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10/07/02、加筆分追加。
本編
98話:ガゼッタの港街




 シンハの頼み事とは魔獣被害が招いた流通停滞によるガゼッタの窮状を打開する為、フォンクランクの港街と直接交易を結ぶという計画の遂行にあたり、港街の建設に『邪神(ユースケ)の力』を貸して欲しいという内容だった。
 悠介達の目的であるガゼッタの五族共和構想への参加についても既に了承する心算だったシンハは、何時リシャレウス女王にその旨の返答を出そうかと検討していた所だったので、丁度良いとばかりに交換条件として扱われる事になった。

 ガゼッタはフォンクランクから親善大使として派遣された闇神隊長の説得に応じ、シンハ王の名において五族共和構想への参加を表明。その見返りに、闇神隊によるガゼッタの港街建設支援が行なわれる。というシナリオだ。

「えーと、あとは……これにも署名かな?」
「ああ、こっちの書類は一旦リシャの所へ送ってエスヴォブス王の下へ届けられる事になる」

 夜、野営地での会談で早々に互いの目的をほぼ達成し合った悠介とシンハは、幾つかの公式書類に署名を記しながら建設する港街の規模や闇神隊の滞在期間などを話し合っていた。

「隊長、本国との連絡も完了しやしたぜ」
「お、ご苦労さん。今日はもう皆休んでくれていいよ」

「分かりやした。それじゃ、お先に失礼しやす」

 ヴォーマルはそう言うと敬礼を残して天幕から出て行った。白刃騎兵団野営地の一角を借りて闇神隊用の宿泊施設を作ってあるので、スンを含む闇神隊メンバーは揃ってそちらで休ませる。
 普通に建てれば土技の建築職人を集めても数日は掛かりそうな宿舎を一瞬で出現させる悠介の能力には、シンハが大いに期待を寄せる。出来れば大型の交易船なども作って貰いたい所だ。

「そういや月鏡湖って、でかい船浮かべると沈められるとかいう話があったような」
「湖底に沈む神聖帝国の事か? あれはただの迷信だ。……と、婆さんが前に言っていた」

「そっか。アユウカスさんが言うなら、そうなんだろうな」
「実際に沈んだ街はあったらしい、その街が沈んだ影響で暫らくは湖面を行く船が渦に引き摺り込まれる事はあったそうだが――」

 その現象はもう千八百年以上前に治まっているのだと聞いたそうな。

「ふーむ、流石は三千四歳……いや、今年でもう三千五歳か。色々知ってるんだなぁ」
「細かい事までは殆ど忘れてしまっているようだがな、大まかな時代の流れや大きな事件は覚えているそうだ」

 特に邪神絡みの事はよく覚えているらしい。悠介は今度是非ゼシャールド先生に講義をお願いしたいものだと、氏の邪神研究の事など思い出しながら手元の書類を片付けていった。






 翌日、野営地を畳んだ白刃騎兵団は一旦パトルティアノーストに引き上げ、悠介達闇神隊が港街建設の下地作りを行なう間、旧ガゼッタ領の山岳地帯から切り出した建設用資材の運搬作業と、その路線作りの護衛任務に就く。

 旧ノスセンテス時代のパトルティアノーストが陥落した時に住民の大半が逃げ込んだ街、現ガゼッタ領の中央付近にある中規模の街が山岳地帯の石切り場に近く、現地で作業員を募って切り出された石材は街道を通ってパトルティアノーストに運び込まれる。
 そこからこの半島にある港街建設予定地まで輸送される事になるのだが、まだパトルティアノーストと半島の湖畔付近までを繋ぐ道が作られていないので、新たな街道構築も同時に行なわれるのだ。

 運ばれる資材の量も然る事ながら多くの軍民が動員される大規模な事業となるので、シンハが全軍の陣頭指揮を執る。かなりの長距離を移動する事になるシンハの為に、悠介は闇神隊の備品である移動用小型車両の貸し出しを決めた。

「運搬用の動力車も開発しときゃ良かったなぁ」
「この乗り物だけでも十分だ、感謝する。街の建設は任せたぞ」

 石材が届き始めるのは早くとも十日後くらいになる。悠介とがっちり手を握り合ったシンハは、新しい街道作りで森を伐採する工兵部隊の指揮を執りに、港街建設予定地を出発していった。

