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一夜の魔法亭 2 ~秋分の夜の出来事。 作者:ゆずはらしの

それは、秋分の夜の出来事。

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●森ガールがあらわれた!~騎士は、ちょっと頭が痛い。2

「ええーと、そしたら……あの。あたし、今日はどんなことすれば良いんですか? まだ準備中なんですよね」


 ティラミスはそこで、話題を変えた。


「お料理をするのは、ぽいちゃん?」


 店主は「はい」と答えた。


「他に、厨房のスタッフは何人か頼んでいます。ティラミスさんに頼みたいのは、料理を運んだり、汚れた食器を下げる係です。いつもお願いしている方が、よその集会に行くことになってしまって」

「そうなんだ?」

「手が空いたら、お皿を洗ってもらったりもあると思います。その辺りは、今日のかまどの守り人の、かしらに尋ねてみて下さい。彼が全ての采配をふるいますので」


 かまどの守り人?


「ホールスタッフのリーダー的存在?」

「ええまあ」


 なんだろう。この店独特の表現だろうか。


「ティラミスさんは、普通の人間ですし、体力にも限界がありますから……休憩をきちんと入れるように頼んであります。ですが、あまり無理はなさらないで下さいね。何かあったら、すぐ頭に言って下さい」


 普通の人間?


「普通の、会社員……ってことかな。かしらって言い方、古風よね。うん、わかった。しんどくなったら、休んで良いですかって尋ねるね」

「ええ、あなたは我慢強い方みたいですから。その辺りは遠慮せずに。
 頭も、いつも指示しているのは自分と同じような存在ばかりで、普通の人間の体力の限界とか、良くわかっていないので」

「ああ~。そうね。あたし、ホールスタッフってやった事ないし。ずっとやってた人から見たら、手際も悪いだろうし。すぐバテちゃうかも」

「無理をしてミスをされるより、限界だと思ったらちょっと休憩して、そのあとばりばり働いて欲しいそうです」

「うん、それ、仕事の基本よね。自分がどれだけできるのかを見せつけるわけじゃなくて、どれだけ同じ出来ばえで、長く最後まで続けられるか、みたいな? 

 部分的にはていねいだけど、あっちこっちが乱雑だったり、最後のシメがぐだぐだだったら、最初っから手抜きしてるのと同じだって言われたことあるよ」


 ティラミスはうなずいた。


「すごいな……基本的なとこが食い違ってるのに、ちゃんと通じてるよ。話」


 ぽいが、目を丸くしながらつぶやいた。ティラミスは、首をかしげた。え? どこか話が違ってた?

 そう思っていると、店主が言った。


「良い指導を受けられましたね。どなたから教わりました?」

「あ、えと。最初に配属されたところの、お局さま。叱られてばかりだったの、あたし。でもね。あの時は怖い人だと思ってたけど、大事な事を教えてくれていたんだなあって、今なら思う。すごく感謝してる」


 ティラミスの言葉に、店主は「そうですか」と言った。


「おつぼね……?」


 ウィルフレッドがまたもや、首をひねっている。


「年齢を重ねた、その場の責任者の女性をそう呼ぶことがあります。もともとは、あまり良い意味ではなかったらしいですが」


 店主が、言葉の説明をする。ウィルフレッドは、ふむ、と言った。


「子どもを育て上げた、立派な女主人ミストレスのようなものか。なぜ、良い意味ではないのだ? しっかりと生きている、責任感を持つ女性というのは、美しいし、尊敬されるものだ」

「子どものように若い女性をもてはやす男性が、多い時代がありましたので」

「人として練れておらん者をか? ほんの一時の、遊び相手になら良いかもしれんが。長く共に暮らすとなると、そういう女性にょしょうは苦痛だぞ。家を任せることもできん」


 真面目な顔でのコメントに、ティラミスは、おおー、と言って拍手をした。


「渋い。サー・ウィル、女性の好みが渋いです。サーの理想の女性って、どんな感じなの?」

「俺の理想か? 母だな。女手一つで俺を育て、家を立派に切り盛りしていた。賢くも優しい、しかし鋼のごとく強き意志を持つ女性だ。俺が一人前になるまで、誰にどう言われようと再婚しようとしなかった」


