涼しく吹く春風、受けると頗るいい気分だ。
風にたんぽぽがそそられて揺れる姿を見ていると心が和む。
そして、ポカポカと暖かい日差しは世界を照らす。
そう、今は春だ。
もうそろそろ四月に入ろうとしていた二十五日目の今日。オイラは公園を散歩していた。
オイラの名前は玉藻 烈狐丸。妖怪妖狐で、その中でも上級クラスの“天狐”と呼ばれる妖狐である。
オイラはこの日、いつものようにある人を捜し廻っていた。そのある人は、遠い昔オイラがまだ“野狐”と呼ばれる若い妖狐だった頃、オイラを助けて命を落とした×××と言う名の友達だ。オイラは友達である彼の生まれ変わりに会う為、彼を捜している。
そのためオイラは自分と同じ妖怪や、特殊な力を持った霊能力者など、いろいろな人達に協力を頼みながら今日も捜していた。
「ふ〜。今日も収穫はゼロっすね〜」
生まれ変わりの捜す宛はあっても、捜し出すのは難しい。何せ、生まれ変わりだから姿や名前は全く違うのだ。しかし数百年も諦めずオイラが捜すのは、必ず会えると信じてるからだ。
どれだけ形が変わろうと、魂の放つ波動と性質は変わらない。強力な力を持つ妖怪や霊能力者の中にはそれを見極める者もいる。オイラが教えた魂の波動と性質をもとに一緒に捜してくれている。
しかし、今日まで全く彼の生まれ変わりの情報は無い。それでオイラはこうしていつも寝所としてる公園に戻ってきたのだった。
「はてさて、今日はどうしようっすかねぇ」
公園のベンチに腰を降ろし、オイラは空を眺めながら呟いた。知り合いを訪ねたり捜し回ったりし終えたオイラは、実のところかなり暇だった。
こんな時はいつもは暇潰しに妖狐の彩をからかいに行くのだが、彩は用事で妖狐の里に帰ってしまった。
蜘蛛の妖怪、女朗蜘蛛の美冬さんも最近は仕事が忙しそうなので、邪魔しちゃ悪いので遊びに行く気にはなれない。
「…暇っすねぇ」
流れる雲を眺めながら、オイラは溜息交じりにまた呟いた。
「……ここにいても仕方ないっすね。せっかく今日は天気も良いんすから街を散歩するっすか」
そしてオイラは公園を後にした。
とりあえず街中を散歩しているオイラだが、やはりこれと言って何にもすることは無い。
「あ〜暇っす〜」
また暇って言ってしまった。今日で何度目になるだろうか。そう思いながら歩道を歩いていると、左側の車線から車のクラクションが鳴り響き、
「烈狐丸!」
オイラを呼ぶ男の声が聞こえた。
声が聞こえた方を振り向くと、道路沿いに黄緑色のキャデラックが停車していて、窓から茶髪の顔立ちの整った青年が、顔を覗かせていた。
「ん? もしかして、御谷さん…。御谷さんっすか!」
「おう、久しぶりだ烈狐!」
「おお〜! 久しぶりっすよ御谷さん!」
青年の名前は御谷 朋。彼はオイラの知り合いで強力な力を持った霊能力者である。
「一年ぶりっすね!」
「一年ぶりだなぁ」
御谷さんは霊能力者としての力で、悪さをする妖怪や悪霊を退治する仕事をしている。オイラと御谷さんはある妖怪事件で知り合ったのだが、その事件後から一年間全く会わなくなっていた。
「しかし、お前全く姿変わらないなぁ」
「そういう御谷さんは前より大人っぽくなったっすね」
そう、久しぶりに見た御谷さんは一年前と違い本当に大人っぽくなっていた。一年前はまだ高校生だった、服装はいつも制服で霊能力探偵と名乗っていてどこか子供な雰囲気があった。しかし、今の御谷さんは黒いスーツを着こなし、雰囲気も大人な感じがする。そう思う中、後部座席の窓が降りて、
「モィィ!」
金髪で碧い瞳の人形の様な顔立ちの、十四歳くらいの美少女が顔を出してオイラに手を振ってきた。
しかし、なんだろう“モィィ”って。
「も…モィィっす」
手を振ってきたことから、挨拶なのだろうと判断したオイラは手を振って少女と同じ返事を返した。すると少女は可愛いげな笑顔を見せた。う〜ん、見る限り日本人じゃないから、“モィィ”とは少女の国の挨拶なのかな?