「さて、まずはこの付近一帯を資材化して整地する事から始めるか」

 ざっと周囲を見渡した悠介は、カスタマイズメニューを開いて地面の資材化作業を開始した。






 三日ほど掛けて建設予定地の地面を整えた悠介は、諸々の資材が届くまでに建築物の資料を揃えておこうと一旦湖を渡り、フォンクランクの港街で参考にする建物を物色してはデータファイル化して保存、デザインを弄るなどのカスタマイズ作業を行なった。

 カスタマイズ画面の中で整地した地面の上に建物のデータを置くなどして街の全容を確かめられるので、建設用の資材が届けば直ぐにでもガゼッタの港街を組上げる事が出来る。

「うーん、もうちょっと埠頭を長めにした方がいいかなぁ」
「のうユースケや、この船着場にある櫓はなんなのじゃ?」

「これは灯台。目印みたいなもんですよ」

 画面の中に映し出される港街の全景を指し、アユウカスがあれこれ質問しつつ建物の配置や通りの道幅などにアドバイスを示す。
 当初、悠介は自分にしか見えない画面内の港街全景を、紙や地面に書き起こして皆から街づくりのアドバイスを貰おうと考えていたのだが、僅かな護衛と共に港街建設予定地に残ったアユウカスがカスタマイズ画面を視認出来ると分かり、彼女に意見を求めている。
 邪神モドキであるアユウカスは邪神の一定範囲内にいる間、共鳴効果でその邪神の能力に触れる事が出来るのだ。

「それにしても、お主の力は実に変り種よの。モノに干渉する能力ならばコレまでにも何度か見た事はあるが――」

 こんな風に幻影で改変した姿を現実に反映させるような系統は初めて見ると、アユウカスは自分で展開したカスタマイズメニューを眺めながら顎に指など当てている。

 悠介も自分以外の人間がカスタマイズメニューを開いている姿を第三者の視点で見るのは初めての事だったので、見える人が傍から見るとこんな風になっていたのかと、アユウカスが開いているカスタマイズメニューを珍しそうに覗き込んでいた。

「して、これはどうやって使うのじゃ?」
「あ、使い方までは分からないんですか?」

「まずこの文字らしき紋様が読めん」
「ああ、それは――」

「隊長、隊長」

 アユウカスの小さい指が『これっ』と指し示すメニュー項目を読み上げようとした悠介に、ヴォーマルが待ったを掛ける。

「あっしにゃあ何がどういう風になってるのか分かりやせんが、今の会話って隊長の神技の使い方でやしょ?」

 そういうのは迂闊に教えない方が良いのでは? との指摘に、悠介もハッとなる。アユウカスの幼気な見た目に、同じモノを見て触れる事の出来る相手を得た喜びでついつい初心者プレイヤーの世話を焼く引率者プレイヤーモードに入り掛けていた。

「ちっ 良い部下を持っておるのう」
「ははは……」

「うーわ、油断も隙もねぇよ……。スンちゃん、タイチョーの事ちゃんと見張っとかないと、子供婆さんに誑かされっちゃうぜ?」
「え? は、はい、気をつけます」

 分かっているのかいないのか、フョンケに嗾けられたスンは悠介の傍らにピタリと張り付いてみたりするのだった。






 湖で網を引いて漁を行なっている小さな漁船を眺めながら、食後のまったりとした時間を過ごす昼下がり。
 デザートとして用意した甘味ララの実に美味い美味いと齧り付いているアユウカスの見た目無邪気な姿に和みながら、悠介はふと気になっていた事を訊ねた。アユウカスが古の邪神から力を引き継いだ存在であるという話。

「前に魔獣施設の地下通路で言ってましたよね、不老不死だとか。カスタマイズ・クリエートが使えるのって、やっぱりその力で?」
「うむ、一応そういう事じゃ。……邪神の事が気になるのかえ?」
「ええまあ。邪神の役割とか、災厄が何なのかとか、その辺りのことが」
「そうじゃのう、お主には少し話しておいてもよかろう」

 アユウカスは以前、魔獣施設へ向かう地下通路で悠介達に語った内容から更に踏み込み、これまでカルツィオに降臨した邪神の事や、その役割について語り始める。

「邪神のもたらす災厄というのはじゃな、文字通りの災厄を示す場合もあるが――」

 時代の節目となる大きな変革を指したモノも多いのだという。凶暴なる怪物に破壊と殺戮の限りを尽くされ、その爪痕によってもたらされる変革。人智を超えた神の力を揮い、指導者として人々を導く変革。

