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IF:第二話 ユージと掲示板住人たち、各班に別れて行動を開始する

本編側に投稿したのと同じ話です。

今後はこちらのみに投稿します。

ご注意ください。


「各自荷物の確認は終わったか? 問題はなかっただろうか?」


 ユージの家の縁側の前に集まった掲示板住人たちに声をかけるのは、クールなニートである。

 まるで生徒と教師のような立ち位置である。

 生徒たちの年齢と容姿がバラバラすぎる。


 ユージとアリス、コタロー、サクラはクールなニートの横に立っていた。

 一方でサクラの夫のジョージと友人のルイスは最前列でかぶりついている。前のめりである。あと郡司。


「問題なし! ユージのお金でみんなで買ってきた荷物も確かめたけど、そっちも問題なかったよ!」


「名無しのミートか。ありがとう。すまん、そこまで気がまわらなかった。俺も動揺しているみたいだ」


「そりゃそうだって! 俺だってトニーに言われなきゃ気づかなかったし。いま掲示板は大騒ぎだよ? みんな動揺しまくり!」


 ニコニコと笑顔を見せる名無しのミートとトニーのコンビ。

 掲示板で息が合っていた二人は、実際に会っても息ピッタリらしい。

 集団トリップしたメンバーの中ではコミュ力高めの二人である。


「いまユージさんたちと話をして、今後の動きを共有した。キャンプオフで話し合った通りだが、もう一度説明する。疑問や意見があったら教えてほしい。いまのように見落としていることがあるかもしれない」


 クールなニート、ますます引率の先生じみている。

 ユージはぼーっと見守るだけである。家主なのに。


「今日の昼食は昨夜のBBQの残りですませよう。日持ちしない物もあるだろうから。ユージ、コタロー、アリスちゃんも同席する」


「アリスちゃんの肉は私が焼きます!」

「コタロー! いいかみんな、犬は食べられない物があるからな、あげる時は俺に確認しろよ!」

「もうヤダこいつら……」

「まあほら、最初だけだって。慣れれば大人しくなるってきっと」


 クールなニートの言葉に盛り上がる一部のメンバー。

 パチパチパチと、力いっぱい拍手を送っている。

 ロリ野郎とケモナーをはじめとする一部である。

 とうぜん、歓迎されているのはユージではない。

 いや、これまで異世界を体験してきたユージももちろん歓迎されているのだが。


「その後、予定通り各班に分かれて行動をはじめよう。まず、周辺を見てまわる探索班だ。安全の確保、敵性生物が近づいていないか、それと使える物を探すなど、この班が一番大変かもしれない」


「クールなニートさん、心配はいりません。森を歩くのは慣れてるし……コレも持ってきてるから」


 クールなニートに答えたのは、コテハン・ドングリ博士だ。

 アーリーリタイアして田舎に移住し、近隣の爺婆に教えられながら自給自足を目指していた男である。

 ゴルフクラブが数本入っていそうなケースを肩から提げて、ポンポンと叩いている。


「イノシシとシカなら仕留めたことあるし、捌くのも問題なし。それに家の近くの爺婆から食べられるものの見分け方とか、いろいろ教わってるしね」


「いよっ、ドングリ博士! それでそのバッグに何が入ってるの? ゴルフクラブ?」

「ドングリはいいけど虫はいらないからな! 採ってくるなよ! フリじゃないからな!」

「あとユージが食べた赤い茸もね!」


「……薄々、薄々気づいている。だが一応教えてほしい。ドングリ博士、そのバッグに入っているのは?」


 騒がしいメンバーをよそに、硬い表情で問いかけるクールなニート。

 ドングリ博士の生態といまの言葉を聞いて、中身は予想できているらしい。


「これ? 人類の叡智の結晶だよ。免許を取ってまだ10年経ってないから、ライフルじゃないんだけど」


 ジジッと音を立ててジッパーを開くドングリ博士。

 中から出てきたものを見て一部は息を呑み、アメリカ組は盛り上がり、クールなニートは予想通りだとばかりに頷き、ユージは目をむく。


「ユージ兄、あれはなあに?」


「アリス……えっと、なんて言ったらいいか。あの、ドングリ博士、それ……銃ですよね?」


 ユージの声が庭に響く。

 コテハン・ドングリ博士。

 自給自足を目指した男は、肉さえ狩猟で得ていたらしい。

 そして、キャンプオフに猟銃を持ち込んでいたようだ。

 もちろん、銃弾もまた。



「みんな、猟銃を見せてもらうのは後にしてくれ。では探索班はドングリ博士と物知りなニート、カメラおっさんを中心に頼む。いずれローテーションするから、探索したい者もいまはガマンしてほしい。郡司先生、いいですね?」


