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拍手のお礼用にUPしておりました小話です。
サカキとユハがものすごーく壊れてますので、ご注意ください。
ハロウィンSS ユハ仕様
「そういえば、ハロウィンですね………」

 目の前に置かれたでこぼことしたカボチャを見て、私はぽつりと呟いた。

「いや、もうとっくに終わってんじゃねえの」

 独り言のつもりであったその呟きに、トゥーロが突っ込みをいれる。
 半ば強制的に、賢者によって地球とノルティアを行ったり来たりしているトゥーロは、時折、ふらりと手土産と新刊を手に現れた。
 今回の手土産はこれ、緑色のでっかいカボチャである。

「よく、知ってますね。ハロウィンなんて」

 一体トゥーロはどれ程の頻度で行き来をしているのか。
 黒騎隊を首になったりしないのかと、他人事ながら心配してしまうのは、賢者の自己中の犠牲者仲間だからだろうか。

「15~6日前に行ったら、あっちこっち、やたらオレンジばっかだったからな」
「もう少ししたら赤色にかわりますよ」
「いや、もう変わってた」

 日本の時節は相変わらず忙しないらしい。

「ま、過ぎてようがいいんじゃねえの。こっちじゃ、もう終わった行事だなんて誰も分かんねえんだしな」

 アイラが入れてくれたお茶に、ふうふうと根気強く息を吹きかけながらトゥーロは言う。
 ぼんやりとカボチャを眺める私に、ちらりと目線を上げた。

「このカボチャをくり貫いて飾りをつくるんだろ?」
「いえ? 煮て食べるつもりですけど。でも、醤油がないからどうやって煮ようかなあと思いまして」
「お前……情緒ってもんが欠如してねえか。女ってのはこういう時、懐かしい故郷の風習に浸ったりするもんじゃねえの」

 トゥーロは呆れたような顔でお茶を口に含んだ。

「いや、別に故郷の風習ってわけじゃないですし」

 実際に、日本でハロウィンを祝った覚えはないし、少なくとも私の周りでハロウィンだからと特別何かをしている人もいなかった。せいぜい店先に並べられたオレンジ色のグッズを見て、「ああ、そういえばハロゥインだなあ」と思うぐらいだ。

「さて、俺はもう行くわ。黒鬼の野郎がまた変な煮詰まり方してないか気になるしな」

 トゥーロの上司―――いや、この場合上官になるのか?―――である黒鬼のイメージがいまいちつかめない。その気になれば恐ろしい山脈の魔物とも渡り合える程の力を持つ、大陸中に名を轟かす剣士じゃなかったのだろうか………。

「今度の土産は醤油にして下さい」

 と私は出立の準備を整えるトゥーロに声をかけて見送った。

 それが昨日の事だった。

「トリックオアトリート」
「なにしてるんですか」

 城の書庫で頼まれた資料を探していると、音もなく背後に立った人物から声をかけられた。

「休憩時間だよ。ここは滅多に人が来なくて、昼寝するにはもってこいの場所でね」

 肩をすくめて首を傾けた男―――ユハは書庫の棚に片手をついて、私を見下ろした。

「ところで、お菓子をもらえないという事は、いたずらをしてもいいってことなのかな?」
「は?」

 緑の瞳を細めて、唇の端を持ち上げた男の顔を、私は眉を顰めて見つめた。

「ハロウィーンだっけ? おもしろい風習だね。お菓子か、いたずらかだなんて、どっちがいいかなんて決まってるじゃないか。………ね」
「いや、なんか、それ意味が……ちょっと! ユハさん!」

 緑の瞳に宿った不穏な空気に、ずりずりと腕のない方へと体をずらせば、もう一本の腕が素早く伸びて、退路をふさがれてしまう。
 背筋を冷たい汗が伝う。
 右を向いても左を向いてもユハの腕。後ろは書架で前には分厚い胸板。
 男が距離を詰める。腰に下げた剣の柄が、棚の木枠に当たって、カツンと音を立てた。
 近づく緑の瞳に、いよいよ万事休すかと唇を噛み締めた時、かさりとスカートの中で何かが音を立てた。

