「隊長、また別の傭兵団から使者が訪ねて来てますが」
「少数編成の冒険者グループが配下に加えて欲しいそうですぜ」
「あの……小間使いに、雇って欲しいって人が、来てますけど」
闇神隊が魔獣施設の封鎖に動くという話は瞬く間に街中へと広がり、同行を願い出る者や共闘の使者を送ってくる大手傭兵団、冒険者グループが後を絶たなかった。
悠介達も色々と準備を整えなければならなかったので、彼等との話し合いはまた後日という事で一旦引き揚げて貰う。
「あからさまな寄生は弾かないと駄目だろうなぁ」
「寄生?」
「ああ……えーと、必要な実力が伴わない分不相応な仕事に他の人達の力を当てにして加わる人、みたいな?」
「なるほど、言い得て妙ですな」
ちょっと口汚かったかなと思いつつ元世界のネットゲーム等でよく使われていた言葉の意味を説明する悠介に、ヴォーマルは面白そうな表情で頷いて納得した。
翌日、闇神隊が宿泊する高級宿の広間では各傭兵団や冒険者グループの代表が集まり、先発隊が持ち帰った貴重な情報を元に施設までのルートを相談するなど、魔獣施設の攻略に向けて会議が行われていた。
闇神隊は共闘条件に『一定量の情報提供』を挙げる事で相手の実力を大まかにでも測り、共闘希望者を篩いに掛けた。
この場合、先発隊を送り込める程の人材を持つ大手ばかりが残る事となる為、小規模グループからは不満の声が上がったが、『我々は慈善事業で来ているのではない』という一喝で沈黙させた。
ちなみにこの一喝、悠介ではイマイチ迫力が足りないという事で、シャイードが担当している。
一方で、共闘条件を満たしている大手傭兵団や冒険者グループの中からは、仲間が命を賭して集めた情報を簡単に教えていいのかと反撥する者も出たが、例の元冒険者が闇神隊は噂だけの集団ではないと証言。
彼の所属する傭兵団もそこそこ名のある中堅だったので、闇神隊の実力に懐疑的だった者達からもある程度の信頼を得た。
進攻ルートを決めてメンバーを選出。見つけた宝の分け前なども話し合う。悠介は交渉や議論など会議の進行を殆どヴォーマル達に任せると、決まった事の確認や検討すべき提案などの説明を受けて最終的な判断のみを行い、決定する。
「それじゃあ、この条件で進めて行きやすぜ?」
「うん、それで頼む。つか、その辺りの事は全部任せるよ」
こういった活動の経験が無い悠介は素人が下手に口を出さない方が良いだろうと考え、経験豊富な部下達に丸投げ状態なのだが、重要な仕事を任された部下としては上司の信頼に応えんと大いに張り切り、良い条件で交渉を進める事に成功していた。
施設で魔笛や製薬資料などの貴重品が見つかった場合は、闇神隊が優先的に確保出来るという条件で各傭兵団、冒険者グループとの最終的な共闘契約が結ばれる。
その他、細かい取り決めを行なって今日の会議は終了。明日からの活動に備えて解散となった。
「ふ~~、これで一段落ってとこか」
「まあ、後は実際現場に出てからですな」
「当日は勝手に付いて来る者も出ると思われる」
「いいんでねーの? 今回は味方の数も多いんだし」
「皆さんお疲れ様です」
各代表達が引き上げて少し閑散とした印象を覚える広間にて、伸びをしながら一息吐いている悠介達にスンとイフョカがお茶を淹れてくれる。エイシャは宿の厨房に夕食の支度を頼みに行った。
「明日から魔獣退治かー」
「共闘作戦になりやすからね、隊長の護りがあれば彼等の先発隊みたいな事にはならないでしょう」
「あーそれと、スンちゃんは隊長の傍から離れないようになー」
「え? あ、はい、気をつけます」
今の、顔見知りの間でこそ、スンは無技人である事に関係なく普通に仲間として溶け込んでいるが、外部の人間も同じように振舞ってくれるとは限らない。実際この宿で部屋を借りる時も、初めはスンだけ客室ではなく使用人部屋に案内されている。
