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クラッチ
作:高階涼介



立花 貴弘 5


 その日。
 朝から青空が広がり、まさに秋晴れと呼ぶにふさわしい空の下を、オレは普段ほとんどかぶる事のない帽子をかぶり、目的地をめざして自転車のペダルを踏みしめていた。
 町の中心から少し離れたところにある、ホームセンターとファミレス共通の駐車場。そこが今日の目的地、3on3大会の会場だった。郊外の町だけに、400台近く止めることの出来るだだっ広い駐車場なんだが、満車になってることなんかまず見たことがない。そのおかげ、と言うのが正しいのかわからないけど、今回その一画を連休の2日間借りての開催となったらしい。

「遅いっ!」

 待ち合わせ場所に着いたオレに、開口一番怒鳴り声が飛んできた。

「8時半集合って言ったでしょ。今何時だと思ってんの?」
「ん、9時くらいか?」
「8時52分っ!」

 腕時計に目を落とし、サキが的確に指摘する。意外と細かいヤツ。しかし朝っぱらから元気だな。

「あんた達、2人して遅刻なんて、いい根性ね」

 オレはサキの後ろに、けだるそうに立っているユーヤに目を向ける。ユーヤはあくびをひとつすると、

「言ったろ、こいつ時間にルーズだって」
「あんたもよ」
「だから、こいつ遅れてくるってわかってるから、オレも15分くらい遅れてきたの。いつものことだからな」

 すっかりルーズなヤツって認識されてるな、オレ。そんな何時間も待たせてるわけじゃないんだし、細かいことは言うなよな。それに、ルーズだからこそ、たま〜に早くきたりするだろ?

「私は時間にルーズなヤツって大っ嫌いなの! 覚えときなさいっ。とりあえずさっさと受付行くわよ。棄権になったらどうすんのよ」

 サキはオレ達を蹴っ飛ばしてから歩き始めた。

「あんた達、もう少し気合を入れなさいよっ」

 ぶつぶつとオレ達に文句を言いながら歩くサキは、どことなくいつもと違う感じがした。
 まあ、付き合いが短いから、はっきりとはわかんないけど、それでも引きつったような表情や、文句を言う口調から気持ちが高揚しているのが伝わってくるし、そわそわと落ち着かない様子で、やたらと辺りを気にしていた。大会への緊張・・・じゃないな。サキがこんなことで緊張するとは思えないしな。
 受付に近づくにつれて、それは顕著に現れていた。いつも以上に饒舌で、それでいてオレ達の事はまったく意識の外にあるようだった。

「おっ。来たねえ〜」

 受付に来たオレ達・・・いやサキを見て、そこいた男性が、そう声をかけてきた。

「関さん」

 サキはほっとしたように、そう言うといつもの笑顔を浮かべた。

「久しぶり。受付やってるの?」
「いや、もうすぐ受付終わるからな。様子見だよ」

 緊張が解けたのか、親しそうに会話をしながら、受付を済ませる。そういえば主催側に知り合いが居るって言ってたな。
 オレ達よりずっと年上に見える「関さん」と呼ばれたその人は、サキとの会話が一息つくと、オレ達に目を向けた。

「へえ〜、なかなか手ごわそうなの連れて来たなあ。学校の友達?」
「まあね。役に立ちそうなのと、暇なのつれて来たの」

 どっちがどっちなんだろうな。
 それを聞いた関さんは楽しそうに笑うと、

「サキの相手は大変だろ? って、君達の方が詳しいのかな? オレ達も散々振り回されてるからさ、仲間だな」

 いやいや、そちらさんの方がよく知ってると思いますよ。オレ達はまだ知り合って1週間くらいなもんですから。でも、言ってる事はよくわかるな。それに親近感が沸く。この人の人柄もそうなんだろうけど、サキ被害者の会みたいな感じ?

