立花 貴弘 7
乗り始めている。流れに、リズムに。
今日始めて味わう感覚だった。
そしてそのリズムの中心にいるのは、間違いなくサキだった。
コートの中を所狭しと駆け巡り、マークを振り切ったところにパス。そこからはサキ得意の1on1。さっきまでの試合が嘘のように楽々と抜いてゴールを決める。
9対6
ギャラリーの歓声が沸き起こった。
サキは眩しいくらいの笑顔で、オレとハイタッチを交わし、ギャラリーにも答える。ここまで、オレ達のチームの全得点をサキが決めていた。
「よ〜し、今度こそ止めるわよ。さっさと来なさい」
口もよく回るようになってきた。いつものサキ。でも、バスケをしてる時には始めて見る姿かもな。どちらかと言うと、バスケの時には厳しい表情を浮かべていたけれど、今のサキはとにかく楽しそうだった。
走り回れなんて、多分ユーヤが言ったんだろうけど、かなり疲れるだろうに、サキはそんな素振りも見せず、リードを外された犬みたいに、嬉々として走り回っていた。
確かに、3on3ならコートを広く使えるから、走り回れるし、マークを外す方法としては、もっとも単純だけど効果的な方法だ。他人にぴったりくっついて走るなんて、なかなか難しいからな。まっ、マークが外れた時にタイミングよく、パスを出せるヤツがいるってのも必要だけどな。その点はユーヤがいるから問題ない。その自信があるからあいつもこの作戦を立てたんだろうけど。まあ、ブランクがあるとはいえ、このくらいはやってもらわないとな。
とにかく、オフェンスのリズムはいい感じだ。後はディフェンス。まだ相手の攻撃を止められていない。どんな形でも1本、止められればさらに乗って行けるんだけどな。でもそのへんは相手もわかっているようで、確実にきている。つまり、サキがマークしている相手にボールを集めていた。
そして、今も、
「まーた来たわね」
サキは抜くが、オレの所まではこずに、シュートを打つ。オレのディフェンスはいやみたいだな。実力を認められるのはありがたいが、今はそんな事言ってられねえんだよ。どうすっかな?
それでも、だんだんとサキは、抜かれるまでの時間が延びてきていた。たいしたもんだよ。やっぱいいセンスしてる。
「ん?」
と、サキを抜こうとしている相手の後ろに、するすると近づいてくる人影があった。なかなか抜けなくなったもんだから、相手はサキに集中しそれに気づいていない。
「後ろっ!」
相手のGが叫んだ。が、もう遅い。
「あっ」
相手Fの背後から伸びた手が、ボールを弾いた。
スティール!
「よっしゃあー!」
思わず叫んでいた。やってくれるね、ユーヤ。
目立つの嫌いなくせに、昔からおいしいとこ持ってくんだよな。あいつ。
ユーヤはこぼれたボールをすばやく拾うと、
「サキっ」
そう呼ばれた相手は、もうスタートラインへ走っていた。
「わかってるっつーの」
ユーヤがそのサキにパスを出す。オレもボケッとしてられねえな。
「こっち」
相手を背負う形で、ハイポスト(制限区域のフリースローライン付近)に入る。相手のマークがルーズな間になんとか・・・。
サキのパスを受け、左に目を向けると、ゴールへ走り出している、ユーヤと目が合う。
「タカヒ・・・」
慌ててユーヤが口を閉じる。そうそう、今はオレ「タカ」だったっけ。よく気づいたな、結構余裕あるじゃん、お前。
そのユーヤへパス・・・する格好だけ見せ、右へ。そこには・・・。
「やっる〜。タカ」
そう、サキ。
ボールを持つと、そのまま、まっすぐゴールへ。
今、相手のマークはすべて後手後手にまわっている。さっきユーヤにパスしても、オレがこのまま持ちこんでも、ゴールできていただろう。
でも、今はサキ。
サキが決める事でリズムに乗れる。雰囲気が良くなる。いつの間にか、サキはオレ達のチームの中心、ムードメーカーになっていた。
「はずすなよ〜」
ユーヤの軽口に、
「誰に言ってんの・・・」
