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一夜の魔法亭 2 ~秋分の夜の出来事。 作者:ゆずはらしの

それは、秋分の夜の出来事。

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●森ガールがあらわれた!~騎士は、ちょっと頭が痛い。1

 二人して首をひねっていると、カウンター横の扉が開いて、中から誰かが出てきた。


「ああ~、ティラミスさん! 来てくれたんだ、良かった~。手が足りなかったんだ~!」


 小柄でほんわかした感じの、茶髪の女の子だった。ぱたぱたと駆け寄ってくると、彼女はぱん、と手を打ち合わた。

 ティラミスの目から見て、彼女は十五か十六ぐらいに見えた。
 焦げ茶の瞳のはまった目は、垂れていて、細め。鼻も低めだ。やや大きめの口は、端がいつも上がっている。
 髪は、肩にかかるかかからないかぐらいの短さで、あっちこっちにはねている。けれどもぼさぼさという感じではなく、自然に乱れたという感じのヘアスタイル。
 清潔な感じの、白いシャツ。裾は長く、腰の所で、綺麗な模様を入れた皮のベルトで止めてある。ベルトには、可愛らしい巾着袋がぶら下がっていた。シャツの上に着ている黒いベストには、蔦がからまる模様が刺繍で入れられている。
 すとんとしたデザインの、足首まである黒いスカート。足にはベルトと同じく、しゃれた模様を刻んだ茶色の皮のショートブーツ。いわゆる森ガール風の服装と言えるだろう。

 どこかのんびりした印象を与える彼女には、良く似合っていた。


「え、あ、あの?」

「あっ、サー・ウィルもいた? サーも今夜は、お手伝いしてくれるんだ?」


 いきなり親しげに話しかけられて驚いていると、少女はウィルフレッドを見て尋ねた。


「いや、俺は」


 珍しく、ウィルフレッドが困惑した表情を浮かべている。


「えっと。あなた、サーの知り合い……ええっと。サー・ウィル。この子、あなたの知り合いなの?」


 ティラミスが尋ねると、ウィルフレッドは明らかに困った顔をした。


「いや。すまんが、どこかで出会ったか。俺には、どうも覚えがないのだが……」


 少女に言うウィルフレッドに、ティラミスは、んん? と首をかしげた。この子の口調は、明らかにあたしたちを知っているものだった。でも、あたしはこの子を見たことがない。サーも知らないと言っている。

 誰だろう?


「ええと? あなたは……あのう」


 ティラミスが言うと、少女は、あっ、という顔をした。


「あー……ごめんなさい。えっと。初対面、でしたね。ぼ、あー、あたし。気安かったよね。ほんとごめん。あの、いつも、じんがお世話になってます」


 ぴょこり、と頭を下げられる。


「じん? あなた、じんさんの妹さん?」


 ここにパンを卸している青年を思い浮かべ、ティラミスは尋ねた。


「じんは、あ、はい、お兄ちゃんで……ぼ、あ、あたし、じんの身内です」


 言われてみれば少女の顔だちは、あの青年に似ていた。男女の違いこそあるが、目の形や鼻の形はそっくりだ。どこか憎めない感じののんびりした雰囲気も、言われてみれば共通している。


「そうなんだ~、納得。じゃあお兄さんから、あたしたちの話を聞いてたのね。そんな、すぐわかるぐらい特徴ある? あたしたち」


 ティラミスの言葉に、少女は笑った。


「そりゃ、ありますよ~。サーはいつ見ても、この世の重圧をすべて背負っているみたいな顔してる人で。ティラミスさんは、元気が良くて可愛い会社員さん!」

「あら」


 ほめ言葉にちょっと気分が良くなった。じんさんってば。あたしのこと、そんな風に思ってるのね!
 一方、『この世の重圧をすべて背負っている』と言われた男は、さらにむっつりとした顔になった。


「俺は普通だ」

「うえっ、ええと、はいっ、そうですね!」


 慌てた顔で手をばたばたさせながら、少女が言う。本人が目の前にいたのを忘れていたらしい。ちょっとしたことで失言するところもそっくりだ、とティラミスは思った。
 ウィルフレッドは続けた。


