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無職転生短編

トナカイの気持ち (2015年・無職転生クリスマス短編)

 冬。
 12月24日。
 魔法都市シャリーアでは、猛吹雪が吹き荒れている。
 例年の如くの猛吹雪だが、俺ことルーデウス・グレイラットはこの町に住み始めてもう20年になる。流石に慣れたものだ。

「明日はクリスマス、一年に一度の大イベントだ」

 クリスマスの準備はバッチリだ。
 サンタの服、トナカイのきぐるみ、そして子供たちへのプレゼント。
 ルーシーには魔術杖を。
 ララにはワンピースを。
 アルスには剣帯と鞘を。
 ジークには丈夫な靴を。
 リリには魔道具を。
 クリスには大きなぬいぐるみを。
 それぞれ用意した。
 現在は白い大きな袋にいれて、事務所の武器庫に保管してある。

 今日の仕事が終わり、一度家に帰ってささやかなパーティをやった後、助手のトナカイ三号(アイシャ)を連れて事務所に戻って着替えて戻ってくれば、丁度深夜だ。
 あとは日付が変わる頃、去年のようにエリスをなんとかしつつ暖炉から侵入、寝静まった子供たちの枕元にプレゼントを置いていくだけ。
 イージーオペレーションだ。
 去年は危うく失敗しかけたが、イージーったらイージーだ。

 何はともあれ、準備は万端、仕事も完了。
 あとは事務所で社長に結果報告して、家に帰ってパーティの始まりだ。
 ちなみに、妻たちやアイシャ、リーリャへのプレゼントは明日渡すと宣言してある。

 あー、楽しみだ。
 朝、子供たちが目覚めると枕元にプレゼントがある。
 彼らはそれを、喜び勇んで俺に報告しにくるのだ。
 その時の笑顔。そのために今日、生きている。

「社長! ただいま戻りまし……」

 そこに王がいた。
 赤いガウンを身につけた、威圧感溢れる王が。

「戻ったか」
「……どうしたんですか? 今日はその……オシャレですね」

 いつもは威圧感溢れる白いコートなのに。
 今日はなんだかリッチだぞ。
 首まわりと裾に白いモコモコがついてるゴージャスガウン。
 そのガウンってあれでしょ、王様がよく身に着けてる奴でしょ?
 確かどっかの国の王様も着てたはずだ。

「アリエルだ」

 そうか、アリエルか……。
 アリエルが……なんだ。
 アリエルだ、じゃわかりませんよ社長。
 ええと……アリエルが、何かの時のために、オルステッドに物を送る。
 思いつくのは、つまりワイロだな。
 今後もよろしく頼むぜって奴だ。
 ……いや、今までそんなの無かったじゃん。

「アリエル様が?」
「今日のことを話したら、使えと言ってきた」
「今日のこと?」
「確か今日だろう?」
「何が?」

 オルステッドはまゆを訝しげにひそめた。
 怖い顔だ。
 実に怖い。
 でも怒ってるわけじゃない。
 単純に「わからんのか?」って顔だ、これは、多分。

「……」

 オルステッドはその表情のまま、机の脇に置いてあった箱から、何かを取り出した。
 赤い帽子だ。
 白い羽根がついているが、多分、猟師とかが好んで身に付けるやつだ。
 オルステッドはそれを被った。
 王様が「今日は絶好の狩り日和よな。ちょいと鷹狩にでも参ろうか」って感じだ。
 もっとも、この王様には鷹ですら寄り付かんがね。

「俺がサンタクロースだ」

 違いますよオルステッド様。サンタクロースは連れているのは鷹じゃなくてトナカイですよ。
 いやまて、落ち着け俺。よく見ろ、鷹もいないぞ。
 いやいや、そうじゃなくて。

「いや、あの、今年のサンタは俺がですね……」
「何か問題があるか?」

 見ると、事務所の脇に純白の袋が置かれていた。
 中身はわからないが、ギッシリと詰まっているのがわかる。
 まさか、あの中身、全部赤い靴下じゃなかろうな。

「何を、用意したんですか?」
「問題ない。悪いが、お前の用意したメモを見せてもらった。子供のほしそうなものでよかったのだな。さらに、こうして服装も万全だ」

 万全の割に相変わらず少し間違っていますが……。

「プレゼントを拝見しても?」
「構わん」

 許可を得て袋の中を見てみる。
 うん。
 普通だ。
 全体的なデザインが龍族好みだが、申し分ないだろう。ついでに言えば俺のプレゼントとかぶっていないのもいい。

「今年は問題なかろう」
「……ええ」

 ……そうか。
 そんなにやりたいのか。サンタクロースを。
 サンタクロースと言えば父親の役目だ。父親の役目をとられるわけには……いや、だが他ならぬオルステッドの希望だ。
 大丈夫、誰がプレゼントを置いたところで、問題はない。
 ようは、子供が喜べばいいのだ。
 俺とオルステッドのプレゼントで、プレゼントは2倍。喜ばぬはずがない。