「端的に言えば、邪神の役割とは世界の姿を変える事のようじゃ。方法は厭わずにな」
「なぜ変革をもたらせようとするんです? それに、俺が選ばれた理由とか……」

「さてのう、それは神のみぞ知るという所じゃろう。適当に選んでおるのか、お主が邪神となる資質を備えておるのか……じゃがまあ、大抵は文明が行き詰った時にとんでもない災厄が起こされておるなぁ」
「行き詰まり、ですか……」

 新しい事を始める為の下地として古いものを破壊する存在。それが邪神なのだとアユウカスは語った。

「ま、ワシの経験上からの単なる推測に過ぎんがの」

 創造の為の破壊。アユウカスがこれまで見て来た邪神は皆在り方や形は違えど、それまで続いて来た世界の姿に影響を与える存在だったという。遥か昔、白族が繁栄する切っ掛けとなった黒い邪神も、それまでの世界の在り方を大きく変える災厄をもたらせた。

「無技の祠に黒い邪神像が祀ってあるじゃろ?」
「ええ、ありましたね。人だか怪物だか分からない形のが」

「あれは今から大体二千四百年くらい前に邪神として降臨した怪物を模ったモノじゃ」

 当時のカルツィオは今でいう神技の民や無技の民といった人種的な隔たりはあまり無く、また国という概念も曖昧で集落や街といった規模の国家が民族単位で乱立していた時代。その邪神は人間に寄生して卵を産みつけ、繁殖していくタイプの怪物だった。

「あの黒い怪物は顕術(けんじゅつ)――いわゆる神技の事じゃが、それが一切通じぬ相手でな、しかも顕術を使う者に好んで寄生しておった」

 寄生された人間は三日ほど経つと体内で繁殖した怪物の幼生に身体を内側から喰い尽され、溢れ出した怪物の幼生がまた別の人間に寄生する。成体になった怪物は昆虫のように全身が黒色の硬い殻に覆われて、並みの攻撃では歯が立たない。
 怪物の成体は群れをなして村や街を襲い、捕獲した人々に卵を産みつけて人里近くに放逐する。卵を産み付けられた人々はそれと知りながらも、恐怖から他の村や街に助けを求めて逃げ込み、大惨事を引き起こす場合もあった。
 そうして多くの顕術使いが犠牲になり、黒い怪物は爆発的に数を増やしていったのだ。

「うわー……調整魔獣より性質が悪いですね」
「一応人型で知性もそれなりに高いようじゃったからのう」

 世界中が混乱に陥る中、黒い怪物に唯一対抗出来たのは当時顕術(けんじゅつ)の力を身体強化に特化させていた一族、白族の戦士達だった。
 彼等を中心に人間側の一斉反攻作戦が行なわれ、寄生された人間はもとより襲われた村や街も徹底的に隔離する事で怪物の増殖を抑え込み、ようやくカルツィオから邪神の怪物を駆逐できた頃には、世界中から顕術使いの姿が消えていた。
 後に『顕術使いが怪物を呼び寄せ被害を拡大させた』等として糾弾される立場となった顕術使い達は、白族から色付きと呼ばれて迫害され、更にその数を減らして行く事になる。その一方で怪物を駆逐し、世界を救った一族として白族の繁栄が始まった。

「シンハが言ってた白族帝国ってヤツですか」
「うむ。まあ当時はそれこそ蛮族みたいな連中じゃったからのう、黒い怪物に負けず劣らず急速にその勢力を増していったのじゃ」

 ワシもよく乱暴されたわいと笑うアユウカスに、悠介はどう反応すれば良いのかと困って曖昧な笑みを返した。百年ほど掛けて白族が一大帝国を築き上げた頃、当時の帝王トルイヤードに見初められたアユウカスは、王の巫女として傍で仕えるようになったのだという。

「ま、二代三代と続く内に王宮も民も欲と権力に溺れた者達の跋扈で腐敗していったがの」

 その二百年後、白族帝国の揺るがぬ栄華に停滞していた世界は、やがて降臨した邪神ヴィ・ザードによって変革の時を迎える。
 神技の概念を与えられた顕術使いの末裔である色付き達の決起。永い栄華の時代を経て享楽に堕落し、戦闘民族としての気概を失っていた白族は神技の力の前に成す統べなく敗退し、白族帝国は滅亡した。
 決起の首謀者達は民を纏める為のプロパガンダとして四大神信仰を提唱し、神技人の支配する新しい時代が始まったのだ。

