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復讐完遂者の人生二周目異世界譚【Web版】  作者: 御鷹穂積
昏天黒地、清福にて祓う
21/301

21◇英雄へ至る者、誅滅ス

 



 【黒纏】は、『黒』を纏うことが出来る。

 【黒喰】は、『黒』を飛ばすことが出来る。

 【黒葬】は、『黒』を伸ばすことが出来る。

 違いは、大まかにはそれだけ。

 ハナ以外の傀儡を併呑したのは、【黒葬】によるものだ。

 傀儡は生前の魔法やスキルを利用できるようで、その幾つかが幸助のものとなった。

 普段なら、気分がざわつくような結果だ。

 人から、何かを奪う行為に等しいと、悩むような。

 けれど、今、幸助の思考は不気味な程、クリアだった。

 いや、不気味などとは思っていない。

 とても、スッキリしている。

 なにをやればいいか、分かる。

 殺せばイイん、ダロ?

 眼前の、異形をサ。

「面白イよ人間ッ! 特にソノ眼だァ! 我ラが王、悪神サマにソっくリだヨ! 殺スノが惜しくナっチャウくらイに、闇ヲ湛えてイル!」

「キーキーうるせぇんだよ、耳に響くから黙ってろ」

 幸助が踏み込むと、七メートルはあった距離が零になる。

「命乞イが訊きタイのでハ? 本当ニ沈黙がオ望みカネ?」

「そうだな。精々囀ってろ」

 奴は数歩後退するだけで止まった。

 代わりに、幸助の進行上にハナが立ち塞がる。

 呑み込むわけにも行かず、幸助は急停止を掛けた。

 それに合わせ、ハナが炎で創り出した湾刀を、幸助に向かって振り下ろす。

「フンッッッ!!」

 それを、戦斧で受け止める者がいた。

「……心遣い、感謝する、友よ。奴を、頼めるか」

 タイガだ。

「任された」

 幸助は視線も向けずに通り過ぎる。

「ナニをソウ憤ルことがアる? 貴様モ、魔物を殺スだろウ? 生存競争に過ギナイじゃなイカ。一方的に正義を気取らレルのハ、甚ダ不愉快ダよ」

「お前は、殺しを愉しんでるだろうが。加虐に、喜びを見出してるだろうが」

 ソグルスは、まったく意味が分からない、という表情を作った。

「ダかラ?」

「むかつくんだよ」

「野蛮ナ動機ダ、品性を疑うネ」

「お前の狂気程じゃない」

「ふム。貴様との会話は盛り上ガらん。傀儡にシテしまおウ――【灼熱の洗礼を受けよ[スクルトア・ヴァ・サン]】」

 ソグルスから炎が発せられる。

 まるで、ダムの放水が如き勢いで、烈火が押し寄せる。

 回避では、タイガの方まで被害が及んでしまうだろう規模だ。

 幸助は【黒纏】と【黒葬】を同時発動。

 怪人と戦うバイク乗りめいた甲冑を装備し、突貫。

 『黒』は幸助のコートから広がるように、立体的に展開。

 決壊を堰き止めるかのように、炎の群れを受け止める。

「火加減が弱いんじゃないか、化物。こんなんじゃ、俺は燃やせねぇぞ」

「…………大層ナ口を利クじャなイカ、虚シイ前世を抱えテ来タ割ニ、慎まシサというモノを知ランようダねッ!」

 そう言って、魔法を連発するソグルス。

 しかし、幸助の心は冷め切っていた。

 クレセンメメオスよりは、おそらく強い。

 単純に、魔法が強力だ。

 しかし、これが本領では、ないだろう。

 ソグルスの本来の戦法は、傀儡術にある筈だ。

 強力な魔法で攻略者を殺し、それを傀儡にして、操る。

 パーティで攻略に来た場合は、タイガの時のように、強大な精神攻撃としても機能する。

 でも、それはもう無い。

 ソグルスは、確かに強敵だ。

 自然属性は無効。

 事象属性への耐性を持つ。

 だが、色彩属性に対しては、何ら対策を持たない。

 なにより、幸助はクレセンメメオス戦で、対『火』属性の補正を受けている。

 だから、熱くないし、痛くないし、怖くない。

「おイおイ、男に近づカレても、嬉シクなイんだガネッ!」

 その声には、焦りが滲んでるように聞こえた。

 少しだけ、胸がすく。

「そりゃいい。嫌がる顔を見せてくれよ」

 炎の壁を抜け、ソグルスを捉える。

