心の場所
【Smile Japan】参加作。
「心ってどこにあると思う?」
そうぼくが聞かれたのは、小学校の四年生のころだったと思う。同じクラスの女の子に、突然、何の前触れもなく聞かれたのだった。
いや、前触れはあったのか。
そんな話を授業中に先生がしていたように思う。
「心? ここかな?」
ぼくはそう言って、胸に手を当てたように思う。
本当はどこあるかなんて知らなくて、でもなんとなく、胸に手を当てたのだった。
「でも……やっぱり頭なのかな?」
胸に手を当てた後、ぼくは頭を指した。心とは感情の引き出しのようなもので、ならば脳がそういう判断を下しているのだろうということで、頭を指したのだった。
これでもぼくは小学四年生にしては本を読んでいたから、こういう会話にはある程度の免疫があった。すぐに会話を放棄するということはしなかったのだ。
「もしかして、このあたりにあるのかもしれないね」
そしてぼくが最後に指したのは、右肩の上だった。
別に右肩の上である必要はなかった。頭の上でも左肩の上でも、とにかく体の上であればどこでも良かった。
「心はぼくたちを見降ろすような位置にあるのかもしれないよね」
人の体のどこかにあるだろう心は、いまだかつて肉眼で見られたことがない。あらゆる方法で見られたことがない。
ならばきっと、体の中にはないのかもしれない。
ぼくはそう思ったのだろう。
「きみはどこにあると思う?」
自分の答えを言い尽くしたぼくは、最初に問いかけてきた女の子に聞き返した。その子の名前はなんと言っただろう? 今となっては思い出すことも難しい。
「そうだね……」
女の子は悩むそぶりを見せていたけれど、その目はすでに答えを見つけている目だった。
だからその子の答えは真偽はどうあれ、とても力強いものだった。
「自分があると思っているところにあるんだと思うよ」
当時は本当に意味がわからなくて、言葉遊びで煙に巻かれている気がした。
ぼくはぼくであってぼくではなく――
どこにもいてどこにもいない――
そんな子供だましのレトリックで遊ばれた、そう思ったように思う。
「じゃあ、ないと思えばないの?」
それが気に食わなかったぼくは、たしかそう問い返したのだったか。
「そうだけど……でも、心のない人なんていないよね?」
「そうだけど、心ないことをする人はいるよ」
これこそ言葉遊び。
ぼくはしてやったり、と、意地の悪いことを考えていた。
「でもやっぱり心はあるわけだから、どこかに心はあるんだよ」
心の存在を信じて疑わない女の子は、ぼくの言葉遊びには全く触れなかった。
「気づいてないだけでね、自分がね、心があるって信じてるところに心はあるんだよ」
「信じてるところ?」
「うん。そうだよ」
言葉が変わっただけだ。
思うから信じるへ。
だけど、ぼくにはそれが大きな意味を持つような気がしてならなかった。
彼女はそれ以上の言葉を続けなかった。
だから今も、ぼくはそれについて考え続けている。
答えはまだ出ていない。
直接的な言葉を使いたくなかったので、すこし遠回りに。