第十六話:盗難
途中の道でどんどん少年探偵団と博士含む七人は別れていき、最後にビートルの中に残ったのは博士と哀だけになった。
「キャンプはどうだったかの、哀君。」
「いつもどおりよ、博士。江戸川君と一緒にいると事件に巻き込まれて疲れるわ。」
そう口では言いながらも、哀は笑顔を浮かべていた。
「満更でもないようじゃの、哀君。」
「え、何か言った、博士?」
「いや、何も言っとらんよ・・・・・・。」
博士と哀は、家に着いて車から降りた。哀はAPTX4869の解毒剤の研究を続けようとした。
「少しは休んだらどうじゃ? 帰ってきたばかりで疲れているじゃろ。」
「大丈夫よ、博士。」
そう言って博士の心遣いをやんわりと拒否し、自分の部屋へと向かった。
「最後に入ったのは皆がキャンプの予定を立てるために皆が来た日で、しかも皆が来る直前だから・・・・・・早く研究を続けないと・・・・・・。」
哀が自分の部屋のドアを開けたとき、何か違和感を感じた。哀は急いで引き出しの中を調べ始めると、あることに気づいた・・・・・・。
「そんな・・・・・・解毒剤のデータが入ったMOが無いわ! どこか変な場所に置いたんじゃなければ、誰かが侵入して盗んだのかしら・・・・・・。」
哀は真っ青になった。
「工藤君にこのこと、何て言えばいいの・・・・・・? 言ったら二度と元に戻ることが無いかもしれないって責められるのかしら。そうでないにしても、盗んだのがもし組織の人だったりしたら・・・・・・。」
博士はリビングでのんびりとパソコンをやっていた。新発明品を作るための研究だった。そこに急に叫び声と、いきなりバタバタと階段を駆け上がる音が聞こえ、何事だと博士が振り向いた。
そこには青ざめた顔でハアハアと軽く息をする、哀の姿があった。
「どうしたんだね、哀君。そんなに慌てて。」
「博士、APTX4869の解毒薬のデータが入ったMOが無いのよ! 誰かが盗んだんじゃないかしら。」
哀はまくし立てるように言った。
「しかもリビングを見ると、特に変わった様子は無いわ。つまりMOをキャンプ旅行中に盗んだと思われる犯人はこの家の配置を知っていて、わざわざ私の部屋へと来たんだわ。」
「何じゃと! しかし、そうなると・・・・・・。」
「そう、私や工藤君の正体がベルモット以外の組織員にもばれている可能性があるということと、そして盗んだ犯人は身近な人っていう可能性があるということよ! もしかしたら私達が顔見知りの人なのかもしれない。」
「身近に黒の組織のものがおるじゃと?」
この辺から二人の会話はなぜかヒソヒソとしたものになってきた。
「いないとは言い切れないでしょ。実際近くにいて、私が寒気がする人だっているし。それに盗んだのはキャンプ中だとは限らないわ!」
哀の最後の言葉で、一瞬沈黙の空気が流れた。
少し考えるような仕草をしてから、博士は再び話し出した。
「すると、もしかしたら一緒にキャンプに行った人の中に、解毒剤を盗んだ人がいるという可能性があるということじゃな? 哀君、君が言うには。」
「ええ、そういうことよ。」
「しかし、子供達が解毒剤を盗むとは思えんがのう。大体そのことを子供達の中で知っていたのは新一君だけじゃ。早く元に戻りたいから、新一君が勝手に取っていったというわけじゃあるまいしのう。」
「きっと彼が盗んだんだわ! 江戸川大輝が。だって彼と近くにいると、寒気がするし、彼、組織からのスパイなんじゃない?」
哀の言葉に博士は驚いたような顔をした。しかしすぐにもとの表情に戻って言った。
「そんな子には見えんが・・・・・・。まだ証拠がないのに、大輝君が犯人だと決め付けるのは早すぎるじゃろ。」
「ええ、そうね・・・・・・。」
この言葉で、その場は解毒剤盗難の議論は終息した。しかし哀は、別のことで重圧がかかっていた。遅かれ早かれ、このことをコナンに言わなければならないからだった。そうして、本格的に組織は標的を自分達に絞り始めたのかもしれないということもだ。そして、誰が組織の人なのかは分からない・・・・・・政治界等にも浸透しているならば、他のところでも組織の力に支配されている、またはその力が浸透しているかもしれない、周りにも組織員がいるかも知れない、そのことを哀に思い出させた。 |