立花 貴弘 2
ここでユーヤがバスケをやめる気を起こした時のことを話そうと思う。
ただし、これはオレがそうじゃないかと思っているだけで、あいつに直接聞いたことではないということをはじめに断っておくけれど。でもオレの知る限りそれまでのあいつはやめるなんて素振りは少しも見せていなかった。
中学3年の時、あいつとオレはそろってレギュラーを勝ち取って試合に出ていた。ってのはちょっと誤りがあるけど。まあ、それは措いといて、ちょこっとオレの自慢をさせてもらうと、オレがレギュラーになったのは1年の終わりだった。バスケでの身長ってのは本当に大きな武器なんだよな。たしかオレはその時のバスケ部員の中で(先輩も含めて)3本の指に入るくらいの身長があった。もちろんテクニックも負けてなかったぜ。
うちの学校は全国に行けないにしても、県大会ではチョコチョコ上位に顔を出すようなとこだったから、そのうちオレの名前は県内で少し有名になっていった。「でかくて、うまいやつがいる」ってな。だからまあ、オレの部活内での株もあがってて、先輩や顧問に意見を言うことも珍しくなかった。それでも「ユーヤを出したい」と言うと笑い飛ばされるだけだった。能力は文句なしなのに、自分が目立つプレーってのがあいつはあんまり好きじゃないもんだから、部活の中では地味で目立たない存在のままだった。オレから言わせれば、GじゃなくてもFでもその時の誰にもあいつは負けてなかったと言い切れる。
結局あいつは先輩が全員引退してやっとユニフォームをもらうことになり、それでも控え扱いをしていた顧問を「ユーヤを出さないなら、オレも出ない」という、説得というよりかは脅迫に近い方法で無理やり試合に出していた。もちろんほかのやつにはこのことは秘密だったけど。
そうして迎えた初めての公式戦であいつの評価、いや印象ががらりと変わることになった。
その大会で俺たちは準決勝まで登り詰めていた。今までの最高は何年か前のベスト4だったからこの試合に勝てばこの学校始まって以来の好成績になる。
ただ、ここまでくるとさすがに強豪だらけで勢いだけでどうにかなるもんじゃあなかった。事実、第3クオーターを終わって13点の差をつけられていた。正直集中も切れかけてたし、何とかする体力なんて残ってなかった。
そして第4クオーター。いきなり相手に点を入れられ雰囲気も最悪。と、ここで今までじゃあ考えられないことが起こった。ボールを持ったユーヤが1人でゴールに向かって突っ込んでいった。オレたちがあっけに取られて突っ立って見てるだけなのに対して、さすが強豪校、むかつくほど鍛えられてやがる。落ち着いてあいつにディフェンスが2人付いた。が、そんなことはお構いなしであいつはめちゃくちゃな体勢になりながら強引にシュート。文字どうり「ねじ込んだ」って感じでゴールを決めやがった。
その時のあいつの顔を見た瞬間「ああ、キレてるな」って思ったね。あんなマジな顔はじめて見た気がするよ。汗だくで両肩でおもいっきり息してるし、どう見ても今コートにいる中で一番へろへろなくせにさ、目だけは「負けたくねえ」ってどこだかわかんないけど睨み付けてやがった。ここであいつの新たな一面がわかったってわけだ。
ものすげえ負けず嫌い。バスケに関しては。
まあ、負けず嫌いってことではオレ方が負けてないと思ってるし、あいつのスタイルが変わってちょっと驚くと同時に面白くなってきたから、オレも少し元気が戻ってきていた。そして、こっからオレたち2人での猛反撃が始まった。今まで何やってたんだよって感じのオフェンス力を見せ付けるあいつに相手チームはあきらかに戸惑い、その間にオレたち2人のコンビネーションと個人技で一気に3点差まで追いついた。
しかし反撃及ばず、もともと限界ぎりぎりだったオレたちは最後に冷静さを取り戻した相手にしっかり守りきられそのまま試合終了の笛を聴くことになった。
ただ、試合には負けたけどここから部内でのあいつを見る目が変わっていった。あいつが試合に出ることに疑問視していたやつもいなくなったし、オレとあいつを軸にしてチームを作っていくことになった。オレからしてみたら、ほらみろ。ってとこだけどな。そしてこの試合以降、オレたちはますますバスケ中心の生活を送っていった。
そして、中学最後の公式戦をむかえることになる。
この大会でもオレたちはどんどん勝ち進み、なんと決勝までたどり着いた。これに勝てばとうとう全国だ。
