雪 〜コナン哀ものがたり・番外編3〜PDFで表示縦書き表示RDF


ラブラブなコ哀です。苦手な方は、ご遠慮ください。少年探偵団と阿笠博士が少し登場。
雪 〜コナン哀ものがたり・番外編3〜
作:サブラピッド


 賑やかな声が阿笠邸に響いている。12月半ばのこの日、コナンと哀、光彦に元太、歩美といつもの少年探偵団のメンバーがクリスマスパーティーをしていた。主催は、家主の阿笠だが、料理やプレゼントの用意などは、哀と歩美の指導のもと、子供たちがやっていた。

 いつものように、賑やかに騒いでいる3人を見守るようなコナンと哀。この年、もう小学6年生になっている。
他の3人も、体も、心も随分成長している。そして、コナンと哀の仲を冷やかしたりすることも多くなり、実際の年齢では、10歳も上のはずの2人でも、時々、顔を赤くさせることも多くなっていた。

「あっ!雪だ!」

 歩美の声にみんながリビングの大きな窓を見る。すでに、時刻は夜6時を回り、暗い空から、白い雪がリビングの窓明かりにうっすらと照らされて落ちている。
 見る間に、その数が増えてきた。

「ほんとですね。結構、大粒で、たくさん降ってますね」
 光彦が言う。

「今日は、寒かったもんな」
 元太が光彦の後に立って言った。

「じゃ、そろそろプレゼント交換しよう!」
 歩美がそう言って、集めたプレゼントを無作為に渡し、みんなに回すように促した。

 今日は、阿笠が3人を車で送って行くことにしている。多少、遅くなることは、それぞれの親に連絡をしてあったので、安心して騒げるためか、いつも以上に3人のテンションが高い。

 コナンと哀にしてみれば、もう5年以上も彼らと付き合っていることになる。最近は、驚くようなマセたことを言うようになってきたし、いろいろ知識も増えてきた。コナンと哀にとって、子供らしい成長を見せる彼らと過す時間は、次第に楽しく、かけがえのないものになってきていた。

 途中、哀は、トイレに行こうと席を外した。
 トイレから出て、リビングへ行くまでの廊下、大きな窓に映る自分の姿の向こうに雪が落ちている。
 それを見ていると、哀は、フト、あの日を思い出した。

 5年前、杯戸シティホテル。雪が降り積もる中、ジンに撃たれたこと。ピスコに拳銃を向けられたこと。もう少しで殺されるところだった自分を助けてくれた彼。

 以前は、眠っているときの悪夢として、または恐怖と共に思い出していたこの事件も、今では、自分でも驚くほど冷静に、過去の思い出として心に映すことができる。無論、いい思い出であるわけはないが、あの日、彼が貸してくれたジャケットのぬくもりと、自分を背負う彼の背のぬくもりは、哀にとってかけがえのないものになっていた。

 そして、その同じぬくもりが今、哀を包んでくれている幸せ。いろいろな想いがめぐり、哀は、足を止め、しばらく雪を見ていた。

「こんなとこにいたのか」

 突然、聴きなれた彼の声がした。あの日、自分を助けてくれた彼、暖かい背中の主が哀の後に立っているのが窓に映っている。

「どうかしたのか?遅かったから、様子を見に来たんだけど・・・何か、考え込んでいるようだったけど?」

「ちょっとね・・・雪を見ると、どうしても、思い出しちゃうの。杯戸シティホテル・・・もう、5年たったのね」

哀は、後に立っているコナンに振り向きもせずに言った。

「ああ。あの時は、必死だったな・・・正直、あの時、おめえのことを好きじゃなかったかもしれねえ。でも、死なせたくなかった・・・何とかしてやるって、約束したばっかだったしな」
「今は?」
 哀が少しすねたような声で訊いた。

「愛してるに決まってんだろ」

 哀は、窓に映るコナンをずっと見ていた。彼は今、照れたような顔をしているが、ガラスに映る姿では、顔が赤いのまではわからない。そして、コナンも、窓に映る哀を見ている。 

哀は、スッと、倒れこむようにして体を後に傾け、コナンに体を預ける。その華奢な体を受け止めたコナンは、後からそっと、哀を抱きしめた。
 自分と、自分を受け止めた彼を映す窓を見ながら、哀は、自分を抱きしめる暖かい腕に、手をかけた。
 自分と彼を移す窓の向こうには、白い雪が舞っている。

「哀・・・」

 コナンが愛しげに名前を呟くと、哀を自分の方に向かせて、肩を抱いた。さっきまで、窓に映るお互いを見つめあっていた2人が、直接みつめあう。
 哀の手がコナンの胸に当てられると、ふたりの唇が重なった。