しっかり反論しながら、ジャンプ。
「・・・よっ」
そして綺麗にレイアップを決める。
12対6
「どんなもんよ?」
胸を張るサキ。オレはユーヤと目を合わせ、
「今のは、オレのスティールだろ?」
「いやいや、オレのパスだって」
「なんですって〜」
オレとユーヤは、また顔を見合わせて笑いながら、
「ははっ、まあまあ。ほら。」
方手を上げる。
「ナイシュウ・・・」
ユーヤもオレに倣う。
サキのむくれた顔が崩れ、意地悪そうな笑みを浮かべた。
「はじめっから、そうしなさいよね」
パン、パン。
叩きつけるようなハイタッチを交わすと、
「よ〜し、このまま一気にいくわよっ」
そう言って、こぶしを胸の前で握り締めた。
はたして、その通りになった。
サキはギャラリーをすっかり味方につけ、相手の厳しいディフェンスにはブーイングが飛ぶようになり、さらにはあの格好のせいで、相手はかなりやりにくそうだった。
こっちも勝たなきゃいけないんでね。相手には悪いけど、ここはヒールになってもらおう。ってわけで、オレ達は容赦なくサキにボールを集め、結果じりじりと点差を広げていった。
さすがに相手の顔からは余裕の笑みは無くなり、ピリピリした空気がオレ達にも伝わってきたけれども、1度掴んだ流れをオレ達が渡す事はなかった。
ただでさえ、流しで8分間という短い時間にくわえ、ハーフタイムもタイムアウトも無いわけだから、そうそう簡単にリズムを変えることなんてできない。つまり先に流れに乗った方が圧倒的に有利ってこと。さっきまでのオレ達は、自滅してたから流れもくそも無かったけどな。
でもこれは勢いのおかげじゃない。もともとオレ達にはこのくらいの実力はあったはずなんだ。それをやっと発揮できる状態になっただけ。つくづくさっきの2試合がもったいないよな。
まあ、終わった事をあれこれ言っても仕方ない。さっきまでの試合を忘れさせるプレーをするしかない。でもって、サキはさっきまでの汚名を返上しつつある。後はオレ達だな。
そろそろ頃合だろ? お前もそう思うよな。ユーヤ?
「おっ?」
サキを抜いたFが突っ込んでくるのが目に入った。
抜いたら即シュートじゃなかったのかい? だめだぜ、熱くなりすぎちゃ・・・って、オレが言えたセリフじゃないんだけど。
まっ、こう周りが見えなくなってるヤツってのは、格好の的。遠慮なくいかしてもらうぜ。
タイミングを合わせて、踏み切り、右手を振り抜く。
バコッと鈍い音をたて、相手の手を離れリングに向かっていたボールは、一転してコートの外へはじき出された。
ブロックショット! 完璧。
「おおっ」
ギャラリーと同じ様に、サキが間抜けな声を上げていた。そして、まじまじとオレを見ながら、
「やっぱ迫力あるわねえ、あんた。でかいくせに速いし」
くせにってなんだよ。それとオレにはお褒めの言葉は無しですか? まあ今はそんなことより・・・、
「ディフェンス。ほら、始まるぞ」
サキの背中を押す。
「あ、そうだった、そうだった」
相手のスローイン。
パスがまわり、そして久々に相手のCにボールが入った。
オレに体を預けながら、ドリブル。さっきまでなら、ここでパスだったけど・・・。どうっすか、勝負しない? オレもこのまま終わるのはつまんないんだよな。と、相手の背中に力がこもった。
きた。
右にフェイントを入れて、ターン。そしてシュート。
でも甘いね。そんなんでいけると思ったのかよ。もう一発いかせてもらうぜ。
「おおおっ」
オレのブロックに歓声が上る。いいね。やっぱこうでなくちゃな。
「ナイスブロック」
サキが弾かれたボールを掴み取り、声をかけてきた。お、やっとですか。これで言いたかったセリフが言えるよ。何かお前ら楽しそうだったじゃん。オレも言わしてくれよな。
「当然!」
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