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クラッチ
作:高階涼介



葉山 優也 3


「ルールを言っておくわね」

 コートの真ん中にオレたちを連れてきた彼女が確認するように1人1人を見ながら言った。

「先攻後攻関係なしで5ポイント先取したほうの勝ち。普通の2点シュートが1ポイント3点シュートが2ポイント。攻守の切り替えはこのセンターラインをまたぐ事。あっ、ゴールの後もこのセンターラインからリスタートね。う〜ん、こんなところかな」
「わかってるって、そんなに細かく言わなくてもいいだろ」

 オレがめんどくさそうに言うと彼女はオレに近寄ってたっぷり3秒ほどにらんだ後、ほかの2人にも眼を向け、

「あんたたちが負けたときに言い訳されないようにしとかないといけないからね」

 鼻で笑いながら自信満々に言う彼女。
 ちょっとやる気が出てきた。その自身を砕いてやりたいって思うオレは性格悪いかな?

「それじゃあ先攻後攻を決めよっか。じゃんけんでいいわよね」
「ああ、君からどうぞ」

 吉岡が持っていたボールを彼女に差し出す。まあ、一応女の子だしな、ちょっとしたハンデをつけるのは当然だよな。ただ、この子の気の強そうな性格じゃ女性だからってハンデをつけられるようなことをされるの嫌がるかと思ったけど。

「そう? じゃっ、はじめよっか」

 彼女は特にこだわりも見せずボールを受け取りスタートの位置についた。ちょっと予想外。
 オレと山中が離れると彼女は吉岡にボールを投げつけた。吉岡が笑顔で投げ返したボールを受け取ると彼女は何か呟いた後でドリブルをはじめた。
 軽やかなステップに合わせて髪の毛やスカートが揺れている。なんと言うか独特のリズムを刻んでいて踊っているようにさえ見える。
 彼女は1度大きく深呼吸をすると、吉岡に向かって飛び出していった。




 吉岡に続いて山岡と勝負はあっという間というわけではなかったけど、明らかなワンサイドゲームで終わった。

「これでジュース2本ね」

 こっちに向かってVサインをみせる彼女は満面の笑顔だ。それに比べてこっちの情けないことといったら。

「何やってんの、お前ら」
「いや、マジであの子うまいんだって」
「お前もやってみたらわかるって」

 確かに見ててうまいと思ったけど、負けるほどじゃないと思うんだがね。
 彼女の作戦というのかな、というのはオフェンスはきっちり決めてディフェンスは止められればラッキーって感じだった。さすがに男と女の力や体重差ってのがあるから、力で攻めてこられたら止められないってのがわかってるみたいで、ディフェンスはほとんどあきらめていたように見えた。ただその分オフェンスには自信があるんだろう、実際彼女がボールを持つと必ずシュートを決めていた。
 だから彼女はできるだけ先に攻撃したかったようで。ゲームの前に吉岡につぶやいた一言は、

「今までもそうだったけど男ってのは、先攻を譲ってくれんのよね。ホント作戦通り」

 だったらしい、だから最初のルールの中に「先攻後攻関係なしで5ポイント先取したほうの勝ち」ってのが入ってたわけだ。相当勝ちにこだわってるよな。
 あきれることに彼女は今までにもここに来たやつに勝負を挑んでいたようで、今まで、

「負けたこと無い」

 らしい。弁慶かよ。

「そっか、しまったなあ。勝った証にそいつからバッシュかなんかもらっとけばよかったわね」

 なんだか危ない入れ知恵をしてしまった気がするけど、いったい何でこんなことしてるんでしょうかね、この人は。

 「最後はあんたね。あんたは少しはまともなんでしょうね?この2人の感じじゃ期待してないけど〜」

 完全に見下されてる。お前らのせいだぞ。特に山中。じゃんけんで勝って先攻を選んだってだけでも情けないのに、見事に負けやがって。

「そういえば、あんたで10連勝なのよね〜」

 もう勝った気でいる彼女。

「いやいや、真打は最後って決まってんの、こいつは元バスケ部だから」

 吉岡の言葉に彼女はオレの方を少し興味深そうに見ていたけど、すぐに目をそらして手をひらひらと振った。

「今までもバスケ部ってヤツいたけどねえ。全然だめ。期待してたのに拍子抜けって感じ。部活なんて結局遊びの延長じゃない」

 さすがに少し頭にきた。確かに遊びで部活やってるやつもいるけどさ、そいつらのせいで本気でバスケやってるやつらがこいつに馬鹿にされるのは、ちょっと我慢できないな。部活が遊びの延長みたいなもんなら今でもオレはやってるはずだ。

「あれ、怒った?バスケ部」

 からかうように言う彼女。またそれでカチンときた。オレは人をおちょくるのは好きだけど、その逆は嫌いなんだよ。もう、結構我慢してきたしそろそろ反撃してもいいよな。

「さあね。それから『元』な」
「細かいわね。それとも何、負けたときの理由にしたいの」
「い〜や、元バスケ部のほうがさ、そっちが負けたとき悔しがると思ってね」

 わざと感じ悪く言うと、さすがに今まで機嫌のよさそうだった彼女の顔が曇った。眉間に軽くしわを寄せながらもまだ笑顔のままで、

「口だけならいくらでも言えるわよね。今までもそんなヤツたくさんいたわよ」
「そっちこそあんま大口たたいてると、負けたときに恥ずかしい思いすることになるんじゃねえの」

 彼女の眉間のしわがさらに増える。オレの後ろでは吉岡が笑いをこらえ、山岡は少し心配そうにこのやり取りを眺めていた。

「相当自身があるみたいね。いいわ、やればすぐに結果が出るんだから、さっさとやりましょう。はい」

 殴る気かと思うほど力強く右手を差し出す。じゃんけんか。

「いいよ、そっちからで」

 吉岡の時とは違い、明らかに不満そうな表情を浮かべた。

「後悔しないでよっ」
「しないしない。あ〜、そうだ」

 彼女はコートに向かおうとした足を止めて、こっちを見る。イライラいている顔がおかしくて少し笑いながら、

「それ」

 と彼女の足元を指差す。

「何よ」
「いや、靴。革靴じゃなくてさ、せめてスニーカーかなんか持ってきてないの?」
「心配してくれなくて結構。怪我なんてしないから」
「そうじゃなくて、負けたとき『革靴だったから』って言われたくないからさ」

 マンガで血管の切れる音ってのはこうゆう時に使うんだろうな。持ってたボールをオレに向かって投げつけると、

「あんたに履き替えさせるだけの実力があったら履き替えてやるわよっ!」

 そう怒鳴ると、肩を怒らせながらまた歩き出した。

「お前は本当に人を怒らせるの得意だよな」

 笑いながら吉岡がオレの肩に手をかける。そんなもんが得意だった覚えなんかないぞ。

「向こうが悪い」
「まっ、オレも少しすっきりしたけど」
「お前のためじゃねえよ」
「はいはい、わかってるって」

 そう言いながらも楽しそうにオレと彼女を交互に見ている。何考えてんだこいつ?

「けど、あんなに言って本当に勝てんのか?」

 割って入ってきた山中に視線を移しながら、

「たかが遊びだし、別に負けてもジュース奢るだけだろ?」
「おいおい」

 コートの中で彼女の、さっさと来いだとか叫んでいる声が聞こえてくる。これ以上こいつらと話してられそうにないな。

「はは、まあ・・・」

 オレは、彼女から投げつけられたボールでドリブルをしながら彼女の方へ歩き出した。

「見てなって、負けねえよ」














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