第四話「大竜巻と、【疾風燕返し】に足りないもの」
「と言うか、地属性の当主の家まではこっからどんくらいあんだ?」
「開始早々質問は止めろ」
せっかく提示してやった話題を軽く流したフィリウス。今までの話を読み返せば質問文で始まってる回も多いだろうに。
「う〜んと、確か一週間くらいかなぁ?」
「んで、フィリウス。どんくらいかかるんだ?」ミラさんの距離的時間感覚はおかしいのは既に分かっている。ミッシェルは方向感覚はゼロだったが、ミラさんは別の意味で道案内ができない。
「すぐ近く、一日ぐらいだ。急げば半日もかからない」やっぱりアテにならないな。
「………ミラさん。何でそんなに時間感覚が変なんですか?」
「そんなに変かな? 六日の誤差なんて大した事ないと思うけど………」のほほんとミラさんが言う。
主観の問題か。ミラさんが大らかかつ大雑把過ぎるだけなんだ。
「アサギリ。急ぐ用なら早めに出発した方がいい。そろそろ砂漠に大竜巻が現れる事になる。毎年、この時期に砂塵の大竜巻が現れる。そうしたらこの街に足止めされる」
と言う事は、早めに出発しないとこのクソ暑い街に閉じ込められる訳か。
「なるへそ。じゃあ、明日にでも行くか。こんなクーラーの一つもない街に閉じ込められたらオレは熱中症で死んじまう」
「そうだね。フィル君がいれば大丈夫そうだし」ミラさんも頷いている。
そんなこんなでこの日は更けていった。
〜翌日〜
「暑い」
「んな事は言わんでも分かる」オレの独り言に律義にツッコミを入れてくれるフィリウス。
オレとミラさんだけだと確実にボケで返されるだろう。
「それで、どうすんの? この状況を?」
「「知らん」」見事なまでにユニゾンするオレとフィリウスの声。
目の前に広がる大竜巻は、どうしたって超えられないだろう。竜巻から一キロほど離れた位置にいるのに、暴風がオレ達を吹き飛ばそうとしている。これなら、どこかの女しかいない無人島を取り囲む暴風にタイマン張って挑めるだろう。
「ミラさん、この竜巻を超える方法はないんですか?」オレはミラさんに尋ねてみる。
「無くはないんだけどね、少し走るよ。この竜巻は風の範囲も広いけど、中心から少し離れた所はそこまで風は強くない所もあるから“呪法”で切り裂けるんだよ」
「ヤケに無理やりな方法ですね。風を裂く“呪法”なんて誰が使うんですか?」
「私だよ。昔っからやってるから任せてよ」
珍しくミラさんが頼もしく見える。梅雨前線レベルにこの竜巻は動く気配がないから、なんとか抜けないと蒸し死んじまう。
「切り裂く“呪法”っても、お前の特性は粉砕だろ? どうやるんだ?」もっともらしいツッコミを入れるフィリウス。
「その辺は任せてよん♪ こう見えてもその辺は得意なんだから?」
「こう見えてもって、どう見えたらその辺が不得意に見えるんですか?」我ながら訳の分からんツッコミだ。
「知るか。渦の中心は割と離れたとこにあるから、少し行けば弱いとこに行けるはずだ」
〜弱いトコ〜
よく位置関係の分からん表示は置いといて、文字通り風の弱い所に辿り着いた。と言っても、二、三キロも歩いてはいない訳だから、ホントに街の近くだった訳だ。まあ『弱い』と言っても台風くらいの規模はある訳で、素で通り抜けるなんて不可能に近い。
今、竜巻のかなり近い所にいるため、痛いくらいの砂粒が襲いかかってくる。『堕天使の翼』を地面に突き刺し、どうにかこうにか耐えている状況だ。
「それで、ミラさん。一体どうやるんですか?」オレは錫杖を構えているミラさんに尋ねた。
ミラさんの特性は『粉砕』だ。風を“砕く”ならまだ分かるが、“裂く”っていうのはよく分らん。
「私の化身を使うだけだよ」
「化身………空間に影響を与えるだけの力を持っているのか?」フィリウスが難しい事を言う。
「まぁ、見ててよね」
ミラさんは眼を閉じて錫杖を横に構える。大きな“呪力”が展開され“呪式”が足元に現れる。
「………光幻武、限定解放………」
ミラさんの小さな呟きは、風の唸りに掻き消されそうになっていたが、かろうじて耳に届いてきた。ミラさんが呟き終えたのと同時に褐色の呪法陣が輝き、化身が限定解放された。
「光幻武………聞かない名だ」
「難しそうな名前だな」
同時に呟くオレとフィリウス。ミラさんの化身を見るのはこれが初めてな訳だから、結構気になるもんだ。
「私は滅多な事じゃ解放しないからね。ちょっと待っててね」ミラさんが錫杖を構えて、再び“呪式”を展開させた。
【トールハンマー】
ミラさんが“呪力”を錫杖に宿し、“呪式”に通した“呪力”の流れをそのまま周囲に展開させた。
「行くよ。ちょっと下がってて」ミラさんは錫杖を高く掲げて、一気に振り下ろした。
ドゴオオォォォオオオオォォンンンン!!!