直ぐに気付いた悠介がスンにも部下達と同じフロアに部屋を用意するよう抗議した時にこんなやり取りがあった。
『え? でも無技の従者ですよね……?』
『それは、俺の隊の方針に対する挑戦か?』
宿の案内人はごく普通の対応をしたダケだったのだが、まだまだこの世界の価値観、常識に馴染みきっていない悠介は元世界からしてこういった人種差別的な現実を目の当たりにする事にも慣れておらず、少なからずショックを受けた。
その為、少し角の立つ言い方をしてしまい、相手を大層恐縮させてしまった事には悠介も反省の念を懐いている。
「スンの服、もうちょっと弄っておこうかな……」
「スンちゃーん、タイチョーが今夜はスンちゃんを弄るっていってるぞー」
「えっ!」
傭兵団や冒険者グループがお近付きの印にと贈って来た良酒に酔いの進んでいるフョンケの頭を、悠介とエイシャとヴォーマルがスパーンスパーンスパーン――ぺちっと無言で引っ叩いた。少し遅れた音はイフョカの一撃である。
「やれやれ……」
こんな何時もの雰囲気で過ごす闇神隊の仲間に溜め息を吐きながらも、今度からは自分もツッコミに参加しようか等と考え始めるシャイードなのであった。
翌日、昨日の話し合いで決めた通りのメンバーで魔獣施設に向けてデリアルディアを出発する闇神隊と共闘する傭兵団に冒険者グループ。調整魔獣との戦闘に備えて、なるべく武器を使った近接戦闘が得意な者と治癒を行える者を多くした構成だ。
やはりシャイードが懸念していた通り、少し距離をおいて付いて来る小規模グループの姿も見えるが、イザとなったら彼等とも連係すれば問題ないだろうと見過す事にしている。
死んだ研究員の話では、街からそう遠くない場所に施設へと繋がる通路の出入り口があるらしい。森の地下を抜ける隠し通路で、そこから施設本棟までは結構な距離があるそうだ。
闇神隊を中心とした調査団一行は、街から最も近い場所にあるとされる隠し通路の出入り口へと向かう。
先発隊はその付近で魔獣の集団と戦闘になり、多くの死傷者を出した。施設本棟までの通路上にも、多数の魔獣が徘徊している可能性は高いと思われる。
街を出発して暫らく。森の中で昼食をとり、僅かに踏み均された跡の残る道無き道を奥へ奥へと突き進み、そろそろ陽が落ち始めたかという頃、調査団一行は目的地付近の森に到着した。
「いるぞ! 反応があった」
「こっちもだ、やはり出入り口付近に集まっているようだな」
さっそく索敵の風で複数の魔獣を確認。非戦闘員を内側に配置した防御陣形を整えて臨戦態勢に入る。
「後ろにいるグループもこっちに呼んでくれ、固まって行動した方がいいと思う」
悠介はこのまま離れて行動させるのは危険なので、調査団に付いて来ている小規模グループも合流させるよう指示を出した。
共闘する傭兵団や冒険者グループの中には甘い対応だと怪訝な表情を見せる者もいたが、闇神隊メンバーはそれが悠介の在り方であると分かっているので、すぐさま指示に従い、後方をうろちょろしていた小規模グループを呼び寄せに動いた。
こっそり進んでもどうせ神技の波動で互いにバレバレなので、だったら堂々と襲撃に備えて進んだ方が良いという悠介の判断に従い、皆で一塊になって慎重に進む。
何時でも迎撃行動に出られる態勢で進んだ甲斐あってか、魔獣は気配こそあれど一定距離から近付いて来る様子は無い。
「やはり獣は獣だな。調整魔獣が混じった事もあるんだろうが、先発隊は構え過ぎたのが裏目に出たようだ」
「ああ、しかし流石はフォンクランクの最強部隊……あんたとこの団員が言ってた通り、噂は伊達じゃなかった訳だ」
皆の気持ちにも余裕が出始めたらしく、傭兵団や冒険者グループの間でそんな囁きが交わされる。基本的に森を徘徊する動物達は猛獣も含めて大抵が臆病な存在だ。こちらが力を誇示していれば、群れを形成した魔獣も襲撃を躊躇するのだろう、と。
