。

 場合によってはベリル様に恥をかかせてしまう。


「ハルトくんにはずっと欠片が付いた状態だったでしょ。

 あれって神様が付きっ切りで側にいるのに等しいのよね。

 そうなると事あるごとに称号がついてしまうようになるの」


『欠片は、まるで家庭教師だな』


 マンツーマンだから生徒の細かなことまで分かるようになる。


 それに対して管理神は塾の講師か。

 目立つ生徒は注目して他の講師と情報を共有するみたいな。

 まあ、あくまで俺のイメージだ。


「神様が側にいると称号がつきやすくなるということですか」


「そう、私達が称号をつけるんじゃなくて管理システムの自動制御なんだけどね」


「そのせいで欠片が神様と同一であると誤って判定されてしまった訳ですか」


「鋭いわね。

 ええ、そうよ」


 疑問はまだある。


「では欠片のせいで付いた称号で俺は注目されなかったのですか?」


 今ほど称号はなかったにしても違和感を抱く神様がいてもおかしくはなかったはず。


「そこが偽装されていたのよ。

 詳細は言えないのだけれど」


 セキュリティに関わる情報のようだ。


「では今後は簡単に称号がつくことはないと考えて良いのでしょうか」


「ごめんなさい。

 ハルトくんの場合はちょっと特殊なの」


 激しく嫌な予感がする。


「実は私が側にいる影響がないようにしてハルトくんの所に来たはずなのよ」


 それでも称号はついている。


「別の原因がある訳ですか」


「そうね、実はハルトくん自身に問題ができてしまったの」


 直後にピンときた。


「神様の息子だからですか」


「その通りよ。

 本当に申し訳ないんだけど」


 肯定されてガックリきた。


「浮かれて、そこを失念していたの」


 初めて子供ができたと喜ぶのは仕方ないとは思うけど。


「本当にごめんなさいねぇ」


「はあ……」


 思わず溜め息が漏れた。

 一生このままかと思うと憂鬱にもなる。


「あ、大丈夫よ。

 気づいてからは称号がつきにくくなるようにしておいたから」


 俺の脱力っぷりにベリル様は慌ててフォローしてきた。

 そういう情報は先に言ってほしい。


「助かります」


 つきにくく、という部分に一抹の不安を感じるけど。


「本当にごめんなさいね」


「いえ、俺の方こそグチグチと申し訳ありません」


「いいえ、私の後始末が不充分だったのだから責められて当然だわ」


 果たしてそうだろうか。

 心残りが無いとは言えない。

 再会の約束は守れなかった。


 けど、出会いがあれば別れもある。

 アイツらがいた、その事実が俺の中にあれば良いさ。


 そのことでベリル様を責めようとは思わない。


「ここまでにしておきましょう。

 俺としては自分の母親が謝り続けるなんて嫌ですから」


「え?」


 ベリル様が訳が分からないと言いたげな表情をした。


『癒やし系の美人さんがポカーンとしているのは絵になるなぁ』


 などと暖気なことを考えていたら……


「むぎゅぅー」


 俺の頭を抱えるように抱きつかれてしまった。


『えっ? ちょっ、なにっ!?』


 ちょっとしたパニック状態だった。

 いきなり抱きつかれた上に声を押し殺すようにして泣かれるんだもん。


『神様を泣かせるってどうなのよ!?』


 そもそもなんで抱きつかれるのかすら分からない。

 おまけに俺の顔面に押し付けられている個所が押し潰されて……


『柔らかー』


 ダメだ、混乱してる。

 誰か助けてー。


「ごめんね。

 ハルトくんに母親だなんて言われたら嬉しくて」


『それは良かった』


 ただ、泣かれた原因に納得がいったというだけの話である。

 シクシク泣きが止まった訳ではない。

 罪悪感が湧き上がってきて精神ゲージはガリガリ削られている真っ最中だ。


 おまけに柔らかい膨らみのせいで口が塞がって喋れない。

 逃れるためには体を揺するなりして動かないといけないのだが……


『動ける訳ないだろぉ─────っ!』


 色即是空空即是色の精神で呼吸と心拍を整えるのが精一杯だ。


「………………………………………」


 結局、ベリル様が泣き終わって離れるまで絶え続けて待たなければならなかった。


「ハルトくんは今後、私のことをママと呼ぶように」


 泣き止んだら泣き止んだで無茶振りしてくるし。


「義務ですかっ?」


「ダメなの?」


 そんなこと言いながら瞳をウルウルさせてくる。

 破壊力は抜群だ。


「もちろん呼ばせていただきますっ」


 泣かれちゃ敵わないからな。


「じゃあ、呼んでみて」


 早速の催促とは反則じゃなかろうか。

 が、抗えるはずもない。


「……ベリル、ママ」


「もう一度」


 言い淀んだ感じになったのがお気に召さないらしい。


「ベリルママ」


「よろしい」


 満面の笑顔で頷かれた。

 俺も合わせて笑みを浮かべるが、頬が引きつっている。

 だってマザコンみたいじゃないか。


『なんだかなー……』


 後で確認したら[女神を泣かせた男]の称号が増えていた。

 それは無理からぬところだと思う。

 けど、声を大にして言いたいことがあるのだよ。


「俺はマザコンじゃない!」


読んでくれてありがとう。


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