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IF:第七話 ユージや掲示板住人たち、それぞれの行動:情報収集班


 探索班、修理班、開拓班、建築班と比べると、情報収集班の人数は少なかった。

 ユージの妹・サクラの夫のジョージ、その友人のルイス。

 クールなニートと弁護士の郡司、それと検証スレの動画担当。

 あわせて5人の少数精鋭である。


「クールなニート、定点カメラの設置は終わったぞ。門の前と家の裏側の二箇所な」


「ああ、お疲れさま。リアルタイムで見られるか?」


「いちおう野外OKの機種で、ルーターと繋いで無線飛ばしてるからイケると思う。設定はこれからだから」


「わかった、頼む。あるかないかでずいぶん違うからな。最終的にはモンスターが近づいたらモニターで気づくようにしたい」


「だな! それにリアルタイムで中継できるし!」


「……やるかどうかはみんなと相談するから、勝手にアップしないように」


「りょーかい!」


 情報収集班といっても、検証スレの動画担当はネットを利用して元の世界の情報を集めているわけではない。

 動画担当の仕事は、監視カメラの設置とリアルタイムで確認できるよう設定することだ。

 この世界にはモンスターが存在する。

 防犯というか、襲撃対策である。

 決してネット上で24時間リアルタイムで流しっぱなしにしたいわけではない。たぶん。

 あと動画担当の仕事は異世界トリップを証明するための動画撮影とアップロードである。

 短時間で加工するのは、写真よりも動画の方が難しいので。


「それでクールなニートはどうなの? 日本の状況は?」


「騒ぎにはなっていないな。向こうは平和な日常だ」


「まだ一日だしな、まあそんなもんか」


 ユージの家の庭。

 そこはキャンプ用のテーブルが広げられ、クールなニートとジョージとルイスがノートパソコンを叩いていた。

 野外オフィスである。


 電源は屋外用の延長コードでユージの家から引っ張ってきている。

 外でも電源が使えるか、無線でもWi-Fiは使えるか、電波状況などを確かめるため、あえて野外で活動しているようだ。

 ユージが彼らを家に入れなかったわけではない。

 そこで断るほどユージに危機管理の意識があるわけない。

 もしあったら、初めて会った異世界人を家に招こうとするはずがない。しかも、武装した異世界人を。


 ちなみにジョージとルイスは、アメリカの知人に連絡を取っているらしい。

 あわせて英語の掲示板を含む海外のサイトをチェックしているようだ。

 その辺りはクールなニートと打ち合わせ済みである。

 この世界に来てから言葉が通じるので。


「今後はどうすんの? 掲示板を鍵付きにしたとしても、連絡なしじゃいつか怪しまれるだろ?」


 動画担当、もっともな質問である。

 いまでこそ働いていないが、動画担当は社会人経験があるのだ。

 動画のカメラマンで激務から体を壊して退職というありがちなパターンである。

 なぜ映像関連の業界は総じてブラックなのか。いや、きっとホワイトな会社もあるはずだ。きっと。


「悩みどころだな。音声が通じないため電話は不可能。普段からメールなどでやり取りしている者は問題ないんだが……。ビデオ通話を利用したチャットは信用されない可能性もある。直筆の手紙は送りようがない」


