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クラッチ
作:高階涼介



立花 貴弘 6


「ちょっと、何よこれ」

 開会式の後。何かのボードの前で、サキがすっとんきょうな声を上げた。

「どうしたんだよ?」

 近づくと、サキが見ていたボードには、今日の対戦表が張り出されていた。
 オレはチーム名とそのメンバーの写真が貼られたそれで、オレ達のチームを探しながら、

「何だ、対戦相手が強いのか? まさか死のグループとか言わないよな?」

 見つけた。相手は・・・っと。って、見ても全然わかんねえよ。格好だけ見ると、みんなうまそうなんだよな

「違うわよ。っていうか、見ただけで強いとかわかるわけないし」

 何だ、オレ達と一緒かよ。てっきり、強いチームとかチェックしてんのかと思った。

「じゃあ、何? どうした?」
「いや、ちょっと・・・。あれよ・・・。なんでもないわよ」

 急に口をもごもごと動かし、顔を背ける。なんかおかしいよなあ。今日のサキは。
 そんなオレの視線に気づいたのか、一変、眉を吊り上げ、

「何でもないって言ってるでしょっ!」

 そして、オレ達に背を向けると、

「着替えてくるっ!」

 そう言って足早に歩き出した。

「なあ、な〜んか今日のサキ、おかしくねえ?」

 サキの背中を見送りながら、隣に居るユーヤに声をかけた。

「そうか? いっつもあんなんじゃねえ」

 あまり興味のなさそうに、そう言った。
 お前は・・・。もうちょっと他人の事に興味持ったら? 絶対変だろ。妙にそわそわしてるし。

「笑ってると思ったら、急に怒り出したり。何か意味ありげなしゃべり方とか、いつも通りじゃん」

 ああ、そうか。ユーヤと喧嘩してしてる時。ユーヤの話をしてるときの感じに近いかもな。
 でもオレはそんな印象って、あんまりないんだけどな。どちらかと言うと、ストレートに感情を出すタイプだと思うんだが。確かに、お前と話してる時ってあんな感じか・・・。
 でもそれは、お前に負けたくないとか、何か隠してることがあるとかって時なんじゃ――って、そうだよ。隠し事だよ。何でこんな簡単な事に気づかねえんだ。
 この大会への出場、そして勝つ事への執着。なんかあるに決まってんじゃん。今までオレはユーヤを出すって事で頭がいっぱいだったから、そっちの方・・・つまりサキが何で出ようと思ったのか。むかつくといってはばからないユーヤを、わざわざ引き入れてまで、この大会に出て、勝ちたいのかって事を、まったく考えてなかった。

 よくよく考えると、不思議なんだよな。バスケやってるわけでもないのに、何でこの大会に出ようなんて思ったんだ? 確かに、主催者の中に知り合いが居るってのもあるだろうけど、わざわざ練習したり、変な方法でメンバーを集めたりする手間やリスクを考えたら、もっと違うもの・・・1人で参加できるものや、友達同士で参加できるものにすればいいんだよ。そう、ただ何かに出て遊びたい。勝ちたいってんなら、その方がいいはずだ。

 そうするとだ。今考えられる事は2つある。1つは主催者、とりわけ「関さん」をあっと言わせたい、または何かしでかしてやろう。ってとこだけど、これは違うかな? 関さんとの会話にそんな感じは受けなかったしな。
 そこで2つ目。これは結構近いんじゃないかな。今までのサキの行動を見てると、そんな感じがするもんな。まあ単純かも知れないけど、いろいろとつじつまが合うというか・・・。

 つまり、この大会に出ているどこかのチームに絶対勝ちたい。

 ってことだけど・・・。ただこれでも疑問は残るんだよな。何であんなに、そわそわ落ち着かない様子だったのか、って事。
 まあ、オレがここであれこれ考えても、どうにもならないか。本人から無理やり聞き出すってのも野暮ってもんだし。そのうちわかる事を期待しようか。オレって細かい事は気にしないタチだし。


 そんなわけで、この事はオレの中だけで消化させ、サキが帰ってくるまでの間はこの事に触れることなく、ユーヤといつもの様にくだらない話をしていた。
 くだらないと言っても、そこはバスケの大会ってシチュエーションもあり、昔の・・・オレ達がバスケにどっぷりと浸かっていた頃の、思い出話に花を咲かせていた。いつもならこのあたりの話は、曖昧な返事ではぐらかされていたけれど、今日のユーヤはオレの話に、こんな事もあった。なんて自分から話を広げたりと、いつもと違った反応をみせていた。

 いやいや、いい傾向だよ。ただここで、バスケ部に入れ。なんてことは言わないし、言っちゃあいけない。この2日間はとにかくこいつに「楽しく面白く」バスケをさせることが目的。それはこの後だ。
 この大会でユーヤにバスケの魅力を思い出させ、さらにたっぷりと染み込ませないとな。この大会での勝ち負けは、オレは正直どうでもいいんだけど、なるべくたくさんの試合をあいつにさせたい。で、そうするためにはやっぱり勝たないといけないんだよな。下手すると今日で終わっちまうし。
 試合の緊張感、ゴールを決めた瞬間の快感、試合後の達成感と心地よい疲れ。どれをとっても、「今」のあいつにとっては犯罪的とも言える快楽のはずだ。何度も何度もそれにあいつを浸らせたい。

