ブックリスト登録機能を使うには ログインユーザー登録が必要です。
本編
73話:施設制圧作戦




 地下通路で一夜を明かした闇神隊率いる調査団が魔獣施設の本棟に到着する頃。ヴォルアンス宮殿の最上階、王の私室にて密談を交わすエスヴォブス王とレイフョルド。

「どうやら、僕たちは彼の事を誤解していたようですよ」

 ルフク村近郊の森から観察を始め、先日のデリアルディアでの一件によりレイフョルドが導き出した答え。悠介はただ『力』を与えられたダケの一般人である事。各地に残る古い伝承などから『邪神』は『力』として利用できる事が分かった。

「その事は――」
「ええ、まだ誰にも言っていません。ですが……既に知っていた勢力がありますね」

「ガゼッタか……」
「それにブルガーデンの女王も。もっとも、こちらは源流から分派した勢力の流れを汲んでいると思われますが」

 それで彼等の行動も合点がいったと、エスヴォブス王は深く息を吐く。レイフョルドが悠介に幻惑の風を使ったのは、別にエスヴォブス王の指示という訳ではない。
 施設封鎖に動くよう勧める任務は受けていたが、あくまでも説得という形をとる事を前提にしていたのだ。レイフョルド個人の邪神という存在に対する好奇心から、ちょっと試してみたら簡単に掛かってしまったというのが本当の所であった。

 何処かの世界から喚ばれた『邪神の力』を持つだけの一般人であると見られる悠介に、ゼシャールドが危惧しているような『邪神の覚醒』なる要素が無いとは言い切れない。

 今後は軽はずみな干渉は控えるようにと、レイフョルドに念を押したエスヴォブス王は、悠介の周りに置いている警護も兼ねた監視の数を増やす方針で固めた。
 悠介邸の隠し通路は早々に塞がれてしまっているので、屋敷の専属衛士をさり気無く増やす方向で。

「ガゼッタに連れ去られて洗脳でもされたら大変ですもんねぇ」
「……色々と最悪な例えだ」

「神ならざる神を駒に覇権を競うカルツィオの歴史、貴方はもう既にその一幕を刻んでいる」
「望むと望むまいと、か……。今更ゼシャールドを頼る訳にもいかぬしなぁ」

 女王リシャレウスが言っていた四大神信仰の真実。炎神ヴォルナー、水神シャルナー、土神ザッルナー、風神フョルナー。
 其々の神技を象徴する存在が、神などではなく信仰が造られた当時の、神技人代表者であった事。ノスセンテス神議会の祖先でもある四大神信仰の創始者達は、神技の民にその力の概念を与えてくれた存在である邪神ヴィ・ザードを謀殺する事で、自分達が指導者となり、神技の民を導く為の神と信仰、四大神信仰を造り上げたのだ。

 邪神の力は、時代の覇者を生み出す為に利用される。それは敵として、味方として、到達点として、出発点として、護るべきものとして、倒すべきものとして、時代とその邪神によって、様々な在り方をしている。

「ユースケは如何なる存在として降臨した邪神なのか」






 昼前、魔獣施設に到着した調査団一行は、一度地上に出て施設探索の準備に取り掛かっていた。根拠地の設営は施設内の安全が確保された場所に設けられる事となったので、施設の外側は適当に入り口付近の雑草などを掃って休む場所を確保してある。

 悠介は到着して直ぐ施設の大まかな規模を把握していた。この施設も自然の洞穴が使われているが、地下通路に比べると人の手が加えられた部分が多く、人工的な通路や部屋などを通してカスタマイズメニューから施設全体の形を見通す事ができる。

「隊長、各隊の準備完了だそうですぜ」
「分かった。区分けして入り口を開けるから、最初の部隊に伝えてくれ」

 攻略の手順としては、カスタマイズメニューで把握できている全ての出入り口を封鎖。施設内を一定範囲ごとに塞いで探索を進めて行く。人工物で繋がっている部分以外はどうなっているのか分からないので、そういう場所はシンハ達に頼る事になる。

