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のろわれしうさぴょん

作者:雨野千晴

 そう遠くない昔、世界を破壊しようとする邪神が現れたことにより世界は混沌としました。

 人や獣人、森人に土人も、さらには竜や精霊の力をもってしても邪神とその眷属である軍勢には敵いませんでした。

 世界が邪神によって滅ぼされそうになった時、世界に生きる者たちはようやく種族を越え、国を越え、力を合わせることになったのです。

 世界に生きる者達は連合軍を組織し邪神によって生み出された軍勢を相手にしつつ、各種族や国に伝わる伝説の武器を使いこなせる12名の英雄たちをなんとか邪神の元に送り込むことに成功しました。

 選ばれた12名の英雄達は邪神との戦いで4名が命を落としましたが、見事に邪神を打ち倒します。邪神が滅びたことで、世界にあふれていた邪神の眷属たる軍勢はその姿を消しました。それにより世界中の生きる者は英雄達が邪神を倒したことを知ることになったのです。

 しばらくして戦いに疲れ、憔悴した様子で帰ってきた英雄達を、世界中の生きる者は拍手と歓呼を持って迎えました。戸惑う英雄たちの姿に疑問を抱くこともなく、世界中の生きる者はただただ英雄たちを讃えたのです。

 帰ってきた8名の英雄達はそれぞれの種族や国を導いていくことになりました。こうして世界は邪神戦争を乗り越えて復興の道を歩み、今に至るのです。

 邪神を倒した本当の英雄がいることを知らぬままに。

 ◆

 歴史には表もあれば裏もある。
 邪神との戦いでは決して語られない真実があった。

 邪神の力はすさまじく、4名の英雄が邪神によってその命を落とした。
 勝てぬと悟った残りの英雄は撤退することを決断する。

 しかし、8名の英雄が邪神を討伐することなく逃げ出した後も、そのモノは残り邪神と戦った。
 命を落とした英雄達の仇を討つためにただただ夢中で戦った。

「強き者は、弱き者を助けるものだよ」と、教えてくれた英雄のために。
 今はもう死んでしまったその英雄のために。
 甘いお菓子をくれた英雄の仇を討つために。

 幾日かの戦いの後、奇跡は起きた。
 そのモノの牙がとうとう邪神を捉え、致命傷を与えたのだ。
 しかし、致命傷を与えた事に気づくことなく、そのモノは意識を失い崩れ落ちた。

 邪神は血にまみれた自身の姿を見てにやりと笑い、そのモノに話しかけた。

『見事なり。しかし、我はこのまま滅びぬ。
 最後に汝を呪いてこの世を去ろう』

 邪神からまがまがしい気配があふれだし、そのモノにまとわりついた。
 邪神との戦いで力を使い切っているそのモノはまがまがしい気配から逃れることができなかった。
 邪神はそのモノに呪いをかけたことを見届け、満足そうな笑顔を見せた。

 そのモノの意識はすでになく、聞く者もいない中で邪神は最後に世界に向かって告げた。

『我が滅びても、世界の終末はやがて訪れる事を忘れるな』

 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 ーーそして、時は流れる。

 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 吾輩は今日も朝日が顔を出す前に目覚めた。
 大きく背伸びをして寝床から抜け出すと、てくてくと鏡の前に移動し、ささっと両手で毛並みを整える。

 ふぅ、鏡の中の自分を見れば真っ白な毛並みが今日も美しい。
 ブルーのつぶらな瞳が自身のことながら愛くるしいではないか。
 ピンと伸びた長い耳。小さな両手でほっぺたをムニムニして顔の筋肉をほぐす。

 うむ、やはり吾輩はどこからどう見てもウサギだな。

 ◆

 吾輩は邪神との戦いの後、気づけばこのようなウサギの姿になっていた。
 おそらく邪神が最後に言っていた呪いとやらの影響なのだろう。以前のたくましかった肉体とは程遠い。まさか、このような姿になろうとは……。

 まったく、生きるってのは不思議なことがいっぱいだな。

 唯一の救いは、いや、救いといえるのかはわからないが、2足歩行ができることだ。これで吾輩はそこらのウサギとは違うことがアピールできる。

 前あs、間違えた。両手で、鏡の前においてあるスカーフをつかみ、首に巻く。

 ふふふん。そこらのウサギでは吾輩のように器用に両手を使うことはできないであろう。前足がそんなに長くないので首の後ろでは結べない。首の前でスカーフの端っこを結び、結び目が首の後ろになるように動かしていく。

