1−7
「よし、行くぜ?」
とん、とんとつま先で床を二度蹴ったあと、本条は軽く懐に飛び込んできた。早い!この動きは、ボクシング経験者と思われる。その鮮やかな動きに目を奪われていた俺は、とっさに動けず、下っ腹に強烈なのを一発食らった。
「うっ!!! ……っっぐっっ……!」
俺は思わず膝をつきそうになった。重い。大きめの石をたたきつけられたような痛みが走った。これで顔でも殴られた日には、昏倒しかねないだろう。本条はかなりの実力者らしいことがわかる。
「おいおい、一発で終わりか? 情けない。ためしに反撃してみたらどーよ?」
そう言ってもう一度軽く踏み込んでくると、今度は胸のあたりにストレートを食らわせようとしてきた。とっさに腕でかばう。ゴス、と鈍い音が響く。…痛い!! 骨にまで振動が伝わるような強烈なストレート。こんなのを何発も食らっていたら腕が折れてしまいそうだった。
「ほらほら右、左、右、左、ほらほらほら!」
本条は立て続けに売ってくる。俺は防戦一方、避けられるものは避けるが、それができないものは腕で受けた。そのたびに体の芯を直撃されるかのような激痛が襲い、眩暈がしそうになる。
くそ!! こいつ、チャラチャラしているくせに強い。かなり訓練を積んでる、これじゃ素人がかないっこない。かろうじて俺が何発かよけられるのも、おそらくこいつがよけられるように打っているんだろう。ちくしょう、遊ばれてんのかよ。くやしい。本気で腹が立った。くやしい。こんなに悔しいのは久しぶりだ。
「うおおっ!!!」
一発、返す。もちろん本条は余裕でかわし、直後にまた一発撃ってくる。顔はガードしているが、もうそろそろ腕も限界だ。真っ赤になっているではないか、ところどころ内出血もしていそうだ。
「ぐがっ!!?」
余計なことを考えていたのが悪かったのだろうか、腹に一発再び決められた。
「がはっ!!」
俺は猛烈に襲ってくる吐き気を抑える。思わず膝をつく。そこへ、本条がさらに追い討ちをかけようとしている。はっとして周囲を見た。
甲板に、見える範囲にはだれもいない。このクルーザーはかなり大型で何部屋もあり、デッキに出ても死角が多く存在する。その中でも俺たちは周りから見えにくい位置で喧嘩をしていたため、今の俺たちを見ているものは誰もいない筈だった。
「くそっ……」
見たところ、本条はかなりテンションが上がっているようだった。このままでは本当にこちらが意識を失うまで叩かれるかもしれない。いっそ負けを宣言してしまおうか……一瞬だがそんな考えが頭をよぎった。もう楽になりたかった。息も上がっているし、からだ中あちこちが痛い。ここでギブアップすれば、少なくともこの苦しみからは解放されるだろう。
しかし…。俺は思い直した。ここで俺がへばれば、本条の奴はそんな俺をせせら笑うかのように、由梨乃にべったりとするだろう。こんな奴が、由梨乃を……。それは、それだけはやっぱり許せなかった。
俺はもう一度痛む腹に気合いを入れ、立ち上がろうとした、その時、
「何やってんの!!」
客室の方から声がした。由梨乃だった。また、何と言うタイミングで現れるのかこいつは…。
「お、由梨乃ちゃんじゃん?」
本条の奴が由梨乃の方に気をそらす。チャンスだ!!