「やったー!」
「バッチリ、撮れましたよ!」

「!」
 突然、フラッシュが光り、声がした。コナンと哀がハッとその方を向くと、歩美達が二人を見てニヤニヤしている。光彦はデジカメを手にしていた。

「光彦、見せてみろよ・・・おー、バッチシ撮れてんじゃん!」
 元太がデジカメを覗き込んで言う。

「タイミング、バッチリでしたね。我ながら、うまく撮れました。お二人、大人っぽいですから、ホント、決まってますよ。写真って、モデルも良くないと、こうは綺麗に撮れません」
 
光彦が一人納得した表情でいると、歩美も横からその画像を覗いて、コナンと哀の方を見ると、
「うん!バッチリ、コナン君と哀のキスシーン・・・綺麗だね。まるで、映画のラブシーンみたい」
 ピースサインを二人に向けながら言った。

「哀、携帯に送ってあげるね。コナン君にも・・・後、蘭さんや園子さんにもメールで送っておくかな?」

 キスしたままの体制で固まっていたコナンと哀だが、ハッと我に返って、慌てて離れた。

「おい!おめえら!・・・その写真、消せ!」
 コナンが光彦の方に行くと、三人はコナンから逃げておどけてみせ、

「だめー・・・博士、みんなに送るから、パソコン貸して」
 そう言う歩美を追いかけようとするコナンを、元太が羽交い絞めにして阻止している。

「してやられたの、コナン君」
 阿笠もニヤニヤして、歩美にパソコンを貸している。

 元太に抑えられたコナンが哀の方を振り向くと、
「おい!おめえも止めろよ!」
 と、言ったが、哀は、クスクス笑っているだけだった。

「こんなとこで、不用意にキスする方も悪いわね」
 他人事のように言ったので、コナンは、ため息をつき、肩をすくめるしかなかった。

「歩美ちゃんが、お二人がいなくなったから、きっと、どこかでキスでもしてるんだろうって・・・当りでした」
 光彦が笑って言う。

「で、後学のためにみんなで見学しようってな」
 元太がコナンの横腹を肘で小突きながらニヤニヤして言う。

「写真も押さえたし・・・コナン君と哀、当分、私達の言いなりね」
 博士にパソコンを借りて、写真をどこかへ送ったらしい歩美も意地悪い笑いを浮かべている。

「・・・おめえら・・・」

 絶句しているコナンと深いため息をつく哀。
 さすがのコナンと哀も、今回ばかりは、この年の離れた友人たちに完全にやられてしまった。

*****

 その夜の雪は、見る見るうちに積もった。久しぶりの大雪に、さすがに阿笠も車を出すことができなくなり、全員、阿笠邸に泊まることになった。

 コナンと光彦、元太は、2階の部屋で寝ることになり、歩美は、哀と一緒に彼女の部屋で寝ることにした。

「ごめんね、哀。ほんとは、コナン君と一緒に寝たかったでしょ?」
 歩美がニヤニヤしながら言う。
「そんなこと言うなら、私の部屋に入れてあげないわよ」
「ごめーん。哀さんの部屋に泊めてください」
 手を合わせて歩美が言う。

「さあ、どうしようかしら?」
 哀が意地悪気な表情で言うと、
「哀のいじわる。さっきの写真、クラスの全員に送ってやるから。それから、プリントして、町中に張り出してやるんだから」

「降参。わかりました、私の部屋で寝てください、歩美さん」
 哀は、頭を下げて頼むマネをして、歩美を上目で見る。そして、二人で笑い合った。

「コナン君。寝るんなら、わしの部屋でもいいがの」
 阿笠は、一人で寝るのは寂しくなったのだろうか、コナンたちに言った。
「いや・・・三人も寝れねえだろ?2階の部屋、借りるよ」
 コナンは阿笠に応えた後、光彦と元太に囁いた。

「博士と一緒じゃ、イビキで寝られねえからな」
「そうですね」
「博士のイビキ、半端じゃねえもんな」
 光彦と元太も頷いた。

*****

「ね、哀。来年は、中学生だね。私ね、哀と友達になれて、ホントによかったって思う。それに・・・哀さ、コナン君と付き合うようになって、よく笑ってくれるようになったし、今ね、歩美、ホントに幸せなんだ。哀のお蔭だよ」

