第壱話「砂漠散策と砂の怪物さん」
〜サハラ砂漠〜
「………ミラさん、ここはどこですか?」
「ん? ホロウランスの中心ぐらいかな。もう結構歩いたからね〜」平穏に答えるミラさん。
「ちょっと待って下さい、この始まり方、前にあったような気がするんですが………」
「気のせいだよ。ここに来たのは初めてだもん」
「そうですか。それで、この謎のサハラ砂漠はどれくらい続くんですか?」
深い森の中でこんな事があったような気もするが、それはどうでもいい事だ。この見晴らしのいい場所ならニワトリの大群と出くわす事もないだろう。
「サハラ砂漠? 違うよ、ここはミレトス砂漠っていうんだよ。地属性領域最大の砂漠」
ミラさんはオレの冗談を軽く流すとまた歩き出した。地属性最大………ってことは、これ以外にも砂漠があるってことか。
まぁいいや。とりあえず、正確な地名が分かったら場所表示を変えるべきだろう。
〜ミレトス砂漠〜
さて、何ゆえにオレとミラさんが砂漠に行脚の旅に出ているかと言うと、前回………というか三章のラストを確認していただければ分かると思うが、地属性当主が持っているであろう『去荒神の涙』をもらいに行くためである。以前、ミッシェルやシロ君に地属性当主の事を聞いた事があるが詳しくは誰も知らなかったためオレもそいつがどんな奴かは分かりゃしない。ミラさんも会った事はないらしいからな。
「それでミラさん。何気にオレの質問が流されてるんですが、この砂漠はあとどれくらい続くんですか?」
「う〜んとね………あと小一時間ぐらいかな?」
小一時間。この世界の時間の単位が六十秒=一分、六十分=一時間、二十四時間=一日であるならば、もう少しである。ちなみにここまで歩いて来るのに既に五時間ほど消費しているのだ。それも今日だけの話ではない。
「本当にあとそれくらいなんでしょうね」何となくミラさんが信用できないオレであった。
「え〜っと、う〜ん………いや〜五時間くらいかかったような気もしない事もないかもしれない」
やっぱりアテにならないミラさん。抜けてるんだかしっかりしてるんだかよく分からない人だ。
まぁ、オレとしても時間はテスト前と違って限られてるわけじゃないから命=水が持つ限りは砂漠を歩く事も悪い事じゃない。何か海外旅行に来てる気分だしな。
〜三時間後〜
「………………………」前言撤回。やっぱり歩くのは嫌だ。散歩は好きだがそこが灼熱地獄となれば話は別だ。
小一時間というのは地球的時間単位の三時間を軽く超越しているのか、はたまたオレの体内時計がおかしくなっているのか?
「暑いね〜」ミラさんが前方をサクサク進み続ける。オレが足を止めて黙っていたら陽炎の中に消え去っていってしまいそうだ。
「暑いのは同感ですがミラさん。小一時間を軽く過ぎているように感じるのはオレだけでしょうか?」
「う〜ん、多分リョー君だけじゃないよ。私だって三時間ぐらいたったと思うもん」どうやらオレの体内時計は健在で、地球的時間単位とこの世界的時間単位は等しいらしい。だが、そんな事が確認できたところで何の収穫にもならない。オレは早くどこぞの街に辿り着いて休みたい。
「とりあえず、あと五時間ってのが本当ならあと二時間で着くんですよね?」
「どうかな? 五時間ってのも分からなくなっちゃった」オレの儚い希望を粉々に粉砕したミラさん。
「………………………」十行程度で三点リーダー九連続を二回もやるのはどうかと思うが沈黙しかないだろう。
「頑張ろっ! 多分もう少しだから」
いえ、その多分ってのが一番アテにならんのですけど………
〜更に三時間〜
「………………………………………………」二倍の三点リーダー十八発を放つ理由も察して欲しい。
そろそろ脱水症状になりそうだ。服は汗まみれで湯気が出てるんじゃないかと勘違いしそうだ。
「み〜ら〜さ〜ん〜………さすがにもう無理ですよぉ〜〜」
「う〜ん、おかしいねぇ」対するミラさんは全く表情を変化させていない。さすが地属性と言うか本拠地と言うか………
もう駄目だ。目の前にオアシスが現れるどころか石でできた巨人が見えるほど頭が茹ってるようだ。
「ん? 石でできた巨人?」目を指でこする。
そこには紛れもなく石でできた巨人がいた。正確に言うと、細かい砂で固められた巨人とでも言うべきか。
腕は電柱ほどの太さ、全長は魔法学校に住む森番兼魔法生物科の先生ほどとでも言えば分かるだろうか?
「って、そんな解説を悠長にしてる場合じゃねぇ!!」石の巨人はズンズンこっちに向かってくる。
「うえっ、ゴーレムだ」ミラさんがあからさまな嫌そうな声を出した。
「うえっ、ってそんなヤバイ奴なんですか?」オレはミラさんに尋ねる。
「ヤバイっちゃあヤバイかな? 地属性の魔物。それも群生が強く団体さんで襲ってくる」
相変わらず余裕さを感じさせる言い方。しかし、ミラさんは既に錫杖を握っている。
「魔物………またか」冒頭の既視感はこれを予兆してたんだろうか?