俺は素早く奴のがら空きの懐にパンチをたたきこむ!! はずだったが、難なくガードされた。
「なんだこりゃ、軽いな……」
「ちくしょうっ!!」
俺は立て続けにパンチを繰り出す。少しでもガードの甘そうなところ、頭、胸、脚、とにかく打てる限り打ちまくった。しかしどれも決定打にはならず、俺の体力は消耗していくばかり。
「なに、喧嘩してんのマキ? こんなときくらい自重しなさいよ」
由梨乃の奴はいたって気楽なものだ。俺らの喧嘩を腕組みなどしながらゆったり見物である。
本条の方は、さっきと一転して全く打ってこなくなった。防御のみである。やはり、本人のいる前では打ちにくいのだろうか、
そう思った矢先、
「ぐあ!!」
またしても腹にやられた。先ほどと同じところである。…この男、顔にあざでも残せば目立つから、わざわざ胴体を狙ってきている。
さすがの由梨乃もこの痛そうなリアクションを見て不安になったと見えて、
「ちょっと、あんた手加減しなさいよ! マキは素人なんだから。なんとなくボクシングやってるっぽいけど、スポーツの技術を喧嘩なんかに使うもんじゃない。卑怯じゃない!!」
「へへへ…。止めてやるなよ。実はな、このおにいちゃん、君のために戦ってんだぜ?」
本条は由梨乃の方もからかうことにしたようだった。自分自身は完全に悪役に回った形になるが、まあ所詮もともと本気でなかったのかもしれない。結局俺をいたぶるのが楽しい、それだけなのかもしれなかった。
「なっ!!……マキが、あたしのため?」
あかん。余計なこといいやがって。てか、由梨乃も赤くなってんじゃねえ。ベタなデレすぎる。
とはいいつつ、俺も何だかこの状況が楽しくなってきていた。
「よーーーし、バカ由梨乃のためにいっちょいってやるか! おい本条!! 俺に勝つまでは由梨乃に……」
俺は勢いをつけて、本条の顔面めがけて飛びかかった。
「声かけんじゃねーーーー!!!!」
ガツン!!
俺の頭突きが見事に決まった。今度こそ、油断していた隙をきちんとつけたようだった。というか、よけようともしていなかったように見えたが?
「……。っててて。ったくよお、どこまでも失礼な男だ。まったく、いいよいいよ、俺の負けだ。パンチじゃねえけど勘弁してやる。てめーら二人で仲良くいちゃつくこったな」
そういうと、すっかり白けてしまったらしい本条はプイっと背中を向けて去って行った。……なんだ、あいつ、この引き際のよさは。案外いいやつだったんじゃないか? これが噂の「いい奴フラグ」なのか?
「マキ、あたま」
由梨乃に言われて気づく。頭からすっと一筋、血が流れて鼻の上に到達するところだった。由梨乃はハンカチを取り出し、それを拭いてくれた。自然、至近距離で目が合った。
「……うっ」
変に緊張する。さっき本条が言った余計なことが改めて脳裏によみがえった。ああくそ、恥ずかしいじゃねえかよう。どうにかしてくれよこの状況。ラブコメかよう。
「マキ、あたしのために戦ってくれたの?」
ドキッッ、と心臓が跳ね上がる。その、いつも通りの由梨乃の声なのだが、気のせいなのか、それとも脳にフィルターがかかっているためなのか、ちょっと甘え声に聞こえるではないか。しかもああ顔をちょっと赤らめて嬉しそうな表情をしているではないか。
こっこれは……。本条の奴、余計なことしやがってぇぇ、これからは由梨乃の顔をまともに見られなくなるかもしれねえじゃねえかあああ!!