「虐げられていた者達に同情するあまり、後先考えずに強い力を与えてしまったと……ヴィは悔いておったな」

 四大神信仰が今の形で定着するまでにも紆余曲折があり、神技人同士の抗争が広がって暫らくは戦乱の時代が続いたらしい。
 その後カルツィオに降臨した邪神はそれなりの災厄を引き起こしては世界を震撼させたり、新しい概念をもたらせるなど、小さな変化を通じて世界になんらかの影響を与えていった。

「巨大な怪物じゃったり、獣の頭を持つ半獣じゃったり。無数の男を虜にして戦の元凶となった娘もおったのう」
「傾国の美女ですか……」

 邪神そのものが何かを引きこす場合もあれば、邪神を巡って人々が争う事もあった。そんな中で、邪神ヴィ・ザードの事をよく知るノスセンテスの指導者達は、邪神を上手く扱って順当に勢力を拡大し、四大神信仰を世界の隅々にまで定着させていったのだ。
 何れにしても、邪神という存在は『この世界の意思』に与えられた特殊な力も含めて様々な破壊と創造に彩られていた。

「そこへ行くとお主は本当に変り種じゃな。壊すのではなく変えてしまう、まるで変革そのものを力にしているようじゃ。そういう力を望む発想こそが、お主の邪神に選ばれる資質だったやもしれんの」

「ははは……」

 実は直前までプレイしてたゲームのシステムなんですよとは言えない悠介であった。






 ――数日後、パトルティアノーストから森を切り開いて作られた新しい街道を通って、大量の石材が港街建設予定地に運び込まれて来た。悠介は効率よく作業を進められるよう、資材置き場に積まれた石材を片っ端からグループアイテム化で一塊にしてゆく。

「まずは足元全域……もう一日あれば取り掛かれるかな?」
「ふむ、まだ資材が足りん状態なのか」

 カスタマイズ画面内には港街モデルから建物が省かれた石畳の部分が広がる街の全景が映し出されている。
 街の敷地内一帯はほぼ全域が石畳敷きで、車道と歩道を分けた作りの大通りや、建物の土台部分と階段、ギミック機能を使った噴水などの設備も一纏めにしてある。何せ広範囲なマップアイテムデータなので、今日届いた分の石材では全く足りない。

「今ある分だけでも区分けして使えんのか?」
「出来なくはないですけど、分けると繋ぎ目に微妙な段差とかできるんで、後で修正するのが面倒ですし」

「ああ、なるほどの」

 ふむふむと頷いたアユウカスは見よう見まねで使い方を覚えた自分のカスタマイズメニューを弄っては、悠介が資材化して固めた地面の範囲と規模を確かめている。
 まだ特殊効果付与や対象を変形させる操作は覚えていないが、悠介は時間の問題ではないかという気もしていた。と、その時――

「ユウスケさん!」
「ん? スン、どうし――ぐほっ」

 バタバタと駆け寄って来た勢いのまま全力で悠介の胸に飛び込むスン。漢の意地でしっかり踏ん張ってスンを受け止める悠介。
 どうにか押し倒されずに済んでホッとしている悠介の背中にするりと回り込んだスンは、漆黒のマントに隠れるようにしがみ付く。一体何がどうしたのかと自分のマントの下に隠れるスンを脇腹越しに覗き込んだ悠介は、聞き覚えのある声に振り返った。

「スン! 待ってくれっ 俺の話を聞いてくれ!」
「出たな、バハナさんに迫って前歯折られたルフク村の誑し青年」

 すざーっとヘッドスライディングを決めるタリス。

「ノリいいな、タリス君」
「あ、あんたな……」

 思いがけず昔の恥ずかしい黒歴史を暴露されて動揺したタリスだったが、今はスンの方が大事だと気を取り直すと、悠介のマントから半分顔を覗かせて警戒しているスンに意識を戻す。