 鏡に向かってポーズをとりながら、その場でくるんとターンをする。なびくスカーフがかっこいい。

 うむ、なかなかいいではないか。

 朝食を用意するために、吾輩は住んでいる小さな家の外へと出た。大きな森の中にある一軒家なので、あたりはまだ薄暗い。

 ◆

 家の周りには吾輩がせっせっと耕した畑がある。この姿になってから、時折穴を掘りたくなるのだ。このウサギの体故の本能なのだろうか。

 家の扉の横に立てかけておいた木の枝を手に取る。なぜかこの枝の先っぽについている葉っぱはいつまで経っても枯れる様子がない。不思議だ。吾輩は畑に向かって木の枝を向けて呪文を唱えた。

「ふるふる」

 するとどうでしょう。畑にはパラパラと雨のように水が降り注ぐではありませんか。

 この姿になって魔法が使えるようになったのだ。呪われる前はバリバリの肉体派だったのだけどね。というよりも、魔法は使ったことがなかった。

 吾輩は、畑に満遍なく水をやりながら、野菜の育成状況をチェックする。今日の朝ごはんはどれにしようかな。

 今日の朝ごはんとなる野菜を決めた吾輩は、器用に長い耳をクルクルと巻いて耳を塞ぐ。よく育っている野菜の葉っぱを両手で掴み、吾輩はえいやっと引き抜いた。

「ギィエエエエエエエエ!」

 野菜が大きな声で叫ぶ。
 この野菜はどういうわけか引き抜いた際に大声で叫ぶのだ。初めて引き抜いた際は、耳がキーンとなってしまった。あの時は流石の吾輩も、しばらく動けなかったものだ。

 丸めていた耳を元に戻し、野菜を洗うために家の壁にかけて乾かしておいた桶を両手で取り、地面に置く。桶に水を溜める為に呪文を唱える。

「みずみず」

 あっという間に桶の中に水が溜まる。吾輩は先ほど引き抜いた野菜をじゃぶじゃぶと両手で洗う。

 へへへへ、美味しそうではないか。
 水が汚れるので、三度ほど桶の水を替えながら野菜を洗った後、吾輩は野菜をカリカリカリと食べきった。

 うむ、やはりうまい。この野菜は生で食べるのが一番だ。



「うさぴょーん!
 おっはよー」

 吾輩が食事を食べ終えて丸太の上に座っていると、小さくてやかましい妖精がやってきた。トンボのような透明な羽根を背中から生やしており、それ以外は人間に近い。ただこの妖精は、小さな吾輩よりも、さらに小さいのだ。

「おはよ」

 吾輩は妖精に挨拶を返す。
 妖精は吾輩の周りを飛び回りながらやかましく話しかけてくる。

「うさぴょん、私の花畑に魔力をやりに早く来てよ。
 今日は花が咲きそうだから、花の蜜が取れるかもしれないよ!」

 なんと、あの甘い蜜が取れるのか。
 あの甘美な味は春先の楽しみのひとつだ。口の中が甘々してきた。あとこの妖精は、なぜか吾輩が水をやることを魔力をやるという。正直、よくわからない妖精だ。

「準備する」

 吾輩は妖精に準備することを伝え、家の中に入る。
 鏡の横の台に置いてあった魔法のリュックを背負い、吾輩は家の外に出た。

「行くか」

 妖精が吾輩の頭に乗っかり、耳をつかむ。

「レッツゴー!」

 妖精の合図で吾輩は森の中を駆け出した。
 二本の足でピョンピョンと飛ぶように走る。ウサギの体になって呪われる前よりは走るのが遅くなったが、妖精が飛ぶよりは早く走れる。