と、俺が勝手に悶絶していると、
「この、アホ!!」
由梨乃の鋭いチョップが俺の頭を直撃。ふたたび血がたらっと垂れてきそう。
「まったく、ボクサー相手に本気で喧嘩すんなっての!! なーにがあたしのためよ、うまい理由つけて!! あのね、そういうのは勇気って言わない、蛮勇っていうの!! 無謀すぎ!! 馬鹿じゃないの!! あたしが現われなかったらあんた今頃ボコボコよ!! ったく、腕だってこんな真っ赤にして…」
そこで由梨乃は声を落してうつむいてしまった。ああ、なんというか、かわいいではないかこいつ。そうか、俺をそんなに心配してくれているのだ。
「……わかったよ。もう無謀な喧嘩はしない。でも、俺は由梨乃を守るって、ある人に誓ったからな。その為の手段なら、なんでもする」
普段なら聞いてるだけで恥ずかしくなるような歯の浮くセリフも、こういう場面では案外すらすら出てくるというもの。
「なななななななによそれ!! 気持ち悪い! きもいわ!! いやー! 恥ずかしい!痛い人が! 船長、ここに痛い人がいます!! 助けてーやだもーー!! 死ぬ! 恥ずかしくて死ぬーー!! う〜〜〜〜〜!!!!」
アサギは顔を真っ赤にして悶えている。自分でも何を言っているかわからないに違いない。うーん、身近にいたからなかなか気付かなかったが、こいつも実にかわいい所を持っているではないか。新発見だ。俺新発見。そんな発見をもたらしてくれた本条GJ。なんか最後の方いい奴っぽかったし、再評価の余地ありな奴かもしれん。
「由梨乃」
調子に乗って俺は由梨乃を抱き寄せようとする。すると、そんな俺の顎に、
「いい加減にしろバカーーーーーーー!!!!!!」
由梨乃の鉄拳アッパーが見事に決まった。いやもう、それは見事なまでの入りっぷりで、ボクサー本条も真っ青の会心の一発だった。
そうだった、本当に恐ろしいのはこいつの方だったのかも…。
俺は今度こそ本当に昏倒した。
☆
―――――お楽しみのところ、恐れ入ります。
このたびは、当ツアーにご参加くださいまして、誠にありがとうございます。
マキ様も由梨乃様も、この船旅をお楽しみいただいているようで、何よりでございます。
お客様にご満足いただけるプランをご提供させていただくことが、当方の無上の喜びでございますから。
さて、大変心苦しいのですが、ここでお客様がたにお知らせしなければならない事がございます。
突然で大変恐縮なのですが、皆様方の楽しい旅行は、ここで終了とさせていただきます。
大変勝手で申し訳なく思っておりますが、ここからは、皆様にとって最低最悪のスケジュールを組ませていただいております。おそらく、今後は皆様が笑いあったり、ふざけあったり、楽しくわいわい卓を囲む、といった光景は二度と見ることができなくなるでしょう。
いや、それどころか、皆様が生きて帰ることもかなわないことでしょう。
皆様がこのスケジュールに大いに不満をお持ちになるであろうことは、当方も重々承知してございます。あまりに突然このようなプランに切り替えさせていただいたことに関しまして、深くお詫び申し上げます。
皆様へのお知らせが遅れてしまったことも、全面的に当方の責任でございます。深く反省し、今後このようなことがないよう当方も改善の努力を尽くさせていただきます。
しかし、今回のお客さま方にはどうかご了承いただけますよう、お願い申しあげます。
☆
……………。
ゆらりゆらり、船の振動を感じながら、俺はゆっくりと目を覚ます。
ここはクルーザーの客室内。あれからどれくらい時間がたったのか、俺は昨日の寝不足も手伝って、すっかり眠り込んでしまったようだった。
……。
窓の外は、いつのまにか陽が隠れ、どんよりした曇り空になっている。天気が変わる程の長時間、俺は眠っていたのだろうか。
……。
人の話し声や、物音は一切しない。ただクルーザーのモーター音と、波の音がかすかに聞こえるだけ。
見ると、傍らでは由梨乃も眠っている。少し離れたテーブルでは、大学生メンバーの藤さんと久我野さんが、突っ伏してやはり眠っているのが見えた。そして、その脇のスペースには、優さんがしゃがみ込むような恰好で……やはり、眠っている。
…………。
おかしい。
なぜみんなこんなにも眠っているのだ。それほどに長い航海なのだろうか。だってこれ、離れ小島に向かうだけの、短時間のクルーズに過ぎないのではなかったか。
見渡す限り、起きている人の姿は確認できない。ここ以外にも客船はあるし、シャワールームやトイレなどにも人がいる可能性は否定できなかったが……それでも、船内の死んだような暗い雰囲気は隠しようがない。
何があったんだ……。
俺は思いいたって、デッキへ躍り出た。勢いよく扉を開ける。
……!