ちなみにこの大会の前にあいつはポジションがGからFに変わっていた。はじめ渋っていたけどオレやみんなにうまく丸め込まれなんとか了承した。あれだけのオフェンスを見せられたら誰だって変えたくなるだろ?でも、あれ以降は今までどうりのあいつに戻っちまったけどな。オレたちがあの姿を見たのはあの時と、そして今回の決勝戦の時の2回だけだった。
決勝の相手は全国の常連校。しかもオレたちはここまで試合をこなしてくるのは初めてで、体力的にもかなりきつかった。相手も同じだけ試合をやっているんだけど、これまでの経験があるわけで、全試合の勝ち抜き方。というものを良く知っていたんだと思う。
体が思うように動かないオレたちはあっという間に大量リードを許していた。そんな中あいつが「キレた」のは第3クオーターからだったけれど、さすがに動きにキレがなく、喰らい付いていくのが精一杯で、差をつめることなんかできなかった。それにあいつをマークしていた相手チームの選手がまた厄介なやつで、どれだけ厄介かといえばそうだな、全国でも有名な選手だったというのが簡単かな。オフェンスは速くてうまいし、それだけじゃなくディフェンスも硬かった。どうにもできない相手ってのにあいつははじめて会ったんじゃないか? どんな相手にも起用に対処するといえば聞こえはいいけど、ひねくれもんだから相手が嫌がることをするのが好きなだけなんだよな。それが止められないし、抜けない。それどころかパスさえまともにもらえなくて、正直誰の目にも「あの時」のあいつは完璧に叩きのめされていたと映っていたと思う。
そして反撃の糸口もつかめないまま、オレたちの最後の試合は大敗という結果で幕を閉じることになった。
この試合こそ、あいつにバスケをやめようと決意させたとオレは考えている。
満足したとかバスケが嫌いになったとかどっかに爆弾を抱えたとかってわけじゃあなく、オレは自分の限界ってのを感じたんじゃないかと思う。オレたちは本当にバスケ中心の生活を送ってきたし強豪校にも負けないくらいの練習をやってきたと信じている。それでもあいつはあの試合でどうにもならない選手に出会い叩き潰された。さらに上には上がいるだろうし、こんなところで負けてる自分に失望したんじゃないだろうか。
というのもあいつとバスケの話をしていて感じたんだけれど、あいつは間違いなくプロを目指していたと思う。そう取れる言葉をたまにぽつぽつとこぼしては、自分で気づいたのかあの表情を浮かべいかにも冗談だよって感じで笑っていた。だからこそ、こんなところで負けてるようじゃあとてもじゃないけどプロなんてなれない。オレには無理だ、何か違うことをしよう。とまあだいぶん省略してるけど、こんな感じであいつの思考は進んでいったんじゃないかなと。
オレから言わせてもらえればあきらめるのが早いと思うし、そんな簡単にあきらめるようなやつがプロなんてなれるわけがねえ。とかなんとか説教でもしてやりたいんだけどな、口で言って聞くやつでもないし、それに絶対もどって来るという確信がある。あんなにバスケ好きのバスケ馬鹿が簡単に辞められるわけがねえよ。第一、負けたままあいつが黙って引き下がるなんてありえないね。ほら、ものすげえ負けず嫌いって言ったろ。
あの時は手も足も出なかったけど、あいつと相手の選手に技術的な差はほとんど無かった。とオレは思っている。すべてにおいて相手がひとつ上をいっていたのは紛れも無い事実だけど決定的な差は体力だけ。1試合走り続ける体力があいつには無かった。だから万全の状態でやっても最後に失速して負けてはいただろうけど、間違いなくいい試合になっていたはずだ。
まったくユーヤ、お前のことをこんなに評価してるのはオレだけだぜ。ありがたく思えよな。お前とやってると楽しいし、オレたちのコンビを止めれたやつがいたか? 最高のコンビだったろ。オレだけがそう思ってたなんて言わせないぜ、お前もそうだったろ。高校でも見せつけてやろうぜ。わざわざ同じ学校にきて一緒にやれる日を待ってんだからさ。
あ〜もう〜、なんか気持ち悪っ!
一緒にやりたいとかなんて自分で言ってて気持ち悪くなってきたじゃねえか。オレがこんなこと考えるのも全部お前のせいだからな。
だからさっさと戻って来いって。
もう夏休みも終わっちまったぞ。ユーヤ。
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