「……もちろんです。私が行っても足手まといですから。もちろんですとも」


 郡司、行きたくてしょうがないが理性が勝ったようだ。

 仕方あるまい。

 ほかの掲示板住人たちも、ファンタジー世界を目にしたいに決まっている。

 それでもみんなガマンしているのだ。

 いい大人がワガママを言うわけにはいかない。

 これまでとはもう状況が違う。

 ただ待てば、いずれ異世界を探索できるので。

 待つのも苦ではないだろう。


 ちなみに。

 コタローがワンワンワンッ! と吠えてアピールしていた。わたし、わたしもそとについていってあげるわ、しんぱいだもの、とばかりに。優しい女である。犬だけど。



「続いて開拓班だ。こちらのリーダーは、いままで周囲を開拓してきたユージが担当する。名無しのミートは補佐を、ほかはユージとミートの指示に従って欲しい」


「え? あの、俺? 本当に?」


「そりゃそうだよ、ここまで開拓してきたのはお兄ちゃんで、一番詳しいのもお兄ちゃんなんだから! がんばってね!」


「あ、うん、サクラ。みんなよろしく」


 ペコリと頭を下げるユージ。

 ユージが不安がるのも当然である。

 たしかにここ二年は外に出てアリスと一緒に開拓してきたが、ユージが他人と一緒に行動するのはひさしぶりだ。

 クールなニートはユージのコミュ力を考慮して名無しのミートをつけたようだ。英断である。


「みんな、草刈りぐらいしか経験者がいないんだし、最初は電動で練習するよ! 慣れてきたら混合燃料の方でいくから! ガソリンとか混合燃料、あんまり保たないんだよねー」


