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本編
8話:悠介の決断




 大急ぎで村に帰ってきた悠介は、入り口の所でウロウロしているバハナを見つけて声を掛ける。

「バハナさん!」
「あっ ユースケ! 大変だよ、スンが!」

 駆け寄って来たバハナは『スンが衛士隊に連れて行かれた』と縋り付くように訴えた。
 村の通りにはまだ衛士隊の馬車が停まっていて、馬車の周りに居た衛士達が悠介の姿を見つけて騒ぎ始める。悠介は釣具と魚篭をバハナに預けると、衛士隊の馬車に向かって歩き出した。


「止まれ!」
「その黒い髪、ユースケというのはお前だな」

「見ての通りですよ」

 武器を向けられる事に慣れない緊張を覚えつつも、悠介は平静を装って衛士達と向かい合う。仲間と二言三言やりとりをした衛士達は、悠介に内通の容疑で身柄を拘束する趣を告げてにじり寄って来た。
 無技人に対する場合と違い、神技人、それもどんな神技を使うのか分からない者が相手となると、彼等も慎重に対応する。

「スンが連れて行かれたって聞いたんだけど、街に連れて行くなら早くしてくれない?」

 じりじりと警戒しながら距離を詰めてくる衛士達に、悠介は街道の先を気にしながら急かす様に言った。顔を見合わせる衛士達。
 警戒を残しながらも肩透かしを食らったような様子の衛士に枷を填められた悠介は、心配そうな表情で遠巻きに見詰める村人の中にバハナの姿を見つけると『スンを迎えに行ってきます』と伝えて衛士隊の馬車に乗り込んだ。




「ふぅむ、するとゼシャールドは日がな一日、邪神研究の文献漁りばかりしておったのか」
「はい……。 別に、怪しい人とか……知らない人が、訊ねて来る事は……ありませんでした」
「ユースケは?」
「えっ? ユースケさんの事は……よく、わかりません……」

 最近ゼシャールドが村に連れて来た人なので、まだ良く知らないのだと、スンは嘘をついた。ゼシャールドからも、悠介が祠から現われたという事は伏せておくように言われている。
 嘘をつく事の後ろめたさで遂、眼を逸らしてしまうスンだったが、終始怯える姿を見せていた為それを見抜かれる事はなかった。

「申し上げます。 村に駐留させた部隊から黒髪の男を確保したとの連絡が入りました」
「おお、そうか」

 伝達係の衛士が風技による知らせを受けてヴォレット達に報告する。報告にあった人物が悠介の事だと分かり、不安気な表情を更に曇らせるスンに、ヴォレットは心配するなと笑い掛けた。

「お前と同じくちょっと話を聞くだけじゃ。どうせアイツも内通者の事なんぞ知らないだろうからなっ」

 ゼシャールドの話が聞ければそれで良いというヴォレットと違い、クレイヴォルは注意深くスンの様子を観察していた。
 両手を前に揃えた形で無技人用の木製の枷を填められているスンは、今の所、怯えた様子も演技とは思えないただの娘に見える。が、それだけに『もしもコレが演技であったならば』という事も想定しておかなくてはならない。

『姫様はああ言っておられるが、多少の拷問は避けられまいな』

 宮殿中がブルガーデンの公式人事発表で揺れている微妙な時期だけに、内通者の嫌疑には厳しく対処せざるを得ない。
 とりあえず、ヴォレットの気が済むまで話相手をさせたら、後から到着するであろう黒髪の男と入れ違いに審問所へ引き渡そうかとクレイヴォルが段取りを考えている内に、衛士隊の馬車はサンクアディエットに到着した。

「わあー……、こんな大きな街だったんですね」
「なんだ? お前、街に来るのは初めてか?」
「はい、実は……」

 ゼシャールド以外の神技人に強い恐怖を懐くスンは、今まで一度もサンクアディエットに来た事が無かった。
 先に馬車から飛び降りたヴォレットに続いて、ゆっくり馬車を降りるスン。まだ少し足元の覚束無(おぼつかな)い様子だったが、ヴォレットの気さくさとゼシャールドを慕う者同士の親近感や、相手が年下の女の子であった事も、神技人への恐怖感を和らげていた。

 街に降り立ったスンが街道を振り返ると、遠くから馬車の土煙が近付いて来るのを確認出来た。アレに悠介が乗っていると思うと、スンは少しだけ安堵を覚えるのだった。




 後ろ手に枷を填められた状態で護送されている悠介は、ゼシャールドと街まで往復した荷馬車の倍近い速度で走りながら殆ど揺れ無い衛士隊の馬車に感嘆しつつ、枷をカスタマイズメニューで調べていた。
 カスタマイズメニューの操作をする場合、意識を集中させれば指で誘導しなくともパラメーターの調節やカスタマイズ・クリエートが使える事に気が付いたのだ。