なんてオイラが思ったりしてると、
「こんにちは、メイコ・モィと言いますモィ」
少女は自己紹介してきた。って、普通に日本語で話せるのか。でも語尾の“モィ”ってなんだ?
「えと、玉藻 烈狐丸と言いますっす。よろしく」
オイラはメイコさんと握手を交わしながら、
「あの、メイコさんは御谷さんの友達か何かっすか?」
そう尋ねると御谷さんが、
「何を言う。俺とめぇちゃんの関係は友達以上だぜ烈狐!」
気取った感じでそう言うのだが、
「友達ですモィ」
「ぐはっ!」
さらりとメイコさんは御谷さんは友達と位置付けし、発言と同時に御谷さんはハンドルにおでこをぶつけた。
「ふっ、ふふ……めぇちゃんは恥ずかしがり屋なのさ」
御谷さんはおでこに手を添えて呟く。
「御谷さん達はこれからどこかに行くんすか?」
「ん、ああ。ちょっとある場所までな」
話を聞くと、御谷さんは仕事でメイコさんの依頼を受けてるらしく、その依頼内用はメイコさんがある人に会う為に目的地まで連れて行ってほしいとのこと。
「烈狐丸、よかったらお前も一緒に来てくんね」
「えっ? でも、オイラが同行して大丈夫なんすか?」
「…本当は嫌なんだが」
ん、なんか御谷さん一瞬顔を歪めて呟いたような?
「どうしたんすか?」
「あ、いや、なんでもない。とりあえず大丈夫だから乗れ」
そう言われてオイラはメイコさんと同じ後部座席に乗る。
すると御谷さんはすぐにキャデラックを走らせた。
気のせいなのか御谷さんの表情は妙に険しいような。それに、車の速度も速い。そう思っていると車は高速道路に入っていた。
御谷さんはさっきからそわそわした様子でバックミラーに眼を何度もちらつかせている。
「御谷さん、一体どうしたんすか? さっきから後ろを気にしているみたいっすけど」
気になってオイラは聞いてみた。
すると、いきなり後ろから鋭い金属音が鳴り響く。
「な、なんすか!」
後ろを見ると、なんと高級車プレジデントが二台。そして助手席や後部座席の窓から黒スーツを着てサングラスを掛けた男が上半身を出してこちらに向けて構えてる黒い物はもしかして…、
「け、拳銃!」
オイラが驚いてそう口にしたら、彼らは撃ってきた。そして銃弾はトランクに被弾した。
「ちっ! もうきやがったのか!」
そう言うと御谷さんはハンドル大きく回した。車体が大きく揺れ、タイヤの擦れる音が煩く鳴り響く。
「なんすかこれは! 御谷さんあんた何やらかしたんすかぁ!」
「何もやらかしてねぇよ! それに慌てるな、あいつらはめぇちゃんが乗ってる以上。迂闊に座席の窓に弾丸は撃ち込めねえ」
え? メイコさんがいるから迂闊に手出ししない? オイラがそう思いながらメイコさんに振り向くと、
「モィィ…ごめんなさい。私が原因なんです」
そう言いメイコさんは申し訳なさそうな表情で俯いていた。
「あいつらはメイコさんとどういう関係なんすか?」
「実はめぇちゃんは超がつく程金持ちの家の娘でな、しかも昔から由緒あるヴァンパイア一族の娘なんだよ」
オイラがメイコさんに問い掛けると、代わりに御谷さんが答えてくれた。
ヴァンパイア。西洋妖怪で日本で俗に言えば吸血鬼。西洋の吸血鬼、ヴァンパイアは美形が多いと噂で聞いたが、成る程。美少女なのも服装も上品なフリルのドレスを着こなしてるのもこれなら納得だ。
「んで、追い掛けられてる理由はなんすか」
オイラは尋ねた。