 母親を思ったのか、目が優しくなったウィルフレッドに、ティラミスは、へえ、と思った。


「マザコンで熟女好きなんだ……」

「ティラミスさん、そこは良いお話ね! とか、サー・ウィルってばカッコイイ! とか言って、感動するとこでしょ……感想がなんか違うよ~!」


 ぼそっと言った言葉に、ぽいが突っ込んだ。


「え、や、カッコイイとは思うよ。若い女の子がきゃぴきゃぴしてるのが良いってやにさがってるオッサンは、見ていてキモチワルイもん」

「え、いるの? 仕事場にそんな人」

「いるよ~……若い男の人でもそういう人がいる。って言うか。若い男の人の方が多いかも。そういう人。

 女の子っていうか、女性はみんな同じだって思ってて。で、頭がからっぽだと思ってる。なんかね。ああいう男の人って、あたしたちのこと、『女の子』って記号に、胸とおしりがついた存在だと思ってるんじゃないかしら」

「うええ、いや、さすがにそれはないんじゃ……ええっと。そういうの、わかるんだ?」


 慌てた風に言うぽいに、ティラミスは、はっ、と笑った。


「わからいでか。言葉と態度を見てたら、それぐらいは見て取れます」

「え……、そうなんだ」


 なぜかぽいは、うろうろと視線をさまよわせた。居心地が悪そうである。


「そうよー。ぽいちゃんも、気をつけなさいよ。中身がからっぽな男には! 本人は、優しい男を演出しているつもりだけどね。上から目線で、どこか横柄。言葉もからっぽ」

「からっぽ?」

「誰に対しても、ほめ言葉がいつも同じなの。年齢によって分けてるみたいだけど。別にね。同じ言葉でも良いのよ。それが、相手を見て言っているんなら。

 でもあの人のは、ちがう」


 ふー、とティラミスは息をついた。


「あの人、たぶん、全ての女性をカテゴリで分類してるのよ」

「え」

「『子ども』『若い』『中年』『年寄り』の、四つぐらいかな。で、自分の頭の中のカテゴリに、あたしたちを当てはめて。その後は、カテゴリのひとくくりで対応してるの。だから、あたしたちを誰一人として、人間として見ていないわ。単に記号なのよ。

 それで、年齢別にいう言葉のテンプレートがどこかにあって、条件反射的にそれ言ってるみたい」

「えと、そう、なの?」

「たぶんね。だってねえ、友だちが……わけちゃんって子がね? 風邪ひいて、ふらふらしてた時にね。コピーを頼みに来て、こう言った事があるの。

『いつも元気ハツラツでカワイイね! これ、三時までにコピーしといて』って。

 ちょっとでも目の前の人を見たら、『元気ハツラツ』なんて言葉が出てくるはずないわよ。顔は赤いし、だるそうだし、みんな調子悪そうだねって、気を使ってたんだから。
 本人をちゃんと見ていたら、『具合悪いの?』とか、『悪いけど、これコピーお願いできる?』って言葉になるはずじゃない。
 でもね。言ったのは、『三時までにコピーしといて』なの。
 最初の『カワイイね』は、枕詞みたいなもんだから意味はないわ。あの人が言いたかったのは、コピーをしておけって命令。それだけ。
 それならそれだけ、すっぱり言えば良いのに」


 からっぽな言葉をごちゃごちゃ言うから、余計キモチワルイのよ、とティラミスは顔をしかめた。


「何かあったら、変な風に気を回したりするし」

「え、変なふうにって……どんな」

「女の子は馬鹿だから、むずかしいことはわかんないだろうって、お優し~~い気持ちから、重要なお仕事はぜーんぶ男性に回して、簡単な雑用ばっかりをくださるの!」


 むきーっと怒ってティラミスは言った。ぽいが一歩、後退った。ウィルフレッドもなぜか、後退った。


「会議の時でも、男性の意見だったら聞くけど。女性の意見はぜんぜん聞かない。聞いても、むずかしいことが言えたんだねー、えらいえらいみたいな対応されて終わり。もう、頭っから馬鹿にしてるの。
 無視できないような良い意見が出た時には、それを出した本人から取り上げて、別の男性社員にやらせようとするし。
 それで本人の言い分はこうよ。『女の子はわかりにくいし、扱いづらい。やる気も見せないし。仕事は男性社員に任せた方が的確だ』ですって。

 やる気なんて出るわけないじゃない、そこまで毎日馬鹿にされて。ハゲろ。二度と生えない頭になってしまえ。そんでもって地方に飛ばされろ~!」


 ぽいが、「うわー」とつぶやいた。ウィルフレッドが、無言で視線をさまよわせた。ティラミスは続けた。


「そういう人に限って、やたら自信満々なのよ。女は女である限り、男より劣っているのが当たり前だって、あたし、言われたことあるわ。
 どういう意味だって思ったわよ。尋ねたら、一般論だって言われたけど。いつの時代の一般論よ。 
 しかも男である彼が、女であるあたしに面と向かってそう言ったら、別の意味も入るじゃない。それをわざわざやってみせるって、どういうこと?」

「えっ、えーっと、別の意味って?」


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