『慣れたら感覚的に操作出来そうだな』

 神技人用の枷には装着者の神技を阻害するというような効果は無いが、土技と炎技によって鍛え上げられた非常に丈夫な材質で出来ており、ちょっとやそっとでは壊せない造りになっている。 相手が普通であれば。

『晶貨のパラメーターに似てるな……外したい時は全体の強度を最低まで下げれば大丈夫だろう』

 実行ボタンは押さないように気をつけながら、悠介は枷のパラメーターを弄って意識の集中で操作する訓練に勤しんだ。
 大人しく座っているものの何処か焦点の合っていない視線でボンヤリしているような、それでいて何かに集中しているような、そんな奇妙な雰囲気を醸し出している悠介に、衛士達はその髪の色とも相俟って不気味さを感じていた。




「姫様、我々は先に宮殿へまいりましょう」
「ん? ユースケを待たんのか?」

 『馬車から飛び降りるなど行儀が悪い』と、ヴォレットに御小言を申し上げていたクレイヴォルは、周囲に野次馬の街人が集まって来た事を気にする。この民衆の中にも、ブルガーデンの密偵が潜んでいるかもしれないのだ。

 後続の馬車は間もなく到着するという距離まで来ていたので、ここに留まるよりも先に宮殿へ向かった方が良いかとクレイヴォルは判断した。ヴォレットも御小言が終了するなら幸いとばかりに側近の提案に従った。


「おおっ! ヴォレット姫様、よくぞ御無事に戻られました」

 低民区と中民区を隔てる門の前まで移動して来た時、街で待機していた衛士達から胡乱気な視線を向けられているくすんだ緑髪の男が、太鼓持ちのような笑みを浮かべながら揉み手で歩み寄って来た。
 ヴォレットは『そういえばコイツを待たせていたな』等と思い出す。男は何か手柄でも立てた気でいるのか、ヴォレットには(へつら)う態度ながら衛士達に対してはやけに尊大な振る舞いを見せている。

 その男のにやけ顔を見て、スンは凍りついた。

――いやったぁ! 大当たりぃ ひゃはははーっ――
――へへっ その雌、そのまま抑えといて下さいよ――
――ああ! おしぃっ 首を狙ったんすけどねー!――

 過去の悪夢が意識を侵蝕するように記憶の底から吹き上がる。

「い……いや…………いやぁ……」
「ん? おい、どうした?」




 彼はヴォレット姫が話し掛けている無技人の娘を見て、『まさか』という不安に駆られた。あの怖ろしい水技を使うゼシャールドから何とか逃げ(おお)せ、街の貧民街に身を隠して十年近く、最近まで何時バレるかと怯えながら過ごして来た。

 今回、ゼシャールドの亡命によって晴れて自由の身となり、ついでに自らの過去を帳消しにした上で、宮殿関係者に取り入るチャンスだと、ブルガーデンの密偵をネタに一計を案じた。どうせ無技の村には何も無いのだ。

 フォンクランクに比べれば、ブルガーデンの無技人に対する扱いは天と地ほどの差がある。向こうでは亜人扱いされている無技人がブルガーデンの関係者である筈もない。

 例えゼシャールドに傾倒する無技人が居て十年近く前の事件の内容を聞かされていたとしても、当時二人の無技の民と一人の土技の民が死んだという事実が残っているのみであり、土技の民を殺めたゼシャールドは敵対国と見做(みな)せるブルガーデンの地に在る。
 自分の話に信憑性は増せど疑われる要素は無い筈なのだ。しかし――

『まさか……あの時のガキか……? あれは、致命傷だった筈……っ』

 と、彼はそこまで考えて、ゼシャールドの神技が治癒系の水技だった事に今更ながら思い至った。一瞬で相手の血流を塞き止めて死に至らしめる程の『治癒』の使い手ならば、あの状態からでも回復させられるかもしれない。

『や、やべぇ! 俺のこと覚えて……! い、いやまて……大丈夫だ、結果は同じだ』

 当時はまだ小さい子供だったのだから、何があったのかよく分かっていない筈だ。あの時に死んだ父親らしき男がブルガーデンの密偵と取り引きをしていた事にすれば問題ない。
 彼がそう自分に言い聞かせつつ冷や汗を流し始めた頃、悠介を護送する衛士隊の馬車が街の入り口に到着した。