「…あいつらはめぇちゃんの父親にめぇちゃんを連れ戻すように言われてんのさ」
そう言いながら凄い速度で僅かな隙間でも狂いなく正面の車を巧みにかわす御谷さん。凄いテクニックだ。後ろのプレジデントとの距離を広げていく。
「えっ? でも何でまた。大体メイコさんの依頼を受けてるんすよね。父親は知らないで、メイコさん誘拐したと勘違いしたんすか?」
「ちげぇよ。この依頼に納得してないだけだ。すんげぇ過保護らしんだよめぇちゃんの親父。だからこうして連れ戻しに来ているのさ。わざわざヨーロッパからご苦労様なこった」
御谷さんがそう言うと、メイコさんが訳を詳しく説明した。
「実は、私はヨーロッパであるインキュバスの男性と付き合っていたんですモィ。だけど、その彼氏はある日突然電話で別れを告げて日本に行ってしまわれたんです。父に日本へ行き、彼に会いたいと言ったら断固拒否されてしまったんです。それでも会いたくて、私は彼の居場所を情報屋から聞き出し日本に行きましたが、日本について何も解らない私一人ではどうする事も出来ず。その時、昔日本にいたとき知り合った御谷さんを思い出し訪ね協力を依頼して、今にいたる訳ですモィィ!」
成る程、にしてもかなり疲れる説明だった。てゆーか、メイコさんかなり早口で喋っているので覚えるのが大変だった。
しかも喋り終えたメイコさんの表情は何故真っ青なんだ?
語尾の“モィィ”だけ力強い口調なのは何故なんだろう?
無駄なところが気になるよ。
まあ、あえて聞かないでおこう。
「おい、高速抜けるぞ」
オイラがそう思っていると、ちょうど車は高速を抜けて通常の市街地の道路へと移る。
後ろを見てみると追っての車は見当たらない。
「どうやら、追っては振り切ったみたいっすね」
「まだ安心出来ないがな」
そう言いながら御谷さんは車を走らせるが、後部座席の写るバックミラーに眼を向けると、
「おい、めぇちゃんどうした!」
眉を顰てメイコさんに声を掛けた。
オイラも隣に座ってるメイコさん眼を向けると、なんとメイコさんは酷く真っ青な表情のまま口を押さえていた。
ってさっきも真っ青だったけどこれはもしや……。
「め、めぇちゃん?」
嫌な予感が、
「よ、酔ったモィィ……、気持ち悪い………吐きそ」
「――にゃあにぃぃぃー!」
やっぱりだ! そりゃ御谷さんあれだけ車を飛ばせば酔うのは当然だ。 成る程、追ってが来た時に落ち着いていたのは実はそうではなく、単に酔っていただけだったんだ。
「ぶぅぅ…」
あ、やばい…吐くぞこれ。
「め、めぇちゃん吐くな! 吐いちゃダメだ! 頼むからコンビニまで我慢してくれぇ! キャデラックのシートは今のところ代わりがないんだよ! ゲロ塗れにしないでくれ!」
御谷さん必死だ。ってオイラも無関係じゃないぞ!
メイコさんはオイラと同じ後部座席に座ってるんだよ!
もし吐いたらオイラにも被害が出る可能性が!
ま、まずい。阻止せねば!
「め、メイコさん! 窓! 外に吐くっす!」
「馬鹿烈狐! 公衆にめぇちゃんのゲロを晒させる気か!」
「背に腹はかえられないっすよぉ!」
などとオイラと御谷さんが言い争っている間に。
メイコさんは吐いちゃったのでしたぁ。
「モェェェ〜」
「ぎぃにゃああああ! キャデラックのシートォォ!」
うおえぇ! 貰いゲロしちゃいそう。てゆーか“モェェェ”って! 全く萌えないよぉ!