 哀の部屋で、哀と並んで寝ている歩美が言った。

「そんなことないわ。私の方こそ、あなた達に感謝しているわ。私のような素直でも、可愛くもない女を仲間にしてくれたんだもの」

「ううん。哀は、十分に可愛いし、綺麗だし・・・私の自慢だよ、哀が友達だっていうの。コナン君と光彦君、元太君もね」
「ありがとう、歩美」

「えへ・・・ねえ哀、中学に行っても、友達でいてくれるよね」
「もちろんよ」
「ところでさ」
 歩美が上半身だけを起こして、哀の方へ向いて言う。

「哀とコナン君ってさ、いつもあんな風にキスしてるわけ?」
「は?」

「だって、ホント、映画のシーンみたいだったから」
「あなた達、どこから見てたの?」
 哀は、少し慌てて訊いた。

「哀がコナン君にもたれ掛ったところから・・・」
「そう」

 哀は、その前の会話を聞かれていなかったことにホッとした。
 その反応に歩美は怪訝な表情をしていたが、

「何?・・・なんか聞かれたくない話でもしてたわけ?」
「え?・・・あ、そんなことはないけど・・・」
「そおかな?・・・ま、いいけど。哀とコナン君のヒソヒソ話って、今に始まったことじゃないもんね」

 哀は、そう言われると、一言もなく、ため息をつくだけだった。

 歩美には、わかっている。いや、感じているといった方がいいだろう。コナンと哀から聞かされたわけではないが、二人が何か重いものを抱えていることを。

 二人から感じる独特な空気。ただ、仲が良いとか、付き合っているとか、そういうものだけではない、二人だけの関係。そこには、誰も入れないということも。

 でも、自分は、二人の親友であることは間違いない。コナンも、哀も、自分や光彦、元太のためであれば、危険も顧みず、助けてくれるだろう。そして、それほどの友人関係であっても、いや、友人であればこそ、二人には、二人だけにしか、わからないものがあるのだということが、よく理解できる。5年も傍にいて、付き合ってきたのだからこそ、それが感じられるのだ。

 元々、二人が身にまとう雰囲気は、大人たちも一目置くような、自分たちと同じ小学生ではないと、感じさせるものだった。どこが違うといわれると、説明するのは難しいが、でも、明らかに違うものを持つ二人。そして、二人が最も信頼しているのは、周りの大人たちではなく、それはお互いのこと。コナンが最も信頼しているのは哀であり、哀が最も信頼しているのはコナン。

自分から見れば、何でも知っていて、何でも出来るようなコナンが、唯一、物事を尋ねたり、相談するのは、哀だけ。そして、いつも冷静で、博識な哀が、唯一、その瞳を揺らし、頼っているのは、コナンだけ。そこには、他の人間には見せない、お互いだけが見せる真の姿があるように思える。

二人の間にある絶対的な信頼関係は、お互いを理解していなければ生まれない。二人の傍にいて、二人を見てきた歩美には、そのことが理屈ではなく、感覚でわかっていた。そして、その二人の姿を見て、共に行動してきたことは、歩美自身をも、大きく成長させていた。

「哀、私ね、哀とコナン君が大好き。いつまでも仲良くね。仲の良い二人が大好きだから・・・」
 歩美は、明るく哀に言う。

「ありがとう、歩美」

 哀は、実際は10歳も年の違う親友に、心から感謝して言った。

*****

「でもよ。羨ましいよな。灰原って最近綺麗になったし、前に比べたら、可愛くもなったし・・・コナンって、いいよな」

 三人分の布団を敷いた部屋で、パーティーの料理の残りをしつこく食べている元太が心底羨ましげに言った。

「そうですよね。灰原さんって、3年生の時に長期入院してから、随分、表情が柔らくなったし、笑うことも多くなりましたしね。結構、他の男子でも、灰原さんが好きだっていう人、多いですよ」

 光彦は、まだ食べている元太を半ば呆れて見ながら言った。
 この二人は、以前から歩美に好意を持っていることは、コナンもよく知っていた。そして、勉強家で、同年代では博識の光彦が、さらに博識の哀に尊敬と思慕の念を抱いていることも。

 光彦も感じている。コナンと哀には、普通の小学生とは違う何かがあることを。二人の間には、付き合うというようなレベルを超えたものがあるということを。

 言葉にしなくても通じる何かを持つ二人。お互いを信じている二人。そして、何か深い哀しみ、辛さのようなものを共有している二人。

 3年生の時、コナンと哀が長期入院して半年も学校を休んだ後、コナンと哀の全快祝いとクリスマスパーティーを兼ね、阿笠邸にみんなで集まったことがあった。

 少年探偵団と、東尾マリアなどクラスメートが数人、蘭と園子、佐藤刑事と高木刑事、大阪の服部平次と遠山和葉もやってきて、賑やかに過した。光彦にとっても、楽しい思い出になっているこのパーティーだが、今でも、ドラマのシーンのように印象に残っている場面がある。

 蘭が哀に声をかけ、二人でしばらく話しているとき、その様子をコナンが見つめているのに気づいた。コナンは、その時、フッと僅かな笑みを口元に浮かべた後、辛そうに俯いた。そして、そのことに気づいた哀がコナンに向けた、包み込むような優しい眼差し。