「あははは、はや〜い」

 妖精の楽しそうな声が聞こえてくるのを聞きながら、吾輩は森の中を駆け抜けた。

 ◆

 すぐに花畑に着いた。
 花畑とは言いつつも、まだ咲いている花はない。どれもつぼみの状態だ。
 吾輩は花畑に向かって木の枝を向けて呪文を唱える。

「みずみず」

 花畑に雨のように水がシトシトと降り注ぐ。
 その様子を見た妖精が感心したように大きく息を吐いた。

「ふわぁ、やっぱりうさぴょんの魔法はいつ見てもすごいね。魔力がすっごく含まれているよ」

 妖精は魔力が含まれていると言うが、吾輩にはよくわからない。そもそも魔法で出した水だから、魔力とやらが含まれているのかもしれない。まぁ、吾輩にとってはどうでもいいことだ。

「単なる水だ」

 妖精に単なる水であることを伝え、花畑全体に水をまいていく。

「単なる水じゃないんだけど、まぁ、いいや。
 それよりもうさぴょんのおかげで花が咲きそうだよ。あっ、あの花が咲いた!」

 咲いた花へと妖精が飛んでいく。

「わぁ、これで百年花の蜜が取れるよ!」

 妖精が嬉しそうに花の周りを飛び回る横で、吾輩は背負っていたリュックを地面に下ろした。リュックの中から洗っておいた小さな瓶を取り出す。

 元は薬の瓶だったものだ。邪神との戦いで大量の薬をみんなが使ってたから、空き瓶はたくさん持っている。

 吾輩が小さな瓶を両手で持ちながら、咲いた花へと近づけると妖精が花を傾けて瓶の中に花の蜜を入れた。1つの花から、小さな瓶の7分ほどを満たすことができる。

「うんうん、うさぴょんのおかげで蜜がいっぱいだよ」

 妖精は嬉しそうに笑いながら、花についている蜜を手に取って舐めた。両手を合わせながら幸せそうな顔でクルクルと飛び回っている。

 我輩も瓶に蓋をした後、蜜を取った後の花に顔を近づけて、ペロっと舐めた。

「くぅー」

 思わず唸ってしまうほど甘い。
 畑で育てている野菜では味わえない甘さだ。

「甘い」
「甘いねー」

 目を細めながら妖精と一緒にに花の蜜を味わった。
 その後は、花がどんどん咲いていったので妖精と一緒に花の蜜を瓶に入れていった。

 ◆

「邪魔になるから1つでいいよ。
 そんなにたくさん持っとけないからね」
 と、たくさんの瓶を前に妖精が言った。吾輩は妖精に花の蜜を入れた瓶を1つ渡し、他の瓶は預かっておくことにする。

 妖精と一緒に魔法のリュックにどんどん瓶を入れていく。吾輩は瓶をしまい終えると、よいしょと魔法のリュックを背負った。

「うさぴょんはこの後どうするの?」
「困ってないか聞きに行く」
「毎日毎日、人間の町なんかに行って物好きだね」

 妖精は瓶に腰掛け、 少し呆れた様子で吾輩を見てくる。吾輩は手を腰に当てながら、胸を張って答える。

「強き者は弱き者を助けるものだ」

 かつての友が教えてくれた言葉を妖精に告げた。

「死んじゃった友達から教えてもらった言葉なんだっけ、それ?」
「うむ」

 頷いた吾輩を妖精は嬉しそうな表情で見つめてくる。

「そっか。私もうさぴょんに助けてもらったし、今も助けてもらっているから、その友達に感謝だね!」

 妖精の「気をつけてね」という声に、片手を上げて応えた後、吾輩は町を目指して駆け出した。

 ◆ ◇ ◆

 妖精と別れた後、吾輩は森の中をしばらく駆けた。
 時折、力関係のわからぬ魔物や獣が襲いかかってきた。しかし、吾輩は速さには少々自信がある。呪われる前よりは遅くなったとは言え、この森に住む魔物や獣程度の攻撃は吾輩には当たらない。

 吾輩はフェイントをかけつつ、魔物や獣の攻撃を躱し、あっかんべーをしながら魔物や獣の前から走り去った。ふふふん、強き者は無駄な殺生はしないものだ。

「ぷーぷー」と鼻を鳴らしながら、気分よく走っていると吾輩のウサ耳が小さな悲鳴を捉えた。耳をすっすっと動かし、声がした方向にあたりをつける。吾輩は助けを求める声が聞こえた方向に向かって、今までよりも力強く走り出した。

