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微グロありです。
本編
60話:天敵




 翌日、通商協会の支部前では出発準備を整える闇神隊に朝から商人達が便利用品の売り込みに群がっていた。彼等は通商協会系列の冒険者ギルドに所属する商人達で、闇神隊御用達の商品が出れば大いに儲かると張り切っている。

「こちらの商品なんて如何です? 野宿のお供に最適な新製品、何処でも快適に眠る事が出来る冒険者の必需品ですよ」

 革と布で編みこまれて丈夫に作られた寝袋。快適寝袋の複製品も既に冒険者達の間で流行っており、旧ノスセンテス騎士団が所持していたとされる本物(オリジナル)のような安眠効果はどうしても出せなかったが、品質は悪くない出来だという。

「あー、俺たち自前の持ってますから」

「元々隊長が作ったもんだしなぁ」
「うわっ馬鹿! しーっ! しーっ!」

「なんと! あの本物(オリジナル)は闇神隊から伝わったものだったのですかっ」

 それならば是非とも自分(うち)の所に製造販売の委託をと積極的な商談交渉を持ち掛ける売り込み商人達。出発前に彼等の攻勢を躱す事で一苦労だ。結局、見かねた支部長が任務の邪魔をしないようにと注意するまで出発準備が整う事は無かった。

「無駄に疲れた……」
「隊長、お疲れ様でした」
「お、お水どうぞ……」
「援護出来なくてごめんなさい……」

 商人魂による苛烈な売り込みから逃れて馬車の中に隠れていた女性隊員三人衆から労われる悠介隊長なのであった。






 宿場街を出発した闇神隊一行は、昼過ぎ頃にトレントリエッタの国境を越え、冒険者グループが消息を絶ったという調査区域に差し掛かった。街道の両脇は歪な形に生え伸びる木々が鬱蒼と生い茂っている。

「この辺りだな」
「隊長、あれを」

 前方の街道脇に通商協会の馬車が放置されてある。傍らに見える焚き木の跡は、火が消えてから随分経っているようだ。

「近くに人は?」
「気配は、ありません……あ、でも森の方から微かに」

 衛士隊馬車を放置されている馬車の前方につけると、全員が降車して周囲の警戒にあたる。森を抜ける街道では鳥の鳴き声や虫の音などが割とよく聞こえるものだが、この辺りはシンと静まり返っていた。


「こいつあ……」

 焚き木の周辺を調べていたヴォーマルが、複数の奇妙な足跡を見つけて皆に注意を呼びかけた。一見すると単なる野生動物の足跡に見えるが、長すぎる爪部分や足の大きさ、体重を示す沈み込んだ深さなどから魔獣の足跡だと推測できる。

「おいおい、まじかよ」
「魔獣か……結局ノスセンテス行きの時は遭遇しなかったけど、俺達だけで対処できるかな?」

「まあ、一匹くらいなら何とでもなりやすが……」
「この足跡を見る限り、複数、最低でも三匹はいると思われる」

 これは予想以上に危険な状況かもしれないと、悠介は何時でも防壁を出せるよう予め安全地帯の準備を整えておく。
 基本的にカスタマイズする地面の範囲を決めてブロック状に固めるマップアイテムデータのコピー&ペーストを繰り返し、防壁を組む為の資材を作るのだが、それなりに大きな防壁を造る場合、材料にする地面のカスタマイズにも相応の時間が掛かるのだ。


「っ! だ、誰か来ます……風技と土技の波動……多分、三人くらいです」

「ヴォーマル、誰何(すいか)頼む」
「了解」

 エイシャとスンには馬車を背に周囲の警戒をさせ、イフョカも二人の所まで下がらせつつ引き続き索敵の続行。シャイード、フョンケと共に迎撃態勢に入った悠介はヴォーマルに誰何を任せた。
 やがて、木々の隙間から冒険者らしき風体の男が三人、這い出すように姿を見せる。

「止まれ、お前達の身分と所属を言え」

「え、衛士隊か?」
「俺達は通商協会に雇われた調査隊の者だ」
「こっちは怪我人が出てるんだよっ 救援に来てくれたんじゃないのか?」

 彼等は消息が分からなくなっていた冒険者グループだった。伝達係りの仲間が負傷して、連絡が取れない状態にあったらしい。振り返って指示を仰ぐヴォーマルに、頷いて応える悠介。とりあえず、エイシャを呼んで怪我人の治癒にあたらせる。