「あっ!」

 急に大きな声を出した私に、ユハがぴたりと体を止める。

「お菓子、ありました。ほら、はい」

 そういって、私はポケットの中をまさぐると、どどめ色の飴玉を掌にのせて差し出した。
 今朝、何故か神殿の近くでライアンに会って、飴玉を渡されたのだ。
 まさか神官服に身をつつんで仕事中の私が、お菓子を忍ばせているとは思ってなかったのだろう、ユハは少々面食らった顔でその飴玉を眺めていたが、ふうと息をついて、それに手を伸ばした。
 危機一髪! ありがとうライアン!
 ヒゲの兵士の顔を思い浮かべていると、かさかさという音が聞こえる。
 見れば、ユハが飴玉を包みから取り出しているところだった。
 なんだ、食べるのか。
 甘いものは苦手だと聞いた覚えがあったのに……。
 私は不思議な気持ちで、長く節くれだった指が、包みをむかれた飴玉をつまむのを見つめていた。

「はい、サカキちゃん」
「え?」

 ぼんやりと飴玉を見ていると、ユハの腕が持ち上がり、

「…………!?」

 ぐっと唇に飴玉を押し付けられた。

「なにすっ……うぐっ」

 抗議の声を上げようとした隙を狙って、ユハは飴玉を口の中へと強引にねじ込んだ。
 ほんわりと控えめな甘みが口のなかに広がる。

「甘いものは苦手だけれど、こうして食べれば美味しいかもしれないね」

 飴玉を追うように迫るユハの唇。
 も、もしや……これは口移しで食わせろとか。そういうことですか!?
 例え、恋人同士の間柄にあっても、少々抵抗を覚えずにはおられない行為に、ぞわりと背筋に寒気が走る。
 生卵を口移しする映画を見て以来、ちょっとしたトラウマなんですけど……。
 縮まる距離、迫る薄く形のよい唇。
 意外と長い睫が、緑の瞳を覆う。
 鼻が擦れあい、吐息が唇にかかった………。


※※ユハとサカキの甘い時間を想像して楽しみたい方は、ブラウザを閉じるか、戻る、を押して下さい。
ユハとラブラブイチャイチャなど許せん! という方は次へどうぞ※※

 鼻が擦れあい、吐息が唇にかかった………、その瞬間―――――私は膝を折ってその場にしゃがみこんだ。

「くらえ、乙女の怒り!」

 そのまま勢いよく跳ね上がる。狙うはがら空きの胴!
 しかし、敵も然る者で、さっと背後へ身を引いて、私の頭突きを交わす。が、ここは狭い書庫の中。
勢い余ったユハが、どんっ、と背後の棚に背を打ち付けると、ばっさばっさと頭上から次々に本が落ちてきて、ユハの上に降り注いだ。
 わー、分厚い本ばっかり。

「大丈夫ですか?」

 ブリ〇ニカも真っ青な頑丈そうな本に埋まったユハに声をかける。
 本に押しつぶされて、尻餅をついたユハは、その少々情けない格好のまま額に手をついて、ふうと息を吐いた。

「大丈夫だよ……と言いたい所だけど、痛むかな」

 さすがにやりすぎたかと、吹き出しそうなのを堪えて(堪えきれずに肩が震えているのは見逃して欲しい)手を差し出す。長い腕が伸び、大きな掌が私の手を掴んだ。
 と、ぐっと指に力が込められ、あっと思った時には、散らばった本の上に、仰向けに倒されていた。
圧し掛かる壁のように大きな体。咄嗟に胸を押して跳ね除けようとするが、私の力でユハの鍛えられた体をどうこう出来るはずもない。
 ユハは、私の必死の抵抗を、ふっと鼻で笑うと、軽々と腕を掴み、床に縫いとめた。

「痛むよ。胸が……とってもね」

 甘い台詞とは裏腹に、怒っているのか剣呑な光を放つ緑の瞳。
 ああ、しまった。怒らせた……。こういうタイプは怒らせると厄介そうなのに、と後悔しても、何ともなるものでもない。
 体重を乗せられて押さえられた体はびくともせず、不味い具合に本に挟まれているのか、顔を反らせる事も出来ない。
 ああ、とうとう―――。
 私は近づく精悍な顔に、そっと瞼を閉じた。

