07 発動
「っく……そぉ!」
茜色の銃弾が交差する、白の空間。
その中心に浮かび、両手の小機関銃の引き金を、休み無く引き続ける火昏。
「どうしたどうしたっ! こんなんじゃ評価は『E』だぜ、二人とも!」
走る俺の後ろを追いかけるように、パララララララと射撃音がする。足元に、銃弾の衝撃で砕けた弾と床の破片が当たる。
冗談じゃねぇぜ!
「火昏ぇ! テメーこのやっろぉ!」
「吼えるだけじゃあ評価は『E』……いや、『F』だな」
容赦なく機関銃を乱射する火昏。
殺す〜っ!
「っていってもさぁ、どうすんのさ!!!」
「瀬奈うるさい!!! 舌噛むぞ!!!」
「ひでぇや……」
二人かたまっていると集中射撃されるので、俺たちはばらばらに走り回りながら大声で喋っている。だから、瀬奈の嘆きも聴こえない。
ていうか、そもそも銃声でほぼ何も聴こえません。さっきの会話は、奇跡的に交わせたようなもんです。
――おいおい、こんなんじゃチュートリアルにもならないぞ? ほぉら、はやいトコ、超能力を遣ったほうがいいんじゃないのかい?――
紅く輝く弾丸が、超速度で追ってくる。響く銃声もハンパじゃない。でも、火昏の声はなぜかクリアに聴こえる。(それがまたムカつく)
――あんまり待たすなよ〜。俺は早くお前の採点がしたいんだ。高評価欲しかったら超能力を遣え。俺に見せつけろ――
耳の奥に直接流れ込んでくるような火昏の言葉は、俺の何かに火をつけた。
そもそも、超能力ってなんなんだ? 遣ったらどうなるんだ? 俺の心に疑念と好奇心が生まれる。
俺だけの超能力? 覚醒した超能力? 世界を救うことの出来る超能力?
胸の中に疼くわくわく。ああ、俺壊れた、と自覚した瞬間――。
「うぐっ!」
ふくらはぎに走る焼けるような痛み。揺さぶられる視界。前に出るはずの左足が動かない。俺は無様にスっ転び、顔面から胸までをしたたかに打ちつけた。
「おっと、あんまりじれったいもんだから、つい」
ぶっ倒れた俺を見下ろした、ふざけてるような火昏の肉声が聴こえる。
「てめっ……!!」
罵声の一つでも飛ばしてやろうと顔をあげ、俺は凍る。
「あいにく、時間が無いんだよ」
俺の顔面と機関銃の銃口がにらめっこ☆
……ナンノジョーダンデスカ、コレハ?
「幸光!」
瀬奈が叫ぶ。しかしその声も
「おっと、瀬奈クンはちょっと黙ってな」
という火昏の機関銃に遮られる。
「瀬奈っ……!」
「さぁ早く。その右手をかざせ」
いつになく冷酷な顔の火昏。銃口とにらめっこ中の俺は逆らえない。薄く発光してる右手をゆっくり挙げ、じっと見つめる。
「念じろ。救済の力よ、我を救えと……」
言われるままに、俺は思う。
――俺の超能力は、俺を、瀬奈を、助けてくれる?
――俺の超能力は、俺達を護る壁になってくれる?
しかし、何も起こらない。俺の視界には、冷たい表情をした火昏と眼を閉じ手をかざす瀬奈と、虚しく光る俺の右手だけが見える。
「――何も起こらない、か」
火昏の声。ジャカ、と不気味な音が突きつけられた機関銃からした。
俺はうなだれる。ああ、俺、撃たれるのか……。あっけないな、人なんてさ……。
「――時間切れ、か。覚醒時の手ごたえはあったんだが……全ては遅かったか。力を失いし救世主……実に惜しい。俺達はまた、世界が滅ぶのを見守るだけか……」
思いもかけない、意外なまで寂しく悲しそうな声。力なく顔をあげると、火昏はありありと落胆の表情を浮かべていた。
「仕方がないが、帰って頂こう。もう、全ては終わった――」
火昏の指が、銃の引き金にかかる。その一連の動作を、俺は妙に冷静に観察していた。
これから撃たれるってのに、俺、何してるんだろう……。
引き金にかかった指に力がこもる。微かな金属音。
「――グッバイ」
刹那――。
「幸光ーーーっっ!!」
絶叫と共に、目の前の火昏が吹っ飛ぶ。
そして、その向こうには、激しく光る両手をかざした瀬奈がいた。
「え……?」
呆然としている瀬奈。自分がしたこと、わかってないの?
「わかんない……。幸光が撃たれるっ! て思った瞬間に、こう、自然に手が持ち上がって。そしたら、火昏の背中の空気が歪んで、火昏が吹っ飛んだ」
呆けたような言葉。いったい、どういうことなんだ?
「――それは、サイコキネシス。PKとも言うな。物理的な力に頼らずに物体に物理的影響を与える能力のことだ。今のは、俺の背中の空気を圧縮させて、一気に弾けさせて飛ばす力を与えたんだろうな」
弾むような火昏の台詞。俺達がバッと振り向くと、瀬奈の背後にヤツはいた。
「そうか、誰かを護るため、まさにそのとき超能力は解き放たれるのか。なら、幸光クンも同じ状況になれば、超能力が開放されるかもしれないな」
ヤツの銃口は、まっすぐ瀬奈を狙っている。
ヤバイ……ヤバイっ!
「解き放て、その力を!」
スローモーションのように、光る銃弾は飛び出した。
瀬奈が……撃たれる?
瀬奈が……死ぬ?
瀬奈を……助けなきゃ!
そして、それは突然に現れた。
何かが胸の奥から膨れ上がる。共鳴したかのように光があふれ出る右手。
脳裏に浮かぶ、俺達を護る巨大な壁の映像。
ぶるぶる震えるその手は、火昏に向かって大きく開かれた。
「――出でよ、黒曜壁!!」
足元が震える。大地が揺らぐ。
そして――。
古代遺跡にあるような漆黒の光沢を放つ分厚い巨壁が、轟音と共に俺たちと火昏の間の大地からそびえたった。
その巨壁によって、瀬奈に向かって放たれた銃弾が全てはじかれる。
「……覚醒、完了……幸光クンの超能力、アポーツ……」
疲労感と達成感の入り混じった火昏の声が、壁の向こうから聞こえた。
でも俺の記憶はそこまで……俺は、また白い闇に飲み込まれた。
だから、その後のことはわからない。俺達の評価が、なんだったのかも。 |