「ちょっと変な事言わないでよ」

 サキの文句も笑いながら、軽く流す。さすがに慣れてるな。

「しっかし、そっちの彼。でかいなあ、どれくらいあんの?」
「オレですか? どうですかね。最近測ってないから。まだ伸びてるみたいだし、190いったかな?」
「お前まだ伸びてんの?」

 ユーヤが呆れたように、オレを見上げる。

「すげえなあ。今回の参加者の中じゃ、1番でかいんじゃない? やっぱバスケやってんの?」

 オレはちらりとサキを見る。わかってるわよね。と言う目がオレを貫いた。

「いや、遊びでやるくらいですよ」

 何でこんな嘘をつかなきゃいけないんだか・・・・・・。

 実は数日前、オレはサキからなるべく「立花貴弘」を隠すように言われていた。
 サキ曰く、

「ストリートとはいえ、バスケットの大会なんだから、あんたを知ってるヤツが居るかもしれないでしょ。うまいやつがいるってわかったら、当然マークもきつくなるわ。あんただけじゃなく、チームとして。相手の油断がなくなったら、勝ちにくくなるじゃない」

 というわけで、オレは表情がなるべく隠れるよう帽子かニットキャップの着用を強制され、さらにこの大会はニックネームの登録が可能だったため「タカ」というニックネームまでつけられた。サキはオレの名前からはまったく予測が出来ない名前をつけたかったようだが、呼びなれたユーヤが居るため、うっかり「貴弘」と言ったときに、ごまかしやすいこの「タカ」に決まった。
 勝ちにこだわるとはいえ、ここまでしなくてもいいよな。それにオレ、そこまで顔と名前知られてるとは思えないんだが。

「そっか、まあ楽しんでいってくれ」
「楽しむだけじゃだめよ。狙うは優勝っ!」

 びしっとサキは人差し指を突き出した。

「はは、そうだったな。んじゃ、高校生チーム初の優勝目指してがんばってくれ」
「えっ、ちょ、ちょっといいっすか」

 何か慌てたように、その場を去ろうとした関さんを、ユーヤが呼び止めた。

「高校生のチームって、優勝したこと無いんですか?」
「あっ・・・」

 サキが慌てて何か言い出そうとしたが、その前に関さんがしゃべりだした。

「うん? 無いよ。この大会も今年で4回目だけど、予選を通過できたチームってあったかなあ? まあ、高校生だけのチームってのも、少ないからね。今年も君達入れて3、4組くらいかな」
「そうなんですか・・・。あっ、すいません。呼び止めて」
「いやいや。そんじゃあがんばってな。主催側の人間だから、おおっぴらには応援できないけど、ゲームは見に行くから」

 そう言うと関さんは携帯を取り出し、忙しそうに去っていった。

「今のどういうことだよ」
「何のことかしら」

 で、こっちはなんかすでに見慣れてきた言い争いが、始まろうとしていた。

「お前言ったよな? 去年優勝したのは、高校生のチームだったって」
「そうだったかしら? 憶えてないなあ〜」

 平然とした顔のサキ。またそこが嘘っぽいんだよな。まっ、オレはそんな事訊いてないし、どっちでもいいんだけど。これはまたサキがなんか言ってたんだろうな。
 誤魔化すのが下手。じゃないな。誤魔化す気が無いんだろうな、この娘は。
 つまりは、

「仮に言ったとしても、それが何? どうでもいいじゃない、そんな事」

 そういうことだな。

「よくねえよ。オレが出るって決めた理由の中には優勝できるかも。ってのがあったから・・・。まさか、賞金も嘘じゃないだろうな」
「ええ〜、何? お金目当てなの? ちっちゃい、ちっちゃいわ〜、あんた。母さん、あなたをそんな子に育てた憶えはないわよ」

 サキは呆れた顔で、ユーヤの頭をぺしぺしと叩く。
 くくっ、まったくいいコンビだよ。こいつら。

「つまんねーこと言ってんじゃねえよ。だから・・・」
「まったく、つまんないのはどっちよ。はいはい心配しなくても、賞金は本当よ。それに全部あんたにあげるってのも。ねっ、たち・・・じゃなくて、タカ」
「うん? ああ、そうそう」