「確かにな。いっそ異世界トリップを隠さないで伝えさせれば?」


「それも一つの手だが……動画担当は最後まで信用しなかったクチだろう?」


「ハハッ、それもそうだ!」


 クールなニートは、ひとまず日本サイドの問題点を洗い出しているらしい。

 といっても、問題はシンプルだ。


 一つ目は、いかにして集団行方不明事件と捉えられないようにするか。

 捜索願が出されても、警察が乗り気でないならばまだいい。

 家出だと考えられるならそれでもいい。

 だが集団で異世界トリップした者のほとんどは、フリーターやニートや引きニートなのだ。

 行方不明となればよくて自殺、悪くて犯罪が想像される。

 ひょっとしたら、犯罪に巻き込まれたと心配されるどころか、やらかす方で心配されるかもしれない。

 フリーターとニートと引きニートの社会的な信頼たるや。

 家族でさえも信じてくれるか怪しいところである。


 二つ目は、これまでオープンだった掲示板をどうするかである。

 ユージは異世界にいることを明らかにして、誰でも見られる掲示板に書き込んでいた。

 目にしたところで信用されないだろうし、もし信じてくれたらいろいろヒントが欲しいと。

 だが集団トリップが成功したいま、掲示板の存在は厄介だ。

 情報交換もしたいし、これまで同様、何かあれば集合知を頼りたい。

 ただオープンな場所に情報をアップすれば、それだけ「ユージの家の跡地から集団で異世界に行った」ことが広まるのである。

 今回は一人と一匹ではなく、30人。

 30人もいれば元の世界での痕跡も辿りやすいだろう。

 情報の信頼性は格段に上がったのだ。


「まあ俺が信じてなかったってのはいいとしてさ。なあクールなニート、普段から家族にメールしてないようなヤツならいきなりメールは怪しい、というかアドレス知ってるかもわからないだろ? さっきクールなニートも言ってたけど、手紙は直筆じゃ送れない。電話は音声がおかしくなるからムリ。これ、何気に詰んでるんじゃない?」


「ふむ……」


 考え込むクールなニート。

 検証スレの動画担当、けっこう冷静である。

 まあユージがアップした動画の粗を探すような男なのだ。

 人を信じにくいタチなのかもしれない。


「それに俺、いま話してて気づいたんだけど。これさ、もし集団行方不明とかで騒ぎになったら……インフラ屋とサクラの友達さん、ヤバくね? 近所に挨拶に行ったんでしょ? あの二人めっちゃ怪しまれるんじゃない?」


 動画担当の一言で、クールなニートと郡司がバッと顔を向ける。


「え、ウソ、マジで? クールなニートも郡司先生も気づいてなかったの? まあユージは当然として、ひょっとしてサクラさんも?」


 動画担当の質問に、顔を青くしてコクコクと頷くクールなニートと郡司。

 いつも無表情な郡司でさえ顔色を変えている。

 どうやらこの二人、変わらず冷静なように見えて異世界トリップに舞い上がっていたらしい。

 ちなみにユージとサクラはこの場にいない。

 クールなニートがサクラに頼んで、サクラの友達に依頼したことを知っての発言である。


 掲示板住人たちは、元の世界のユージ家の跡地で、30人でキャンプをしていた。

 その夜、異世界トリップを果たしたため、インフラ屋とサクラの友人の恵美は、無事にキャンプが終わった、お騒がせしましたとお隣さんに挨拶したのだ。

 怪しまれないように、という考えで。

 だが。


「マズい。どう考えてもマズい。郡司先生」


「私としたことが……集団行方不明。事情を知っていそうなインフラ屋さんと恵美さんに話を聞くだけならまだいいでしょう。ですが、誘拐犯と疑われる線も否定できません」


 二人の顔色は、青を通り越して白になっている。

 集団トリップの発覚を遅らせるために講じた、ちょっとした作戦。

 完全に裏目である。

 むしろ致命的なミスである。

 クールなニートと郡司、浮かれて判断を誤ったようだ。


「え、おい、コレどうすんの? マジでヤバくね? ……あ、俺たちには関係ないからまあいっか!」


「そういうわけにはいかないだろう。郡司先生?」


「どう動くかは、失踪者と思われる皆さん本人の意志次第ですが……私は、お世話になった先生に連絡を取っておきましょう。事情を説明して、インフラ屋さんと恵美さんに連絡先を教えておきます」


「……それしかありませんね。彼らが言うのと、弁護士から説明するのは信頼度が違うでしょうから。それでも信じてもらえるかどうか。そもそもその先生には信じてもらえそうですか?」


「私の師匠のような人ですから、たがいに人となりを知っています。問題ありません」


「では郡司先生、それはすぐにお願いします」


 ふうっと一つ大きく息を吐いて、キャンプ用のチェアに背中を預けるクールなニート。

 異世界トリップを果たした情報収集班の一日目は、問題に直面しまくっているようだ。

 しかもこの後、情報収集班はゴブリン退治の銃声と実際のモンスターの姿、キャンプオフ参加者たちの反応を目にすることになる。


 一日の終わりには、各々報告をして問題をすりあわせることになっていた。

 30人のキャンプオフ参加者は、異世界にトリップした。

 実際に来てみて、想像とは違ったという者もいるだろう。


 なまじ元の世界と連絡が取れるために、どんな情報を流すか。

 剣と魔法のファンタジー世界で、どう暮らしていくのか。


 32人と一匹の異世界開拓記は、まだはじまったばかりである。



次話、11/26(土)18時投稿予定です!


……有能な人物でもミスはあるのです。

浮かれてましたしね、ええ。


※10年ニート本編に投稿している三話分のIFルートに関しまして※

 本編側と重複投稿となっている三話分は、11月末日に削除します。

 本編は完結済みとして、今後、IFルートはこちらのみにアップします。

 ご注意ください。

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