オレは腰の鞘を払い『堕天使の翼』を引き抜いた。
【アースシェイク】
いきなり、まさにいきなり“呪法”を放ってきたゴーレムさん。“呪法”が放たれた瞬間に足元が大きく揺れて岩の塊が噴き出してきた。
「うおぉ!」オレは後ろに跳ぶと吹き出した岩を避けた。
「リョー君気をつけて! ゴーレムは近距離も遠距離も得意だから!」非常に危ない事を平然と言ってのけるミラさん。
「くそっ! こっちはもう夏バテだってのに!」地球時間だともう夏など終わってるはずだが、今のオレのステータスを指すには夏バテが最適だろう。夏バテなら軽く何とかなるだろう。家にいる場合が多いからな。だが、今のオレのいる場所は砂漠の真ん中で目の前には魔物だ。かき氷もアイスもクーラーのきいたコンビニも無い。
【疾風燕返し】
足元に純白の呪法陣を展開し、双剣をぶん投げる。光に包まれた『堕天使の翼』は一瞬でゴーレムに迫り、その腕を一刀両断。本体から一気に切り離した。
「よしっ!」手ごたえバッチリ。双剣を呼び戻し、次の一発を狙おうとした。
「………………………あれ?」
あり得ない事が起こった。目の前に突っ立っているゴーレム。切り離された腕。
その吹き飛んだ腕が粉々に砕け散ったかと思うと、風に流されるように元の腕の所に戻っていき腕を形作った。
「マジか?」オレは再び双剣を構えるとゴーレムの懐に入る。
腰の回転、体捌き、腕の勢い、全てを双剣に乗せて抜刀の流れでゴーレムの首の部分を真っ二つに斬り付けた。
「今度こそ!」首の部分は体から落ちて地面に落ちた。その音は重い石が砂場に落ちた音だ。
だが、オレは忘れていた。ここがガイアであるという事を。あり得ない事は平然と起こる。地面に落ちた首が粉々になると、その粉が頭の所に集まると再び頭の形に固まった。
「どうすりゃいいんだ?」双剣の攻撃は無効らしい。
「リョー君、こいつは一発で崩さないといつまでも生き返るよ!」ミラさんが錫杖をゴーレムの胸に突き刺して“呪力”を解放した。粉砕の特性が発動し、ゴーレムを中心から粉々に砕いた。中心から体全体が砕かれたゴーレムは砂になって風に流された。
「すげぇ」感心してる場合じゃないだろうが、感心せざるを得ない。
「グオォォオオォォ!!!」
感心してる場合じゃないのはマジらしい。オレの後ろのゴーレムが腕が振り上げてオレの後頭部に狙いを定めている。
「ヤバイ!!」オレはとっさに双剣を胸の前に構えて振り返った。ゴーレムの腕は既に振り上げ切られていて、全重力を込めてオレの頭を粉々に砕こうと構えている。
【深淵・影縫い】
「えっ?」“呪力”の展開と“呪法”の発現を感じた瞬間、ゴーレムの動きが止まった。
「ハアァッ!!」
オレが呪法師の姿を目に捉えたときには既にそいつは漆黒の長剣でゴーレムを中心から真っ二つにぶった切っていた。
「早っ!!」オレは双剣の防御を解くと、切られたゴーレムを見守る。
中心を切り裂かれたゴーレムは切り口から粉に変わると風に流される。
「ダァァ!!」オレがボケボケしてる間にそいつ、藍色の髪を某ファンタジーゲームの元ソ○ジャーのようにツンツン立たせた男、は片手に漆黒の長剣、もう片手を地面に当てながら走りだした。
次の瞬間、地面に当てられた手は地面からもう一振り漆黒の長剣を抜き放ち、本人は足元に呪法陣を展開させた。
【深淵・影縫い】
先ほどの“呪法”を再び発動させながらその長剣をゴーレムの影に突き刺す。
「っ!?」長剣が地面に刺さった瞬間、長剣から“呪力”が展開され“呪法”が発動した。
「ハアァ!!」再び気合いを入れるとそいつは流れるように動く。
まるで空気のように軽い動きで、体を回転させる。回転の勢いは肩、腕、手、長剣へと流れていき、風を切り裂きながら一撃必殺の剣戟を生み出しゴーレムの中心を捉える。
「なっ!?」オレは情けない声しか上げる事は出来なかったが、一連の流れる動作の中でゴーレムは微動だにしなかった。先ほどの“呪法”の効果か、はたまた刹那の中の斬撃に反応が出来なかったのか………ともかく、ゴーレムはチリとなって風に散っていった。
「つ、強ぇ」
ポカンと口を開けながら突っ立つのはオレ。錫杖を華麗に操るはミラさん。そして新たな参戦者。こいつはいったい何者なんだろうか? |