 慣れないな〜、タカなんて。つーか、言いだしっぺのお前が間違えそうになってどうすんだよ。

「わかった? ちゃんと約束通り全部あげるわよ。『優勝したら』ね」
「うん、あれ? ちょっと待てよ。優勝したら? じゃあできなかったら?」
「もちろん山分け」
「はあ〜?」

 やれやれ、どうでもいいだろ、そんな事。サキもユーヤもさ。

「でも、賞金が出るのは3位まで。結局は優勝に近いとこまで行かないと、お金なんて出ないんだから。気にしない方がいいわよ」

 そう言うとサキは、もうユーヤの話なんか聞く気はないという感じで、背を向けて歩き出した。
 オレはまだ何か言いたそうなユーヤの肩に手を置き、

「落ち着けって。いいかげんサキの売り言葉を流せるようになれよ」

 ユーヤは苦々しい顔で舌打ちをもらすと、

「お前言われっぱなしでむかつかねえの? 今日だってそんな帽子かぶせられてさ」

 協力してもらってる手前もあるからな、これくらいなんとも無いね。それに、

「言われればむかつくかもしんないけど、オレはお前ほど言われてないしな。それにかわいい子なら、許せるね」
「え〜」

 変な顔でオレを見ると、その後に顔を背け、

「無理。むかつく・・・」

 と呟いた。
 まったく、相性がいいんだか悪いんだか。
 わかってるよ、お前がお金とかどうでもいいことなんて。ただ最近サキにやられっぱなしだから、小さなことにもいちいち突っかかっちまうんだろ?

「試合の前に余計な体力使うなって。さっ、オレ達も行こうぜ」

 ユーヤの背中をぽんと叩くと、溜息をついていくらかやわらかい表情を浮かべた。
 やれやれ、なんでオレがフォロー役にまわらなきゃなんねえんだか。他人を気にするタイプじゃないから、こういうのは得意じゃないんだよな。今までこの役割はユーヤがやってきてたんだけどなあ。
 まっ、たまにはいいか。こんなのも面白いといえば面白い・・・かな。


 さてこの通り、オレ達のチームワークはいいのか悪いのかよくわからないままだ。
 ユーヤが大会に出ると決めてからおよそ1週間。たいした練習もせずにこの日を迎えた。だいたい、会っても2人で勝負ばっかりしてるし、その後で今みたいに喧嘩になるから、練習になってたのか疑問だけどな。
 きちんと決まってるのはポジションだけ。戦術も何もあったもんじゃない。つまりはぶっつけ本番、出たとこ勝負。こんなんで賞金の心配してもしょうがないよな。
 そんじゃまあここで、ポジションと簡単にこの大会のルールを言っておこう。

 Gガード、ユーヤ。Fフォワード、サキ。Cセンター)、オレ。以上。
 ちなみに、「ユーヤ」「サキ」もニックネーム登録されている。オレだけニックネームってのも、恥ずかしいからな。

 大会は2日間行われるんだけど、1日目は予選。
 参加50チームを、1グループ5組に分けてのリーグ戦。このうち上位2チームが2日目の決勝トーナメントに進む事になる。

 試合のルールはだいたい普通と同じだから、違うところだけ。
 試合時間は流し(タイムストップなし)で8分間。ハーフタイムなし。ただし、決勝トーナメントは、流しで16分。8分ハーフで3分のハーフタイムで行われる。
 そしてタイムアウト無し。
 メンバーチェンジはマイボールの時のみ。

 ゲーム開始時のボールの所持権は、チーム代表者のジャンケンによって決定。
 攻守の交代は両足がスタートラインが越えること。

 結構特殊なルールはこれ。
 フィールドゴールは男子2点。女子3点。
 スリーポイントライン外側からのゴールは男子3点。女子6点。
 フリースローは1点で、その回数だけ打つ事が出来る。つまり、フィールドシュートの時なら、男子2回。女子3回。

 このルールなら、女性が居るチームもあんまりハンデが無いかもな。
 まあ、ざっとこんなもんか。細かい事はそのつど説明するってことで。他はあんま変わんないけどな。

 そんじゃあ1日目、スタート。














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