どっちが魔王?
PCの日本語入力が数日間できませんでした。月曜日には他のも更新します。今回も短編です。
私の名前は、鈴木真央。
家族がいなくて天涯孤独の身以外は、高校2年生の普通の女の子だ。
そしてこれからも普通な女の子だったはずだったのに―――――
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『やはり、魔王たるとも顔つきも威厳のあるように見せなくてはいけません』
そう言いながらメイド服に身を包み、少し耳の尖った美女が白いファンデーションらしきものを私の顔に塗りたくる。
『目の部分はもっと濃くしましょう。唇は血が滴ったような色にして、髪型は―――』
ブツブツと言いながら次々と道具を変えて、私に化粧を施す彼女。少し痛い。
それから約一時間後。彼女は静かに手に持っていた道具を置いた。
『できましたわ・・・!これで勇者もビビリますわ!!お似合いです・・・!!』
そう言いながら、私の前に鏡を持て来る。
私は鏡を覗き、絶句した。
私の顔は、まるでどこかの芸能人のようだ・・名前は忘れたけれど。まぁ、その人のように、すごいことになっていた。
顔の色は真っ白で、目の周りはすごいことになっていて、頬にもラインが引かれている。唇は黒色に近く、しかも裂けたように見せかけている。髪型は、せっかく伸ばしていた黒髪が、所々に金色になっており、しかも逆立っている。先は何で固めたのか鋭く、凶器になるのでは?と思う。刺さったら痛そう。
はっきり言って、元の面影が全くない。しかもこれが似合う・・?ふざけんな。こんなの似合う女の子だったら、世をはかなんで死ぬよ。
「ちょっと・・・これは行き過ぎなんじゃ・・・?」
『そんなことありませんわ!!お似合いです。本当に威厳のある魔王に見えますわ!!これで勇者も恐れ慄き逃げ去るに決まっています!!』
鼻息を荒くして反論する彼女。彼女――名前はサリナって言うんだけど、私のこの世界での専属侍女みたいなもんだ。サリナの性格は猪突猛進そして自己中心的。自分の意見は一切変えることがない。無理に反論すると、周りの者とか物を破壊する。本当に困った性格をしているのだ。何故そんなのが専属侍女なのかというと、ただ単に女性の姿をした女性がいないからだ。雌と分類される生物はたくさんいるんだけれどね。まぁ、サリナにも秘密はある。彼女は日没から日の出の時間は男になってしまうのだ。マッチョで毛深い男に。しかも中身は女のまんま。非常に気持ちが悪い。
そもそも、何で私がこんな状態になっているのかというと、彼らに召喚されたからだ。
二か月前、17代目魔王として。
なんでも前魔王が病に倒れた後、後継者問題が勃発。それでダルメシアンの映画のように101人いた魔王の子供たちが争ってみんな死んだらしい。だからしかたなく、今残っている魔王の血族の中で一番力の強い私が呼ばれたらしい。
なんでも、私の19代前のご先祖様が4代前の魔王の84番目の子供の曾孫とできちゃった婚をしていたとかいないとか。自分が異世界の魔王の血を限りなく薄いが継いでいたことにはビックリした。しかも私は先祖がえりのようで、4代前の魔王と同等の魔力を持っているらしい。日本にいたときは全く気がつかなかったけれど。
召喚されたときは本当に怖かった。
とある嫌なセクハラ体育教師から逃げようとしていたとき、いきなり自分の影から黒い腕が何本も出てきて私を引張ったんだもの。怖かったし、痛かった。掴み方が悪かったからか、ブリッチの恰好で吸い込まれた、私の体はすごく固いので骨がボキボキ言ってた。しかもあのセクハラ体育教師にパンツを見られたかもしれない。私の苺パンツ。逃げられたのは良かったけどさ。
そして今、私はさっそくピンチなのだ。なんでも私より2日遅れて、勇者がリングレード帝国に召喚されたらしい。それでもうすぐこの城に乗り込んで来るのだ。だからこんな化粧をしている。でも、顔みて逃げられるって。すこし傷つくよ。
私としては普通の顔で出て、話し合いで穏便に済ませようと思っていたんだけれど。だって相手も異世界の人だし。同郷かもしれないじゃん。でもこんな顔だと信じてもらえそうにない。あーどうしよう。仕方ないし、消すか?