「ぐがあああ! シートがあああ! 一番金掛けたのにぃぃ」
ひざまずき号泣する御谷さん。実はこれは御谷さん自身が起こした悲劇だと言うことを、御谷さんは知らない。
オイラ達は今、ガソリンスタンドにいる。
御谷さんはキャデラックの清掃を頼んでいた。
依頼の目的地は徒歩でも辿り着ける場所らしいので、オイラ達は車を置いて徒歩で向かう事になった。
「ごめんなさい、御谷さん」
暗い表情で謝るメイコさんに対し御谷さんはと言うと、
「い、いいよう。きにしてないよう。おにゃのこだから許すよぅ」
そう言うが気にしているのが表に出てるよ御谷さん。声のトーンが低いし肩を落として、まるで全てに絶望をしましたって顔になってるよ。
「まあ、御谷さん。ドンマイっす」
そうオイラが御谷さんの肩に手を置いて励ます。
「ドンマイだよホントに…」
御谷さんは深く溜息をもらすと歩き出し、オイラとメイコさんも御谷さんの後を追う。
「――そういえば御谷さん。御谷さんは何故オイラを誘ったんすか?」
もうすぐ到着の目的地を目指しながら歩いてる中、オイラは御谷さんに尋ねてみた。ここまで来るともうほとんど解っていたが、確認したいので一応聞いてみた。
「聞かなくても解ってんじゃないのか。お前を誘ったのは――……こういう時の為の助っ人だよ」
御谷さんはそう言うと立ち止まり、目の前で立ち尽くしている白いスーツの青年を睨む。
見る限り白いスーツの青年はかなりの美形だ。ロングの金髪で、碧い瞳の優しそうな目をしているが、体中からは殺気が滲み出ていた。
――しかしそれ以前にこの感覚は、この人は人間じゃないな。
「成る程、こういうのが現れた時にオイラが役立つ訳っすか」
オイラと御谷さんが戦闘体勢に入ると、辺りは緊迫感溢れる雰囲気へと包まれた。そんな中、
「マックス…!」
白いスーツを着た男を見てメイコさんが驚きの様子を見せる。
「知ってる人っすかメイコさん」
オイラが尋ねると、メイコさんは頷き、
「いつも小さい頃から私の面倒を見てくれていた執事ですモィ」
そう説明するとメイコさんはマックスと言う男に、
「マックス。私は今から彼氏に会いに行きたいの、そこを通して!」
通してくれるよう頼むのだが、
「駄目です。今回の私の役目はお嬢様を無事家に連れ帰ることと、ご主人様から命を承けております。残念ながらお嬢様の頼みはお聞きできません」
マックスは優しげに、しかし重みの篭った感じの声で返事を返した。
「マックス! お願い、そこを通して! 私はあの人に会いたいの!」
メイコさんは強い口調で言い放つが、それでもマックスは退く様子は見せない。
「お嬢様、手荒な真似はしたくありませんが……仕方ありませんね。」
マックスはそう返すと、徐々に姿を変えて行く口から鋭い牙がはえ、背中からは蝙蝠のような翼が出てきた。
「こいつもヴァンパイアか!」
御谷さんはそう言い放つと懐から五寸釘を取り出した。
本来この五寸釘は呪いの藁人形等で使われる道具だが、御谷さんはこの五寸釘に練った霊気を宿し、直接敵に打ち込む武器などとして使っている。
「人間、貴様らには私は倒せない。戦闘用に訓練されたヴァンパイアと貴様らでは、力の差は歴然だ!」
マックスは響きのある声で話すと、獰猛な動きで御谷さんに襲い掛かる。
「うおっ! あぶねっ!」 マックスが勢いよく振り下ろした鋭い爪を、御谷さんは横に反転し紙一重で避けた。
――そう思いきや、
「逃がすか!」