「魔獣と奇妙な波動?」

「ああ、最初は風技の索敵か何かかと思ったんだが……どうも違うらしい」
「あの波動に包まれてから、急に神技の調子がおかしくなったんだ」
「炎技の灯りは消えるし、移動補佐の風も纏まらなくなって……」

 とにかくその場を離れてキャンプまで戻ろうとしていた所を魔獣に襲われ、応戦すべく振るわれた攻撃系神技も威力が上がらず、散り散りになりながらどうにか街道まで出られたものの、仲間のうち二人が行方不明。
 キャンプの馬車近くを暫らく魔獣がうろついていたので、森に隠れて息を潜めていたのだそうだ。負傷した仲間はそこそこ深い傷を負っていたのだが、回復薬でどうにか凌いでいたという。

「風技の伝達を同じ風技で阻害するのなら分かるが、付与系や攻撃系の神技まで阻害されたってのは……」
「そういう能力を持つ魔獣が居るって事か?」

 魔獣の事に詳しく無い悠介は普通にそういう種類の魔獣が居るのかと考えたが、ヴォーマル達は『ありえない』と首を振る。魔獣は変異の影響を受けた神技の属性を持つ事こそあれ、その属性の神技を行使する事は無い。
 ましてや神技の阻害効果を持つ魔獣など、存在していればカルツィオ全土に普く全ての神技人に対する脅威として、各国が総力をあげて狩り尽くす筈だ。
 今回の件には、恐らく他者の神技に阻害効果を持つ特殊な神技の使い手が居るのだろうと結論付けられた。

「魔獣に関してはブルガーデンの例がありやすからね、どうやってか手懐ける方法があるんでしょう」
「何れにせよ、魔獣の調査に来た彼等が襲撃されたという事は、これまでの魔獣被害は組織的に行われた犯行と考えられる」

 魔獣を使う盗賊団的な組織がこの付近に潜んでいる可能性を示すシャイードは、一度街に戻って応援を呼んだ方が良いと進言する。だが、その推論には冒険者グループの三人が疑問を呈した。

「まってくれ、そんな組織がいるなら俺達だって気付ける筈だ」
「確かにおかしな神技の波動は感じたが、人の気配は無かった」
「まだ仲間の二人が近くにいるかもしれないんだ」

 街に戻る前に仲間の捜索と、魔獣の巣と思しき場所の調査を訴える三人。彼等にも熟練冒険者としてのプライドと自負があり、シャイード達の推論にあるような集団が居たとは思えないと反論する。

「そうは言ってもねぇ」
「隊長、どうします?」

 一度街に戻って傭兵達を動員するか、このまま行方不明者を捜索しつつ調査を続行するか、判断は悠介に委ねられた。






「うーん、これで良かったんだろうか」
「わたしはユウスケさんの決めた事に従いますよ? もっと自信を持ってください」

 悠介は捜索と調査の続行を決めた。行方不明者二人に生存の可能性があるのなら、ここで一旦街に戻るより、一刻も早く見つけ出してやった方が生還の確率も上がるだろうという考えによる判断だ。

「あっしらも隊長の指示に従いますぜ」
「もとより、我々は隊長の部下なのだから、従うのは当然の事だ」

「まあ、イザとなったら隊長に砦でも出して貰って引き篭もっちまえば問題ねーっしょ」
「それは隊長の力に頼り過ぎよ……。でも、私も隊長の判断を支持します」
「わ、私も……」

 斯くして、街道脇に拠点となるプチ砦を出現させた悠介は、怪我を負った冒険者とその付き添いを残し、案内役の冒険者と共に彼等が森の奥で感知したという魔獣の巣らしき場所へと向かった。
 プチ砦を出現させた時の冒険者三人に見られた反応については概ね何時も通りで、特筆すべき事は無い。十数秒の彫刻化だ。




 昼間でも薄暗い森の中、帰り道と方向を見失わないよう目印をつけながら進むこと暫らく、闇神隊一行は冒険者達が特に注意すべき場所として印を付けた木が見える位置までやって来た。

