昔、かまちという少年有り。筆を自在に操り、色を無限に創造し、肌で感じたものを描いた。
その手から創造される幾多もの芸術は多くの者を魅了し、彼は自らを神童(髪の落とし子)と名乗った。
眠る様に凍った校舎には、時計の鼓動のみが耳をかすめる。
眼前にカンパスを広げ、筆をうならせた。
僕が描こうとしているものは地獄ではない。そんなけったいな物の創造は、エリートに任せる。
生だ。
筆よ、命を吹き込め。
砂漠に生える生い茂る草よ、鮮やかな緑を取り戻せ。
柔らかく包み込む空よ、泣かないでくれ。
荒野に咲く一輪の薔薇よ、激しさを忘れるな。
絵の具は何処だ、僕の好きな色を作りたいんだ。
燃える様に冷たい赤はどうやって作ろう。
賢く優しい青はもう直ぐできる。
月明かりのみで絵を描いている。まぶしいほどの蛍光は、今は必要ですらない。
僕も裸足。シャツはほどいてしまった。絵の具で描きなぐった僕の身体は、手先から首もとまで色に触れている。
想像しろ。そして感じろ。
さあ、踊り続けるんだ。警備員に気付かれる前に。先生に説教をされる前に。
吐息は白く濁り、全てが研ぎ澄まされた。
かまち、待っていてくれ。もう直ぐ君と勝負だ。
神童と称えられた君と。落ちこぼれと失望された僕と。
僕が警備員に発見され、担任の教師から大目玉を食らったのは、寝転がって月と星に吸い込まれて(つまり眠ってしまった)からだいぶ経ったころである。
一人の少年は深夜、命を吹き込み続ける。 |