マックスはすかさず反転中の御谷さんの片足首をわしづかみ吊り上げると、御谷さんを串刺しにしようと肘を曲げて貫く姿勢に入った刹那、オイラはすかさず炎弾を撃ち込んだ。
「何っ!」
炎弾は見事マックスの頭部に命中し、爆発を起こした。
怯んだマックスは御谷さん開放し、直撃したと思われるこめかみを押さえながら後ろに後ずさる。
御谷さんは、直ぐさまマックスと距離を取り、オイラの隣の位置に列ぶ。
「サンキュー烈狐! やっぱお前を誘ったのは正解だった」
親指を立てながらオイラにお礼を言うと、五寸釘を持ち直し悠然と構える。
「く…油断した。まさか、もう一人はセリアンスロゥプとはな」
「セリアンスロゥプ。獣人っすか。生憎、オイラは獣人じゃないっすよ」
「烈狐! 一気に片付けるぞ!」
そう言うと御谷さんは五寸釘の一本をマックスに目掛け投げた。しかし、マックスはあっさりとかわして御谷さんに突撃する。
「最初は貴様からだ人間!」
「させないっすよ!」
オイラは素早く二人の間に潜り込み、マックスを阻んだ。
「邪魔だセリアンスロゥプ!」
「む、甘いっすよ!」
振り下ろされたマックスの左腕をオイラは右手で受け流す、
「なにっ!」
そしてがら空きになった左脇腹に炎を纏った左手の掌打を当て、そして爪を食い込ませる。
「爆炎掌!」
オイラは言い放つと同時に炎を爆発させた。
「がはぁっ!」
吹き飛ばされたマックスはうめき声をあげながら転がると、素早く立ち上がり構えようとしたが、そんな余裕を作らせない為にオイラがすぐ目の前まで間合い詰め、蹴り上げようとした。
「だありゃっ!」
「くっ!」
マックスは跳躍してオイラの蹴りをかわすと、翼を大きく開いて空を飛び回る。
オイラは逃がすまいとマックス目掛けて炎弾を連射するが、マックスは弧を描くようにオイラの炎弾を回避する。
「ちと厄介っすね。空を飛ばれると」
オイラが舌打ちしながらマックスを見据えていると、
「烈狐!」
後ろから御谷さんが声を掛けてきた。
「俺の後ろまでさがれ!」
「御谷さんの後ろまで……。成る程!」
御谷さんの意図を理解したオイラは言う通り素早く後ろへ下がる。
すると御谷さんは、言魂を唱え始める。マックスはその様子をチャンスだと思ったのか、上空からオイラ達を目掛けて右腕を振り上げたまま襲い来る。
「死ね!」
マックスがそう急降下しながら言い放つと、
「掛かったな!」
御谷さんはニヤリと笑みを見せ、術を発動させた。
御谷さんが片手を天に翳すと、いつの間に刺したのかそれぞれ別の方向に刺された五つの釘が光り出し、星の形の紋章が浮かび上がり光りの柱が立ちのぼる。
「な、何! うぐあああ!」
紋章の光りの範囲に入っているマックスはまるで上から叩き落とされたかの様に地面に落ちた。
「――が……か、体が動かない」
まるで誰かに押さえ付けられているかの様に、マックスはもがき体を痙攣させる。
「勝負ありだぜマックスちゃん」
「お、おのれぇ…」
御谷さんは悔しそうにこちらを睨み据えるマックスに憎らしい笑顔を見せた。
「御谷さん、やったっすね」
勝利したオイラ達はメイコさんに歩み寄り、先を急ごうと御谷さんが言うが、
「モィィ、マックス……」
メイコさんはマックスを心配そうな目で見詰めていた。
「心配すんな、魔縛りの術だから死にはしない。時間が経てば効果が無くなるから、それまでに会いに行こう」