 あいつは自分の楽しいと思う事に対しては素直に従う。だからこそ、今あいつはバスケをしない生活を選んだんだからな。
 誰だってそうだと思うけど、好きな事でも毎日のようにやってれば、違う事が面白く見えてくるだろ。延々とトロしか流れてこない回転寿司で、やっと出てきたかっぱ巻き。みたいな感じ? ちょっと違うかな。まあいいや。

 とにかく、1度離れるとよくわかるんだよな。オレだって、受験の時に半年くらい離れてたけど、最初は新鮮で、清々した気さえしたが、そのうち実感するんだよな、自然と体がバスケの動きをしてる事、そして「バスケしたい」って心の底から思ってる事にさ。
 ユーヤだってそうだったはずだ。ただ頑固だし、1度やめた事に戻るなんてかっこ悪いとか思ってるのかもな。だから無理してエンドレスなかっぱ巻きを「美味いよ」なんて言ってるけど、極上本マグロの魅力には勝てないだろ。無理やりにでも食わしちまえばこっちのもんさ。
 これがオレならマグロじゃなくて、ヒラメをお願いしたいところだけどな。・・・って、これはどうでもいいか。





 着替えから戻ってきたサキを見たときの、オレ達の第一声は、

「なんつー格好してんだよ」
「寒くねえの」

 だった。
 どっちがどっちを言ったのかは、問題じゃあないので省かせてもらおう、ここで問題なのはサキが「何する気?」って感じの服装で現れたことだ。
 簡単に1番近いのを言うとすれば、そうだな・・・チアガールかな。そういった格好を想像してもらいたい。
 少し動くだけでもへそが見えるノースリーブに、超ミニのスカート。その下にはどうやらスパッツを穿いてるようだけど、まじまじと見るのもはばかれる、そんな格好。かろうじてバッシュを履いてるから、そこでバスケやるんだと認識できるが。
 ちらほらといる、他の女性の参加選手然り、周りがほとんどTシャツ、ハーフパンツといういでたちだが、その中でも浮きに浮いているし、注目されているのは言うまでもない。

「どうよ、これ」

 ポーズを決めて、なんだか誇らしそうに言うサキ。

「どうって・・・」

 オレが口ごもると、サキは満足そうに、

「あんたにも効果があるってことは、ばっちりね」

 そう言って、ユーヤに視線を向けた。

「こいつと初めてやったときに実感したのよね。女の武器ってやつとその効果を。まあ、こいつほどじゃないにしても、効果があるかなって用意してきたんだけど、大正解だったみたいね」

 つまり、相手を近づかせないとか、集中させないってことか? そこまで勝ちにこだわる執念には、頭が下がるけどな。ただ、オレ達の方が、何か恥ずかしいぞ。

「お前、羞恥心って言葉知ってる?」

 呆れたように言うユーヤに、こちらも呆れたように

「何言ってんの。こんなんで恥ずかしいとか、寒いとか言ってたら、女子高生なんてやってらんないわ」

 妙に納得してしまう台詞だ。

「あんた達こそ、その格好でやるの?」
「オレはそうだけど。ユーヤは?」
「オレも」

 オレ達2人は似たようなもんだった。Tシャツに、なるべく動きやすいそうなズボンを選び、靴はバッシュ。

「何かね〜。もうちょっとバスケらしい格好しなさいよ。揃いのユニフォームとは言わないけど、それっぽい服とかさあ。あるじゃない」

 まあ、確かに普通すぎたかな。周りを見渡すと、自分達のチーム名の入った、オリジナルのユニフォームを着てるチームってのも、かなり多い。オレ達も逆に浮くかな。でも要は、格好じゃなくて実力だろ。それに、

「こういう格好なのに、強いってのも面白いし、かっこいいだろ?」

 サキはまじまじとオレ達を見て、

「あ〜、なるほどね。それもありかも」

 何だか納得してくれたようだ。冗談のつもりだったのに。

「あれ? あんたバッシュ、レブロンじゃないじゃない」
「あん?」

 サキがユーヤに近寄って、ズボンの裾をめくり上げた。
 レブロン? バッシュを見てるって事は、レブロンモデルのことか? 

