表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
76/169

IF:第五話 ユージや掲示板住人たち、それぞれの行動:開拓班


「えーっと、いまは庭から水が届く範囲にロープを張って、そこを開拓してるんだ」


「なるほど、この辺ね! ユージ、木はガンガン伐っちゃっていいのかな?」


「あ、うん、いいと思う。畑にしないでそのままでもいいんだし。名無しのミート、だよね?」


「ミートでいいぞユージ! よーし、みんな聞いたな! 俺たち開拓班の仕事は、まず木を伐りまくることだ!」


 庭を出て、ユージの家の門の前。

 そこにはユージのほかに10人の男たちが集まっていた。

 開拓班の面々である。

 リーダーはユージである。

 アリスとともに、家のまわりを開拓してきたのはユージなので。


 コミュニケーションが苦手なユージをサポートするべく、サブリーダーには名無しのミートが配置されていた。

 短期バイトで日本全国をふらふらしていた男は、時にバイト集団を指揮することもあった。

 ベテランバイト戦士なのである。

 どうやらその経験を活かして、この班のサブリーダーに指名されたらしい。


「よしみんな、まずは電動タイプで練習ね! 問題なさそうだったら燃料タイプにするから!」


 ユージに開拓の範囲を聞いたところで、さっそく名無しのミートが指示を出す。

 すぐに木を伐り出すわけではない。

 なにしろ10人の男たちは、初めての機械を使うのだ。

 チェーンソーと刈り払い機である。

 斧と鉈と鎌で開拓を進めてきたユージとは段違いである。

 ちなみにまだ出番はないが、芝刈り機と耕耘機も持ち込んでいる。


 慣れない機械としばし格闘した後に。

 開拓地に、ウィーンという高速の回転音が響き渡る。


 開拓班に振り分けられたのは、わりと器用な面々だ。

 名無しのミートのほかに元敏腕営業マン、ケモナーLv.MAX、巨乳が好きです、ニートなユニコーン、エルフスキー、洋服組A&B、名無しが二人である。

 ロリ野郎以外の特殊性癖が揃ったのはたまたまである。たぶん。


「よし、じゃあ注意してゆっくり切ってみよう! 使うヤツ以外は離れて見ておくように!」


 チェーンソーと刈り払い機が動き出して、オオーッ! と盛り上がっていた男たちに注意が飛ぶ。

 短期バイトを転々としてきたミートは、慣れない仕事の危険性を知っているようだ。

 ちなみに、動き出した機械に一番大きな歓声をあげていたのはユージである。

 斧と鉈で行う伐採はけっこうキツかったのだろう。

 文明の利器に感動しているらしい。


「よし、んじゃ俺から行きまーす! 雑草とか細い木を刈っておかないとコタローが通りにくいからね!」


 そう言って、刈り払い機を手に灌木に近づく男。

 ケモナーLv.MAXである。

 コタローとしてはいい迷惑である。

 なにしろ雑草と低木は通るのに問題なく、むしろ身を隠す場所になるので。

 まあケモナーにとっては、コタローの毛が汚されたくなかったのかもしれない。


 まずはヒザまで伸びている草に、ゆっくり刈り払い機の刃を近づけるケモナー。

 テンションとは裏腹にかなり慎重である。

 意外に冷静である。

 なにしろ彼が愛する獣も、慎重に近づかなければ危険なので。

 興奮した勢いのまま近づけば反撃を食らうし、飼い主から引いた目で見られることになる。

 テンションが高くなった時こそ慎重に、ゆっくり動く。

 ガチケモナーには必須の能力である。


「すごい、あっという間に草が……ケビンさんに鎌をもらって、けっこう大変だったんだけど……」


「草だけじゃなくて木もガンガン伐っていきたいんだ。ほら、周りの木を伐っておけば、モンスターとか獣とかに近づかれてもすぐわかるでしょ?」