「この辺りからだ、魔獣の気配に奇妙な波動が混じり始めたのは」
「イフョカ、どんな感じだ?」

「確かに……、魔獣の気配に混じるような、神技の波動を感じます。けど、何の神技なのかまでは……」

 隊長(ゆうすけ)の判別不能な神技の波動とはまた違う。もっと自然な性質を持つ、感覚としては神技の波動なのだが、気配そのモノのようにも感じる奇妙な波動だと、説明するイフョカ。
 ここまで細かく表現出来たのは、イフョカが無技人の気配を神技の波動のように感知できる能力を持っているからこそである。『無技人の気配』等と言う感覚的に比較出来る対象を知らない普通の神技人にはとにかく『妙な波動』としか表現できない。

「ふーむ、それってその魔獣から出てる波動て事じゃないのか?」
「あ……! そうかもしれません、そんな感じがします」

 そのやり取りを聞いたヴォーマルとシャイードが顔を見合わせ、何かを考え込む。先に口を開いたのはシャイードだった。

「もしかしたら、隊長の言っていた事が正しかったのかもしれない」
「ん? どゆこと?」

「……あっしらは常識で考えてやしたが、隊長は尽くその常識を破って来た方だった事をうっかり失念してやしたよ」
「まあ、普通は神技を阻害する能力を持つ魔獣とか、ありえねーって考えるよな」

 フョンケが二人のフォローとも取れる発言で補足する。今まではそんな魔獣が存在するとは考えられなかったが、これから先もそうであるとは限らない。
 或いは、樹海の奥ではそういう種類の魔獣が普通に生息していたのかもしれないし、偶々現れた新種なのかもしれない。

「街道周辺から追いやられた魔獣が、長年掛けて進化したとも考えられる」

 何れにしても、放置すればとんでも無く厄介な事になりそうだと、一行はその魔獣の巣を殲滅する為に先へと進む。
 巣に近付くにつれ、奇妙な波動も徐々に強くなっていくのが分かった。印の木を過ぎて暫らく進んだ辺りまで来た時、案内役の冒険者がこの付近で魔獣に襲われたと言って周囲の警戒を促す。

「……っ 隊長、神技が安定しなくなってきやしたぜ」
「私もだ、上手く水球が形成できない」
「風が散らされちまう、これ以上の維持は無理だ」

 ヴォーマルが腕に灯していた炎技の明かりは不安定に明滅を始め、シャイードも水技の制御に乱れが生じて攻撃用の水球を形作る事が出来ないと、奇妙な波動による影響を報告する。フョンケも移動補佐の風を維持できなくなった。

「イフョカとエイシャは?」

「か、風が乱れて……風技の、伝達妨害に似てますけど……神技の波動が、食べられてるみたいな……へ、変な例えですけど」
「……駄目です。私の方も、上手く力が纏まらないみたいで」

「んー……こりゃヤバイな」

 悠介は自分の力はどうなのかとカスタマイズメニューを呼び出して確かめてみたが、画面に乱れも無く特に変わった様子はない。奇妙な波動の影響を受けているようには感じられなかった。

 このまま進む事を躊躇うも、ここまで来ておいて引き返したのでは意味が無いという事で、全員が携帯している武器を装備して周囲を警戒しつつ更に奥へと踏み込む。案内役の冒険者が近くに仲間が居ないか呼び掛けてみたが、応える声は無かった。

 奇妙な波動が強まる中、とうとうヴォーマルの炎技による明かりが完全に消えてしまった為、案内役の冒険者が鞄から取り出した不思議な淡い光を放つランプで明かりを確保する。
 他のメンバーも皆、一切の神技が行使できない状態になった事を確認し、いよいよ調査の中止を考え始めたその時――

「あったぞっ 魔獣の巣だ!」

 冒険者が指差した先、大きく刳り貫かれた木の根元に、鳥の巣にも似た蔓と小枝と葉で固められた魔獣の巣があった。

「まさか本当にあったとは……」
「あれが魔獣の巣なのか? どんなのが住んでるのか想像つかないな」

 周囲に潜んでいるかもしれない魔獣の襲撃に備え、非戦闘系のイフョカやエイシャを円陣の内側に入れるような形で隊列を組みつつ巣に近付いていく。巣の中の様子が窺える距離まで来た時、中でモゾモゾと動く棒状の物体が巣の枠から転がり落ちた。

