第1話:保科美奈
「ゆっく~ん、起きて~」
ゆさゆさと体を揺らされ、オレの意識がまどろみから覚めていく。
「……何だよ、美奈かよ」
オレが目を覚まし、一番初めに目についたのは、いい加減見飽きてきた従妹の顔だった。
「起こしたのにその言い方はひどいんだよぉ」
そう言って美奈は頬をふくらます。子どもっぽ過ぎる仕草だが、その容姿に似合っているあたり流石だ。
保科美奈。オレの従妹であり、生まれた頃から一緒に住んでいるため、オレにとっては妹のような存在だ。150センチもない身長の上に幼い顔つき。その上長くもない髪をツインテールにしているため、今日から高校生とは思えない。せいぜい中学2年生だ。………まぁこいつの同級生で更に幼い容姿の奴を知ってるのでそこまで気にならないが。
「ひどいと言われてもな……お前に起こされても嬉しくないし」
できれば清楚可憐な女の子に起こされたいものだ。一般的に見れば美奈はそれなりに可愛い。ただ、オレは見飽きているし、中身がわがまま娘なのでやっぱり不満が残る。
「ていうかアレか? 今日は雨か? 美奈がオレを起こすなんて」
いつもはオレが美奈を起こすからな。
「むぐぅ~ひどいんだよ! 私だって入学式の日くらい早く起きるもん」
「そうか。ついにお前も今日から中学生か」
「高校生だよ~!」
ありきたりなボケにも本気で怒っているあたり、こいつは見た目以上にガキだ。
「高校生ね……だったらもう一緒に風呂に入ったりしないよな?」
「それはありえないんだよ~」
………ガキめ。
「お前さ、恥じらいとかないのか?」
「う〜ん……ゆっくんにはないかな。ゆっくんと一緒に入ると楽しいし」
………今時小学生でも異性の家族と風呂なんて入らないだろうに。
「それにゆっくんは私にとって『お姉ちゃん』みたいなものだから」
なるほどね。オレは美奈にとっては異性じゃないのか。だったらそこまで恥ずかしくないよな。ハハハ。
「お前とは絶対に風呂に入らん」
いつも言われていることだからといって傷つかない訳じゃないんだぞ。
「むぐ? ゆっくん何を怒ってるの?」
「……一応言っておく。オレは男だ」
「でも、ゆっくんて私よりも可愛いし、料理も一番家で上手いし……それに近所では未だに『保科さん家の美人姉妹』で通ってるよ?」
「最後のはいろいろ意義あり」
「むぐ? 何かおかしいの? ていうか最後以外は問題ないんだ」
「最後以外はいつも言われていることだからな。今さら文句を言うつもりもない」
「むぐ? じゃあ、最後は何がいけなかったの?」
「とりあえず聞かせろ。『保科さん家の美人姉妹』というのは誰と誰のことだ?」
「もちろんゆっくんと私のことだよ」
「うん。やっぱり意義あり」
「むぐ?」
「お前は美人じゃないからな」
「……それは確かにゆっくんよりかは可愛くないけど」
アレ? てっきり怒り出すかと思ったんだが……。
「ていうか、実際ゆっくんは反則的に可愛いんだよ! どうしてそれで男の子に生まれちゃったの!?」
怒ってるのはいいんだが、逆ギレじゃね?
「そんなこと言われてもな………」
「むぐぅ………。でも、あの話って本当なの?」
「あの話って何だよ?」
「えっと…………男の子に告白されたって」
「……あ~、それね。……ほっといてくれ」
流石のオレも驚いたな。あの時は。『お前が男なのは知ってる! でもそれでもいい! 付き合ってくれ!』だもんな。
「……なんだか悔しいんだよぉ。私は告白なんてされたことないのに」
こいつ顔は可愛いんだけどな……体格はガキだし、性格はもっとガキだからな。告白したらもれなく変態の称号がもらえそうだし。
「まぁ、アレだ。しょせん美奈は美奈だってことだな」
「きっと私は怒っていいんだよぉ」
そう言って美奈は頬をふくらます。
「……ていうか入学式の朝だって言うのに緊張感ないな。オレだって去年の今日は緊張してたぞ」
「う~ん……緊張というよりは楽しみなんだよぉ」
うわぁ……もはや小学生だ。
「……ところでゆっくん。私に何か言うことはないのかな?」
「う~ん……着替えるから出ていけ?」
「おしい。ヒントは服なんだよ」
……あぁ、なるほど。
「家の学園の春服か」
オレの学園の制服は女子だけ4種類あることで有名だ。春夏秋冬、季節ごとに作られている。春服は桜をイメージしたピンクを基調としている。
「………(わくわく)」
……口でわくわくとか呟いてるし。
「可愛い制服だな」
「うんうん。……(わくわく)」
「じゃ、着替えるから出ていけ」
「似合ってるとか言ってよ!」
「あ~、そうだな。うん。似合ってるよ」
ピンクの幼い感じが美奈をいつも以上にガキに見せるな。
「おざなりな上に絶対失礼なこと考えてるんだよぉ」
「とにかくもう出ていけ。いつまでもしゃべってたら遅刻するだろ?」
「走れば大丈夫なんだよ」
……何が大丈夫なんだか。
「……無視して着替えようかな」
マジで時間なくなってきたし。
「ていうか手伝おうか?」
「……美奈さん? あなたには恥じらいとかないんですか?」
「ゆっくんには」
………決めた。美奈はいつかしめる。
「ところで、今日はお前の食事当番だったよな? 朝食はできてんのか?」
オレの家に住んでいるのは、オレと美奈。それに、それぞれの両親を入れて6人で住んでいる。6人といっても、父親二人はほぼ家にいないため、残りの4人……のうち1人が料理が絶望的なため3人で料理当番を回している。
「あれ?………そうだったっけ?」
「昨日が菜々子さんだったからな」
「……きっと今日は入学式だからお母さんがまた作っててくれるよ」
「……だったらいいけどな」
朝から朝食抜きな予感のオレ達だった。
+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。
この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。