「あ、うん、たしかに」


「俺たちが住む場所も作りたいしね! ってことで、次はチェーンソー行くぞー。刈り払い機から離れた場所でね! 最初は細くて低い木で試すように!」


「了解!」


 電動の刈り払い機はゆっくり草を刈っている。

 ケモナーが慣れてきたら、次のメンバーに交代する予定だ。

 あくまで電動の機械たちは訓練なのだ。

 本命は混合燃料を使うタイプである。

 なにしろ混合燃料は長期保存できないので。


「チェーンソー、試し切りするぞ! みんなちゃんと離れてくれ!」


 こちらは元敏腕営業マンが担当するらしい。

 敏腕かどうかは自称だが、営業マンだったことは間違いない。

 敏腕かどうかは自称だが、営業マンとして要領がよかったのも間違いないのだろう。

 一番危ない機械だから、最初は器用っぽい人を。

 電動チェーンソーのトップバッターに元敏腕営業マンが選ばれたのは、そんな理由であるようだ。

 かなりテキトーな理由である。

 そもそも一番危ない機械はドングリ博士の猟銃である。


 ガリガリガリッと音がして、まだ若い木が切断される。

 おおっと息を呑む班員たち。

 もちろんユージも。


「若い木を何本か伐ってみて、問題なさそうなら太い木に行ってみようか! 伐り倒す方向と、受け口を忘れないようにね!」


「おう! いやー、キャンプ中にやり方を聞いた時は役立つかどうかわからなかったけど……聞いておいてよかった!」



 電動の刈り払い機とチェーンソーを使った伐採は順調に進んだ。

 次第に慣れてきて、名無しのミートは混合燃料で動く刈り払い機とチェーンソーの投入を早々に決めるほどに。


 機械を割り当てられなかったユージと他の班員は、遊んでいたわけではない。

 伐った若い木や草を集める。

 太い木を伐り倒しはじめてからは、枝を払って玉切りした木を運搬する。

 開拓班はシルバー人材センターの草刈りレベルから、すっかり林業アルバイトと化していた。

 ちなみに、玉切りの目安は後部座席を外したハイエー○に積める長さである。

 いまは近場だが、いずれ遠くで伐採した時のために慣れておこうというのだろう。


「よし、いい感じだな! 乾いてないけどいろいろ建てたいから、そろそろ建材に使えそうな太い木に挑戦しよう!」


「え? ミート、木材とかいろいろ持ち込んでなかった?」


「ユージ、あれだけじゃ掘っ建て小屋で一軒ぐらいしか建てられないって。サクラさんとかジョージさんはユージの家に住むとしても、俺たちあと20人以上いるんだよ?」


「あ、そっか。でも、謎バリアの外じゃ危ないんじゃ……」


「その辺は建築班から相談あると思うけど、ユージの敷地に隣接して建てようとしてるみたい。いざって時は逃げ込めるようにって」


「うーん、それならウチの庭に建てるんでもいいんだけど……」


「それはダメだって! だってほら……あの庭に、また誰か来るかもしれないだろ? それに、逆だってあるかもしれないから!」


「逆……こっちの世界から、元の世界に」


「まだわからないけどね! その辺は情報収集班に任せて、俺たちはまず働くだけ!」


「ああ、うん、そうだね。ケビンさんもいろいろ調べてくれるみたいだし」


 そんな会話が交わされながら、開拓班はのんびり伐採を進めていた。

 ある音が響く、その時まで。


 銃声である。


「いまのは?」


「銃声だ! 探索班で何かあったのかも!」


「ユージ、みんなも、作業を中断して武器を持って!」


 銃声だといち早く聞き分けたのは、ケモナーLv.MAXであった。

 ケモナーであるがゆえに獣を害する銃声に気づいたのか、あるいはイノシシが多い瀬戸内在住だからか。

 続けて名無しのミートが指示を出す。

 何気にできる男である。さすがベテランバイト戦士である。