やがて調査団一行は施設に繋がる隠し通路の出入り口に到着した。
「ここか」
「なるほど、こりゃぱっと見じゃ気付けやせんな」
「な、なんだか……血生臭くないですか?」
捩じれて絡み合った木々の根元に、ぽっかりと開いた低い入り口。扉は破壊されているらしく、それっぽい残骸が大量の落ち葉と血痕を付着させて入り口の付近に散らばっている。幽霊でも出てきそうな暗澹とした雰囲気にエイシャが呻いた。
既に陽は沈んでおり、リーンランプと炎技の明かりで照らし出された僅かな範囲以外は漆黒の闇が広がっている。
「このまま進むべきか、一旦ここでキャンプにすべきか……」
「我々はまだ活動に問題はない」
「休むにしても、中で安全を確保してからの方がいいと思う」
「ここまで移動しかなかったからな、俺達もまだ十分いける」
闇神隊長の問いかけに、傭兵団や冒険者グループの代表はこのまま前進する事を支持した。それならばと、悠介は通路内で安全を確保した後、キャンプに入るという方針で『このまま前進』を決定したのだが、そこで思わぬ足止めを食う事となった。
「うわっ」
「ちょっとこれは……」
通路に下りて直ぐの所に、魔獣によって食い散らかされたのであろう研究員らしき死体が散乱しており、酷い死臭が鼻を突く。まともに息をする事も出来ない。傭兵、冒険者問わず、真っ先に逃げ出す女性隊員達。
とてもじゃないが進めないという事で、まずは通路の換気を優先した。フョンケが中心となり、付与系風技使いが風の膜を駆使して死臭の掃き出しに掛かる。小規模グループの中に付与系風技使いが多かったので、作業は順調に進んだ。
「あれは洒落にならんな」
「ですな、ギアホーク砦の時も酷かったですが、この辺りの気候柄か腐敗の進み具合が違うようですぜ」
ギアホーク砦でも使ったマスクを皆に配りながら、換気が終わるのを待つ悠介とヴォーマル。シャイードは攻撃系水技使い達と共に、通路入り口の洗浄を行なっている。エイシャを始め治癒系の水技使いは具合が悪くなった者を介抱して回っていた。
「魔獣の様子はどうだ?」
「あ、隊長……。えと、殆ど動かないと言うか……少しづつ居なくなってるみたいです」
索敵係りのイフョカ達に声を掛けると、遠巻きにこちらを窺っている様子だった魔獣は徐々に数を減らしているらしい。
「こっちの数が多いから、どっかに逃げたのかな……?」
「そうかも、しれませんね」
逃げた魔獣は放置しておけばまた街道を行く旅人達に被害を出し兼ねないが、そちらは封鎖作戦に動いているトレントリエッタ軍の討伐活動に任せておけば問題ないだろう。
「ユウスケさん、入り口の清掃と換気が終わったそうです」
「分かった、直ぐ行く」
作業の完了を知らせに来たスンにそう返答して、悠介は隠し通路の入り口へと向かった。
この隠し通路は元々あった自然の洞穴を整備して使っていたモノらしく、壁や床、天井などは一応、土技によってしっかり平面に固められているが、床石などは敷かれていない。
その為、悠介が当初こっそり考えていた床石の入れ替えによる瞬間長距離移動、屋内用シフトムーブで一気に施設まで移動するという手段は使えない事が分かった。
周囲をカスタマイズメニューで調べてみても、外にいる時と同じ程度の範囲にしか干渉出来ないようだ。
「地道に歩いて進むしか無いか」
「こういう時こそ、隊長がヴォレット姫に作ってる乗り物とか使えねーんですかね?」
「ああ、なるほど。小型の移動用車両とか便利だよな」
燃料いらずの永久機関なギミックモーター部分以外は全てデータ化しておく事で、本体を構成する為に必要な材料さえあれば、何処でも組み立て可能なのだ。かなりコンパクトに持ち運ぶ事も出来る。
闇神隊の備品として使えるよう申請しておくよと、悠介はフョンケのアイデアを高く評価した。『楽をしたい』という気持ちと発想は、時に発明を加速させるモノなのである。