 街の区画門まで連行されて来た悠介は、前回ここへ来た時に見た色鮮やかな衣装を身に纏う炎神隊が、衛士達と門の近くに集まっているのを見つけた。『またあの暴走放火姫(ヴォレット)でも来てるのか』と赤髪のツーテールを探して見渡し、そこに白い髪を認めた。

「スン!」

 急に駆け出した悠介に周りを固めていた衛士達は一瞬身構えたが、向かった先が炎神隊と衛士隊の集まる区画門の詰め所付近だったので、若干余裕を持ちながら後を追う。


 座り込んだまま動こうとしない無技人の娘に、衛士達は問答無用でそのまま引き摺って行けば良いのにと思いつつも、態々寄り添うようにして声を掛けているヴォレット姫の邪魔をする訳もいかない。
 
 適当に野次馬を散らす作業をこなしながら姫様の気まぐれが終わるのを待っていた彼等は、突然、枷を付けた黒髪の男が衛士隊の輪に飛び込んで来た事で、だらけモードから一気に緊張させられた。

「おお、来たかユースケ」
「スン!」

 のほほんと声を掛けて来たヴォレットに答えず、悠介は座り込んで震えているスンを気にする。無視されてムッとなるヴォレットだったが、先程から急に様子がおかしくなったスンの事も気に掛かっていたので、発火の刑は控えておく。

「大丈夫か、スン……?」
「……ぃゃ……ぃゃ……ぁ……」

 俯き、枷の填められた両腕に顔を(うず)めてぶつぶつと呟きながら、伏せるように身を丸めて震えている。そんな状態のスンにどう対処して良いか分からず、早速自分の声がスンに届かない事を悟った悠介は、その憤りの矛先をヴォレットに向けた。

「お前っ スンに何したんだよ!」
「わ、わらわは何もしておらんぞ!」

 立場上、他人から剥き出しの感情を向けられる機会の少ないヴォレットは、身分差も考えず怒りをぶつけて来る悠介に一瞬怯むが、持ち前の気の強さで押し返す。

「普通に話を聞いていただけじゃ!」
「話しただけでこんなに――っ」

 言い掛けて突然、悠介の身体がぐらりと傾く。身体中の力が抜ける感覚に膝を付いた所で背中に衝撃が走り、後ろ手に枷を填められているので手を付く事も出来ず、そのまま前のめりに倒れ伏した。

『なんだこれ……鼻の奥が重い……?』

 朦朧とする意識と揺れる視界はこの世界に喚ばれた時の事を思い起こさせるが、あの時の感覚とはまるで質が違う。首に鉄芯でも入って硬直したかのような鈍い感覚が痛みだと分かったのは、上の方から聞こえてくる話し声の内容を理解したからだ。

「こら! 手荒に扱うでないっ」
「え? は、はぁ……申し訳ありません」

 悠介は自分が衛士に殴られて倒れた事を認識した。背中の衝撃は後頭部を殴られて膝を付いた時に、蹴られでもしたのだろう。

『くっそ……!』

 首から背中、腰に掛けて、衝撃が突き抜けたかのように力が入らない。悠介はそのままの体勢で回復を待ちながら、顔だけ起こしてスンの様子を窺う。スンは伏せていた顔を僅かに上げて悠介の存在に気付いた様子ながらも、まだ蹲って震えている。

『ちっくしょうー、これじゃあ余計に心配させちゃうじゃないか……』

 自身の不甲斐無さに憤るやら嘆くやらな心境の悠介は、どうせなら自分の身体もカスタマイズ出来れば良かったのにと、このような場面で大立ち回りをやらかすには些か戦闘向きと言えないカスタマイズ・クリエートという己が身に宿る不思議能力を愚痴った。

 例えカスタマイズで強力な武具を作る事が出来たとしても、ピンチを切り抜けられるか否かはそれを使う本人の力量次第なのだ。ゲームオタクな生活をしていた悠介には格闘技などは元より、そもそも喧嘩自体あまり経験が無い。


「まったく、ユースケまで伏してしまっては身動きが取れんではないか」
「ああー! この娘だっ! あの時の子供だっ」

 水技を使える衛士を呼べと指示を出しているヴォレットに、告発者である緑髪の男が()もたった今気が付いたかのように、スンを指してあの時現場にいた娘だと言い出した。彼は今なら自分の立てた筋書きを通せると判断して賭けに出たのだ。