 まず一階の通路を入り口から奥の突き当りまで探索範囲とし、そこから左右に伸びる通路は壁を作って封鎖。探索する通路沿いの部屋も個別に塞いでおく。通路の安全を確保した後、通路沿いの部屋を一部屋づつ探索して行くのだ。

 全員は入りきれないので、各グループがローテーションを組んで順番に受け持つ事になる。小規模グループには安全の確保された部屋の残り物を漁るか、一時的に何処かのグループに入れてもらう事で、勝手に動き回らせない処置を取った。

「一階正面通路の安全確保、確認できやした」
「ん、じゃあ手前の部屋から開けてこうか」

「安全確保ー、なんか見張り役の休憩室だったらしくて、ロクな物がねぇーとかボヤいてましたぜ」
「ははっ じゃあ次」

 闇神隊は指揮部隊として地上から悠介が施設内の区画封鎖、開放を行い、ヴォーマルとフョンケが現場との往復で伝令役を受け持つ。悠介が指揮を執っている間、他の闇神隊メンバーとシンハ達は周辺の索敵と警戒に当たっている。
 邪神の波動によって魔獣が寄ってくる事は無いと分かってはいるが、何事にも絶対は無い。警戒を怠らないのは基本だ。

 そんな調子で正面の通路、通路沿いの各部屋と探索済みエリアを広げて行き、施設一階の大部分はこれといったトラブルも無く探索をし終えた。残る左右の通路を調べ終えれば、一階フロアを整備して施設地下階を探索する為の拠点とする。

「隊長、どうも右側の通路に魔獣がいるらしいですぜ、数は二体前後と思われやす」
「右側か……こっちは地下に繋がる階段があるんだよなぁ」

 安全を喫し、まず右側通路の階段を封鎖。左側の通路を開いて安全を確保後、そこに部隊を配置。正面の通路にも部隊を配置した状態で右側通路を開き、魔獣を討伐する。

「そんな手間を掛けずとも、俺達が出れば直ぐに終わると思うが?」
「自重してくれ……」

 悠介はシンハの申し出を丁重に断ると、あまり目立たないでくれと自重を促す。ガゼッタを敵視しているグループは説得で共闘に応じたとはいえ、彼等は決して納得している訳ではないのだ。あまり刺激はしたくない。
 シンハ達を地上の警戒に回したのも、それが理由の大半であった。

「とはいえ、万が一ヤバイ状況になった時の事を考えて一応、正面の通路には待機しておいてくれよ」
「ふっ いいだろう」




 右側通路の防壁前では調査団として初めての対魔獣戦闘という事で、特に腕に覚えのある者が集まって準備をしている。悠介達も施設に入り、如何なる状況にも対応できるよう態勢を整えながら、攻撃部隊が配置に就くのを見守った。
 予想では左側通路に配置された投擲型の攻撃系神技使いによる一斉攻撃で仕留められるだろうと見られている。たとえ遠距離攻撃で仕留めきれずとも、かなりのダメージは与えられる筈なので、弱った魔獣に前衛がトドメを刺せば討伐完了だ。

「攻撃部隊の配置、完了しました」
「よし、じゃあ開くぞ」

 悠介の合図と共に防壁が光に包まれ、小さな光粒を残して掻き消えた。暗い右側通路の奥から魔獣の唸り声が聞えて来る。目標の位置をはっきりと確認出来るように、最初は炎技による攻撃が放たれた。
 二発程の火炎弾を追うように風刃が唸りを上げ、少し遅れて水球や氷柱状の氷塊が次々と撃ち放たれていく。

「来るぞっ」
「後ろの奴に気をつけろ!」

 狭い通路に二体の魔獣。その巨体故に先制の一斉射は殆ど手前にいた一体に命中し、後ろにいるもう一体はほぼ無傷の状態で攻撃部隊に突進を仕掛けて来た。迎え撃つべく武器を構えた前衛が神技による強化を行い、彼等の後方からは第二射が放たれる。
 駆け込んできた魔獣は通路の床に爪痕を引きながら体勢を低くして火炎弾や風刃を躱すと、一気に跳躍して飛び掛ろうとした。

