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閑話6-0 第一回ユージ家跡地キャンプオフ part3

副題の「6-0」は、第六章プロローグの頃という意味です。

時系列として作中のほぼ一年前、まだ獣人一家を手配していない頃のお話です。

だいぶカオスなのでご注意ください。

 夕暮れに染まる宇都宮市郊外。

 ユージ家の跡地では、バーベキュー&キャンプの準備が着々と進められていた。


 発電機を動かし、相談しながらエアバルーン式照明と撮影用のライトを設置していくカメラおっさんと検証スレの動画担当。

 気になるのか、ジョージの友達でCGクリエイターのルイスが近づいて話しかけていた。拙い英語でなんとか会話を交わす二人。言葉よりも、セットした照明の狙いを読み取ってルイスも納得顔で手を差し出していた。握手を求めているようだ。光を扱う同業者として、どうやらわかり合えたらしい。ただ、握手の後に渡されたルイスのビジネスカードを見て、二人は拝み出さんばかりであったが。



 郡司先生とクールなニート、物知りなニートといった頭脳班は購入した物資の整理に取りかかっていた。というか、整理しなければバーベキューやキャンプをする場所が狭かったのである。


「家がある場所に置くのは避けましょう。転移した場合、位置が重なることもありえますから」


「では、サクラさんに聞いて立ち入り禁止エリアを定めましょうか。いつ行けるかわかりませんしね」


 いつ行けるかわからない、そんな思いから今も郡司先生は大きなリュックを背負っている。感化されたのか同様にリュックを背負ったまま行動する一派が形成されていた。

 立ち入り禁止エリアを定め、暇を持て余していた名無しの手も借りて物資が積み上げられていく。


「今夜異世界に行けなかった場合は、プレハブ物置を購入しましょう」


 そう呟く郡司先生。現実的なのかなんなのか、わからない所である。



 陽も落ち、エアバルーン式照明と中央に並べられたランタンに明かりが灯る頃、ようやくバーベキューがはじまった。


 4台の大型バーベキューグリルのうち、1台はジョージとルイスが占拠していた。ビール片手にただひたすら肉を焼き、周囲に提供している。ちなみにこの1台だけ、立ったまま焼ける高さがあるバーベキューグリルである。異世界でも使えるからいいだろう、というジョージの主張を飲んだアメリカンスタイルの大型グリルだった。


 4台のバーベキューグリルのほかに、1台は炭おこし用のグリルが確保されていた。担当しているのは名無しのトニーとミートである。汗だくになりながらも、キャッキャとはしゃいで木炭を投入していた。何が楽しいのか。火に魅せられた危ない男たちである。


 ちなみに第一陣が集まっていた午前中、郡司先生とサクラはユージ家跡地のお隣さんや最寄りの交番、消防署に挨拶にまわっていた。通報されないよう、あるいは通報されても問題にならないように根回ししていたのだ。


 4台のバーベキューグリルのうち、ジョージとルイスが占拠したものが1台。さらにもう1台、集団から少し離れた場所でひっそりと占拠されていた。物知りなニートと、洋服組の二人である。


 弱めの炭火に棒をかざし、ゆっくりと回している。焦げ目がついたらドロッとした液を棒の先にまんべんなく塗り、ふたたび火にかざす。

 バームクーヘンである。

 ちなみにこの作り方、層の数にもよるが完成まで3時間以上かかる。ただひたすら火と焼ける生地を見つめ、同じ作業を繰り返すのだ。もはや修練である。


「なんか落ち着くな」


「ああ」


「今日、来てよかったわ」


「俺も」


 ボソリ、ボソリと静かに会話を交わす洋服組の二人。暗い。だが、彼らの胸には確かに何かが生まれたのだろう。

 ちなみに発案者の物知りなニートによる蘊蓄(うんちく)、今でも有名な広島の洋菓子メーカーが日本で最初にバームクーヘンを作って売り出したんだ、という話は二人にあっさりスルーされていた。いいBGMではあるようだ。



 片隅でバームクーヘンを焼いている男たちを除いて、バーベキューは盛り上がっていた。話題はもちろん異世界に行ったらどうするかである。


 特に大それたことを考えていないのは、撮影班のふたりだった。当たり前である。異世界で撮影できたら、撮るものすべてが初物なのだ。画像と動画をアップしたら、結果として各賞を総なめし、イギリスの有名な放送協会もナショジオも三顧の礼で連絡して来るだろう。


 逆にテンションが高いのはジョージとルイスのチームだ。肉を食べ終えた二人はキャンプ用のイスに座り、足の間に180cmのバールのようなものを抱え込んでいる。気が早い。見敵必殺なのか。アメリカのオタクはずいぶん行動的なようだった。


 俺はアリスちゃんに会えればそれでいいや、だ、だいじょうぶ、あんまり近寄らないようにするから、服もたくさん買ってきたし、アリスちゃん喜んでくれるかな、などと話しているのは例の男である。どうやら積極的に接触する気はないようだ。だが危険性は否めない。異世界に行ったら、アリスちゃんに教えてみんなで注意を促そう。周囲の名無したちは、視線を交わしてそんなことを誓うのだった。


 これまでテンションが高かった名無しのトニーとミートのコンビは、なぜか静かになっていた。何やらブツブツ言いながら、手に持ったノートにひたすら書き込んでいる。時おり急に手を突き出すなど、ポーズの研究にも余念がない。どうやら異世界に行ったら魔法を使いたいようだ。詠唱を考えているのだろう。二人とも厨二病ノートの作成に余念がないようだった。


 ただ一人。


 ユージの妹、サクラだけが静かだった。


 友達の恵美とインフラ屋の地元チームは、家庭もあってすでに帰宅している。


 離れた場所でゆったりキャンプ用のチェアに腰掛け、ただ祈るように静かに過ごしていた。


 いや。


 隣には、同じようにチェアに腰掛ける郡司先生がいた。


 盛り上がるオフを横目に、チェアを並べた二人は終始無言のまま時おり手にしたビールを口にする。

 

 静かに佇む二人は、まるで異世界行きを神に祈っているかのようだった。




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