「スン、俺まだ見習いだけど白刃騎兵団入りが出来たんだ。同じルフク村の出身者として、是非君の祝福が欲しい」

 訓練兵から正規兵見習いに昇格したタリスは今回、工兵部隊の護衛としてこの港街建設予定地まで来ているらしく、闇神隊による港街建設支援の話を聞きつけてスンを探していた彼は、資材置き場で作業を手伝っているスンの姿を見つけて意気揚々と声を掛けた。
 しかし、何故か猛ダッシュで逃げられてしまい、ここまで追いかけてきたのだ。

「祝福って羽飾りのわっか被せるアレか……。スン、祝福が欲しいって言ってるぞ?」
「……やです」

 悠介の背中に張り付いてマントに隠れたまま、スンはふるふると首を振る。拒否されて若干哀しそうな顔を見せるタリス。肩を竦めた悠介は改めてタリスの姿を観察し、スンが何故ここまで怖がっているのか凡その検討を付けた。

「まあ、その格好がというか……随分がたいが良くなってるみたいだからかなぁ」

 悠介から見て、村で初めて顔を合わせた時のタリス青年は少し線が細く感じなくもない爽やか君な雰囲気だったが、舞踏祭で帰郷した彼は如何にも訓練で鍛えられていると分かる引き締まった体格をしていた。
 そして正規兵見習いとなった今のタリスは、一言で言えばマッチョ君。白い鎧から生える剥き出しの二の腕など、太目の荒縄を束ねて捻ったような筋肉が戦士の腕だと自己主張している。

 スンにしてみれば一度は自分を襲った相手であり、ここまで筋骨隆々な姿になって以前のような距離感の接し方で迫って来られたならば、怖いと感じても致し方ない所であった。

「怖がっちゃってるから仕方ないわな、今回は諦めた方がいいんじゃないか?」
「……あんたが、スンにそうさせてるんじゃないだろうな」

 穏便に御引取り下さいな対応をする悠介を、タリスはじろりと睨みつけて猜疑を向ける。彼自身の心情的には、スンを軍属に就かせている事に納得していないが故に悠介の事もまだ認められないでいるのだ。

 不穏な気配を感じ取ってか、離れた場所で悠介達の様子を窺っていたヴォーマルは、フョンケに目配せしてタリスの動向に注視するよう促す。フョンケは女絡みの喧嘩か修羅場かとちょっと楽しそうな様子で風技の波動を練り始めた。
 シャイードがさり気無い動作ながら、あからさまに悠介の後方に立つ事でタリスの視界に入って見せる。その挑戦的な視線に喧嘩上等で表情を険しくするタリス。意図せず睨み合う格好になってしまい、悠介は困ったように頭を掻く。

 俄かに重くなる周囲の雰囲気に、エイシャとイフョカは不安気な表情を浮かべてスンを背に庇う隊長(ユースケ)と若い無技の戦士を交互に見やっている。

「こりゃ、そこな若者。私情で大使殿の従者を追い回すとは何事か、末端の見習い戦士風情がそのような振る舞い無礼と心得よ」
「ん? なんだ、このちびっこいのは」

 無益な対立を見兼ねて割って入ったアユウカスに、タリスは訝しげな視線を向けた。が、次の瞬間――

「見習い、歯ぁ食い縛れ!」
「っ!」

 横合いから一気に距離を詰めてきたアユウカスの護衛、白刃騎兵団の正規兵がタリスの横面を殴り飛ばす。もんどり打って地面に転がるタリス。いきなりの鉄拳制裁に重くなっていた場の空気が凍り付く。

「つぅ……」
「貴様、シンハ様が自らお出迎えになって歓迎を示した大使殿に対する不敬にも加えて、里巫女様に対する不躾なその態度はなんだ」

「さ、里巫女……? アユウカス様!?」
「なんじゃ、ワシを知らんかったのか。そういえば今年はパトルティアの奪還やらなんやらで忙しかったからのう」

 祭りの神事などで新兵達を祝福する儀にも顔を出していなかったのぅと、邪神降臨による激動の時代を実感するアユウカス。呆然とするタリスを尻目に、護衛の正規兵はアユウカスと悠介達に見習いの仕出(しで)かした非礼を詫びた。


「体育会系だなぁ……つか、ちょっと可哀相だった気もするが」

 しょんぼりしたタリスが皆に謝罪して自分の所属する部隊へと帰って行く後ろ姿を見送りながら、悠介はポツリと呟いた。







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