「ぉおおおおお!」
「おいやめろブレムっ 無理に突っ込むな!」

 左側通路に向かって跳躍する魔獣目掛けて正面通路から飛び出して行ったのは、元冒険者の彼だった。
 仲間の制止を振り切り、魔獣の横腹に斬りかかる。しかし、勢いのついた巨体と丈夫な毛皮に阻まれ、彼の剣は僅かな斬り傷を負わせただけで弾かれた。そこへ、最初の一斉射を受けて手負いとなっていたもう一体の魔獣が迫る。

「早く下がらせろ! そこに居たんじゃ神技を撃てない!」
「うおおおおおおっ」
「くそ……っ 援護するぞ! 手負いの奴を牽制しろ」

 勢いを削がれた無傷の魔獣は着地して身を翻すと、自身に斬り付けて来た非力な獲物を標的に定めた。正面から果敢に斬りかかる暴走した元冒険者の彼、ブレムザップを援護しようと、その背後に迫る手負いの魔獣を牽制しに入る仲間の団員達。
 通路の交差する少し開けた空間でたちまち乱戦となり掛けるが――

「シンハ!」
「おうっ」

 悠介の要請を受けたシンハと彼の側近である無技の戦士が動いた。無技の戦士は傭兵団員達が神技を撃ち込む隙を狙って槍でチクチクと魔獣の動きを封じている所へ飛び込むと、盾で魔獣の鼻面を打ち払いながら脳天目掛けて長剣を叩き下ろした。
 強烈な一撃を受けてがくりと沈む魔獣を更に盾ごと体当たりで押し返すと、魔獣は"お座り"のような体勢で腰が落ちる。

「今だ」

 すかさず身を引く無技の戦士に合わせて複数の神技が撃ち放たれ、手負いの魔獣にトドメを刺した。

 一方、ブレムザップが斬り掛かっている魔獣は突き出される剣先を爪で叩き落としながら、今にも牙を突き立てんと体勢を低く取りつつ飛び掛るタイミングを計るように身体を揺すっていたが、不意に危険を察知してその場から飛び退く。

「ほう、こいつは慣れているな」

 白金の大剣で斬りかかったシンハは、魔獣の機敏な動きを見て人間との戦闘経験があると睨んだ。
 人は道具を生み出し、それらを使うことで動物たちに比べると脆弱である身体を守り、非力な腕力で強大な猛獣に立ち向かえる力を得る。だがそれでも、刃を通さない毛皮に鉄の甲冑をも穿つ牙を持つ魔獣に対して、人間の身体は脆く壊れ易い。

 施設にいた警備兵が相手だったのだろうか、人との戦いに慣れた魔獣は人間の脆さ、非力さをよく分かっていた。足でも腕でも、その強靭な顎と牙で一噛みすれば、それだけで殆ど戦闘不能に追い込めるのだ。
 シンハが床にめり込んだ大剣を引き抜いて構え直す間、魔獣はグルルと喉を鳴らしながらゆっくりと距離を詰める。

 この横槍を入れて来た波動を感じない人間は、脆い身を守る為のゴツゴツした皮さえ身に着けていない。何処に噛み付いても、肉を噛み千切ってそれで終わる。魔獣の思考を表すならば、まさにそんな感じであった。

「うおおおおおお――ぶっ」

 標的をシンハに切り替えた魔獣にまたも斬り掛かろうと飛び出したブレムザップは、シンハの腕の一振りで後方へ弾き飛ばされた。もんどり打って転がる彼に、仲間の団員達が駆け寄る。その瞬間、床を蹴った魔獣が一気に跳躍してシンハに飛び掛った。