 ◆

 大きなクマに襲われている人間の男がいた。
 吾輩は力強く地面を蹴り、クマに跳び蹴りを食らわせる。クマは大きく吹き飛び、木々を何本もなぎ倒した。あぁ、やはりこのウサギの身体では肉体を使っての格闘は無理だ。

 呪われる前であれば、今の一撃でクマは死んでいただろうが、この身体の一撃は軽い。
 吾輩が見つめる先でクマがのそりと起き上がり、頭をフルフルと左右に振った。

「う、ウサギ?」

 突然の事に驚いたのか、クマに襲われていた男が地面に尻餅をつきながら何かを呟いている。
 男の横には頭から血を流している女が倒れている。心音は聞こえてくるからまだ死んではいないようだ。

「今のうちに、手当を」

 吾輩が男に声をかけるも、男は呆然としている。
 動かない男に吾輩は少し目を細めてもう一度話しかける。

「薬は持っていないのか?」

 吾輩の剣幕に気圧されたのか、男は後ずさりながら首を横に振る。まったく、薬のひとつも持っていないとは、冒険者として準備ができていない。吾輩は不快に思い「ぶー」と鼻を鳴らす。

 クマがぐるると低いうなり声を上げて吾輩の方を睨んでくる。
 吾輩もクマの方を向き、目に力を入れてにらみつける。

 クマは少し怯みながらも、両手を大きく広げ、後ろ足で立ち上がった。そして、「グォオオオオ」と大きな声で吼える。吾輩の後ろでは、男が「ひっ」と悲鳴を上げた。

 吾輩もクマに対抗し、両手を広げる。
 ただ最初から2本の足で立っているので、それほど大きさは変わらない。

 にらみ合う吾輩とクマ。

 ジリジリとクマが左右に動く。時折クマが吼えるが、吾輩は動じない。じっとクマをにらみつける。
 しばらくにらみ合いが続いたが、吾輩が足を力強くダンと地面に叩き付けた。するとクマはぐるると鳴いて逃げ去っていった。

 ふっ、他愛ない。

 この姿ではすぐに吾輩の強さが相手に伝わらないのがもどかしい。呪われる前ならば、あの程度のクマなど吾輩の姿を見ただけで逃げ去ったであろうに。

 いかんいかん。ケガをしている人間の女が倒れているのだ。手当をしてやらねば。吾輩は倒れている人間の女に近寄った。女に手をかざして呪文をとなる。

「なおれなおれ」

 ケガよ治れと念じながら、女に魔法をかけると傷はみるみるうちに治っていく。
 ふぅ。魔法とは何とも便利なものだ。

 吾輩がそんなことを考えていると、女が小さく声を上げた。
 どうやら気が付いたようだ。男が女に駆け寄って声をかける。

「キャンデ! 気が付いたのか!?」
「ん。クラッカ? ファントムベアーはどうしたの?」
「ファントムベアーなら、あのウサギが追い払ってくれたぞ」
「うさぎ? ウサギ? 何言ってるの? バカなの?」
「違う! 本当なんだ! お前の傷もあのウサギが魔法で治してくれたんだ。
 あ、ありがとうございました!」

 男は吾輩の方に向くとお礼を言ってきた。
 吾輩は男に向かって、右手を振った。

「強き者は弱き者を助けるものだ」

「う、ウサギがしゃべってる」と、女が驚いているが、無視して吾輩は男に話しかける。

「なぜ薬を持ってない?」

 森に入ってくるのに、薬の一つも持たずに来るとは冒険者としてなっていない。
 冒険者が準備を怠れば、すぐに死に繋がる危険な仕事だ。吾輩は準備ができていなかった男と女を見つめる。

「あ、ええっと、オレが持っていた薬はファントムベアーに会う前に、もう使ってしまっていて、それで。この森の魔物が俺たちが思っていたよりも強くて……」

 吾輩から見つめられているから気まずいのか、男がおずおずと説明をした。
 しかし、このあたりの魔物が強いと言っているようでは、やはりこの者達は初心者なのだろう。

「あのクマは、この森では弱いぞ?」

「えっ? ファントムベアーが!?」

 あのクマはこの森の比較的浅いところにいるクマだ。
 この森の深部では、あのクマは捕食する側ではない。捕食される側だ。あの程度のクマを倒せないようでは、この者達は森に入るべきではないだろう。