耳が狂いそうになるほどの爆音が放たれ、錫杖が触れた地面から衝撃が広がっていった。
「ウエェッ!!?」情けない声で衝撃を受け止めるオレ。フィリウスはフィリウスで平然そうに立っている。
「ハアッ!!」ミラさんの声が響き、錫杖の触れたところから砂が吹き上げるように広がっていった。
「………行くぞ、アサギリ」
「は?」突然の声に素っ頓狂な声をあげてしまう。
「リョー君、そんなに時間ないから走るよ!!」ミラさんが錫杖を地面から離すと走り出した。
「………って、前置きぐらいあってもいいんじゃないでしょうかね?」オレはブツブツ呟きながらミラさんの背中を追った。
「こっから一気に走り抜けるよ!!」ミラさんの声が前方から聞こえる。ひどい砂嵐で、姿がよく見えない。
「走るって! どれくらい走るんですか!?」オレは風の音にさえぎられないように大声を張り上げる。
「大体十何キロかな!?」ミラさんの大声が帰ってくる。
「ちなみに、直線距離だから、風に流されるともっと長くなるぞ!」
「………帰ってもいいですか?」十キロなんて学校のマラソンでも走った事ないのに、この砂嵐だ。途中ではぐれたら、生き残れる確率ははぐれ○タル八匹全部を倒せるくらいの確率の低さだろう。
「ところで、さっきの“呪法”は何だったんですか?」走りながらミラさんの背中に尋ねる。少しでもこの先に伸びる現実、距離、砂嵐から思考を背けないとおかしくなっちまうかもしれない。
「光幻武を使った限定解放呪法。【トールハンマー】は“呪力”を展開して周囲の物を爆砕する“呪法”だよ」
「地面を爆砕して、衝撃を放って風を裂いてた訳か」勝手に話を進めるフィリウス。
「………もうどうでもいいや」そんなに淡々と言われても理解できるはずがないだろう。
「リョー君もじきに分かるようになるよ」ミラさんが微笑みながら言った。
「じきに…………そう、じきに、ね」
「? ………………………」ミラさんの奇妙な言い方に妙な引っ掛かりを感じてしまう。オレについての秘密で、オレが知らない事をミラさんは確実に知っている。ルーシアとのやり取りからもそれは想像がつく。
一体それが何の秘密で、いつ明らかにされるのかなんてオレには分かりっこない。ルーシアもミラさんも『じきに分かる』と言っている。なら、その時まで待とうじゃないか。
しかし、最近妙に自分の“呪法”が気になる。ミラさんの呪法やフィリウスが見せた影のアレ。それに、ミッシェル、ローラ、シロ君………考えてみてもオレの“呪法”が弱々しく見えて仕様がない。
【ソウルドレイン】で吸収したのは元々コピー技のようなものだから、本家に劣るのはいいとしよう。だが、オレ固有の【疾風燕返し】に、些か物足りなさを感じてしまう。恐らく、オレがカマイタチを纏う双剣を一回投げている間に、ミラさんやフィリウスは十倍ほどのダメージを与える事もできるだろう。
今の【トールハンマー】にしてもそうだ。今まで、オレは何となく“呪法”を使ってきた。でも、それだけじゃダメなんだ。昨日の話もそうだが、オレは【疾風燕返し】をもっと理解しなくちゃいけない。そんな気がする。とりあえず、この竜巻を(生きて)抜けられたらミラさんにでも聞いてみよう。
