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Smile Japan

満月

作者:大橋 秀人
どうしてこんな寒い時期にキャンプになんて来ちまったんだ。

テントの中で寝袋に入れば寒くないなんて、誰が言った?

凍えそうだ。

ちっとも眠れない。

それに、なにやら外が騒がしい。

どうせ男だらけだし、猥談で盛り上がっているに違いない。

しかし寒いな。

なんだかテントのすぐそばでガサガサ音がするし。

別に怖いって訳じゃないが、外には火が焚かれているようだし、出て行ってみるとするか。


☆★☆★☆★


「おい君たち、まだ寝ないのかね」

「馬鹿言え、今回のキャンプはこれからが本番なのだよ」

焚き火を囲む三人の男たちの間には、如何にも中年が好みそうなつまみが置かれていた。

例えばそれはあたりめであり、スモークチーズであり、ビーフジャーキーである。

彼らはそれを、何でもかんでも炙ってからしゃぶる。

そして酒はといえば、洒落ていない酒なら何でもあった。

それはビールに日本酒、焼酎(芋)である。

火に当てられたのか酒が回りきったのか、三人は一様に頬を染め、大いに出来上がっていた。

「君は星に詳しいかい」

呂律の怪しい声が愉快げに向けられる。

薪が静かに爆ぜる音と、キャンプ場を囲む木々の無音の大音量。

大の大人4人のムサい顔だけが、暗闇の中に赤黒く浮き出している。

独特の雰囲気が辺りを包んでいた。

だからじゃないが、俺は折りたたみチェアに座り、火に手を翳しながら、

「僕は地球に住んでいて、それは君達も同じ」

なんて無意味なことを言えた。

「で、空には・・・」

そう言って徐に空を見上げて俺は思わず、

「驚いたな」

なんて声をあげちまったんだ。

なぜならそれは、

「こんなにでっかい満月、始めて見た」

からだった。

「でしょでしょ」

俺以外の三人は愉快そうに互いの顔を見合わせる。

「今日はここ二十年で最も月が地球に近づく日なのさ」

夏だったたら怪談でもできるくらいの絶妙な赤い顔を炎に揺らめかせながら、メガネの野郎が得意げに言う。

「知らなかったでしょう」

もう一人のメガネもそう言う。

「でしょでしょ」

もう一人のメガネも。

「今回のメインは、満月観賞なのだよ、君」

怪談顔のメガネが可笑しな顔をこちらに向けながらビーフジャーキーをチュウチュウしゃぶっている。

「だからこんな標高の高いところにきたのだね」

その問いに、他の二人も何かしらをしゃぶりながら頷いてみせた。

「ところで、星と言えば、何かね、君たち、星座には詳しかったりするのかい」

俺はコップになみなみ日本酒を注いだ後にそう尋ねた。

「わざわざ夜中にこんな寒い中でキャンプするくらいだ、さぞかし通がいるのだろうね」

いないみたいだからわざと声を大にしてみる。

無言であたりめやらをしゃぶる三人の姿が、悔しげに見えて可笑しいものだった。

そんなこんなで一人が手にしていた図鑑と満天の星空を交互に見ること小一時間、俺たちは酒を酌み交わしながらああでもないこうでもないと星座探訪とやらに没頭したのだった。

「そうだ、あそこにモヤモヤした星の固まりが見えるかね」

怪談顔が指差す図鑑と夜空を見比べながら俺は頷く。

「あれを星団というのだが、では、それを囲むように小さな四つの星は見えるかな」

それは星団がわかれば容易に見つけられた。

「あれはかに座の甲羅の部分に当たるんだ」

俺は酔っ払って豊かになったイマジネーションで、その星団を中心に、夜空に巨大な蟹を思い描いた。

「ギリシャ神話によると蟹座は、豪傑ヘラクレスと戦った友達、大蛇ヒドラのピンチの際、自分の小さな姿を省みず、ヘラクレスに向かっていった勇気と友情を象徴する蟹の星座らしい・・・」

そんなことを語った後、怪談顔は我に帰って咳払いをした。

「勇気、友情・・・」

焚き火を囲む四人が少しの沈黙の後、一斉に吹き出した。

「こそばゆい!」

「痒い!」

「におう!」

怪談顔以外の俺を含む三人は口々にそんなことを言う。

「でも、君たちが大きな困難にぶつかった時、僕はきっと助けになりたいと思うだろうよ」

そんなことを真顔で言うもんだから、俺は怪談顔に自らのコップを掲げてみせた。

そしたら他の二人も真似したみたいに掲げてみせた。

挙句に怪談顔までコップをもったもんだがら、俺は、

「乾杯」

なんて言ってみた。

そしてやっぱりみんな、噴き出した。

くだらない夜だった。

くだらないことに腹の底から笑えた。

「そういえば、月、一番近づくの、夜中の三時くらいらしいですよ」

「それまで起きていられますかね」

「うーん」

まあ、こんな感じでまた夜が明けて、朝がくるんだ。


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