 奴は後退を続け、攻撃を器用に回避していたが、やがて、立ち止まった。

 正確には、後ろに下がれなくなった。

 壁だ。

 そこで初めて壁の存在を意識したのか、驚く奴の右腕を肩から切断し、捕食する。

「ア、がァああああ!? ナニをナニをナニを、ナニをスルんダ!」

 左腕を肩から切断し、捕食する。

「待テ待テ待テ待テッ!」

 右足を付け根から切断し、捕食する。

 奴が立っていられなくなり、倒れた。

「グふッ、オいオい、話ヲ、話をシヨうじャなイカ!」

 左足を付け根から切断し、捕食する。

 俯せだったのを、蹴って仰向けに変える。

「あァアアアアアアアアアアアアアアモウッ! 死ネ! 死ヌンだ速やカニッッ! ――【焔槍にて火葬を執り行う[ギルク・ドボルゼア・ロ・ファオ]】ッッッッッ!!!」

 それはおそらく、命を燃やして発動する魔法だったのだろう。

 奴の胴体が、そのサイズを見る見る内に小さくし、子供の上半身程度に縮めた。

 代わりに灼熱の槍が出現し、幸助の胴体を貫く。

「ハハッ、油断シタねェ人間ッ! 終ワリだヨ? 貴様ラの肉体は、脆弱だカラ………………ね、ェ?」

 奴の表情が固まる。

 【黒纏】が槍を包み込み、呑み込むまでは、まだ想像出来ただろう。

 だが、その傷が、一瞬に近い速度で治癒したのを見て、ソグルスは、閉口した。

「…………あ、あァ……そウか。『黒』…………貴様、クレセンメメオスを、そノ、魔力治癒特性ヲ、喰ラッたノか」

「そうだよ。今からお前も、消化してやる」

「ふ、フふフはッ! イイやァ? ワたくシの負ケだ。恐れイッたヨ、人間。――だがネ? 貴様モ、此処で死ぬ――【天より灼熱を招き、都市すらも焦土と化せ[ソグルス・ドゥエロス・ヌメオラゼクス]】」

 一瞬で、フィールド内の温度が爆発的に上昇。

 原因は単純。

 天井の太陽が、落下を始めたのだ。

「前ノ守護者は情けナクも魔法具を奪ワレた。だカら、そウはサセヌよう、魔法具すラも溶かし尽クス自爆魔法が用意サレてという――わ、ケぇ」

 その声は、途中で掠れた。

 幸助が、ソグルスの胸に剣を突き刺したからだ。

「なら、死ぬ前にお前を殺しとかなきゃな」

 初めて、その表情が、恐怖に歪む。

「あぁ、それが見たかったんだ。出来れば、命乞いも聞きたかったんだけど」

「…………正気じャ、なイ」

「だから?」

 頭部まで刃を切り上げ、殺す。

 そして、捕食。

 何かを得たようで、グラスに文字が流れるが、それは目に入らなかった。

 ――【状態】が『精神汚染1.966』となりました。

 ――【魔法】に【黒迯夜[くろによる]】が追加されました。

 効果を確認。

 ――精神汚染加速と引き換えに、熟練度を無視した捕食を可能とする。

 今の実力では、太陽を呑み込めない。

 逃げたとしても、その被害から逃れられる保証は無い。

 なら、喰らうしか、無いだろう。

「クロッ!」

 少し離れたところに、タイガが居た。

 人の生首を、抱えている。

 ハナのだろう。

 果たして、彼自身の手で解放出来たのか。

 それとも、幸助がソグルスを殺したことによる、傀儡化の解除なのか。

 後で訊いて、場合によっては謝ろう。

 幸助は、タイガに微笑みかける。

「【黒迯夜】」

 ――【状態】が『精神汚染3.111』となりました。

「どうでもいいから、アレを呑み込めよ」

 まるで、地の底から溢れ出してきたような、異様。

 止めど無く、黒が噴出しては、太陽へ向かう。

 侵す。

 急速に、迅速に、神速と言える速度で、太陽は黒に染め上げられた。

 やがて、漆黒となり。

 消えた。

 黒も同時に、消える。

「…………何をした、クロ」

 タイガが、現実を疑うような目で、こちらを見ている。

「そんな目で見るなよ。助かったんだからさ」

 幸助は笑った。

 笑ったつもりだった。

 …………あレ。

 笑うってなんだっけ?


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