立花 貴弘 10
「サキってさ、なんかやってたのかな?」
「何だよ、急に」
サキとの勝負を終えたユーヤに語りかけた。「ちょっと休憩」と言ってオレのところに戻ってきたユーヤにサキは「逃げるの」「勝ち逃げすんな」と罵っていたけれど、それにも飽きたのか、1人でシュート練習を始めていた。
大会への練習。という名目で集まっているにも係わらず、サキはずっとユーヤに勝負を挑んでは、ことごとく玉砕していた。まったくよくやるよな。あいつうるさいからユーヤも1回くらい負けてやってもいいのにな。
「いやさ、ずっと見てたんだけど、確かにバスケの動きじゃない。ないけどあれは素人じゃないよな。何かやってただろ。それにどっか見たことある動きだし・・・」
ユーヤはちらりとサキに目を向けてから、オレの横に腰を下ろした。
「うーん、やっぱお前もそう思う?」
「お前も?」
「ああ。まあ、ずっと勝負させられてるしな。なんとなく」
2人でサキに目を向ける。「どうだっ」「ナイッシュウ。さすが私」と1人でもにぎやかなヤツだ。思わず笑みがこぼれる。
「でさ、多分だけどバレーやってたんじゃないかなってオレは思うんだけど」
「バレー・・・。ボールの方?」
「そうそう。そっちの方」
「へえ、何で?」
「うん? いや、サキとさ初めて勝負した時なんだけど、1回リバウンドを競り合ったんだよ。オレさ結構ジャンプ力には自信あるんだけど、だからリバウンドも楽勝だろって飛んだらさ、引き分け。あいつにボール弾かれたんだよな」
「ほー」
ちょっと驚き。ユーヤのジャンプ力はオレもよく知ってる。何しろバスケ部に入りたての頃、オレの方が10cm以上背が高かったのに、ユーヤにリバウンドを取られるなんて事がよくあった。「体重軽いから、よく飛べるんだよ」なんてユーヤの冗談に笑っていたけど、内心かなり悔しかったのを憶えている。
でかいだけなんて言われるのが嫌だったから、オレはテクニックもそうだけど、体もかなり鍛えていた。ジャンプ力だって平均以上はあったと思う。それなのに負けたからな、ユーヤに。
だからそっからジャンプ力をかなり鍛えた。ユーヤにばれないようこっそりと。それからリバウンドの技術も。おかげで、2年も終わりごろにはユーヤにリバウンドを取られるなんて事は無くなり、さらには公式戦でもオレのリバウンドは無敵の強さをみせるようになっていた。
今でもリバウンドはオレの大きな武器だ。ユーヤのおかげってことになるのかな。ま、本人には絶対言わないけど。
おっと、話がそれたな。
「それでバレー部? でも、ジャンプ力あるからバレー部ってのもなあ・・・」
「違う違う。そこはきっかけ。うーん、だからなんつうかな、本当にそんなに飛んでんのかよ? って言うかさ、どうやって飛んでんだ? って思ったわけ。そんでまあ、サキが1人でやってるところを見てたんだけど・・・」
そこで黙ってサキを見つめる。
「はあ、で?」
「ああ、見たほうが解りやすいかな、と。・・・あっ、今の今の」
「いや、そう言われてもな」
オレにはただ単に、ジャンプしてボールを掴んだようにしか見えないけど・・・。いや確かにどこか違和感というか、見たことがある感じがするな。
「あの飛ぶ前の踏み切りだよ。バレーでアタック打つ時みたいだろ」
「ああっ、なるほど」
つっかえていたものが取れた感じ。確かにそっくりだ。
助走の入り方、腕の動き、そして両足での踏み切り。この助走から両足で踏み切るってのが特徴かな。こういう練習して癖がついてるヤツ以外ってのは、だいたい助走をつけて飛ぶと、片足踏み切りになるんだよな。オレも授業でバレーやった時に、ものすごい違和感あったもんな。
「はあ〜、しっかしよくわかったな、お前」
そういえば昔から、目ざとかったよな。チームメイトの癖とか動き憶えたりさ。
「いやー、ちょうどこの前なんかのテレビで見たんだよ。片足踏切と両足踏み切りの違いってやつ」
ユーヤによると、というかそのテレビか。片足で跳ぶより両足で飛んだほうが高く飛べるらしい。理由は簡単。片足より両足の方が筋肉を使うから。まあ確かにそうだよな。理屈はわかるけど、
「慣れないと難しいよな」
「だよな。オレ達はレイアップが染み付いてるし」
「でもよ、両足で飛んでるにしても、お前と同じくらい飛ぶってすごくねえ?」
その言葉がプライドを傷付けたのか、急に顔を曇らせ、
「オレはブランクあるからな」
機嫌の悪そうな声でそう言った。やれやれ、悔しいんならそんな言い訳に逃げないで、バスケ部に入って練習しろよな。
疑っていたわけじゃないけど、確認のため・・・ってのも変だな、まあとにかく帰り際サキに訊いてみた。