「わかりました」

 なら、俺がトナカイだ。


---

 深夜。
 俺は猛吹雪の中、赤いガウンを身につけたオルステッドと共に屋根の上に登っていた。
 相変わらず寒い。
 だが、今年のトナカイのきぐるみは特別製だ。
 なにせ、スノウヘッジホッグの毛皮も使っている。
 防寒対策はバッチリだ。

「ルーデウス」
「サンタ様。今の俺はルーデウスではありません」
「……トナカイよ」
「何ですか、サンタ様!」

 黒いヘルメットを被ったサンタクロース。
 帽子とズボンは俺が用意していたものを着用してもらった。
 だが、にじみ出る威圧感は隠せない。

「煙突から入る必要もあるのか?」
「ええ、いいませんでしたか? サンタは煙突からやってくるものなんです。逆に言えば、煙突以外からは入ってはいけないのです」
「ム……そうなのか……」

 俺とオルステッドはそんな会話をしつつ、煙突へと取り付いた。
 煙は出ていない。
 今回は、アイシャが中で働いてくれている。
 万能な彼女だ。うまいことシルフィ、ロキシーと連携してエリスをなんとかしてくれている事だろう。

「それと、子供たちには姿を見られないように。オルステッド様だとバレてはいけません。サンタは実在するけど、目の当たりにしてはいけない存在なのです。実在するけど目の当たりには出来ない。そうした幻想的存在が、子供の心をくすぐるのです」
「服まで用意したのにか?」
「そういうものなのです」

 まあ、恐らく、ルーシーあたりはいい歳だし、もう気づいているだろう。
 ララもあれで勘がいいというか、レオと話せるみたいだし、知ってるだろう。
 アルスあたりはどうだろうな。まだかな。
 ジーク以下はまだ信じている。間違いない。

「……難儀なものだな。サンタとは」

 まったくですよ。
 しかし、準備は整った。
 あとはオルステッドに突入してもらうだけだ。

「中でアイシャとシルフィ、ロキシーがサポートしてくれます。ご武運を!」
「……お前はこないのか?」
「俺も行きたいのは山々ですが……ふふ、この角が邪魔をして、煙突を通り抜けられないのです」

 トナカイのきぐるみの角には、グレートアンガーホーンの角を使用している。
 一番トナカイっぽい角の形をしていたからだ。
 つまり、でかい。
 うちの煙突穴は、そこそこ広めに作られている。
 だが、狭い。
 通れないのである。
 去年も同じ理由で通れなかったが、そもそもトナカイが家の中にまで入る理由も見つからなかったし、グレートアンガーホーンの角があまりにもトナカイに似ていてもったいなかったため、防寒のほうを強化したのだ。

 くっ、それがこんな所で裏目に出るとは……くっ!
 オルステッドを一人で送り込むなど、龍神の右腕の二つ名をもつ俺の名折れ……。
 だが、仕方のないことなのだ。
 トナカイは角が命なのだ。
 これがなければただのシカなのだ。

「俺を置いて先に行ってください」
「わかった」

 オルステッドはあっさりと煙突の中へと突入していった。
 素早い。
 後ろ髪とか引かれないのだろうか。

「……」

 真っ暗な夜。
 すでに街の灯りも消え、轟々と吹き荒れる吹雪だけが視界を占めている。
 防寒力の増したトナカイスーツといえども、顔の部分は出ている。
 そこに雪と風が容赦なく当たる。
 鼻水が凍り付きそうだ。
 来年は赤い鼻マフラーでも付けておくか。

「……」

 ふと思った。
 俺は、何故こんな所に一人でいるのだろうか。
 今日はクリスマスだぞ。
 聖夜だ。
 聖夜といえば、性夜と言われることもあるぐらい、男と女が交わる日だ。
 クリスマスベイビーなんて単語が生まれるぐらいの日だ。

 それを、なぜ俺は一人、ぽつねんと屋根に座って吹雪を眺めているのだろう。
 ああ、去年はアイシャもこんな気持ちだったのだろうか。
 悪いことしたな……。
 まあ、後日オシャレで高価なコートを買ってあげたから、チャラではあるんだろうけど。

