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【IFルート】10年ごしの引きニートを辞めて外出したら自宅ごと異世界に転移してた【集団トリップ】  作者: 坂東太郎
『IF:第七章 ユージと掲示板住人たちは異世界人に出会う』
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IF:第七話 ユージと何人かの掲示板住人、人里を探す旅に出る


「お兄ちゃん、お金はこことここに縫い付けてあるから。あとこれ、靴のとこに入れて」


「サクラ、ここまでしなくてもいいんじゃない?」


「なに言ってるの、海外に行く時だってみんなこれぐらいやってるよ? サイフ一つしかなかったら、落としたり盗まれたりすると大変なんだから!」


「ユージ兄! アリス、サクラ姉からおこづかいもらったんだよ!」


 ユージの家の門の前。

 そこには旅装のユージとアリス、心配そうに世話を焼くサクラがいた。

 ユージは皮鎧にマントを羽織って、すっかりこの世界の住人のような格好である。

 大楯と短槍を持っていることとあわせると、冒険者に見えなくもない。


「ユージ、準備はどうだ?」


「おおっ、いいねいいね、それっぽい! ユージ、ちょっと前向いて」


 そのユージに声をかけたのはドングリ博士だ。

 あとカシャカシャとシャッターを切るカメラおっさん。

 カメラマンは被写体がユージなのになぜかノリノリである。

 ユージにコスプレのつもりはない。


「いいかユージ、危ないと思ったらムリせず帰ってこい。ケビンさん以外の情報源を得ることよりも、全員無事であることの方が優先順位が高い。間違えないように」


「あ、うん」


「ねえ、あれ心配してるのかな?」

「いやアイツ、自分が出るきっかけが欲しいだけじゃね? 危ないならしょうがない、俺が行くか、みたいな」

「ユージさん、アリスちゃんをよろしくお願いします! 私はもう心配で心配で……」

「ユージィ! 人里見つけたらいろいろ買ってこいよ!」


 ユージ、アリス、コタロー、案内役 兼 攻撃役 兼 交渉役のドングリ博士、撮影役のカメラおっさん。

 四人と一匹は、この場所を発とうとしているのだ。

 ケビン以外の情報源を得るべく、人里を探すために。

 新・探索班にアリスが入っているのは、行方不明の家族を探したいかららしい。

 ユージはその保護者である。

 いや、もしかしたらコタローがその保護者である。どっちもコミュ力に難がありすぎる。


「お兄ちゃん、モンスターがいる世界なんだから、ほんと無理しないようにね。アリスちゃんもいるんだから」


「うん、わかってるよサクラ」


「だいじょーぶ、てきがいたら、アリスばーんってやるんだから!」


「アリスちゃん、それは最終手段だからね? 基本、見つからないようにこっそり行くから」


 ふんす、と鼻息も荒く張り切るアリスを止めるのはドングリ博士だ。

 森にはどんな敵性生物がいるかわからない。

 戦闘はあくまで最後の手段である。


 そのドングリ博士は、元の世界から持ち込んだ猟銃のほかに、トリッパーお手製のクロスボウを手にしていた。

 猟銃の発砲音は独特だ。

 この世界にはない音で、しかも広範囲に聞こえる大きな音である。

 戦闘になった場合は静かに殺すために、メインウエポンはクロスボウでいくつもりらしい。


 見ればユージもカメラおっさんも、三人の大人は全員、自家製クロスボウを手にしている。

 ワイバーン戦後に製作した、小まわりが利くタイプである。

 ワイバーン戦で効果的だったため、トリッパーたちはクロスボウを増産したようだ。


「あああああ、やっぱり行きてえええええ!」

「ユージ、生きて帰ってこいよ!」

「行きて帰りし?」

「ユージ、忘れるなよ。物価を確かめるためにいろいろ買ってくるんだぞ」

「物価だけでなく、この世界の文明度を測るためにも必要だ」

「そうそう、奴隷ちゃんを忘れずに買ってくるんだぞ!」


 新・探索班、いや、彼らが言うところの『真・探索班』の見送りに集まったトリッパーたちは、口々に言いたいことを言っていた。

 ユージを心配するあまりのことである。たぶん。


「奴隷ちゃん?」

「そうそう、エルフの!」

「エルフの」


「お兄ちゃん、騙されないで! 奴隷は買ってこなくていいから!」


「そうだサクラさん! ユージ、エルフの奴隷は買ってこなくていいからな。エルフじゃなくて、獣人さんの奴隷を」

「獣人さん」


「落ち着けユージ。お前らもおもしろがるんじゃない」


 ユージ、素直すぎる反応である。

 足下のコタローは、わふっと鳴いて首を振って呆れ気味である。

 サクラとクールなニートがいなければ、ユージは勢いあまって奴隷を買ってきたかもしれない。

 まあそれ以前に、人里を見つけられるかどうかはわからないが。


「ユージ、ケビンさんから受け取った報酬ではなく、預けたお金を使うように。ワイバーンの皮を売ったお金は俺たちの共同財産だからな」


「あ、うん、わかった。サクラから忠告されたし、人里で買えたら何にいくら使ったか報告するよ」


「ああ、変に意識せずそれがいいか」


「クールなニート、そろそろ……ユージも忘れ物はない?」


「大丈夫、だと思う」


「お兄ちゃん、何かに迷ったらすぐ帰ってくるんだよ。みなさんよろしくお願いします」

「ユージさん、がんばってね! ボクも行きたいところだけど……大人しく待ってるから!」

「もしもの時のために木の杭は持った? バイブルは? 銀の武器は大丈夫?」

