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クラッチ
作:高階涼介



葉山 優也 2


 ひとつ言っておきたいことがあるんだけど、オレは別にバスケが嫌いになったわけじゃあない。ただ、部活で毎日毎日するほど情熱を傾けるものじゃあなくなっただけで、ちょっと遊ぶくらいなら断る理由も無いってわけ。
 だからさ、こうして今もバスケをしようぜ。って遊び仲間のヤツらに誘われてもノーなんて言わずについてってるんだな。
 9月に入ったとはいえまだまだがんばってやがる太平洋高気圧のやつのせいで、今日も空一面晴れ渡っていた。ただ、聞こえてくる虫の声はいつの間にかセミから秋のそれに変わっていた。どことなく哀愁を感じるね。

「なにぼーっとしてんだ」

 そう言って吉岡がオレを覗き込む。

「いや別に」
「葉山がぼけっとしてんのはいつものことじゃん」

 とは山中。

「うるせーな。それよりまだかよバスケするとこはよ」
「もうちょっとだって、何? 久々にするからうずいてんの」

 ニヤけた顔で言いながら吉岡は持っていたボールをオレに投げてきた。

「そういやあ、葉山は中学までやってたんだっけ。どうなのうまかった?」
「別に。フツーじゃねえの」

 オレがあいまいな返事をすると山中は吉岡の方に目を向けた。

「さあ、オレもユーヤがやってるとこ実際に見たことないから。あっ、貴弘はうまかったって言ってたっけな」
「へえ、立花が言うんならちょっと楽しみにしてようかね」
「何を楽しみにするんだか」

 少し驚いたような顔で笑う山中から顔をそらすと、持っていたボールを吉岡にちょっと強めに投げ返してやった。あんま変なこと言うんじゃねえよ。

 そういえばこいつらのことを話してなかったな。まあ、別にしなくてもいいような気もするし、めんどくさいんだけど簡単に話しておこう。
 この2人はオレと同じく帰宅部で、いつも遊んでいるグループの中でもとりわけ気の合うやつらだ。吉岡は中学からの付き合いでいつもバカなことばっかりやってたっけな。明るく面白いやつだし、オレたちの中だけじゃなくクラスでもムードメーカー的なやつだ。
 山中のほうは高校に入ってからだけど、吉岡と席が近くよく話してたからオレもいつの間にか仲良くなってたってとこ。頭がいいからテストのときは頼りになるんだよなあ。1学期はほんとお世話になりました。

 そんでまあ、今なんでバスケをすることになったのかっていうと、吉岡が読んだマンガに影響うけてやりたくなったっていうバカバカしい理由。ほんと単純なやつ。しかしそれに簡単に付き合うオレたちもほんと暇だよな。
 吉岡がオレたちを連れてきたのは町のはずれにある運動公園だった。そういえば中学の頃に何回かここで試合したな。陸上の競技場に野球のグラウンド、体育館それにテニスコートまである結構しっかりした施設なんだが、知らない間にその片隅にフェンスに囲まれたアスファルト敷きのバスケットコートが1面できていた。
 管理室のような部屋にある、「受付」と書かれた窓口に行くと、誰もいなかったが、吉岡はあたりまえのように置いてあった利用者名簿に名前を書くと。

「オッケー、行こうぜ」
「いいのか?」
「いいのいいの、ここはこの時間はいっつも誰もいないから。勝手に書いて勝手に使えばいいんだよ。あっ、ただしバスケのコートだけだけど」
「よく知ってんなあ」

 言いながら山中は部屋の中を覗き込んだ。オレもつられて覗いてみる。本当に誰も居ないみたいだな、電気も点いてないし。これって職務怠慢じゃねえの?

「何回か遊びに来てるから。この町の遊び場なら何でもオレに聞いてくれ」

 くだらないことばっかりよく知ってるよ。まっ、そのおかげでオレも退屈せずにいられるんだけど。
 吉岡が言うには、バスケのコートは原則ハーフコートだけだけど無料で使えるということだ。競技会なんかをしてない日ならグラウンドや体育館も予約すればお金はかかるが借りれるらしい。

「ほかのやつらは場所知ってんの?」
「とりあえず簡単に教えといた。わかんなかったら電話してくるだろ。んっ? 先客だな」

 コートに向かう足を止めて吉岡が言った。見ると確かにゴールに向かって立ったままボールを弾ませているヤツがいた。ああ、ヤツってのはちょっと失礼かな、女性だから。

「おっ、結構かわいいぞ」

 フェンスまで近寄ったところで吉岡が満面の笑みでオレたちを見た。まったく弱いよな、オレと山中も吉岡に肩を並べる。近寄っても彼女の肩まで伸びた髪に隠れて顔はよく見えないけど、スタイルは抜群かな。

「あれってうちの制服だよな?」

 山中に言われて気づいたが、確かに彼女の着ている制服はオレたちの学校のものだった。というか、制服でバスケする気か?よく見れば革靴だし。怪我もそうだけど、見えるぞ。いや、オレたちは大歓迎だが。
 と、その時彼女は大きく息を吐き出してゴールに向かってドリブルをはじめた。オレたちはそれを目で追いながら自然としゃがんでいく。ほんと馬鹿だな。
 そして彼女がリングに向かってジャンプ。それにあわせてスカートの裾がひらひらと風になびかれ、その中がオレたちの目に飛び込んでくる。


『短パンかいっ!』


 間抜けなことに3人同時につっこんでいた。
 その声に気づいたのか、彼女は落ちてきたボールをほっておいてこっちを見た。オレたちはあわてて立ち上がると、さも今来ましたって顔でコートの入り口に歩き出した。到底、ごまかせるわけないんだけど、今考えると。
 彼女はコートに入るオレたちをじっと見ていたが、転がっていたボールを拾い上げると、こっちに向かって歩いてきた。

「あ〜あ、なんか言われるなこりゃ」
「吉岡。よろしく」
「ええ? なんでオレが」
「お前言われなれてるだろ。スケベとかバカとか」
「山中、お前オレを何だと思ってんだよ。っつーかこれはお前らも同罪だろうが」

 そんなことでもめてるうちに、彼女はオレたちの所にやってきた。近くに来てわかったけど背が高い。オレとほとんど変わらないから170近くはあるんじゃないか。そんな彼女が、

「ねえ」

 と片手でボールを抱え、反対の手も腰にあてた威圧感たっぷりの姿勢で言った。きりっとした気の強そうな彼女の顔は怒っているようには見えなかったけど、こういう女の子は怒ってなくても苦手だなオレは。綺麗だってのは認めるけど。

「何でしょうか」

 結局吉岡が、何とか作り笑いをして彼女に答える。ちょっと卑屈になってるのは、しょうがないよな。
 彼女はオレたちを一通り見回すと。

「あんたたちバスケしに来たんでしょ? 私と勝負しない、1on1で」

 そう言って彼女は、ニヤリと不適な笑みを浮かべた。

「はあ、勝負?」
「そっ、1人でやるよりそっちの方が面白いし。そうね、負けたほうがジュースおごるってのはどう? なんか賭けたほうが本気になるでしょ」
「いや、ちょっと・・・・」

 割って入ろうとした吉岡をにらみつける彼女。

「やるわよね? 覗き3人組さん」

 オレたちは一瞬にして固まった顔を、何とか上下に振った。あ、やっぱばれてました・・・・・・。
 彼女はまた不敵な笑顔になって、持っていたボールを吉岡に投げつけ、指を突きつけた。


「おっけ〜。じゃ、あんたから来なさい」













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