御谷さんがそう宥めすかすと、メイコさんは頷き、マックスに頭を下げた。
「マックスごめんね。終わったらちゃんと帰るから」
それから歩く事数三十分くらい。
オイラ達は目的地の××高校と言う所にたどり着いた。メイコさんの会いたい彼氏は、この学校の英語の先生をしているらしい。オイラ達は高校に入り職員に訪ねた。
「クラウス先生ですね。英語教室にいるはずですよ」
しかも今この時間はやる授業は無いらしい。好機とみたオイラ達は早速英語教室にへと向かった。
教室に入ると、教壇でプリントに何かを記入している金髪の碧い瞳の美男子が目に写った。
「見つけたモィ! クラウスゥ!」
メイコさんがそう叫んで駆け寄る。腰掛けていたクラウスは立ち上がり、メイコさんを驚いた様子で凝視していた。
「メイコ! 何故日本に!」
「クラウスに会いたくて来たの!」
メイコさんはそう言いながらクラウスに抱き着いた。クラウスはおどおどとした様子でメイコさんから少し距離を取った。
「クラウス。お願い、私とヨーロッパに帰ろうモィィ!」
必死な様子でメイコさんがそう言うとクラウスは悲しい表情で瞳を閉じて、首を横に振る。
「メイコ、無理だ。僕は君とはいられない」
悲しげな声でクラウスは断った。
「どうして! 私クラウスと一緒にいたい。クラウスが好きなのに」
メイコさんはうるうるとした大きな瞳でクラウスを見詰める。クラウスは困惑の表情で悩むそぶりを見せるが、やがて決心したかの様にきりっとした表情に変わり話し出す。
「メイコ。僕はメイコを、異性を好きになろうとしていた」
「えっ?」
あれ? クラウス、なんか言ってることが変だよ? 疑問を余所にクラウスは話しを続ける。
「だけどメイコ、僕は君を愛情と言える程に好きにはなれなかった」
「そ、そんな!」
ショックを受けるメイコさん。しかし、次の発言はよりとんでもないものだった。
「――隠していてゴメンよメイコ。実は僕は、男の子が好きなんだ!」
『えええぇぇぇ!』
オイラ達三人はそりゃもう驚いちゃいました。後で知ったのだが、メイコさんが好いていたクラウスは、実は超がつくほどのホモだった。
聞くとクラウスがメイコさんと付き合い始めた理由は、異性に興味を持てるよう、そして同性好きを捨て切るためらしいのだが、やはり同性に対する気持ちが強く捨て切れなかったらしい。
とどめとしては、知人から、“日本には可愛い子が沢山いたよ”の一言がクラウスの同性愛に火を付けたみたいだ。
そしてクラウスは日本の男の子をゲットするためメイコさんと別たのだと言う。それを本人から聞かされたメイコさんはショックで石になっていた。
「く、クラウスが……そんな……クラウスがあああ〜モィィ〜!」
メイコさんは泣き叫びながら教室から出ていってしまった。ああ、なんかメイコさん可哀相だ。
「メイコ、傷つけたくなかった」
クラウスも悲しそうに呟いた。
「……とりあえず、メイコさんを追い掛けるっすか御谷さん」
オイラの言葉に御谷さんも頷き同意して一緒に英語教室から出――
「そこの少年。ちょっと待って!」
ようとしたらクラウスに腕を掴まれて止められてしまった。
「何っすか?」
「君に話しがあるんだ」
クラウスはオイラだけに用があるみたいだったので、御谷さんには先にメイコさんを追い掛けるよう頼んだ。
「わかったぜ烈狐! ついでにドンマイ!」
ん? 何故御谷さんはニヤリと笑ったんだ? しかもドンマイって一体どういう意味なんだろ?
