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序幕
古い時代、人間と妖怪は実に親密な関係にあった。
それは、互いの力を競い合い高めていくという表立った理由がある他、人間同士のように人と妖との間に親交を持った者が数多くいたというのも立派な理由になるだろう。家系に幸運を呼ぶ座敷童子、悪戯もさることながら子供達の遊び相手として親しい河童、山に立ち入る強者と力比べを好む烏天狗、忍者の原型ともされた鬼・・・。これらの妖怪の存在は、少なからず人間の進歩を助長した。しかしながら、それは妖怪達にとってはマイナスでしかなかったのだ。
人間が科学技術を発展させていくと妖怪達の住家は次第に奪われていき、それによって人間は妖怪の存在を忘れていった。人間に認知されなくなった妖怪はその存在意義を失いさらに居場所を失う。したがってさらに人間は妖怪の存在を否定するようになって・・・。

そして今のご時世、人間は妖怪の存在を完全に忘れ去ってしまったのである。












雨が降りしきっていた。滝のような雨がコンクリートの黒を更に深めようと打ちつける。
真冬の夜。身のしみるような寒さの中、一人の男が暗い夜道をひたすらに走っていた。傘もささずに鞄を頭に抱え、厚手の黒いコートを靡かせている。すでにずぶ濡れの様子だったが、それに追い打ちをかけるように雨は一段と激しさをましていく。

「つー、まいったな」

どうやら男は青年らしい、まだ若い声で誰に言うでなく呟いた。
チカチカと点灯する街灯が淡くコンクリートを照らす。白い機械的な光は何の温かみも持ち合わせていないようで、男は恨めしそうに街灯を一瞬見ると、また雨を避けるように頭を下げる。
一台車が通り過ぎると、氷の中を駆け巡ってきたような冷たい風が、既にかじかんだ手や頬に針で貫いたような一撃を与えていく。息も荒れてきたようで、吐き出される白い息の間隔が短い。

「止めばいいんだが・・・」

男は言うと、脇道にひっそりと構えるバス停へ逃げるように走り込む。木造の古い屋根は、それでもしっかりと雨を防いでくれるようなので男はホッと一息をついた。腕時計を見ると針は午後9時半。続いて時刻表に目をやると、今から最も早いバスが10時過ぎとなっている。まだまだ時間はある。男はゆったりと塀に寄り掛かると腕を組み、時が過ぎるのを待つことにした。

屋根があるとはいえ、風は容赦なく男の身を襲う。水が滴るコートが余計に体温を奪い、かといって脱いだら脱いだで寒い。
寒さからなのか、突然男は眠気に襲われた。自分の器官ではないかのように瞼が重く、どんどんと視界が薄れていく。睡眠欲はあらゆる欲を超越する。男もまた例外ではなく、閉じていく瞼はそのまま無抵抗に閉まり、そのまま意識も失っていった。


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