俺は目の前の光景に唖然とした。
見渡す限り、海。M島本島はどこにも見えない。薄く霧がかかっているせいかもしれないが、少なくともずいぶんと遠くまで来てしまったことは間違いがなかった。
明らかにおかしい。確かK島はこれほど遠海にはなかったはず…。
俺は必死で、眠る前の自分の状況を思い出そうとした。そう、確か俺は、由梨乃にぶん殴られて、昏倒して…。そう、そのあと一度目を覚ましたんだ。そして客室に戻り、スナックなどを食べ、お茶など飲みながら由梨乃たちとトランプなどして遊んだんだっけ……。その時のメンバーは、由梨乃、アサギさん、美音子さん、そして由梨乃が半ば強引に誘って参加させた鎌田少年だったはず……。
そして、飲んだり食ったりしているうちになぜか眠くなってきて…。一抜けしてごろんと横になって…そのまま寝入ってしまったのだった。
俺が眠たくなるのは、昨日の寝不足が原因ということで説明はつく。しかし、この状況…。俺以外の人間も眠りこんでいるとは、どういうことだ……???
それより今は何時なのだろうか。俺が携帯電話で時間を確認しようとしたときだった。
「…………え!?」
眼の端に信じられないものが映った、気がした。
あそこは海だ。まぎれもない海。浮き島も何も無く、ただただ底なしに海髄がたたえられている海。
そこに…。
「美音子さんっ……………!!?」
俺は船の手すりに駆け寄った。人が浮いている。そして、その背格好、服装、どう見ても美音子さんではないか…!!顔までもがちらっと見えた、気がした。
そして、その大きく見開かれた目が俺の方を見つめていた……………!!?
「うわあああああああああああああああああああっっっっ!!!!!!」
俺は叫んだ。そうしているうちにも、クルーザーは激しい勢いで海を進んでいるので、彼女から遠ざかってしまっている。
「止めろ!! 船を止めろおっっ!! 美音子さんがっ!! 美音子さんがあああっ!!」
俺は操縦室を、三木さんを探して走り回った。途中、客室を通過して大きな音を出したため、何人かが起き上ったようだった。しかし俺は、わき目も振らず走る。
「戻れ!! 戻るんだ!! おいっ! 操縦室はどこだ!! 戻れえええ!!」
やっとのことで俺は操縦室を見つけ、扉に体当たりした。しかし、そこには…。
「三木さん……?? いない?」
そこには誰もいない。何時間前からそうなのか、ハンドルの脇の灰皿代わりの空き缶に突っ込まれていた煙草から、細い煙がたっていた。
「くそっっっ!! ひょっとして三木さんも・・!?」
俺は俺は狭い操縦室で頭を抱えそうになった。目の前には、見たこともないレバーやボタン、何を表しているかわからないメーターなどがずらりと並んでいる。
しかし、やるしかなかった。
「くそっ……!!」
俺はでたらめにそれらをいじりはじめた。ハンドルを思い切りまわし、進行方向を反転させようとする。ボタンをやみくもに押し、運転を止めようとする。しかし……。
「きかない…!!?」
船は依然まっすぐ走り続けていた。全く、俺の操作に対し反応した様子もなかった。
くそっ!! こんなことをしていたら……!!