 無技の娘が自分を見て怯えている理由は何となく想像が付く。幼い頃に刻み付けられた恐怖が身を竦ませ、詳細に覚えているかどうかは分からないが当時の出来事を黙させるなら、そこに都合の良いシナリオを被せてやればいい。

 ブルガーデンの密偵と取り引きをしていた無技人の男は小さい子供を連れていた。きっと周囲の目を欺く為の偽装(カムフラージュ)だったのだろう。あの時の戦闘で流れ弾を受けたのを見た。重傷だった為、助からないと思った。

 そんな『あの時の出来事』を、当時を振り返って思い出している(さま)を装いながら語って聞かせる告発者の男。元々人の冒険談や体験談のようなお話を聞く事が好きなヴォレットは男の話に耳を傾けた。

「う~ん……」

 だが、幼少の頃から『ゼシャールド爺』の事を知るヴォレットには、男の話に出て来るゼシャールドは違和感ばかりが目立つ。道中、スンから聞いた村で暮らす『ゼシャールド先生』の話等からも、スンやゼシャールドに内通者の気配は感じられなかった。

『あ、あれっ 反応薄いな……やっぱ唐突過ぎたか……? そ、そうだ、証拠だ! 証拠を見せりゃいいんだっ!』

 ヴォレットの微妙な反応を『本当にスンが現場にいたのかを疑っている』と捉えた彼は、流れ弾で負った傷が残っている筈だと訴えた。あの時ブルガーデンの密偵と勇敢に闘ったのだと語る男を、スンは座り込んだまま呆然とした表情で見詰めていた。

 人は余りにも予想外な、自分に想像出来うる範囲の外に位置するような行為に遭遇した時、思考停止状態に陥り易い。それが自身に向けられた悪意や害意、侮辱の類であった場合、怒りよりも哀しみよりも、驚きが先に来る。スンは驚いていた。
 今まで村の近郊より遠くまで出た事のなかったある意味世間知らずなスンは、こんな人間が世の中に存在する事に驚いていた。


『……ふざけやがって』

 スンの隣に倒れ伏したまま男の話を聞いていた悠介は、この男が昔スンとその父親を襲った二人組の片割れだと分かり、どうしようも無い憤りに身を震わせた。怒りで乱れそうな意識をゲームプレイの要領で無理矢理集中させてカスタマイズメニューを開く。


「間違いないですって! ホラ、多分この辺りに傷が残ってる筈でさ!」
「!……っ」
「お、おいっ」

 顎に手を当てて唸っているヴォレットに業を煮やした男は、呆然としているスンに歩み寄ると枷を掴んで無理矢理引き立たせた。  
 ようやく我に返ったスンは身を捩って男の手から逃れようとする。勝手な真似をするなとヴォレットが注意を発する前に、男は手に纏わせた投擲も可能な神技の風刃でスンの服を切り裂いた。

「い、いやああああ!」
「ほらっ やっぱりあった! ここですよココ、この傷痕!」

 必死で振り解こうとするスンの抵抗も空しく、彼女の両腕を拘束している枷を掴み上げた男は、スンの腹部を斜めに走る古い傷痕を指し示す。ヴォレットは余程深い傷だったのであろう肌の変色した傷痕の事よりも、男の正気を疑い始めた。
 
『こやつ……?』
「恐らくゼシャールド氏が治癒したのでしょう! そうかっ! もしかしたらこの傷の治癒の為にあの時追って来な――ぶごっ」

「いい加減にしろてめえ!」

 自説に酔い、興奮したように捲くし立てる男の顔面に、悠介の枷ナックルパンチがめり込んだ。神技人用の非常に固い素材で出来た枷をカイザーナックルにカスタマイズして、起き上がりしな全力で殴りつけたのだ。
 
 両手で顔面を押さえてのたうち回る男を余所に、衛士達は悠介が枷を外した事を問題にする。例え熟達した土技の使い手であっても簡単に壊せるような代物ではないのだ。

「き、貴様! どうやって――」

 一斉に槍を構える衛士達は、次の瞬間、揃って姿を消した。

「な、なんじゃっ?」

 一体何が起きたのかとヴォレットは消えた衛士達が立っていた場所を凝視し、唖然とする。そこにはポッカリと大穴が開いていた。

 地面などをマップアイテムとしてカスタマイズする場合、カスタマイズ能力の届く一定範囲に弄ったステータスが反映される。
 家や建物をカスタマイズする場合は、建物本体と扉、窓、造りによっては屋根も其々別アイテムとして扱われるが、一つのグループアイテムとして同時にカスタマイズする事が可能だった。

