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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

極上のアイディア

作者: 目262

 ああっ、そうだったのか!

 背中に小さな白い羽を生やし、頭上にまばゆい光輪を浮かべた愛らしい赤子の様な姿をした天使が忽然と現れ、薔薇の蕾の様な唇で俺の耳元に囁いた時、この上もない極上のアイディアが頭の中に閃いた。

 それは古今東西のあらゆる文豪が得た事もない、文字通りの天使の囁きだ。

 このアイディアを元に小説を書けば、どの出版社も涎を垂らして飛び付くに違いない。これ程の傑作ならば国内はおろか、海外にだって爆発的に売れる。

 俺の流麗な文章で描かれる、高尚なテーマと魅力溢れる登場人物、緻密な伏線が張り巡らされた壮大で美しい物語は、全ての読者に深い感動をもたらし、人生の価値と世界の真理を教え、生きていく上での確固たる道標となるだろう。

 これならば芥川、直木賞どころかノーベル文学賞だって夢じゃない。そして俺の著書は全人類の宝、如何なる時も常に傍らに携えるべき、新しい聖書として歴史にその名を深く刻み付けるのだ!


 だが、あまりにも時期を逸しすぎた。

 よりにもよって、このタイミング で、高層ビルの屋上から飛び降りている途中でこんなアイディアをくれるなんて!

 夢破れたしがない作家志望が生きる事に絶望して自らの命を断とうとしている真っ最中に、こんなアイディアを手に入れたって何の意味もないじゃないか!

 大体、こういう瞬間は今までの人生を振り返 り、思い出が走馬灯の様に脳裏を駆け巡る、この世との告別の為の重要で貴重な時間の筈だ。

 今まで散々袖にしてきた癖に、何故今更使えもしない極上のアイディアを見せる?

 俺は真横に浮かぶ天使を睨み付けた。彼は白桃の様な尻の間から先の尖った黒い尻尾を引きずり出して、俺の眼前でこれ見よがしに上下に振り、悪戯っぽい笑みを浮かべた。その口内にはノコギリの様に尖った歯がぞろりと並んでい る。

 そういう事か。こいつは今までも、俺みたいな奴が臨終を迎える度に現れては、ぬか喜びをさせて嘲笑っていたのだ!

 せめて一矢を報いようと、眼前に浮かぶ、天使とは真逆の存在を殴り付けようとしたが、その前に、冷たいアスファルトの道路が俺の頭を潰し始めていた。

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