「サキって昔バレーやってた?」
きょとんとした顔でオレを見ると、
「何で知ってんの?」
おお、ビンゴ。
「そうだな秘密ってことで」
そう言うと、急にサキは眉をひそめた。
「何よ、気持ち悪いわねえ。言いなさいよ。あっ、まさかユーヤ。あんた私があんたの過去を聞きだしたから、そのお返しに調べたんじゃないでしょうね。うわっ、最低。変態。ストーカー」
「そんな大声で叫ぶんじゃねえよ。ったく、そんなくだらねえこと、頼まれたってするか」
「くだらないってどういうことよ」
あーもう、何ですぐ喧嘩すんだよ、こいつら。はいはいオレが悪かったよ。
「まあまあ。いや、サキの動きがさ、バレーの動きにそっくりだったからさ。2人でそうじゃないかなあってさっき話してたんだよ」
サキはころっと表情を変えると、
「あっそ、なんだそうだったの。へえ〜、それにしてもよくわかったわね」
感心したようにオレを見る。いや、気づいたのはユーヤだけどな。そう言うとまたなんか喧嘩始まりそうだしなあ。
「中学までやってたのよ。ふふん。結構有名だったのよ。スパイク決めまくってたんだから。県の選抜にも選ばれた事あるし」
「へえー、そりゃすげえな」
サキは得意げな顔で、アタックの真似を繰り返していた。
「なるほどねえ。叩くとか大好きなお前にはぴったりだよな」
「どういう意味よ、それ」
「そのままですけど」
また始まったよ。ああもう面倒くせえ。勝手にしてくれ。
「もう一丁っ」
威勢のいいサキの声がこだまする。
リバウンドのポジション争いをしているオレ達の横から、またまたサキが割り込んできた。オレ達の苦労なんかお構いなしで、勝手に飛び込んできてボールを横取りする。
相変わらず相手はいいポジションを取っている。それなのにサキに負ける。驚きと悔しさの混じった表情で見つめているそいつらを見て、サキは得意げな表情で鼻を鳴らした。
いやいや恐れ入りました。リバウンドでサキが活躍するとは夢にも思ってなかったよ。しかし飛ぶ飛ぶ。相手、特にCの身長はオレとほぼ同じくらいだってのに、助走つけてるとはいえ、そいつらに勝っちまうんだからな。
それにジャンプ力だけじゃない。いいポジションを取っている相手から、リバウンドを掻っ攫うってのは結構至難の業。それを可能にしているのは、サキの空中でのバランスのよさだろうな。やわらかいと言うのか、変なところから無茶な態勢でするりと手が伸びてくる。それでいて着地は乱れない。オレが同じ事をしたら、派手にすっころぶか、相手に体当たりでファール。下手したら怪我するだろうな。これもバレーやってたからなのかね。
しかし1on1のスキルやらジャンプ力、空中での姿勢制御といい、素人なのにうらやましいものを標準装備してるよな、こいつは。
まっ、おかげで今は助かったけどな。サキがリバウンドを取れるなんて思ってなかったのはオレだけじゃない、相手もそうだ。完全に作戦が狂わされたようだった。
こうなったらオレに2人つくわけにはいかない。相手のFはサキから離れる事が出来なくなった。さすがにマークがつくとサキもリバウンドを取らせてはもらえないだろう。でもそれでいい。サキにマークがつくって事は、オレから1人離れるって事だからな。1人ならオレが負けるわけがねえ。
まあ、ここからはまたオレに任せてもらおうか。もともとオレの見せ場だからな。味方だけど、何でもかんでもお前に持ってかれるわけにはいかねえよ。オレももっと活躍してギャラリー沸かせたいし、現役バスケ部の意地とプライドってものもあるんでね。
ここからの展開はもう述べるまでも無い。作戦が崩された相手と、予想外のビッグプレーが起こったオレ達。どっちが流れに乗れたかなんて、どっちが勝ったかなんてもうわかるよな?
しかし、この試合といいさっきの試合といい、サキのプレーは流れを作るよな。
まあ、この2試合の前にあいつらに意識の変化があったってのはあるけど、始めの2試合でのオレの孤軍奮闘のプレーじゃ、全然リズムを作る事ができなかったてのにさ。
周りをのせて、流れをつくるプレー。これも才能なのかね。オレにはうまく出来ないんだよな、こういうの。
そういえばもう1人いたな。こういうのが得意なヤツが。あいつは今どう思ってるのかね? 訊いても素直に答えてくれないだろうけどな。何も感じてないってことはないだろうけど、驚いているのか楽しんでいるのか、それともうらやましいとか悔しいとか思ってんのかな?
なあ、ユーヤ。
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