所々に魔獣の糞が落ちているらしく、獣臭が漂う地下通路をぞろぞろと列をなして進む調査団一行。予想されていた通路内の魔獣には、今のところ一度も遭遇していない。
「やっぱりこっちが大集団だから近付いてこないのかもしれないな」
「この通路、途中にも幾つか出入り口があるようですから、居たとしてもそこから抜け出してるのかもしれやせんね」
気構えていた分、少々肩透かしな気分になったが、安全に進めるのならばそれに越したことはない。そろそろ休息に入ろうかと悠介が各代表達に声を掛けようとしたその時――
ヴォオオオオォォォ――
「っ!」
「なんだ?」
「今のは魔獣の声か」
「……僅かに金属音が聞こえる、誰か戦ってる奴がいるんじゃないか?」
通路の奥から魔獣の遠吠えのような声が響き、何者かが戦闘を行なっているらしき音が聞こえて来た。すぐさま索敵の風が放たれ、この先で何が起きているのかが探られる。
「この感じ……っ た、隊長! 調整魔獣です」
「状況は?」
「た、戦っている人は四人くらい……? 魔獣は三体います……あ、今一体倒れました」
今のイフョカは細かい気配を選り分けて感じ取る感性が備わっているダケでなく、隊服に付与された各種補助効果によってもかなり能力が底上げされた状態にある。
調整魔獣の放つ神技阻害の波動により、イフョカ以外の伝達系風技使いは正確な現場の状況が掴みきれず、戦闘が行なわれているであろう凡その場所と魔獣の存在、戦っている者の存在くらいしか分からなかった。
一見、頼りなさ気に見えてやたら精度の高い索敵を行なうイフョカに感嘆する彼等は『これが闇神隊か……』と、エリート衛士に対する羨望の眼差しを向けていた。実際は見た目通りの娘だったりするのだが、彼等に分かろう筈も無い。
防御陣形で本隊を残し、素早く編成された救援の攻撃部隊が現場に急ぐ。悠介を中心にスン、エイシャ、フョンケ。前衛として傭兵団の腕利き三人と冒険者グループからも二人。傭兵三人のうち一人は例の、元冒険者の彼だ。
フョンケの移動補佐で通路を疾走する救援攻撃部隊。やがて前方に見えて来た床に転がる複数の燃える松明。揺らめく炎がその一角を照らし出し、魔獣と戦っている者達の影を壁に踊らせる。唸りを上げて振るわれた大剣が、魔獣の一体を斬り飛ばした。
その瞬間、一帯を薄く覆っていた阻害の波動が消え去った。仕留められたのは調整魔獣だったらしい。
「あれは……無技の戦士じゃないか!」
「ガゼッタの人間か? 何故こんな所に……」
「ほう、こんなに早くここまで辿り着けるとはな」
傭兵達の声に振り返った無技の戦士が、白金の大剣を一振りして血糊を払いながら感心したような素振りを見せる。無技の戦士の登場に戸惑う前衛組の背後にて、聞き覚えのある声に思わず顔を見合わせる悠介達。
と、その時、叱責するような甲高い声が通路内に響いた。
「油断するな、まだ残っておるぞ!」
「子供?」
悠介が声の聞こえた方向に視線を向けると、壁際に民族衣装っぽい衣服を纏った女の子が立っていた。エルフョナと同い年くらいに見えるその小さな女の子に、魔獣の一体が襲いかかる。
「――っ 実行!」
咄嗟にカスタマイズの届く影響範囲内でシフトムーブを使って前衛組を追い越し、ほんの数メートル分だが距離を稼いだ悠介は、女の子の近くまでダッシュしつつ防壁を出して魔獣を囲む。
「片面開けるぞ!」
攻撃の指示と共に防壁の一部を開くと、強化された矢や神技が次々と撃ち込まれる。
「……ユースケ? なるほど、そういう事か」
悠介の存在を確認したシンハは一瞬驚いたように目を瞠ったが、何かに納得するように呟いた。
+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。
この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。