私はさすがというかなんというか、強い。この前ふざけてデコピンするまねをしたら、変な空気の塊ができて、すごい勢いで窓の外に飛んで行って、山に穴をあけた。だから多分、本気を出すともっと強いだろう。
そもそも、向こうが勝手に突っ込んでくるのだ。正当防衛である。なんでも帝国の皇帝の愛妾が魔国にある若がえりの温泉が欲しいと強請って、それを皇帝が認めたのが勇者召喚の原因らしい。周囲は反対したらしいけれど、やはり最高権力者には逆らえなかった―――――と帝国の正妃様が垂れこみをしてきた。正妃様は穏便派で、その他の帝国に住まう者、愛妾派以外の者は、みんな同じ気持なんだと。
ついでに言うと正妃様は今、この城に彼女の子供と共にいる。垂れこみのことも原因だが、何でも愛妾に子供ができて、毒殺されそうになったそうだ。魔国にいるほうがまだ安全だといって勝手に来たのだ。まぁ、魔国は基本的に楽観的だ。争いを好む者もいるが、同族でじゃれあうくらいが殆ど。あまり人間界に侵入しようとする者はいない。血が欲しい吸血鬼くらいらしい、人間界に好んでいくのは。だから、正妃様一行がここに居てもあまり気にしていない。むしろ正妃様の子供がかわいいらしく、こぞってお菓子を持ってきては遊んでいる(もらってる?)。
事情はだいたいこんな感じ。基本的に魔界は住みやすいから結構気に入っている。もともと、向こうには両親の残した保険金目的の嫌な親戚しかいなかったから、特に未練もないし。友達は残念だけれど。
「そういえば、あとどれくらいで勇者は来るの?」
『あと1日ほどだと思いますわ。リンディの町にて勇者らしき者が娼館へ行くのが目撃されていますから』
「・・・・・・・」
なんか、幻滅。来る前に一発?勇者ってもっと高潔だと思ってた。あーあ。やっぱ消そうかな?
リンディとは魔国の入り口であるメーラの森のある街だ。メーラの森には、勇者たち用にワープの魔法をかけてある。自動的にここに来られるように。自国の民がやられるのは嫌だし、何より待つのが面倒くさい。
「早く来ないかな〜」
『そうですわね〜★早くぶっ潰したいですわ〜』
そうしているうちに、一日がたった。
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『魔王様!!勇者一行がメーラの森より城へ来ました!!』
そういって執務室に駆け込んできた、見た目が尻尾が2本以外は三毛猫のミーニャン。雄ネコモンスターで体は130cmと大きいが、城内ではもっぱら癒し系と可愛がられている。
「ん・・わかった。今行く」
立ち上がって、王座の間へ行く。ミーヤンへご褒美にねこじゃらしを与えてから。あ、ニャーンって飛びついてる。ついでに化粧はあのまんま。未だに恐ろしい顔のままだ。こっそり落そうとしたのだが、全く取れなかった。まさかこれからもこのままなのか・・・?どうしよう、切なくなってきた。
悶々と考えているうちに部屋に着いた。すでにサリナやその他の部下たちがいる。ついでに正妃様も。
私は一番高いところにある、椅子へと座った。横にはサリナとなぜか正妃さまが。登りたかったのかな?
それから15分ほどして勇者たちがきた。
『貴様を倒すためにやってきてやったぞ、魔王。覚悟しろ!!』
そう言う、勇者達の声が部屋の外から聞こえてきた。でもふざけて、扉を開閉式のでなく回転扉にしたから、勇者一行が室内に揃うまでに少し時間がかかった。僧侶らしき者は、初めての扉だからだろうか、出るタイミングがつかめず、4周していた。
部屋内に笑いがこぼれた。私も思わず、顔を俯けてしまった。
『クソッ、これも策略か・・馬鹿にしやがって』
勇者が悔しそうに言う。違いますからね。あと、勇者。声色からして、あまり若くはないようだ。しかも・・その声には聞き覚えがあった・・・・
『まぁ、いい。このおとしまえはきっちりとつけさせて貰うぞ。この勇者・・・木村琢磨がな・・・!!』
何――――――!?
私はガバッと顔をあげた。その勢い+顔に恐怖したのか、勇者一行からヒッと悲鳴が漏れる。でもそんなのは気にしないで私は勇者―――木村琢磨をみた。
少し厚い唇に、太い眉な濃ゆい顔。無駄に筋肉がついて、太い腕。イガ栗のような黒い髪に、性的嫌悪感たっぷりの声。こいつは―――――
「セクハラのキモダーーーーーー!!」
私は思わず、指をさして叫んでしまった。周囲もびっくりしている。
『なっなんだと!!無礼な!!魔王ごときが私の高貴な名前を気安く呼ぶな!!しかもキモダではない!!』
勇者は憤慨しているが無視だ。ついでに言うと彼の仲間は怪訝な顔をして彼を見ている。
「うるさい!クソダ!!キモダ!!なんでお前が勇者なんだ!!それにお前は何時から高貴になった!!貴様が高貴なら世界中のみんなは最高級・・神だ!!」
『なんたる侮辱・・!!それより、貴様は誰だ!!?その声、着たことがある気が・・』
唾を飛ばし叫ぶ勇者。汚いし、気持ち悪い。話し方も気持ち悪い。
「ヒー、鳥肌が立つ―――!!気持ち悪いよ―――まだサリナ男バージョンのほうがマシ!!」
魔王である私と、勇者の言い争いに周囲はついていけない。サリナは少し殺気立ってるが。
『あ、あの、あなたはあのくそ・・・いいえ、勇者と面識があるのかしら・・・?』
みんな口を挿めないなか、正妃様ががんばって声を発した。くそとか言っていたが。
「あります、あります!!おぞましいほどに・・。私が魔王なら、奴はセクハラ大魔王または大魔神です!!」
そう言った瞬間、部屋内にいた女性(勇者の仲間も)が一斉に勇者を見た。
『なっ!!なんだとっ!?勝手なこというな!!』
勇者(木村)はやはり唾を飛ばしながら、叫ぶ。でも無視だ!!