オイラの疑問を余所に御谷さんは教室を出て行った。
教室にはオイラとクラウスだけが取り残された。
「んで、オイラに話しがあるってなんすか?」
「あ、あの、その……君の名前は?」
「玉藻 烈狐丸っすけど、それが何か……?」
オイラが問い掛けるとクラウスは頬を赤く染めてもじもじとした様子で何か言うのを躊躇っている。
……何故か解らないが、彼にこれ以上の発言を許してはいけない気がする。
そしてその嫌な予感は的中する。
「一目惚れしました。僕と付き合って下さい!」
……しばし沈黙。
「ええぇぇぇ〜!」
何だってえぇ! はっ、御谷さんが言っていたドンマイって言うのはまさか、こうなりそうだと思って。
「君がとても可愛いらしくて、食べちゃいたいの」
「お、おおオイラそっちの趣味は無いっすー!」
ぬお、なんかクラウスの背中から蝙蝠の翼が!
しかも息遣いが荒いし眼が血走ってる!
「もう我慢出来ないよ、大丈夫、優しくしたあげるからぁ」
「ぎぃやあああ! くるなー!」
このあとオイラはクラウスに追い掛けまわされたは言うまでもないだろう。
一方、メイコさんを追い掛けていた御谷さんはと言うと――。
「ここにいたのかめぇちゃん」
学校の校門で啜り泣きしているメイコさんの後ろから声を掛けていた。
「御谷さん……」
ぼろぼろと涙を流すメイコさんを見て、当惑の表情をみせた御谷さんは、どうにか励まそうと一声掛けた。
「……あ〜まあ、なんだ。ドンマイ」
これと言って励ましの言葉が思い浮かばなかった御谷さん。やっぱりそんな言葉じゃメイコさんは癒せず寧ろ悪化させてしまった。
「モィィ〜! モィィ〜!」
「め、めぇちゃん! 何となくすまん! すまんから泣き止んで!」
奮闘すること、数十分。
「めぇちゃん大丈夫か?」
「ええ、もう大丈夫ですモィ。何だか思っ切り泣いたらふっ切れましたモィィ。御谷さん、今回はありがとうございました。烈狐丸さんにありがとうと伝えて下さい」
泣き疲れてすっきりしていたメイコさんは、そう言うと可愛いらしい笑顔をみせた。
「ん、ああ、めぇちゃんもう帰るのか?」
「はい、もう帰りますモィ」
そう口にすると、メイコさんは歩き始めた。御谷さんも後ろからついて来て。メイコさんと列んだ。
「送ってやるよ」
「……御谷さん。ありがとうモィィ」
もう空模様が真っ暗な夜道を、二人は歩いて行く。しばらく無言で歩いていると、ふとメイコさんが喋り出す。
「私、クラウス以外に好きになれる人を探します」
空を見上げてメイコさんは微笑んだ。
「そうか、……ならめぇちゃん。俺じゃあダメ?」
チャンスだと思ったのか御谷さんは自分を指さしながらニヤリと微笑みながら聞いた。
それに対しメイコさんはにっこり笑うと、
「駄目ですモィ〜、御谷さんとは友達が良いですモィィ」
優しげに言う。御谷さんは肩をがっくり落としたのでした。
次の日、オイラと御谷さんはメイコさんを見送る為に空港に足を運んだ。
そしてオイラ達は別れの挨拶をすまし、メイコさんは自家用飛行機で飛び立って行った。
「いったっすねぇメイコさん」
「ああ、行ったなぁ」
小さくなっていく飛行機を眺めながらオイラ達は呟いた。今回オイラは余り関わりはなかったっすが、三人で過ごした一日は意外と楽しめたかもしれない。
……ある一つを除けば。
「クラウスまた来たな烈狐。ドンマイ」
御谷さん。他人事の様に言わないで! てゆーか、ニヤニヤしながらドンマイ言われても慰めにならないから。等と思ってる間にクラウスがすぐそこまで来ているし、
「烈狐丸〜! 待ってよ〜!」
「だああ〜! くるなー!」
この日から、オイラは変態インキュバスに追い掛け回されるようになったのでした。
終 |