 ちなみに異世界トリップしてきたメンバーの中で定職に就いているのはサクラとジョージ、YESロリータNOタッチと郡司だけである。

 CGクリエイターのルイスとカメラおっさんはフリーランスで、ドングリ博士も自営業扱いなので。

 短期バイトをこなす名無しのミートは働いている方なのだ。

 驚くべき集団である。


 名無しのミートの指示は早く、全員すぐに作業をやめたが、その後はかなりまごついていた。

 敵が来たかもしれない。

 自分を殺そうとするモンスターが。

 それぞれ持ち込んだ武器やみんなで選んだ武器を手にしたが、全員かなりのへっぴり腰である。

 ビビるのも当然か。


 だが。

 開拓班の11人の中で、一人だけビビることなく先頭に出る者がいた。


 この開拓班のリーダー、トリップしてきた10人を束ねる男。

 ユージである。


 ユージがこの世界に来てからすでに三年目。

 ユージはこれまで何匹ものゴブリンを殺し、幾度もの戦闘を潜り抜けてきたのだ。


「マジかよアイツ……」

「見直したぞユージィ!」

「くっそ、俺もビビってる場合じゃねえ」


 ユージ、先達としての威厳を回復したようだ。ちょっとだけ。


 開拓班の耳に、おーい! という声が届く。

 探索班の声である。

 ドングリ博士は、同士討ちを避けるために大声を出して近づいてきた。

 まあ開拓班に遠距離武器はないのだが。


 人間の声を聞いて、ほっと気を緩める開拓班のメンバー。

 だが、ユージだけはまだ武器を手放さなかった。

 探索班が姿を現して、敵を倒したと聞くまでは。

 ユージ、少しはこの危険な世界に馴染んでいるようだ。



「うわ、グロ……これちょっとキツイ。あ、ごめん、吐く。みんな後は任せた」

「こんなヤツらが襲ってくるのか……やべえな異世界」

「カメラおっさん、動画見せてくれない?」

「ねえこれ片付けどうするの?」


 帰ってきた探索班は、三匹のゴブリンの死体を運んできていた。

 銃弾、バールのようなもの、金属バットで殺されたゴブリンたち。

 モンスターといえど、ゴブリンは人型である。

 集まった開拓班の面々はどん引きであった。

 グロ耐性がない名無しのミートはあっさりギブアップである。


「うーん、いつもだとアリスの土魔法で穴を掘ってもらって、そこで燃やすんだけど。今回もそれでいいのかなあ」


 平然としているのはユージだけである。


「え、ええ……」

「俺たちもこんな感じに慣れないとか……」

「さすがアリスちゃん! 幼女はすばらしいですね!」

「やばいな異世界」

「よっし、俺、弓矢覚えるわ! 前衛は任せた!」

「あ、じゃあ俺魔法練習する! 魔法使いだからね!」

「これ早いとこ位階上げないとヤバいだろ……」



 開拓班が担当した周辺の伐採は、順調に進んでいる。

 刈り払い機やチェーンソーは、これまでユージが斧と鉈と鎌で開拓してきた範囲をあっという間に越えそうだ。

 開拓に関しては順調だった。

 ユージのリーダーっぷりはまだまだだったが、開拓班のメンバーの目には、敵が来たかもしれないのにビビらず先頭に立つユージの背中が焼き付いている。

 きっと、ユージは見直されたことだろう。


 こうして。

 異世界トリップを果たした開拓班の、一日目が終わるのだった。

 予定よりも広い範囲を開拓して。

 玉切りまで終えた木材を、建築班に提供して。

 なによりも、ユージの評価がだいぶ上がって。



次話、11/19(土)18時更新予定です!


…班ごとに書くとまとめやすいけど、カオス感と勢いがなくなるような……

建築班、情報収集班を書き終えたら今後はどうするか考えまっす!


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