「しかし、今の表現でこの娘がティラミスだと、本当にわかるのか」

「えっ、あっ、まあ。サーがマントを巻き付けさせてる女の人って、ティラミスさんぐらいでしょ、この店では」

「ああ」


 この説明に、ウィルフレッドは納得したらしい。えっ、ちょっと待って。あたしの特徴って、マントを腰に巻いてることなの? とティラミスは思った。


「ところで、あなた、名前は……」

「あー、あの」

「来ていたんですか、ティラミスさん。サー・ウィルも」


 そこで、奥から店主が出てきた。


「紅さん」

「こんばんは。良かった、お二人とも迷わずに来れたんですね。ぽいさんと、もう出会ったんですか」


 いつも通りの、白と黒のギャルソンスタイルの店主は、穏やかな笑顔で、こちらにやって来る。

 なぜか、ほっとした。さっきまでどこかよそよそしかった店が、彼女が現れた瞬間、温かみのある空間に変わった。そんな気がした。ああ、これだ、とティラミスは思った。これが、いつも通りだ。


「ティラミスさん? どうかしましたか」


 そう思っていると、ちょっとぼんやりしてしまったらしい。不思議そうに店主が見つめていた。


「あ、ああ、いえ。なんでもないの。紅さんって、このお店そのものなんだな~って。改めて思っちゃって」

「わたしが、この店そのもの……?」


 店主は面食らった様子で目をぱちぱちさせている。その横では少女がなぜか、「相変わらず、変なとこで鋭いなあ」とつぶやいていた。


「ええーっと、ごめんね? 変なこと言っちゃって。あの、ぽいちゃんって言うの、この子?」


 ティラミスが尋ねると、店主はうなずいた。


「ええ、この子の名前は『ぽい』です。じんの、」


 そこで店主はなぜか、ちょっと言いよどむ。ぽいと呼ばれた少女が、口をはさんだ。


「えーっと、じんの身内って説明しました」

「妹さんでしょ?」


 確認するティラミスの言葉に、店主はうなずいた。


「そうですね。ティラミスさん、サー・ウィル。この子はじんの身内で、ぽいと言います。今夜は、じんが来れないので。この子が厨房のチーフになります」

「えっ、こんな若いのに? 十五歳ぐらいでしょ?」


 店主の言葉に、ティラミスは目を丸くした。


「ええー、ちょっとちょっと! ぼく、これでも二十歳過ぎてますよ!」


 そこでぽいが、傷ついた! という風に声をあげた。


「なに?」

「え? ぼく?」

「ぽいさん。口調。口調」


 ウィルフレッド、ティラミス、店主の順に発言する。ぽいは、あ、という風に手で口を抑えた。


「二十歳過ぎだと……なんの冗談だ」

「ぼくって……えー、ぽいちゃんボクっ?」


 ウィルフレッドが言い、ティラミスが言った。


「や、ややや。あー。気をつけてたのに」


 ぽいは慌てふためいている。


「あああ、変だよね。直そうとはしてるんだよ。でも、癖になっちゃってて~!」


 ぽいは口の中で、「あたし、あたし、ぼくじゃなくて、あたし~!」と繰り返し始めた。


「あー……ボクっ娘ね。なるほど。道理で時々、話す途中で詰まってると……。まあ、別に良いじゃない、なんだか可愛いし」


 なんとなく納得してティラミスが言うと、ぽいはぶんぶんと首を振った。


「良くないよ! だって二十歳になっちゃってるんだよ? この先ずっと『ぼく』だったら、三十や四十になった時、ぼくどうすんの~ってまた言っちゃったよ、あたしだよ!」


 わたわたしながら、自分の言葉に自分でセルフツッコミをしている。


「二十歳になった時に、口調を普通にすると宣言されまして」


 店主の説明に、ティラミスは、ああ、とうなずいた。


「節目だしね~……。心がけとしては良いよね。対外的にも責任持つようになってくるから。
 まあ、そうだね。女性がいつまでも『ぼく』とか言ってたら、なにかそういう職業でもない限り、信用なくすしね……でも、本当に二十歳過ぎてるの?」


 どう見ても十五歳ぐらいにしか見えないぽいに尋ねると、ぽいは胸を張った。


「そうなんでっす! だから、お酒もOK!」


 えへへ、と笑う。うわー、可愛いわ、この子。とティラミスは思った。なお、この間ウィルフレッドは、「ぼくっこ……?」とつぶやきつつ首をかしげている。意味がわからなかったようだ。


「若い女性で、少年のような言葉づかいや振る舞いを、好んでする人のことです」


 店主の説明に、「そうなのか」とか何とか言っている。

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