「っ!」
「……いや!」

 エイシャとイフョカが思わず悲鳴を上げて眼を逸らす。スンも顔を強張らせて固まっている。先頭で身構えていたヴォーマルやシャイード、フョンケ達は何時かの砦の中で見せた神妙な顔付きになり、案内役の冒険者の表情には絶望の色が浮かんだ。

 魔獣の巣から転がり落ちたのは人間の腕。巣の中では芋虫のような姿をした魔獣の幼生が、角切りにされた人体の肉に齧り付いていた。ぱっと見ただけでも数十匹は蠢いている。肉塊を貪る巨大な蛆を思わせる魔獣の幼生。
 その内の一匹が餌からあぶれたのか、先程こぼれ落ちた腕に齧りつこうと巣から這い出して来た所を、腕を調べていた冒険者にブーツの踵で踏み潰された。その腕は行方不明になっていた仲間のモノだったらしい。

「くそっ! くそっ! ふざけんなよ! なんでこいつが……こんなヤツらに食われなきゃなんねーんだっ!」

 腕の指先から遺品となった指輪を回収した冒険者は、吐き出すように叫びながら潰れた魔獣の幼生を何度も踏みつける。


「妙だ……。この巣は、おかしい」

 皆が絶句している中、シャイードが巣の在り方や中に放り込まれている分割された人体と魔獣の幼生に不自然な点があると冷静に指摘した。巣の周囲に魔獣の縄張りを主張する跡などが無く、一つの巣に生息する幼生の数も多い。
 また、巣の中に転がる人体も魔獣の爪や牙によって引き千切られたような状態ではなく、刃物のような道具を使って等分に切断されている事が見て取れる。この巣には人為的に作られた痕跡が窺えるというのだ。

「何者かが意図的にこの場所へ巣を設置して、幼生を飼育していると思われる」

 よく見ると、巣の回りには無数の骨が散乱し、朽ちた人体の一部が転がっている。

「一体誰が何の目的で……」
「隊長、こりゃ早いとこ巣を片付けて街に戻った方がいいですぜ」

「そうだな、伝達――は使えないんだっけ」

 神技全般が使用不能状態なので、巣を焼き払うにも火を起こす所から始めなくてはならない。先ずは巣の中に放り込まれている人体の回収と、魔獣の幼生駆除から始めようと活動を開始する闇神隊の面々。
 一時の激晃の後、沈んでいる様子だった案内役の冒険者も、自分の仕事を果たす為にノロノロと身体を動かす。

 ヴォーマル、シャイード、フョンケが短剣で巣の中の幼生を一匹づつ仕留めていき、冒険者は携帯用油木を組むと道具を使って火をおこした。
 エイシャとイフョカ、スンは足元の枯れ木を集めて、その火にくべる作業を受け持ち、悠介は冒険者から借りたランプで巣を照らしてヴォーマル達の処理を手伝う。
 ちなみに、このランプはトレントリエッタ領の街でしか取り扱われていない独自の技術が使われる一般的なランプで、ある植物と鉱石を組み合わせる事で発光させる火を使わない珍しいモノだ。

 神技を阻害する奇妙な波動は今も続いており、止む気配も無い。冒険者達を襲った三匹の魔獣が何時襲ってくるかもしれないという緊張感の中、巣の処理作業が進められて行く。
 そうして魔獣の幼生が全て処理され、巣の中から人体の残った肉片が回収されると、巣に浄化の炎が放たれる。その瞬間――

「っ! 隊長、魔獣の気配が……!」

 イフョカは索敵の風が使えない状態なれど、辛うじて気配で魔獣らしき存在の大まかな位置を探り当てていた。先程からこちらの様子を窺うように遠巻きにあったその気配が、急速に近付きつつある事を警告する。