「なあ、それもうゾンビじゃなくてヴァンパイア相手になってない?」


「ほら、キリがないからもう行くぞ。みんな、写真を楽しみにしててくれ!」


「おーう、期待して待ってるぞカメラおっさん!」

「動画、動画も忘れずに!」

「アリスちゃんアリスちゃんアリスちゃんアリスちゃん!」


「じゃあ、行ってきます!」


「みんなー、アリス、いってくる!」


 最後まで、大騒ぎするトリッパーたちに見送られて。

 ユージとアリスとコタローと、ドングリ博士とカメラおっさんの四人と一匹は、森に向けて歩いて行くのだった。

 人里を探すために。

 ケビン以外の情報源を得るため、アリスの家族を探すために。



  □ □ ■ ■ □ ■ ■ □ □



「期限は三週間、帰りに余裕を持っても二週間。まあ二週間テント暮らしを続けるのは厳しいだろうから、現実はもっと短いだろう」


「そうだね、アリスもいるし」


「ええー? アリス、おそとすきだよ?」


 一行の先頭を歩くのはドングリ博士だ。

 トリッパーの中でユージの次に森に慣れている男は、帰りの算段を立てているらしい。


 いま、四人と一匹は西へ向かっていた。

 ひとまずユージの家の近くを流れる川に出て、そこから下流へ向かう。

 ユージの家から南南西に行ったところに街があるということ、人里は川のそばにあるだろうということ。

 ケビンから聞いた話と、予測をあわせてのコース取りである。


 ドングリ博士とコタロー、その後ろにユージとアリス、最後尾にカメラを構えたカメラおっさん。

 この中で一番森歩きに慣れていないのはカメラおっさんだったりする。

 この世界に来てから三年目のユージはずいぶん鍛えられたようだ。だてに謎のキノコを食べていない。


「アリスちゃん、でも食べ物が限られてるからね。水を補給できるか次第で、いちばん長くても一週間で帰るつもりだから」


「食べ物はカロリーメイ○でごまかすとしても、そっか、水がないとツラいのか。あ、でも川はキレイっぽかったけど?」


「ああ、それもあって川に向かってるんだ」


 ドングリ博士は、銃は担いだまま鉈を手に先頭を歩いている。

 歩くのに邪魔な枝草があれば振るうために。


 もし敵性生物に出会った場合、最初の攻撃はユージが持つクロスボウの予定だ。

 ユージが反応できれば、だが。

 そのあとは最後尾のカメラおっさんのクロスボウ、状況にあわせてドングリ博士が猟銃かクロスボウを射つ。

 遠距離攻撃の三段構えである。

 というか接近戦ができるのはユージしかいない。あとコタロー。


「そういえばユージは何度か川まで歩いたんだったな。けっこう歩きやすくなってる」


「みんなが水場の探索は基本だって言うからね。アリスを家の南の方で見つけなかったら、川ぞいを下ってみるところだったし」


「ねえねえ、たべものはいっぱいあるよ? ほら、このくさもたべられるの! あのね、スープに入れるんだよ!」


「そっかそっか、アリスちゃんはよく知ってるなあ。野草? いや、山菜と呼ぶべきか?」


「どう見てもただの草だけど……」


「言うなユージ。虫を食べると言い出すよりいいだろ」


 飲食の話題になって、褒めてほめてとばかりに道端の草を採取して見せびらかすアリス。

 ドングリ博士は足を止めて、興味深そうに受け取った草を観察している。


 真・探索班、初日にして不安になる光景である。

 もし探索が長引くようなら、ユージは草や虫を食べることになるだろう。せめて木の実や果物を見つけたいものである。

 虫はともかく、草はアリスも抵抗はないようだが。


「人に会ったら、モンスターに遭ったらどうしようって思ってたけど……これ、長旅になっちゃったらヤバい?」


「ユージ、今ごろ気付いたのか……俺は覚悟してきたぞ。たまーにゲテモノ料理を撮ることもあったしな」


 探索をよそに、美味しい野草の食べ方談義に盛り上がるドングリ博士とアリス。

 二人を見ながら、ユージとカメラおっさんは先行きに不安を感じたようだ。



 四人と一匹は、真・探索班として行動を開始した。

 旅の間の食料についても不安だが、ユージが留守にした家のまわりの開拓状況も不安なものである。

 なにしろ、真・探索班に「奴隷ちゃんを買ってきて」とか言い出すトリッパーたちが残っているので。


 それはそれとしても、トリッパーを取り仕切るクールなニートは戦闘に関しては妥協しない男だ。

 ユージが帰る頃には、家のまわりはきっと様変わりしていることだろう。

 要塞化していないことを祈るばかりである。

 いや、モンスターがはびこる世界において、要塞化できるならそれに越したことはないかもしれない。


 ともあれ。

 人里を探す旅は、まだはじまったばかりである。


次話、2/4(土)18時投稿予定です!

→ 風邪&私用のため、初のギブアップ宣言です。

  次話、2/11(土)18時に投稿します。

  楽しみにしていただいた方、申し訳ありません。


※1/31 ヨーコ→サクラ 修正しました!いません!w

※1/31 名称をクロスボウに修正しました!

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― 新着の感想 ―
[気になる点] サクラがユージに対して、何もさせないようにし過ぎているのが読んでいて目に付きます。 曲がりなりにも数年間、一人と一匹で、さらにアリスを保護してからも無事に過ごせてきたユージなのに
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