麦藁色の砂が、大地に隙間なく埋められていました。
それは長い間この土地が、不毛の砂漠であったことを表す証拠でした。
不毛な砂漠の中に、錫色の建物がありました。
それは自然の摂理に逆らうように、違う色を砂漠にもたらしていました。
「いやぁ、助かったよ。君がいなかったら死ぬところだったよ」
赤茶色の作業服を着た男は、先程自分を襲おうとした男の死体を見ながら苦笑した。
「彼が僕を殺そうとしたから、殺したんです。だから僕に礼など必要ありませんよ」
白いローブを頭からすっぽりと被った旅人らしき人物も苦笑した。
男は建物の残骸に座り、タバコとマッチを取りだし一服した。
旅人は立ったまま珍しそうに建物を見つめていた。
「この建物は何ですか?」
旅人は、建物の外壁に描かれた幾何学模様を見ながら尋ねた。
建物の外壁には、青白く光る幾何学模様が、所狭しに描かれていた。
「あんたも聞いたことくらいあるだろ?これが遺跡だ。
それもただの遺跡じゃない、【アエリア級】の遺跡だ」
「あえりあ級ですか?」
「あっそうか一般人の間では遺跡の区別なんてつけないよな。
アエリア級って言うのは、遺跡の探求者の間の専門用語なんだよ。この呼び名によって遺跡の重要度を表すんだ。アエリア級は六段階評価のうち二番目だ。これが全て発掘されれば、世界はまた一段と進歩するはずだ」
男は箱から、タバコを取り出すとマッチで火をつける。
男の周りには、光りと熱を失ったタバコが麦藁色になっていた。
「じゃあ貴方は、この遺跡を調査しているのですね。
遺跡の調査は、膨大な知識と時間を要すると聞きます。辛くはないですか?」
「辛くないのかと聞かれると、正直辛いよ。でもな、遺跡を自分の手で解明するというのが、ガキの頃からの夢なんだよ。だからよ、今その夢がかなって嬉しいんだ。俺はこの先どんな困難なことがあろうとも、遺跡の調査を続けるぜ」
男の目は、呆れるくらいに輝いていました。
「なるほど。貴方は遺跡を調査し続けるんですね」
「そうだ。それが俺の夢だからな」
旅人は腰につけたある黒革のホルスターに収まった、回転式拳銃をホルスターから抜いた。男の表情に変化は見られません。
「どんな困難が立ち塞がったとしても、貴方はここを調査し続けるんですね?」
「そうだ、俺は一生ここで遺跡を調査して、生きて死ぬんだ」
旅人はリボルバーのトリガーに手をかけた。男の瞳は濁る事無く輝いていた。
「遺跡を調査するんでしたら、ちゃんとした手順を踏むべきでしたね。
国の役人を皆殺しにして、勝手に調査するのは違反ですよ。
私は護衛として雇われた身分です。貴方を反逆者として殺さねばなりません」
麦藁色の死体の山を背にした旅人は、真っ直ぐな目で男の瞳を見ました。
男の黒い瞳は、麦藁色の砂漠の中で輝いていました。
「国から遺跡を調査に依頼された輩は、全部殺したつもりだったんだけどな。
まさか君みたいな強い人が生き残っているなんてね、残念だな」
「僕も残念です」
「……最後に君と話が出来て楽しかったよ」
旅人はトリガーを引きました。銃口から吐き出された鉛の塊は、返り血でべっとりと
汚れて赤茶色になった作業服に、小さな穴を開けました。
穴からは赤い、紅い液体が流れてきました。
しばらくすると液体は砂を含み、やがて麦藁色になりました。
旅人は男の為に砂を被せただけのお墓を作りました。麦藁色の墓でした。
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