「寒いな……」

 なんかもう帰りたくなってきた。
 帰りたいもなにも、俺の家はすぐ下だから、屋根から飛び降りて裏口あたりから入っていけばすぐ帰れるんだが……。

「いやいや」

 オルステッドが帰るまではここに待機せねば。
 何か起こるかもしれないのだ。
 そう、そうだ。
 俺の経験からいうと、そろそろ問題が起きるはずだ。
 今年は子供が六人もいる。
 いかにオルステッドといえど、見つからずに行動するのは困難のはずだ。
 俺よりは隠密に長けているとはいえ、俺はあっさりと見つかりかけたしな。
 特にララあたりは勘も鋭い。見つかってもおかしくない。

「……」

 待つ。
 家の中から喧騒が聞こえてこないか、煙突の暗闇に耳を傾けながら、待つ。

「ずずっ……」

 冷水のような鼻水をすすりながら待つ。
 まだか。
 問題が起きたら、即座にフォローしなければいけない。
 どうフォローをするのか、というのは状況しだいだが……。

「……」

 何も聞こえない。
 煙突からでは音など聞こえないのだろうか。
 今、中はどんな感じになっているのか……。
 アイシャ達はうまくサポートしてくれているのだろうか。

「……ん?」

 煙突の奥からゴソゴソと音が聞こえた。
 俺は何が起きているのかをよく聞いて確かめるべく、耳を煙突へと向け……。

「邪魔だ。出られん」

 角をぐいっと押しのけられた。
 身を退くと、煙突からオルステッドが出てくる所だった。

「どうしました? 何かトラブルが?」
「いや、終わった」
「え?」
「任務終了だ」

 見ると、オルステッドが背負っていた袋は、空っぽになっていた。

「終わったんですか?」
「ああ」
「何も問題なく?」
「ああ」
「見つからず?」
「ああ。人に見つからずに動くことは得意でな」
「……そうでしたね」

 そっか。
 終わったか。
 何事もなく。

「あ、じゃあ、一旦、事務所まで戻りましょうか」
「ああ」

 無問題。
 それは……うん。喜ばしいことのはずだ。
 でもなんだろう。
 この釈然としない気持ちは。この寂しい気持ちは……。

「……」

 俺、サンタやりたかったのかな……。


---


 翌日。
 吹雪の一夜の後、空が晴れた。
 北方大地の冬では、珍しい晴天だ。
 そんな晴天が示すかのように、子供たちが満面の笑みを浮かべて部屋から起き出してきた。
 彼らはそれぞれ、手にプレゼントを抱えていた。

「見てパパ! これずっと欲しかったやつ!」
「ママ! こんなのもらっちゃった!」
「かっこいい!」

 子供たちの喜びの声。
 それを聞きつつ、俺は思った。
 これでいいのだ。
 俺はこれを聞くために、あの寒くて寂しい夜を過ごしたのだ。

「そうかそうか。みんな、良かったなぁ」

 でも、来年は俺がサンタをやろう。
 オルステッドがやりたいと言っても、俺がやると主張しよう。
 もしオルステッドがどうしてもというのなら、仕方ないが戦争だ。

「さてと、俺は仕事に行ってくるよ」

 何はともあれ、無事に来年を迎えるためにも、俺は今日も仕事をするのだ。

 そう思いつつ、朝食を済ませて着替えをしようと部屋に戻った。
 さらにタンスの引き出しを開け、靴下を取り出そうとして、ふと気づいた。 

 靴下の中に、何かが入っている。
 取り出してみると、白い手袋だった。
 しかも、この手触り、どこかで触ったことがある……。
 あ、これあれだ。
 オルステッドがいつも着ている白いコートと同じ材質だ。

「……」

 恐らく、オルステッドが侵入ついでにここに入れていったのだろう。

「……俺は子供じゃないんだけどな」

 そうつぶやくも、いい年をして、クリスマスにものをもらって嬉しく思う自分がいた。
 まあ、ワイロをもらってしまったなら仕方がない。
 来年、オルステッドがどうしてもというのなら、サンタを譲ってあげよう。

 そう思うのだった。


---


 その日、事務所に出向くとアレクが「オルステッド様より褒美を賜った」と自慢してくるのだが、それはまた、別の話。
 この物語はフィクションです。
 無職転生にクリスマスはありません。
 ルーデウスとアレクはプレゼントをもらえません。

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