「あいつは私の世界の学校の体育教師だったんです!しかも女を見下す・・・エロ教師!体育の時、女子がグランド4周を5分以内にできなかったら、背中や尻を触ってくるんです!!それに胸が大きかった宗田さんの胸を「胸が邪魔なんだろ?」とかいって揉んだりしたんです!それに私も風邪で休んだこの前、放課後に呼び出されて「熱はどんくらいかな〜」とか言って尻を触られたんです!しかもその時「胸は小さいから計れない」って・・・!!このクソ野郎め!!」
ふー、一気に喋って疲れた。でも本当のことだしね!!
私の意見を聞いていた女性陣一同が白い目で木村を見る。あれ、今度は男性陣の目も向いている。
『クソ!みんな信じてくれ、あいつは出鱈目を「でたらめじゃないよ!!私は鈴木真央だ」』
木村を遮り、言う。それを聞いた木村は青ざめた。
『な・・お前、鈴木か・・?』
「決めた!!穏便に済ませたかったけれど、勇者は消す!!女の敵は消えても文句は言われないんだよ!!それにどうせ、愛妾から魔王に勝った暁には、好きな女を与えるとか言われたんでしょ!!」
木村はまた青ざめた。どやら図星だったみたい。
「いざ勝負!!!」
そう言って私は椅子から立って、勇者へと駈け出した。そして魔法で木村たちの動きを止めて、木村の急所を蹴り上げた。
『%@$*&^』(^^)?LOK%##&&―!!』
声にならない悲鳴。いい気味だ。
「昨日もっ、娼館っで、やったんだろっ!このエロ、野郎!」
蹴り続けているので、声が弾む。
そして、今の私の声を聞いた瞬間、勇者仲間の目が鋭いものとなった。
『な、昨日はおまえ、メーラの森の調査に行ってたんじゃ・・!?』
『お前だけ行ったのかよ!!』
『不潔だわ!!しかもあの妾とつながってたの!!?』
『税金の無駄使い・・それに顔、気持ち悪い・・・』
上から剣士と魔術師らしき男2人にそ女2人。彼女たちは何だか知らない。私ゲームに詳しくないし。
『なんか、バカバカしくね?』
『魔王のほうがいいかもな』
『私、あの妾好きじゃないし・・皇帝も・・それに正妃さまがこっち側だし』
『魔王に着くべき・・・勇者気持ち悪い・・』
そう言って彼らは木村を見捨てた。
それどころか、部屋内の女性全員(木村のもと仲間も含めて)が私が蹴ってるのに「変わって〜」ってきた。正妃様までいるよ。しかも喜々として蹴っている。男性陣はみんな急所を抑えている。感情移入したようだ。
これでもうあいつは再起不能だな。色々と。向こうのみんな!仇はとったぞ!!
これにて一見落着かな?
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☆後日談★
あの後、木村は簀巻きにして帝国へ送った。ついでに正妃様はもともと帝国に並ぶ大国の王女でしかも魔国の後ろ盾も得て帝国に帰った。護衛は元勇者の仲間。あとミーニャンも。どうやら、正妃の子供に気に入られたらしく、少しの間向こうに行くことになったのだ。それに魔族だから普通の人間より強いし。
また、今回の皇帝と愛妾の無謀かつくだらない計画が民衆にもばれて、皇帝は廃位で妾も牢屋に行くらしい。妾の子供はどうやら皇帝の子供で無かったらしく、幽閉。次の皇帝は正妃様の子供である第一皇子のクールベルが成るんだと。
『人騒がせな者たちでしたね、全く。でも魔王さまの蹴りは素敵でしたわ』
「ありがとう、でもすり寄ってこないで」
今は夜。サリナは男バージョンになってしまった。濃い。気持ち悪い。
ああ、化粧はちゃんと落ちました。変なゲル状の物体を顔に着けまくったけれどね。
『あ、そういえば、パーパル国にも勇者が召喚されたようですわ』
「なっ!?」
『また化粧しましょうね!!』
「ヒー――」
一難去ってまた一難である。
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