「何よ、やっぱ履かないんじゃない。だったらちょうだいよ、あれ」

 ユーヤの足にあるのは、オレも見覚えのあるバッシュだった。つまりは、中学の時に使っていたやつだ。
 ユーヤは、サキの手を振りほどくと、

「やらねえって言っただろ。あのな、外でなんかもったいなくて履けるかっての。石とかで傷つくだろ」
「じゃあどこで履くのよ? 室内でやる事なんか無いくせに」
「いや・・・、それは・・・」
「履かないなんて、それこそもったいないわ。だから私が貰って上げるって」
「お前にだけは、絶対にやらねえ」
「けちっ!」
「けちじゃない」

 やれやれ、こいつら。見てて飽きないけどな。オレもちょっとまぜてくれよ。結構寂しがりやなんだぜ、オレ。
 なんてな。


 こうしている間にも、大会は着々と進んでいるようだった。次々にチーム名、試合開始を告げるMCのアナウンスが響き渡っていた。
 A、B、C、Dと4面作られたコートでは、熱戦が繰り広げられている事だろう。「だろう」って、こんな事してないでちょっと見てたほうがいいんじゃないか?

「そういえば、そろそろね。最初どこだっけ?」
「Bコートだろ」
「そうそう、行っとこうか。他のチームの試合も見れるし」

 何かちょっと遅いんじゃ。とにかく、オレ達はコートへと移動を始めた。
 オレはストリートの大会なんて出るのも見るのも初めてだった。どんなもんかちょっと楽しみだったんだが、コートの側に来て試合を見てちょっと驚いた。オレが思っていた以上にみんなうまい。個人のレベルも、チームのまとまり具合も。ただ、これはオレの中では歓迎すべき事だった。

「こりゃあだめだな」

 そうユーヤが呟くのが聞こえた。さすがにレベルの高さに気づいたみたいだな。オレはちらりとユーヤの顔を見ると、心の中でガッツポーズをした。何でかって? そりゃあユーヤが、昔何度も見たことのある表情に、なってたからだ。
 ユーヤの言葉なんて当てにならない。特にこんな場面ではな。しっかりと顔に出てんだよ。「おもしれえ、やってやろうじゃん」ってな。
 遊びみたいに軽く流してやれるくらいなら、意味が無いんだよ。こっちも相手も本気じゃないとな。
 今コートでやっている試合が終われば、オレ達の試合だ。そろそろ終わるという時に、ユーヤはおもむろに鞄の中から何かを取り出した。

「おっ、お前それ」

 オレの声に、ユーヤは少し気恥ずかしそうな表情を浮かべ、

「いや、なんか、これつけてないと落ち着かないんだよな・・・」

 と、それを・・・白いリストバンドを左手首につけた。
 オレは知らず知らずのうちに、顔がにやけていた。まったく、計画通りにことが進むのが、これほど面白いとはな。

「いや、わかるぜ。オレもだからな」

 オレもすかさず鞄から同じものを取り出して、これまた同じく左手首につけた。

「何? あんた達。にやけながら同じ物つけるなんて、気持ち悪いわよ」

 サキが目ざとく見つけ、顔をしかめる。

「ばーか」
「バカとは何よっ!」

 また喧嘩する気か? 試合前だし、ちょっとは堪えろよ。

「まあ聞けって。これはさ、オレ達のジンクスみたいなもんなんだよ」
「ジンクス・・・?」
「そっ、中学の時にな、誰かが言い出してオレ達チーム全員で、同じリストバンドつけて試合やったんだけど、その試合が気持ちいいくらいの快勝でさ。それからずっとみんなでつけてたんだけど、そしたら、県大会でベスト4と準優勝。なっ、縁起がいいだろ?」
「ふ〜ん・・・」

 サキはまじまじと、オレのリストバンドを見ると、

「でも、結局は負けてるじゃない」

 そこは突っ込まないでくれ。

「まっ、お守りみたいなもんかしらね。なんとなくわかるけど・・・。私はこっちの方が好きかな。かわいいし」

 そう言って右手をぶらつかせる。その手首には白と黄色、2つのラバーバンドがつけられていた。
 わかったわかった。でもここではそんな情報は重要じゃないんだよ。ユーヤがリストバンドをつけたって事。これはもう本気モードに入りつつあるってことだからな。本当、面白くなってきたよ。
 その時長い笛の音が聞こえた。試合が終わったようだ。ということは・・・。

「あっ、あたし達の番ね。行くわよっ、気合入れなさいっ!」

 言われなくても。
 コートの反対側には、オレ達の対戦相手らしいチームが見えた。男5人のまともそうなチーム。こっちを見て、何だか苦笑いを浮かべているみたいだが・・・。仕方ないか。こんなチームですいませんね。
 周りを見渡すと、同じような顔をしているギャラリーもたくさんいる。って、なんか増えてないか? ギャラリー。どうやら、バスケとは違うところで注目されてるみたいだな。こりゃああんまり変なとこ見せられないな。オレのプライドが許さねえよ。
 ユーヤを見ると、ギャラリーと同じような顔をしていやがった。そういやあ注目されるの嫌いだったっけ。まあいい、そんな事忘れるくらい集中させてやるさ。昔みたいにな。

「行くか」
「やれやれ。あの格好は、止めとくべきだったな」

 オレ達と、相手のチーム名が呼ばれた。
 オレは帽子をかぶり直すと、ゆっくりとコートに足を踏み入れた。















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