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第2話:保科氷華
「……この惨状はなんだ? 美奈」
「……私に聞かれてもわからないんだよぉ」
飯抜きを覚悟して台所へと向かったところ、オレは惨劇を目にした。台所が見るも無残な状況になっていたのだ。
「ぁ……雪、おはよう」
その幕末の動乱のような台所の中心にてどこかとぼけた感じのする人物が呑気に挨拶をしてくる。
「……おはよう。……母さん」
オレはかろうじてそう答えた


オレの家では料理は当番制になっている。オレと美奈、そして美奈の母親である奈々子さん、この三人でまわしている。それは、父親二人が仕事でいないからであり、家にいる中で料理ができるのがこの三人だからだ。……というよりは、絶対に料理をさせてはいけない人を抜いた三人でまわしている。だから、本当はありえないはずなんだが……。


「……なんで、母さんが料理してんだよ」
もはや家訓として君臨している『母さんに料理をさせてはいけない』。それが破られれば、1週間は台所が使えなくなる。……つまりは今の状況だった。


保科氷華ほしなひょうか。オレの母親。セミロングに伸ばされたきれいな緑色の髪(地毛らしい。オレの髪も黒に少し緑が混ざっているから本当だろう)。見た人を安心させるどころか、やる気を奪いそうなほど、どこか気の抜けた顔つき。ただ、高校生の母親とは思えないほどの若さと美貌を持ってしまっているのは間違いないだろう。というか、オレより若く……いや、幼く見える。美奈と同じくらいこどもっぽい。性格は容姿同様におっとりしてて、どこか浮世離れしている。そしてなにより問題なのはその料理の腕前だ。……料理のできばえ以前に、母さんが料理をすれば、台所のリフォームはまぬがれないのだから問題すぎる。ついた異名が破壊調理デストロイクッキング。ゲームのヒロインだとしても勘弁してもらいたい設定だ。しかもそれが正真正銘の自分の母親だというのだから救いようがない。


「?……料理したらダメなの?」
幕末の動乱もかくやという惨状を作りだしておいてなにをいいやがりますかこの母親は。
「ダメ。母さんは料理してはいけない。我が家唯一の家訓だろ? あの適当な親父ですら徹底してる約束じゃないか」
「ぅ……でも、今日は誰も作ってなかったから」
「……お前のせいみたいだぞ? 美奈」
「……お、お母さんはなにしてたんだよぉ!」
「ん……奈々子ちゃんは今日、お仕事で、早くからでかけてるわよ?」
「そういや、昨日そんなこといってたな」
「……つまり?」
「この惨状はお前が原因だ。小遣い、三か月は抜きだろうな」
「ぅ、うぅ……ゆっくん並みに不幸なんだよぉ」
「?……美奈ちゃん。どうして泣いているの?」
あんたが料理したからに決まってんでしょ。
「はぁ……ていうか、また一週間、しんの家にやっかいになるのか」
また、あの幼馴染に頭が上がらなくなると思うと憂鬱なオレだった。


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