〜竜巻の向こう側〜
「ゼェゼェゼェ………」
「………若いのに体力無いな」
肩で息をしているオレを見下しながらフィリウスが言った。
「るせぇ!! オレはお前と違って砂漠を走り慣れてないんだよ!!」少なくとも、地球の日本に居れば砂場を走ることはあっても砂漠を走る事は無いからな。オレみたいな一般市民ならばなお更だ。
「砂場は走りにくいからねぇ」ミラさんは汗一つ掻かずに頷いている。この灼熱地獄を十キロ以上走り続けてたのに平然そうにしているミラさんを見ていると、恨めしくなってくる。それは某殺人貴の唐突な衝動の、百万分の一もないがな。
………非常に分かりにくい解説で暑さをごまかすのは止めよう。
「ところで、あれは何ですか?」目の前に立っているものを眺めながら訪ねた。
「何って、言われても………」
「見ての通り、地属性当主の家だ」
そこには、かなり大きな長屋が建っていた。その家の後方は砂漠ではなく草原が広がっていて、砂漠はこの家を境に終わっていた。
ただ、問題なのはその門だ。ご丁寧に『地属性当主の本宅』と書いてある。これは、家を建てた奴の感性を疑ってしまう。これじゃあ、『白○楼』に『ゆ○様の家』って書くようなもんじゃないか? ………止めよう、分かってくれる人は少ないだろうし。
「ノックしたら入れてくれるのか?」
「んなことオレが知るはずがないだろ」オレの質問に突っ込むフィリウス。なんか、オレとフィリウスがツッコミの応酬してるとどっちがどっちか分からなくなりそうだ。
「ま、とりあえず話つけてみるよ」ミラさんはドデカイ家のドデカイ門へと歩いて行った。
「………属性当主の家ってアポなしでいきなりいけるのか?」オレは門の柱に寄り掛かるフィリウスに尋ねる。
「さあな。普通は無理だ。言ってみりゃあアイドルスターの家にファンがいきなり訪ねてくるのと感覚的には似た感じだしな。大概は門前払い。下手すりゃ“呪法”で追っ払われる」フィリウスは肩をすくめながら言う。
「よく分からん例えだが、期待するなって事か」オレは頭の後ろで腕を組みながら呟く。
確かに、いきなりやって来たどこぞの旅人に『秘宝、去荒神の涙よこしな』と言われて、ホイホイ渡すようなお人好し、もといバカはいないだろう。
「リョーく〜ん! フィルく〜ん! 入って良いってよ〜!!」
「「マジか?」」両手をブンブン振るミラさんと完全にシンクロするオレとフィリウス。このメンツになってから会話のやり取りやら反応やらがおかしくなっていってるような気がしない事もないかもしれない。
「客間で待ってろってさ。行こ」ミラさんが玄関ドアを開いてオレ達をおいでおいで妖怪のように招く。
「………罠か?」フィリウスは警戒心丸出しである。
「罠だったら避ける。脅しだったら脅し返す。冷やかしだったらブッた切る。それでいいだろ?」オレは先に進み、フィリウスを招く。渋々ながらも、オレについてくるフィリウスであった。
「………………………」
「ん? 何か言ったか?」なにやらフィリウスが呟いたように聞こえた。
「いや。何も」フィリウスはそうとだけ言うと歩を進める。オレもミラさんのもとへと向かった。
「俺が罠だと思ったのは、あの女の方だったんだがな」 |