 宇都宮の大型ホームセンターで購入した物資も、この世界に一緒に来ている。

 チェーンソーも刈り払い機も芝刈り機も耕耘機も。

 どれも電動と、混合燃料で動くタイプの二種類ずつ。

 ユージのお金を使ったお大尽のお買い物だったが、無事に役立ったようだ。

 むしろ今となっては、もっと強力で大型のものを用意すればよかったと後悔されるほどである。


「それとユージ。探索班の目を抜けてきたモンスターがいたら、ユージを頼ることになるが……」


「あ、うん、ゴブリンとかオークなら任せておいて。リーダー役よりそっちの方が気が楽な……あ、ケビンさんが持ってきてくれた武器、みんなに配った方がいいかな?」


「それがあったか。ユージ、希望者がいれば貸してやってほしい。だが武器になりそうな物は購入してきたし、各自持ち込んでいるので問題はないだろうが……」


 クールなニートの言葉に、ユージはキャンプオフ参加者たちに目を向ける。

 180cmほどの金属の棒が6本。ホームセンターで買い占めたロングタイプのバールである。

 二股に分かれた農具・ピッチフォーク、杭を打ち込む大きな木槌、金属製で大型の関東で言うところのスコップ。

 みんな自慢げに掲げている。

 この世界に来られなかったらどうするつもりだったのか。完全に不審者集団である。職質即アウトである。異世界うんぬんの言い訳をしたら薬物検査コースだ。

 まあ武器は持ち込んだとはいえ、ユージに見せられた短槍や剣、弓を見てひとしきり盛り上がることになるのだが。


「それから修理班。ユージの軽自動車を直せるか、それと他の車に問題ないか確かめてほしい」


「りょーかい! でも趣味でイジってただけだから、あんまり期待しないように」


 ユージの車庫にあった軽自動車は動かない。

 掲示板上ではおそらくバッテリーが原因だろうと話されていたため、大型ホームセンターではバッテリーとオイル等を買ってきている。

 携行缶に入れるにしてもガソリンは持ち込める量が限られるため、タイヤなど大型のパーツは持って来なかったようだ。

 直せれば儲けもの、無理ならそれまで。

 どちらにせよガソリンが切れたら無用の長物なのだ。

 お大尽の買い物であっても、なんでも買えばいいものでもない。


 この世界に来たのは、人と物資だけではない。

 もし行けるなら有用だろうと、ユージの庭の中に止めていた車が三台。

 カメラおっさんのハイエー○と検証スレの動画担当のラ○ゴ、名無しのランク○である。


 でかい。

 まあ撮影班は仕事で使っていることを考えれば、機材の量からしてでかい車で当然なのだが。

 アシスタントを使うようなプロのカメラマンは、でかい車に乗っていることが多いのである。

 さすがにハイ○ースは珍しいかもしれないが、いなくはない。



「建築班。ユージとサクラさんからトイレやシャワーの利用はOKをもらったが、それでもこの人数に対してスムーズな利用は厳しい。みんなの働きは急務だ。名無しのトニーを中心にがんばってくれ。ああ、アリスちゃんも協力してくれるそうだ。よかったな。サクラさんはアリスちゃんについてやってください」


「アリス、たくさんおてつだいできるんだよ!」


「ふふ、アリスちゃんは偉いね。お風呂とトイレは大変だもんね、私もがんばるよ!」


「いいよっしゃあああああ!」

「よし、これで俺もがんばれる!」

「アリスちゃん、アリスちゃんが私と同じチーム……」

「え、マジで? コイツは探索班でいいんじゃね? いざって時は肉壁に」


「みんな張り切りすぎないでねー。休憩も入れるしローテーションもするから!」


 一番割り振られた人数が多いのは建築班であるようだ。

 キャンプオフでは、全員ユージの家の庭にテントを張って泊まった。

 一泊だからシャワーはなしで、トイレは簡易トイレで用を足す形だった。


 だが異世界トリップを果たした以上、この地で生活することになる。

 ユージの家にトイレとシャワーはあるが、一階と二階、それぞれに一つずつである。

 浴室の他にシャワールームがあるのは珍しいが、それでも30数人の使用には足りないだろう。

 宿泊はしばらくテントでするとして、トイレとせめてシャワーは急務である。



「最後に。俺と郡司先生、検証スレの動画担当、ジョージさんとルイスさんは情報収集のために庭で活動する。何かあれば声をかけてほしい。俺たちが集めた情報を元に、それぞれの家族や連絡を取りたい人になんと伝えるか、怪しまれない方法も含めて郡司先生と検討する」


 せっかくのファンタジー世界、外に行きたい郡司を止めたのは危険だからだけではない。

 元の世界では、キャンプオフに参加した30人が突然消えたことになるのだ。

 集団失踪事件と捉えられてもおかしくない。


 クールなニートと郡司は情報を集めて対処法を検討するらしい。

 ジョージとルイス、アメリカ組の二人は立候補によるものである。

 二人がいれば英語のテキストも問題ないし、ジョージとルイスはそれぞれ何やらツテがあるらしい。



「昼食後、この形で動くことにする。慣れたら人を入れ替えていくので、班分けが不本意であっても協力してほしい。安全で快適な異世界生活を送って、この世界を楽しむために!」


 クールなニートの声がけに、一斉にオーッ! と返して拳を突き上げる掲示板住人たち。

 なぜかアリスも一緒になって拳を掲げ、コタローはわたし、わたしも、とばかりに跳ねている。

 そして。


「な、なんか、すごいことになってるね……」


「ふふ、そうだねお兄ちゃん。でも……これでもう、お兄ちゃんは一人じゃないんだよ」


「……うん。そうだ、そうだね、サクラ」


 ちょっと引いていたユージは、サクラの言葉で微笑みを浮かべるのだった。

 庭に満開の桜が咲き誇る、三年目の春に。



次話からはこちらにのみ投稿します。

本編側のIF話は、11月中旬に削除します。

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[一言] 女の子が圧倒的に足りない…!!
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