100のお題:異境
「なあ、異世界ってあると思うか?」
いきなり悪友の平井が言った。おいおい、それはどこかのライトノベルな話か?
居酒屋で切り出す話題とは違うと思うんだが。しかも今日は平井から声をかけてきた。というか相談を持ちかけてきたんだよな。
「さあな」
俺としてもファンタジーやSF、ライトノベルの世界は嫌いじゃない。本もよく読むし。だが、平井はといえば。
少なくとも俺が知っている平井は本はおろかドラマでも映画でもファンタジー的な架空の物語は毛嫌いしていたはずだ。ゲームはよくやってたと思うが、どれもレースか野球かサッカーだ。
その平井から「異世界」というキーワードを聞こうとは。
「おまえに聞いてるんだよ。なあ、答えてくれよ」
「分からない。というかおまえ、そういう架空戦記とか嫌いだったろ?」
「ああ、そうだよ。ファンタジーとか甘っちょろいのは好きじゃない。でも、だからおまえに聞きたいんだ。あると思うか?」
なんでこんなに目を血走らせながら熱く語ってるんだろう。
「まあ……もしかしたらどこかにあるかも知れないな」
すると平井は机を拳で叩いた。
「そんな……そんなあやふやなことでどうするんだよっ。俺は……どうやったら彼女をたすけられるんだよっ」
……は?
「おまえ、何のことを言って……」
平井はポケットから本を取り出した。恭しく聖書かなにかのように掲げて。
「あー……それは」
俺でも知ってる有名なライトノベルだった。確か先年、作家が夭逝して、続きが読めなくなったという……。
「おまえも知ってるのかっ?」
「ああ、確か、続きはWebでって……」
「ありがとうっ! 早速探すよっ」
両手ガシっとつかまれて何度も何度も拝まれて、平井は飛んでいった。
本、忘れてってるけど、いいのか?
というか、本に没入しすぎだ。本の世界に行けるマシーンとかできたら買いそうな勢いだ。
ちなみに、続きに文句をつけるにはどうしたらいいかと呼び出されたのは別の話だ。