俺は再びデッキに躍り出た。そこには、俺の大声で目を覚ました由梨乃、アサギさんや優さんが立っていた。
「さっきから大騒ぎして、マキどうしたの…?」
「美音子さんが落ちたみたいなんだ」
「ええっ!!?」
「なんだって!!」
由梨乃は俺の言葉を聞いて顔面蒼白になる。アサギさんも同様だった。優さんが大急ぎで操舵室へ飛び込んでいく。
「ど、どういうことだよ!?」
いつの間にか来ていた陣野さんが叫ぶ。そのあとに香坂さん、芦田さんが続く。不安そうな表情をしていた。
「わかりません。三木さんも見当たりませんから、ひょっとしたら彼にもなにかあったのかもしれない」
「いや、いや、いやあ!! 何それ!!」
由梨乃はすっかり平静を失ってしまったかのようだ。突然手摺の方に駆け寄ると、飛び降りようとした。俺とアサギさんはそれを見て、大急ぎで由梨乃の脇を抑え込む。
「放して!! 美音子が!! 美音子が落ちたんでしょ!! 助けないと! 早く助けないと!! あああっっ!!!」
「馬鹿!! お前その恰好で飛び込んで泳げると思うか!!」
「放して!! 放してよ!! 馬鹿マキ!! いぃぃぃいいいい!!」
大暴れする由梨乃を抑えているうちに、優さんが駆け寄ってくる。
「駄目だ! 操縦機全体が壊されているのか、全く操縦がきかない。船を止めることもできない」
「そ、そんな……!!」
振り向いた由梨乃の顔は、涙にまみれ、鼻水もぼたぼた垂らしていた。その腕を押えるアサギさんも、よく見ると見たこともない険しい表情をして、汗を浮かべていた。
優さんが言う。
「この船は、どこかに向かって、誰かの意思で動かされているとしか思えない…」
「何よそれ!! どうなってるのよ!! じゃあ美音子は、美音子は殺されたていうの!!?」
俺たちは唇を噛んで、もうすでにはるか遠く、美音子さんが消えていった波間を見つめた。
これは一体どういうことなのだ……。俺の頭の中を様々な疑問が巡る。なぜ俺たちはこんな、どこかも知れない洋上で、船の導くままどこかで連れ去られようとしているのだろう?一人は船から落ち、一人は行方不明。多くの人間は眠らされていた。そして……。
俺は携帯電話を取り出す。時刻は、午後2時となっていた。出航時間が九時半で、俺たちが遊んでいたのは十時半くらいまでだったはずだから、三時間半ほど眠っていたのだろうか。
俺たちは助けを呼ぼう、と携帯電話を取り出すが、いずれも圏外を示していた。もちろん、操舵室の無線もつながらない様子だ。優さんが試していた。
「……とにかく、ここに全員を集めよう。他に誰かいなくなっている人がいないか、調べないと」
「そうね。……ねえマキ、それって本当に美音子ちゃんだったの? 何かの見間違いじゃないの? ビニール袋とか……」
もちろん、由梨乃は肯定の返事を期待している。俺は残酷だと知りながらも、正直な答えを口にした。
「いや…あれは本当に………美音子さんだったと思う」
「…………………」
由梨乃は黙ってしまった。ややもせず、デッキに全員が集まってきた。俺、由梨乃、アサギさん、優さん、陣野さん、香坂さん、芦田さん、本条、藤さん、久我野さん、そして鎌田、これで全員のようだった。
「どういうことなんだ…。秋沢さんが落ちたって…。しかも、三木さんも行方不明って……」
「詳しいことはわかりません、しかし、つい先ほどまで皆さんは眠らされていましたよね。そして、一番最初に起きた俺が落ちた美音子さんを目撃した。……これは、誰かの仕業としか思えません」
皆が不安そうに顔を見合わせた。クルーザーはどこに向かっているのか、自分たちにまで何か起きはしないか、心配している様子だった。中には俺に疑いを持っているのか、じろじろ俺を見てくる者もいた。たしかに、第一発見者は疑われやすい。
「とにかく、何とかしてクルーザーを止めないと……。このままじゃ、洋上で燃料が切れて、漂流することになっちまう」
「そうですね、でもどうやって止めたらいいのか…。操縦機材を壊せばいいってものでもないだろうし…」
「おい!!」
その時、陣野さんが大声をあげた。船の進行方向を指さしている。見ると、暗い空と海の間に、うっすらと黒い影が見えてくる。
「島だ…………!」
「ああ、本当だ…。」
「助かったのか……?」
皆が口々に叫ぶ。しかし、俺は猛烈に嫌な予感に襲われていた。それは、あの丘の上島々を見下ろした時、ひときわ黒いオーラを放つ島を目にした時に感じたものと全く同じ。
そう、あの島だった。
不気味な黒い島が、俺たちを迎え入れようとしているのだった。
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