 ちなみに、川などを流れる水の場合は素早くカスタマイズして実行しなければキャンセルされてしまう。流れに合わせて移動しながらだと暫らくはキャンセルされない等の特性もある。

 サンクアディエットの街は、区画別に石を積み重ねて造られ、ピラミッドのように一つの巨大な塊りと化して存在している。悠介のカスタマイズ能力は、この街を複数のアイテムで構成された一つのグループアイテムとして認識した。

 一つのアイテムとしてならば、カスタマイズ出来る物体の大きさに制限は無い。どんな能力も使い方次第では武器になる。悠介は今日初めて、カスタマイズ・クリエート能力を戦いに使う決心をした。そして今初めて、戦いに使ったのだ。 落とし穴だが。

「そいつは昔、何の罪も無い村人の親子を襲った殺人犯の片割れだ!」

 悠介は未だ地面でのたうち回るくすんだ緑髪の男を指して糾弾し始めた。ゼシャールドから聞いた話を詳しく語る内、口元を押さえた男の顔がみるみる引き攣っていく。ヴォレットも男に対して不審の眼差しを向け始めた。

「くそぉー! てめぇっ てめぇもヤツの仲間だなぁ!」
「っ!」

 半狂乱になった男は喚きながらその手に神技の風刃を纏うと、悠介に向けて投擲する。悠介は咄嗟に手を振り上げるような動作をしながら、先程からカスタマイズメニューに出していた石畳にカスタマイズを施して実行した。
 ゴトンッと重厚な音を立てて、悠介の前に石の壁が出現する。神技耐性を高く設定した壁は風刃を阻んで四散させた。

「なっ!」

 土を自在に操り、熟達すると岩を組み合わせてゴーレムのように扱える土系の神技は確認されているが、行き成り地面に人一人飲み込める程の大穴を複数出現させたり、石の壁を瞬時に造り出すような神技は聞いた事が無い。
 落とし穴への落下を免れた炎神隊の衛士や、周囲の野次馬達、風刃を放った男も思わず言葉を失う。

「うらぁっ!」

 その一瞬の静けさを破る掛け声と共に、悠介は出現させた石の壁を蹴った。この壁は接地面を地味にカスタマイズして斜めにカットする事で、向こう側へ倒れるよう細工が施されている。
 落とし穴は狙った対象が同じ位置に長く居てくれないと穴の空け所が分からないので、壁を攻撃手段にした。

「くそっ! 妙な神技使いやがって!」

 男は後ろに跳んで倒れてくる壁を躱すと、そのまま逃走を図った。やはり倒れるまでに時間が掛かる壁では武器にならないかと、悠介は男の逃走を阻止する為、次々と壁を出現させて退路を断つ。

 これも落とし穴と同じで座標は目測と勘に頼るしか無い為、変な場所に壁を出して野次馬を巻き込まないよう注意を払いながらのカスタマイズ攻撃。だが、戦いの素人がそういった気遣いを持つ事はそのまま油断に繋がる。

 周囲の被害を気にしながらという戦い方は、腕に覚えがあり、幾度もの困難と修羅場を乗り越えて、自信と経験に裏打ちされた余裕のある者にこそ出来る事なのだ。この辺り、穏かな環境で平和に育った悠介が抱える甘さであった。

「うわっ」

 耳元でプロペラが回るような風音を鳴らして風刃が吹き抜け、悠介の頬と肩に切り傷を作った。退路を完全に塞がれる前に、悠介を攻撃して壁の出現を止めようとした男が立て続けに風刃を放ったのだ。
 風の刃は軌道を目視し辛いので、複数放たれるとそこそこの威力でも脅威となる。

 悠介は自分の周囲に壁を出して防御体勢を取った。幾つかの風刃が壁に阻まれて四散するが、素人の悠介らしい死角。
 防御壁は頭上から降って来る攻撃に対応していなかった。風音で上から攻撃が来る事に気付いた悠介は咄嗟に身を躱そうとするが、脇腹を掠められた拍子にバランスを崩して転んでしまう。

 防御壁から転がり出た悠介に、くすんだ緑髪の男はトドメの風刃を放つべく狙いを定め、腕を振り上げた瞬間、炎に包まれて燃え上がった。悲鳴を上げてもがきながら転げまわる男を、炎神隊の衛士が取り押さえに掛かる。


「お前……」
「わらわの名はヴォレットじゃ。どうみても彼奴(あやつ)の方がオカシイじゃろう、わらわはアホではないぞ?」

 見上げた悠介の視線の先では、ヴォレットが何時か見た指で弾く様な仕草を取り押さえられる男に向けていた。







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