※※やっぱり、ユハとサカキの甘い時間を妄想して楽しもうかな……という方、大人げないユハは見てられない! という方は、ブラウザを閉じるか、戻る、を押して下さい。近衛の分際で許せん! という方は次へどうぞ※※

 反らせなくても、前へは動ける。
 ユハの顔を充分引き寄せてから、私は首の筋肉を精一杯つかって、ヘッドバッドをお見舞いした!
 つもりだったのだが、腐っても近衛、あっさりと首を捻ってかわされてしまう。

「サカキちゃん……時には諦めも肝心だと思うけどね」
「その言葉、そっくりそのままお返ししますよ」

 眉根を寄せて睨みつければ、緑の瞳がすうっと細められる。
 交わる視線。ばちばちと火花が散った……ような気がする。

「この体勢で強がれるのは、さすがと言ったところかな」

 ふっとユハがまたもや鼻で笑った。……このやろう。

「そういう視線もいいものだね」

 ―――――そそられるよ。

 うぎゃあああああ。痒い痒い、体が痒い!
 耳元で囁くように零された台詞に私は悶絶した。

「こんなやり方は趣味じゃないが……味見ぐらいは許してほしいね」

 耳の中に吹き込むようにそう言うと、ユハはさらに体を落として密着させた。

「………っ」

 熱く濡れたものが耳の縁を下から上へとなぞる。
 ひいいいいい。もはや声にもならない。
 耳を嬲る熱に、戦意を喪失しかけた時、かつんと床を打つ音が聞こえた。

「何をしている」

 低い声が、流氷の中を泳ぎまわるよりも冷たく肌にささる。
 やれやれ、と体を起こして膝をついたユハは、私の頭の上に立つ人物を見上げて、肩をすくめた。

「もう少しゆっくりとご登場願いたかったよ」
「いつまで、そうしているつもりだ。さっさと起きぬか」

 ユハの言葉には答えず、低く響く声が苛立ちを露に落とされた。
 寝転がったまま、顎を反らして、ほぼ真上にある麗しのご尊顔を拝すれば、凍えて凍って凍死してしまいそうな冷たい視線が返ってきた。

「資料を探しに出たまま帰らぬと思えば………ここは寝所ではない」

 のろのろと体を起こし、下敷きにした本にバランスを崩して立ちあぐねていると、大きな手がぐいっと腰を掴んで立たせてくれる。

「どうも、ありがとうございます」

 元凶の男の気遣いに、棒読みで礼を述べると、くすりと笑われた。

「すまなかったね。サカキちゃんの魅力に抗えなくて、ちょっとむきになってしまったよ」

 今更そんな爽やかに微笑まれても無理です。

「近衛隊のほうには私から連絡をいれさせてもらう。心して懲罰をうけるのだな。いくぞ、サカキ」

 ユハに冷たい一瞥を投げかけて、くるりと踵を返したエイノの後を、私はすごすごと追いかけた。
 無言で廊下を進み、仕事場へとつくと、エイノは扉を開ける手を止めて、私を見る。
 何時にもまして冷たい茶色い瞳が私を捕らえて、すうと細められる。

「お前は始末書50枚だ。まったく……貴重な書物の上で……」

 え……注意すべきはそこですか………。
 やはり血の色緑の変温動物の心は、いまいち読めないものである。

その後ユハには、近衛隊の隊長から、2区を100週と腕立て腹筋1000回×10セットの罰則が課せられたとか課せられなかったとか………。


※※おまけ。無口バージョン※※

「トリックオアトリック?」
にいっと唇を吊り上げて、酷薄そうな笑顔を浮かべた男の顔を見て、私は即座に開けたばかりのドアを勢いよく閉めた。


※※裏話、というか、書けなかった裏設定※※

一話目の後、トゥーロはユハの元へ
手合わせして汗など流しつつ、世間話として、ハロウィンの話題になる。
それを偶然聞いていたライアン、嫌な予感を覚え、飴を持ってサカキの職場を訪ねる。
そして二話へ
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