「ぬん!」

 ブオォッという風を切る音を鳴らしながら大剣を振り上げ、空中の魔獣を捉えたシンハは、そのまま天井目掛けて力任せに斬り飛ばす。魔獣は非力な人間の中にも『例外』が存在する事を知らなかった。
 天井に叩きつけられるという未知のダメージに慌てた魔獣が、じたばたとバランスを崩しながら落下する。そこへ、振り上げられていた大剣から叩き込まれる渾身の一撃。ズシンという衝突音と共に、魔獣は床に縫い付けられていた。

 僅か二太刀。ブレムザップの暴走が無ければ一太刀で仕留めていたかもしれない無技の戦士の力に、ガゼッタを敵視する者達は皆緊張の表情(いろ)を浮かべた。
 ガゼッタと敵対するという事は、無技の戦士と対峙するという事。『あんなのとやり合えるのか?』と。

「おい! 俺の獲物を横取りするな!」
「ブレムよせって! 落ち着けっ」

 一瞬静まり返っていた通路に響く怒声と、それを諌める傭兵団員達の声。シンハ達の援護で魔獣は片付いたが、今だ興奮状態にあるブレムザップの様子に、他の傭兵団や冒険者グループから訝しむ声のざわめきが上がリ始めた。
 仲間の傭兵団員が必死に抑えているブレムザップの所まで歩み寄ったシンハは、彼の仲間が何か言う前に彼の頬を一発張った。瞬間、訪れる静寂。張り詰めた空気の中、シンハは側近と共に正面通路を戻ってくる。


「お疲れ……というか何と言うか」
「ふっ この程度、どうという事はない……が、味方にあのような者を入れておくのは拙いんじゃないのか?」

「んーまあ、危なそうな雰囲気はあったんだけどな」

 どうやら落ち着いたらしいブレムザップと、彼を囲むようにして通路を下がらせて来る傭兵団員に視線をやる悠介。
 他の闇神隊メンバーも彼の事情を少なからず知っているので、皆を危険に晒すような暴走を見せたとは言え、一方的に責め切れない心情に何とも言い難い表情を浮かべていた。




 その後、魔獣の死体も処理され、安全が確保された施設の一階を地下階探索の拠点として改装を始める。各グループの為に部屋分け等を行なっている悠介達の所へ、ブレムザップが所属する傭兵団の団長が先程の騒ぎについて謝罪に訪れた。

「本当に申し訳なかった。今後は戦闘で前に出さないようにするので、我々をこの調査団から外さないで欲しい」

 傭兵団長の話によると、彼には以前から危うい部分を感じてはいたが、熟練した元冒険者である彼は団の戦力としても腕は良い方なので、戦闘時の暴走気味な所には今まで目を瞑ってきたという。
 今回のような錯乱した暴走は初めてだったので、団員達も戸惑っているそうだ。

「まあ、無理もないのかなぁ」
「どの道、遅かれ早かれ魔獣と戦えばああなっていたんでしょうな」

 後で本人(ブレム)にも詫びを入れに来させると言って団員達の元へ戻っていく傭兵団長。そこへ、シンハ達がやって来て元冒険者(ブレムザッ)()が抱える事情を訊ねて来たので、悠介は例の森での出来事を掻い摘んで話した。

「要は覚悟が足りんのだな。戦いに身を置く以上、仲間との別れも当然想定しておいて然るべき事だ」
「ん~、そう簡単に割り切れるもんでもないと思うけどなぁ」

 結構厳しい考えを口にするドライ思考なシンハに、悠介が唸る。そんな二人の話を聞いていたアユウカスが、囁くように呟いた。

「親しき仲間、大切な人を失う哀しみは簡単には癒せぬし慣れぬモノじゃ。心を狂わせるなりして誤魔化すほどにの」

 永く生きる者が背負う運命(さだめ)。延々と繰り返される離別。その哀しみを知る者の、重みある言葉だった。






「ところで、そろそろ腹が減ったのう。夕飯はまだかいな?」
「……」
「……」







+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。