「悪いことは言わない。帰れ」

 吾輩は男と女に向かって首を横に振りながら、帰るように告げた。
 男と女は顔を見合わせながら、不安そうな表情を浮かべている。

「どうした?」

 吾輩が首を傾げながら尋ねると、男が申し訳なさそうに帰り道がわからないという。
 なんでも方向を調べる道具がこの森では役に立たないらしい。さらに、クマに追われて逃げているうちに、今いる場所もわからなくなってしまったそうだ。

 吾輩は小さくため息を吐き、男と女に言った。

「町に行くから着いてこい」

 吾輩は男と女を連れて町に向かうことにした。

 ◆

 男と女は名前を名乗り、吾輩に礼を言った。

 男はクラッカ、女はキャンデというらしい。美味しそうな名前だなと思いながら、適当に頷いておく。正直、吾輩はこの者達の名に興味はない。

 男と女は、この森には初めて来たらしい。
 この森には珍しい植物が生えていたり、強い魔物がいるのでそれを狩ったりする為に来たそうだ。男と女曰く、自分たちは他の場所で冒険者をしていてそこそこ強いということだった。

 吾輩の経験則では、自分で自分のことを強いという者は強くないことが多い。
 男と女は、町を目指して森の中を進んでいた時に出くわした魔物や獣を相手に手こずっていた。ちょっと自分の力量があがって勘違いしてしまった冒険者なのだろう。駆け出しの冒険者にはよくあることだ。

 吾輩は魔法で魔物や獣を追い払う。

「もっと鍛えてから、森に入れ」

 吾輩は男と女に忠告し、この者達の歩く速さに合わせて町を目指して進んで行く。吾輩の忠告を受けてしょんぼりしている男と女をちらりと見る。この程度で気落ちするようではだめだなと思いながらも、歩き続ける。

 男と女の歩きが遅いので町に着くまでに、まだまだ時間がかかりそうだ。

 ◆

 ようやく森から抜け出ることが出来た。

「ここからは帰れるか?」
「あ、ああ。ありがとうございました。ここまで来たら自分たちだけで都市まで戻れます」
「そうか、じゃあな」

 吾輩は男と女に別れを告げ、町に向かって走り出そうとすると女が話しかけてきた。

「あ、あの、ウサギさんは何という名前なんですか?」

 名前か……。この姿になる前には名前もあった。
 しかし、ウサギになってからは名前すらもなくなってしまった。

「今、名前はない」

 吾輩は、男と女を後に残し、ぴょんぴょんと町を目指して走り出した。

 ◆ ◇ ◆

 男と女の2人と別れた後、走り出したらすぐに町が見えてきた。
 以前は、小さな小屋がいくつかあっただけなのにな。今では高い壁に囲まれた立派な町になっている。月日が経つのは早いものだ。

 町に近づくと門の前には、何台もの馬車や人々が並んでいる。
 前にアガサに聞いたところ、町に入るための検査を受け、お金を払っているそうだ。吾輩は並んでいる者達の横をてくてくと歩いて行く。

 時折、並んでいる者から声をかけられるので、吾輩は片手を上げて応えながら歩いて行く。

 たまに「ウサギ?」と戸惑ったような声が聞こえてくる。初めて吾輩を見る人間がよく言ってくることだ。二本足で歩くウサギは珍しいのだろう。

 門番のところまで歩いたら、「よ」と片手をあげて挨拶をする。
 鉄の胸当てをつけた門番が吾輩に気づき、駆け寄ってきた。

「おや、今日は遅かったですね。
 もう来ないのかと思っていましたよ」

「うむ、森で冒険者を助けた。
 遅くなった」

「そうですか。お疲れ様です。
 その冒険者はどうしたのですか?」

「森の外まで案内した。大丈夫だろ」

 吾輩は両手でほっぺたをムニムニする。
 ウサギになってから、長くしゃべるとほっぺたが疲れる。ほっぺたをほぐした後、吾輩は門番に手を振って町の中に入っていく。

 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 邪神を倒した本当の英雄は呪われてうさぎとなった。
 これは本当の英雄がうさぎとなった後の足跡を辿る物語である。

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