 しばらくして、哀は、蘭から離れ、コナンの傍に行くと、母親のように、そっとコナンの頭に手を触れ、微笑んでみせた。その笑顔にコナンも微笑んでみせる。そして、コナンと哀は、園子や佐藤刑事と笑顔で話している蘭を優しげに、それでも、どこか哀しげに見つめていた。

 コナンと哀、蘭の間に何があるのか、それはわからない。でも、10歳も年上の蘭を気づかう二人の眼差しは、明らかに小学生のものではなかった。わかり合った二人にしかできない表情と、言葉なき会話。この時、光彦は、二人の間には、自分の知らない何か、二人だけが共有している何かがあることを感じていた。

「コナン君、灰原さんのこと、大事にしてくださいよ」
「ああ?どうしたんだよ、急に」

「だって、灰原さんて、初めて会った頃は、どこか哀しそうで、辛そうで、寂しそうでしたけど、今は、よく笑っていますし、以前のような表情は、ほとんどしなくなりました。それって、コナン君と付き合ってからでしょ?だから、その笑顔を守っていってほしいって思うんです。もう、寂しそうな彼女の顔、見たくありませんからね」

「光彦・・・」
 コナンは、この真面目な、少し大人びた友人の、哀への想いを知っている。

「ああ。アイツは、もう大丈夫だよ。以前のアイツに戻ることはねえさ。そしてさ、それは、俺だけじゃなく、歩美や元太、光彦のお蔭でもあるんだぜ。おめえ達がアイツを友達、仲間と思っていてくれる限り、アイツは、いつも笑ってくれるさ」

 このコナンの言葉に、光彦は、やっぱりコナンには叶わないと思った。そして、哀がコナンを好きになった理由が、改めてわかったような気がした。

*****

 光彦と元太が眠ったのを確認すると、コナンは、部屋を出て、1階のリビングに戻った。灯りを付け、キッチンへ行ってコーヒーを入れる。切ってあった暖房を入れ、コーヒーを持ってソファに座った。

「眠れないの?」

 コナンが声のする方に目をやると、哀が階段を降りてくる途中だった。

「ああ・・・おめえもか?」
「ええ。まあ、まだ11時前だもの」
「コーヒー飲むか?」
「ええ、頂くわ」

 哀がソファの傍まで来る。
「待ってろ」
 コナンは、そういってキッチンへ向かった。

 コーヒーカップを前に、並んで座っている二人。とくに話をするわけでもなく、ただ、まだ降り続いている雪を眺めていた。
 何分間、そうしていただろうか?ふと、コナンが口を開いた。

「あいつら、子供だと思ってたけど、随分、成長しているな」
「え?」

「光彦や元太たちだよ・・・さっき、光彦に言われたんだ。おめえを大事にしろって。もう、前みたいな寂しい顔や辛そうな顔をさせるなって。アイツも、おめえのことが好きだかんな。いろいろ、気づかってんだろう」

「そう・・・歩美も言ってたわ。あなたと仲良くしろって。私達、彼らに随分心配されてるのね・・・フフ・・・どっちが子供なんだか・・・」
 哀は、おかしそうに笑う。

 最近は、こんな優しい、素直な笑顔をしてくれるようになった哀。この笑顔は、何より、コナンに安らぎをくれる。

「そだな」
 コナンも笑う。

 この笑顔は、哀の大好きな笑顔。哀に生きる希望をくれた、幸せをくれた大事な人の笑顔。

 哀がコナンの肩に頭を預ける。そっと、コナンの手が哀の肩にまわされた。
「哀、笑っていてくれよな。俺の傍で・・・」
 コナンが呟くように言った。

「あなたと居れば、笑っていられるわ・・・ただ、傍にいると、事件に巻き込まれるから、少し自重しようかとは、思うけどね」

 コナンは、自分の肩にある哀の頭を起し、少し意地悪く笑うその顔を軽く睨む。
「可愛くねえな」
「あら、今頃わかったの?」
 そう言って、見つめ合って笑う。
 そして、目を閉じ、お互いの唇を近づけた時、コナンが目を開け、その動きを止めた。そして、当たりを見回す。

 その気配に目を開けた哀が、怪訝な表情を浮かべて訊く。
「どうしたの?」
「アイツら、またカメラ持って、どっかから覗いてんじゃねえかと思って・・・」
 そのコナンの言葉に、哀も当たりを見回す。

「大丈夫みてえだな」

 二人で、顔を見合わせて、静かに笑った。そして、もう一度目を閉じ、今度は、そっと唇を合わせた。


なんと、季節はずれな話しなんだ!
投売りセールで買った「コナン」TVシリーズのビデオ、「黒の組織との再会」を観て、思いつきました。

例のごとく、一気に書いたので、自信はありません。
最後まで読んでくださった方に、感謝!です。













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