「み、右と正面、それに背後からも…………あれ? うそ、どうして……増えてる?」
「イフョカ、落ち着いて状況を詳しく説明しろ、ゆっくりでいいから」

 どうにも不安定な言葉を呟きながら狼狽し始めるイフョカを落ち着かせつつ、悠介はカスタマイズメニューの画面内で周囲に落とし穴の設置と防壁を作る準備を進めて行く。

「あ、あの気配の数が……、増えたり減ったり……急に位置が変わったり、なんだか変なんです」

「なあ、その子の索敵で大丈夫なのか……?」
「ご心配なく、彼女は優秀ですんで」

 見た目からして衛士らしからぬイフョカの頼りない言動に、ヴォーマル達と並んで武器を構えている冒険者は心配そうな表情で問うが、悠介は『問題ない』と返して伊達に闇神隊のメンバーに就いている訳ではない事を主張した。
 フォンクランクの最強部隊と謳われる闇神隊、それを率いるディアノースの英雄がいうなら確かだろうと冒険者は納得した。肩に置かれた悠介の手を気にしながら、ちょっと赤面しているイフョカ。

 半分その場凌ぎのフォローだったのだが、あながち間違いでもない。今この場で、周囲に潜んでいると思しき魔獣の気配を探り出す事が出来ているのは、僅かな気配を神技の波動のように読み取る事が出来る彼女だけなのだ。
 しかし、そのイフョカを持ってしても、この奇妙な波動の中で正確な索敵を行う事は不可能だった。

「うう……近くに居るのは、確かなんです……でも、気配がなんだか変で」
「落ち着けって、そういう風に撹乱するやつなのかもしれない」

 視界も足場も悪い森の中、神技を阻害する波動によって敵の位置も規模も分からない。複数の魔獣に囲まれているかもしれないという状況にありながら、終始落ち着いた様子で未知の魔獣に対する推測までしてみせる悠介に、皆の不安が軽減されていく。

 悠介は自身のカスタマイズ・クリエート能力に波動の影響が無い事や、装備品の鎮静効果等に加え、元世界でのゲームの知識によって『そういう系等のモンスター』という概念で魔獣という存在を認識しており、魔獣に対する既成概念が殆ど無い。
 故に、カルツィオの人々にとっては非常識な存在に対しても『そういうモノなんだろう』で済ませる為、受けるショックが少ない分、落ち着いた対応が取れるのだ。何より、闇神隊の仲間を信頼している気持ちが悠介に毅然とした態度を取らせていた。

 そして、そんな悠介をこの場で誰よりも信頼している人物が、この状況を打開する鍵となった。

「……! そこっ」

 ピュンッ と風を切る音を立てて、放たれた矢が木々の隙間へと消えて行く。途端、一帯を覆っている阻害の波動が一瞬乱れたように揺らぐ。更に別方向へ放たれた矢が、木々の奥から獣の悲鳴を響かせた。
 
「こいつあ……隊長、神技が使えますぜ」
「阻害の波動が薄れていく」

 無技人は神技人のように神技の波動を感じる事は無い。スンはこの状況下で一人、阻害の波動の影響を全く受けておらず、魔獣の気配を探るような事は出来なかったが、目視で木々の間に怪しい影を見つけてソレを射ったのだ。
 阻害の波動が薄まった事で、全員の神技が行使可能になり、イフョカの索敵も精度を増す。

「あ! 居ましたっ あの木の間に二体、一体は向こうに離れていきます!」
「スン! シャイード!」

「はいっ!」
「フョンケ、彼女の弓に補佐を」

 スンは直ぐさま矢を番えた弓を構え、シャイードは水球を練りながらフョンケにスンの補佐をするよう指示を出した。付与系の風技は強化系程の効果は得られずとも、ある程度武器の扱いを補佐する事も出来るのだ。
 勝手に指示を出した事を目で詫びるシャイード。

「ナイスフォローだ、シャイード。つーわけでフョンケ頼む」
「あいよっ 行くぜスンちゃん」

 風の補佐を受けたスンの矢と、シャイードの練り込まれた水球がイフョカの指定する場所へと撃ち込まれると、辺りを覆う阻害の波動は完全に消え去り、魔獣の気配はトレントリエッタの樹海の奥へと遠ざかって行く。

「どうだ?」
「……もう、居ないみたいです」

 ふと気が付くと、先程まで静まり返っていた一帯はまるで思い出したかのように、鳥の鳴き声や虫の音に溢れていた。







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